再会
心地よい風が広がる中、ある路地裏で黒髪をした1人の少年が目をつぶり眠っていた。
<今から5年前>
「そろそろ負けを認めるべきでは?」
白い髪をし、右目に片眼鏡をつけた男が鋭く細い太刀を向けて言った。
「俺らはまだやることがあるんだ。まだ眠れないんだ よ…」
そう言ったのは路地裏で眠っていた少年だ。
「お前たちの死を持ってこの世界の平和と協調は復活する。」
「話が聞けないやつだな。俺らにはまだやることがある。消えるのはお前の方だろ。」
体がボロボロになった少年は右手を男に向けてあげ、何か唱えたかと思うと黒い霧が少年と男を覆った。
「変な夢を見てしまったな。こんな路地裏で寝るなんて俺らしくねえ。」
俺は目を覚まし、周囲を見渡した。記憶にない場所であったが一瞬のうちに自分の現状況に気がついた。
「昨日、ありったけの酒を飲んで酔ってそれから…」
はぁぁ。俺は一つため息をつき、右ポケットの財布を除けば残りが極僅かであった。
「飲みすぎたな…。最近ストレスが溜まってるせいなのかな。」
そうこうしているうちに奥から3人の集団がこちらへと向かってくるのが分かった。
そして、目の前まで来ると
「なあ、小僧。なんでこんな路地裏なんかにいるんだ?」
「兄貴、この小僧からありったけのもん奪い取りましょう。」
「そうだな。お前らやれ。」
兄貴と呼ばれていた男が指示を出すとともに、部下らしき2人は銃を差し向けた。
「小僧、俺たちはいわゆるブラックハンターだ。大人しくしなければ殺しも厭わない。」
「その通りだ。俺らは殺しも厭わない。抵抗せずに金銭をよこせ。」
ブラックハンターとは、魔力を行使してこの国に貢献するハンターとは真逆で、意味のない殺戮行為や犯罪行為を繰り返すハンターを意味する。
そんな男たちが今、俺の目の前にいる…。
「黙らずになんか言え。」
「そうだ。黙らずに口を開けろ! それとも死を望むのか。」
「俺は死ぬ気はない。またまた金銭を差し出す気もない。」
「ならば消えてもらうしかなかろう。」
2人の男が魔法の込められた銃弾を俺に向け、そして発砲した。
俺はなすすべなく残り少ない財布を奪われた。
「兄貴、こいつの財布の中カピカピですぜ。」
カピカピで悪かったな。だけど昨日酒飲んでおいて良かった。なんてことを考えていた。
「兄貴、こいつのネックレス上級魔源石で作られてます!」
しまった! 俺は撃たれた時に、唯一の高級ネックレスがポケットから落ちたことに気づいていなかった。
「おい!チンピラども。それだけは…それだけは返してくれ。」
そんな言葉を聞くはずもなくブラックハンター達は不気味な笑みをこちらに見せ、街中へと歩いて行ってしまった。
ふと正気に戻ると痛みに気づいた。なんとか、銃弾は急所を外しており、致命傷でなく済んだものの、このままで多量出血で死亡だ。
すると、ポケットに違和感を感じた。
あっ、、、。ポーション、、、。
てっきり自分の持っていたポーションの存在を忘れていた。それを飲むと出血は止まった。しかし傷跡は完全には癒されてなかった。
グシャッ。ズシャッ。
「なんだこの音。」
まだ痛みが引かずヨレヨレで立ち上がった俺は音のする方を見た。すると、さっきまでの3人組のうち、部下と思われていた2人が血を流して倒れていた。
何が起きてるんだ!? なんかヤバイ予感…。
そんな予感は悪いものであるほど的中するもので、背の高い、180cmほどの男が立っていた。
「よくも俺の部下をやってくれたな。」
「申し訳ない。俺に向けて来た銃もおもちゃかと思い、ついつい潰してしまった。」
いや、おかしいだろ。俺はそれに撃ち抜かれたんですけど…。
「そんなことよりも、お前、その右手に持ってるもの見せろ。」
「これは俺らがあそこの坊主から奪った品だ。渡すわけにはいかん。」
「あぁ。そうだな。部下に財布やらを盗らせてる間に、あの坊主の左ポッケにあったその金時計を自ら盗んでるんだもんな。部下には黙って自分の利益にするつもりだったのか?」
俺は顔が青ざめた。左ポッケをよくみるとチャックが開いている。全く気がつかなかった…。
「あの小僧の左ポッケの物は俺が狙うまいとしていた。何も関わらずお前らがあの小僧に歩み寄った。」
「このブラックハンター業界では早い者勝ちだろ?」
俺は口を開けてポカーンとしていた。目の前で行われている論争に張り詰めた空気。その場から逃げ切れる最善の方法を探す。それが俺の任務であった。
「とりあえずくれないか?」
「無理だ。」
「即答か。ならば眠れ。」
この一声とともに互いが戦闘体制へと突入した。
「【筋力増加】」
ただでさえ180cmあった筋肉質の男の体はボディービルダーのごとく筋肉が膨れ上がった。
「その魔法…。まさか。あの伝説のブラックハンターチームの・・・か!?」
俺にはなんと行ったのかがあまりよく聞こえなかった。
「気づくのが遅すぎだよ。もう俺は止まらねえ。」
180cmの男は右腕で力だよくバックスイングを取り、力一杯に拳を放った。
対するあの男も危険を察知し、【召喚・死の傭兵III】を発動し召喚するものの、パンチの風圧により死の傭兵は粉々になり、男も全身骨折の重傷を負った。
俺はその風圧に吹き飛ばされはしなかったものの、その場で尻餅をついてしまった。
「あいつのことを思い出せやがって...。 弱肉強食の世界だからなあ。その時計をよこせ。ってもう動けないわな。」
次の瞬間、俺と大男と目があった。
ぜ、絶望…。この時の気持ちを言い表す一言といえばこれであろう。
「坊主、これいただくわ。っとその前にこれどこで手に入れた?」
「え、え、っっと。両親の形見というか...。」
「嘘をつけば殺す。もう一度聞くぞ?どこで手に入れた?」
嘘を言えば殺される。けれども俺には、嘘でもこう答えるしかなかった。
「両親の形...」
最後まで言う前に大男がものすごい速さで迫って来た。
「お前のような小僧がこの俺をからかうのか!」
俺の目の前に立ち、冷たく残額な目を向けている。それはまるで具現化した悪魔であった。
「お前の持っていた金時計はな、俺の所属してたブラックハンターグループの所有物だった。なのに今、力もないただの坊主の持ち物に…」
大男は不快な笑みを浮かべながら尋ねた。
「お前は誰だ?なぜこれを持っている。」
「・・・」
「もう良い。お前に聞いた俺がバカだったな。」
男が右腕で引き、さらばと呟くのと同時に拳を放った。
爆風により裏路地の散らかっていたごみ箱や崩れ落ちていた建物の壁の破片、散らかった広告等は全て吹き飛び、地面に小さめのクレーターを作り出した。
「力を入れすぎたか。こんな荒らせば正規ハンターどもがやってくる。撤退するか。」
「おいおい。まだ俺は生きてるぞ?」
砂煙の中から聞こえたその声に男は目を見開いた。
「ほう。やっぱりただもんじゃねぇな。殺りごたえがある。」
男の奇妙な笑みと高笑いがその場に響き渡らばかりであった。