105 氷の女王Ⅷ
――――そう言えば、昔、エミリーが変な事を言っていたな。
――――あれは確か……ああ、あの時か……。
× × ×
マリエスト国・イーストシティ・デミトロフ家――――
「エミリーちゃん、何してるの?」
「はい、これから狙撃訓練所へと向かうところです」
「ふーん。僕も一緒に行ってもいい?」
「構いませんけど……」
「ありがとう」
まだ、幼き頃のデミトロフは、エミリーに対しての反抗期が無かった頃の純粋な少年だった。
エミリーは、幼き頃から自分の主となるデミトロフを守るための英才教育をずっと受けてきた。
――――ジョン様が、珍しく訓練所に来るなんて何かあったんでしょうか?
エミリーは狙撃銃を両手に持ち、敷地内にある訓練所へと向かう。
「ねぇ、なんでエミリーちゃんは、いつも訓練や勉強ばかりしているの? たまには一緒に遊ぼうよ」
デミトロフは、笑顔でそう言った。
「すみません。私にそう言ったことは必要ありません」
「どうして?」
「どうしてと言われましても……それが私の家の家系ですから……」
「あ、そう。でも、狙撃って面白いの?」
「面白くなんてありませんよ。でも、集中して、一点の的を撃ち抜くのは意外と面白いですよ」
エミリーは答える。
「へぇー……」
デミトロフは理解できているか分からない。
「ねぇ、僕にも狙撃の仕方教えてよ!」
「え? ですが……」
「何か言われたら俺が代わりに言うからさ……」
「…………」
エミリーは難しい顔をする。そもそも、狙撃を小さな子供にさせるわけにはいかない。だが、自分は主を守るために身に付けなければならない事である。
「分かりました……。少しだけですよ……」