053 ウエストシティの内戦XVI
「ほう。それはぜひとも知りたいですなぁ」
「ああ、あれは人間ではなくあんたが持っている『賢者の石』で生成した空の人形だろ? それに微かにだが黒魔法を使った残り香がある」
「ふっ……ふはははははははは‼ なるほど、やはり、貴様には誤魔化しがきかないようだな。さすが炎の魔導士」
男は大笑いをしながら階段を降り、十字架の前に立つ。
「その力を持ちながら軍やギルドのどこにも属さない。そして、三人の娘を連れて旅をしている。今から二年前、火属性魔法を操りながらも魔導士、錬金術師としては困難な技である錬金術も習得しおり、これは軍の奴と同等とも言われていたかな?」
「あいつと一緒にするんじゃねぇ……」
裕也は不服そうに頬を膨らませ、男を睨みつける。
デミトロフと同じにされて腹が立っているのだ。
「だが、君達がここに訪れたって事は、この計画をまだ上層部は知らないようだな。依頼してきたのはあの男か? まあ、いい。君達を捕らえさせてもらうよ」
「さて、そんなことできるかな? アルブレヒト教会のマーロス教主様よぉ……」
「ふっ……そんなことまで検索済みってわけか。いいだろう。ウェスト!」
マーロスが誰かの名を呼ぶと、上空から何か黒い物体が降ってきた。
それはみるみる面積が大きくなっていき、裕也達の頭上に落下してくる。
「危ねぇ!」
裕也は二葉を抱きかかえて右に思いっきり飛ぶ。二人はそのまま転がったまま椅子の後ろに隠れる。
「どうだね。炎の魔導士、ユウヤ・サクライ。我が傑作品である人なり人ならざるものだ!」
「…………」
裕也は黙って、ウェストという男を見上げる。今朝、店にいた男だ。間違えない。
何もしゃべらないが、あの筋肉と驚愕な顔は脳裏に焼き付いている。
「ユーヤ、ここから逃げた方が……」
二葉は逃げようと裕也に訊く。
「いや、ここ二人同時に逃げられるようなぬるい考え方は無理だな。二人とも捕まってしまうだろうよ……」
「でも……」
「だが、どちらかが逃げ切れば勝機はある」
「じゃあ、私が囮に……」
「いや、俺が囮になる。その間にお前はマーキュリーを呼び出してここから脱出してこれをあいつらに見せて来い」