083 新たな旅立ちⅢ
「軍の命令は従わなければならない。例え、敵国であろうとしても人を殺さなければならなかった。この国に存在するギルドをいくつ壊したか。隣国との境界線を跨いでの戦争もした。そのたびに私の目の前には私の手によって殺されていく人たちがいた。そう、この手はもう汚れちまっているのよ」
リサは自分の手を見つめて裕也に昔話をした。
「ねぇ、ユウヤ。人を殺すって事は簡単だけど、その罪悪感を取り除く事は一生かけてもできない。だから前へ進め。お前には目的があるんだろ? この難題はこの先、ずっと続くだろう。だが、それでもお前が立ち止まろうとなるならば、もう一度原点に戻ってみろ。少し考えれば大丈夫だ」
「そうだな……。リサ姉の言う通りだ。ああ! なんで、俺は一週間も無駄にしていたんだぁああ! ……って、なんでリサ姉がこんな所にいるんだよ!」
「今頃気づいたんかい!」
裕也はリサがここにいることに今、気がついて驚いた。
「それにしてもなんで姉さんがここにいるんだよ。ま、まさか……師匠がいるんじゃないんだろうな?」
裕也は小声で囁きながら、リサに訊く。
「いない。私もここ二年間は師匠に会いに行っていないからな……。知ってるだろ? 師匠は私の何十倍もやばいって……」
「確かにそれは言えてるな。だとしても、なんでこの街に?」
「ああ、それは……」
リサは立ち上がって、窓のそばに行くと、窓を開け、外から流れ込む空気を吸った。
「今、私もお前と同じように旅をしているんだ。今まで軍内にいた私は外の世界というのをあまりにも知らな過ぎた。でも、旅っていいものだな。知らなかったことを知ることができた。そしたら、ここにお前が滞在しているという噂を聞いて流れ着いたわけだよ」
「そうだったのか……。だったら、もう一度、俺と旅をしないか?」
裕也はリサに提案する。
だが、リサは首を横に振った。
「無理よ。あんたには私よりも仲間がいるんでしょ。ちゃんと謝って仲直りしてきなさい。私は一人で次の街に向かうわ」
リサは二階の窓から飛び降りようとしている。
「そうそう、今度、セントラルに戻るならデミトロフの野郎に伝えてもらえる?」
「何を?」
「もう少し……。それじゃあ、元気でやるのよ!」
そう言い残して、リサは本当に二階から飛び降りて、どこかへと嵐のように去っていった。