066 剣の魔導士とそこにあるものⅩ
一花は総司に意見に異議を申し立てる。
魔法と錬金術では力の差が時に出ることがある。
雷魔法の一花と創造の錬金術師である三久。
三つ子でも壊すものと作り出すもの。
対なる二人の事を考えれば、普通、一花の方を選ぶのは当然の判断である。
「今回はそういうわけにはいかない。もちろん、一花ちゃんの魔法は強力だが、今回のほとんどは頭を使わなければならない。それに賢者の石が絡んでいるとなると、錬金術師がこちら側も必要となる。だから、今回は手を引いてくれるかい?」
総司は一花に手を合わせてお願いする。
それを聞かされた一花は、十数秒悩みながら、「分かった……」、と言った。
「でも、待機と言っても私と二葉は何をするのよ」
「教会から出てきたマーロスや軍人を攻撃させしてくれればいい。出来れば殺されない程度にやってくれるとありがたい……」
「分かったわ。それだったら私も思いっきり暴れていいのね」
一花は戦いを今からわくわくしながら楽しそうに笑う。
「それで内部に潜入した私と総司さんは、その後どうするのですか?」
三久が総司に訊ねる。
「軍人として潜入した俺達は、マーロスに協力するふりをしながら裕也と接触するが、そこでは奴を助けるつもりはない」
「どうしてです?」
「それじゃあ、この教会の闇を壊すことができないからだ。例え、内部に潜入できたとしても、他の軍人がいる可能性がある」
「なるほど、そういう事ですか」
「それに髪の色を変えたとしても俺は一応、軍人だからその関係を保つためには時間が必要になる。後、この事件が終わった後には、この事を大佐に報告しないといけないんだよな」
総司は頭を掻きながら嫌そうな表情をする。
デミトロフの指示で来たわけではないが、この街に自分のギルドがあり、休暇でこっちに来ていたようだ。
事件や揉め事が起きたら仕事をする。やはり、そこは軍人の仕事が抜けていないらしい。
総司は裕也達と同じく、この世界に閉じ込められた日本人であり、二年前からマリエスト国の軍人としてデミトロフの下で働いている。
元々は剣道有段者であり、天然理心流と北辰一刀流の使い手である。
剣で総司に勝てる者はほとんどいない。
総司は事が終わった後のデミトロフの顔が目に浮かぶ。