102 氷の女王Ⅴ
光に紛れて、デミトロフの姿は、目の前から居なくなっていた。
「やはり、建物内に隠れますか……。ま、それを見越しての市街地Aというわけですからこちらも対策をしていないわけがありません」
エミリーもまた、すぐに建物内に隠れて、用意しておいた武器を手にする。
フィールド内にはそれ以外にも事前にランダムで用意されてある武器が複数ある。
敵の情報位置が分からない以上、ここからは慎重に行かなければならない。
一撃で決めるはずだった二人は、予想通りに混戦状態となった。
――――さて、ここからどうしましょうか。ジョンは、まず狙撃地点を潰してくるでしょう。
――――あの閃光弾から脱出するルートは、今いる私から反対側の建物。
――――爆弾は使えない。破壊したらルール違反。例え、ペイント弾だとしても心臓、もしくは頭を撃ち抜かなければならない。
――――困りましたね。まずは、屋上に上って移動するとしましょう。
エミリーは武器を持って階段を上った。
デミトロフは、エミリーの向かい側の建物に隠れ、呼吸を整えていた。
「危なかった……。まさか、あれほど攻撃と防御を同時にされてしまっては敵わんからな。それにしてもここからが重要だ。エミリーは狙撃してくるだろうな……」
デミトロフは、ぶつぶつと呟きながら壁に寄りかかり、目をつぶる。
一撃で仕留められなかった以上、狙撃技術が劣る自分が一番不利なのは分かっている。
だが、ここは罠を多く仕掛けることができる。フィールド内に落ちてある武器を使ってエミリーの居場所を突き止めるくらいは出来る。
そうなると、狙撃ポイントで一番この街全体を見渡せる時計塔が絶好のポイントだ。
――――ま、焦らずにじっくりと敵を追いかけるか。
――――はぁ……この木刀は使い物にならないな……。
持っていた二本の木刀に目を向ける。
二本とも切れ目が入っており、少し力を入れて地面に叩きつけると簡単に壊れた。
――――普通、ここまで壊れるほどたった一本で凌ぐのは俺でも出来ん。
――――やはり、あいつはすごい奴だ……。
デミトロフは、口元を押さえて、フッと笑う。
スペア用に隠しておいた木刀を左腰に差し、武器を袋の中に詰め、時計塔に向けて、行動を始める。
「さて、金持ちのボンボンはどういった行動に出るかな?」
観客席で面白そうに観戦しているハウロックは、ニヤニヤしていた。