064 剣の魔導士とそこにあるものⅧ
――――月か……。その日に俺を生贄に完成させるつもりなのか?
――――そもそもそれだったら三つの法則がつぶれてしまうんじゃないのか?
――――そうなる前に俺の渡した紙を解読してくれればいいんだけどな。
――――ま、あいつらには奴が付いている。必ず会えば、流れはこっちのものだ。
裕也が思っていることは仮定にしか過ぎないが、確証はある。
裕也が考えている奴とは、女好きで、知り合いの女がいれば必ず会いに行く。そんな男だ。
「ま、そんな都合よく行くはずがないか……」
そんな事を考えながらまた、溜息を漏らす。
すると、扉の向こうから誰かが階段を降りてくる足音がする。
――――マーロスか?
大人しく座っていると扉が開く音がした。
カツ、カツ、と足音を鳴らしながら黒の軍服を着た二人の軍人が裕也のいる檻の前で立ち止まると、裕也を見下ろす。
一人は刀を腰に刺した金髪男で、もう一人は何も持たずに白い手袋をはめた黒髪の少女だった。
「この絵面を見ると情けなく見えるな」
「そうですね、中将」
女は小声で笑いながら裕也を見下ろす。
この二人は面白おかしく笑いだす。
「何がおかしい。そう言えば、お前らもマーロスと内通している軍人だったな。それがあんた達なのか? 答えろ!」
睨みつけながら裕也は叫ぶ。繋がれた鎖を解くことは出来なくとも声を上げることは出来る。
だが、二人は笑いをこらえて、裕也の言葉など耳に入らない。
「そんなにイライラするな。頭の回転が鈍くなるぞ」
男がやっと口を開いて話し出す。
「何ぃ?」
「まだ分からないのか? お前は策士でありながら頭の回転が早い奴だと思っていたんだけどな……」
「そうですよ。簡単に敵に捕まってのうのうと檻の中で暇を持て余しているのですか。相変わらず、能天気な人ですね」
「お、お前ら……一体……」
裕也は言葉を失う。
「まだ分からないんですか?」
「だから、お前は捕まるんだよ」