076 咎人の罪Ⅵ
「ええ、賢者の石擬きを手に入れましたよ。液体というか個体? そんな感じの赤いやつです。それに錬成陣と魔法陣を合わせた高度な構築を見ましたよ」
『そうか。よくやってくれた。それでなんだが……』
「あいつには秘密なんでしょ。分かっていますよ。俺達、異界人の事が心配でたまらないんですよね、大佐」
『…………』
向こう側で話をしている男は黙ったまま総司の話を聞く。
「あと一ついいですか? 内通者は、殺してもいいんですかね? それとも捕まえますか?」
『現場のお前に任せる。軍内に内通者がいたとなれば、我々の信頼も失われるだろう。それにお前には仲間がいるだろ?』
「分かりました。じゃあ、俺の手で奴ら全員を殺します」
『気を付けろよ……』
そう言い残したまま、通信は切れた。
――――裕也、俺は俺の目的のために戦う。例え、お前が俺の前に阻むとしても……。
総司は心の中で誓い、四階にある神の聖域へと階段を昇り始めた。
同時刻――――
アルブレヒト教会周辺――――
「二葉、もうすぐ時間よ。準備は出来てる?」
「出来てる。それにしても何も起こらないね……」
一花と二葉は、高い建物の屋上に上り、上から下を見下ろしながら教会も監視していた。
「ええ、おかしいわ。もう、午後九時になるのよ。月も出ているのに何の動きが無いなんて、そんなのあるわけがない!」
一花は苛々しながら貧乏ゆすりをしていた。
「もう少し待ってようよ」
二葉、寒そうにしゃがみ込んで寒さを凌ごうとする。
「二葉よ、なんで私を召喚している。まだ、早いだろ」
二葉の後ろに立っている彼女の精霊であるマーキュリーが不服そうにしている。
「風から凌ぐため。夜の外は寒いから……」
マフラーがひらひらと宙を舞う。
「それで私をそんなしょうもない事で呼び出すな!」
「しょうがないよ。寒いから……」
「二度も言うな!」
マーキュリーは、二葉の頭を勢いよく叩く。