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黄泉平坂物語  作者: 川崎 春
3/7

サクヤとカカビコ その3

 カカビコは、サクヤが転生した後、その報告者を見て、胸を切り裂かれる想いをする事になった。

「何故、拒まなかった」

 カカビコの命令に忠実で、有能な怪物だったから、サクヤの元に送ったのに、その報告者は、魂を与えられて戻って来たのだ。

 形代に、情など理解出来てはいけないのだ。

 それなのに、目の前の怪物は情に流されて、サクヤから名を授かってしまったのだ。

「サクヤ様の願いは、カカビコ様の側に、魂ある者がお仕えする事でした。拒む事は出来ませんでした」

「形代への魂込めは、黄泉では罪だ。そなたも分かっていた筈だ」

 この怪物は、知性が高い。知識欲が旺盛で、理にも精通し、何をやらせても、その理由を多く語らずとも理解する敏い所があった。

 どうやら、その敏い部分が、裏目にでたらしい。

「私は、カカビコ様を崇拝しております。同じ様に、サクヤ様も。カカビコ様は、サクヤ様を只人として転生させる事がお望みでしたが、私の見た限り、あの方の異能は、何度転生しても消えません」

 目の前の怪物は、既に形代では無いから、カカビコの言葉に異議を唱えた。

「あなたが考えている以上に、サクヤ様はカカビコ様に想いを寄せておいででした。私としては、あの方が黄泉の住人になる事が、最も良いと考えました」

 穢れから生まれた怪物は、サクヤを穢し、カカビコと共に黄泉に残れる可能性を考え、サクヤの提案を受け入れたのだ。

 魂を見れば、カカビコには名が分かる。

 サクヤの名付けにより、魂は、人の魂と変らない美しい形をしているが、それを作っているのは、やはり穢れだ。

 穢れが、どうしても考え方を歪ませる。カカビコの考えを言ったところで無駄なのだ。

 サクヤが、この怪物から穢れを背負った事は一目瞭然だ。

 美しいサクヤは、魂に重荷や穢れを背負い続ける。カカビコが関われば関わるだけ。

 それは分かっているのに、カカビコはサクヤに関わってしまう。浅ましい自分を呪うが、どうにもならない。

「オズヌ、後の事を任せる。我はしばしここを離れる」

「承知しました」

 カカビコは、砦を離れると、サクヤの最後に作った魂の泉へと向かった。

 泉は、暗い黄泉でも、ぼんやりと光を放っていた。

「母上」

 カカビコは泉に呼びかけた。

 すると、泉の表面に立つように、美しい女の姿が浮かび上がった。

 今は姿を失った、イザナミの生前の姿だ。

「カグツチ」

 イザナミはカカビコを、そう呼んだ。

 カグツチノミコト。

 カグツチは、イザナミの腹から生まれた最後の神だ。

 火の神で、イザナミから生まれる際に、イザナミに大火傷を負わせ、死に至らしめる原因となった。イザナギは、それが許せなかった為、カグツチを剣で斬り殺したのだ。

 強い力を持っていた遺体から、何人もの神が産まれ落ち、同時にカグツチの魂は体を離れ、黄泉へと転がり落ちた。

 母殺しの大罪と、父に殺されると言う大罪を背負っていたカグツチは、大きな穢れを魂に纏い、黄泉で怪物になった。

 それが、カカビコなのである。

「何故、サクヤの行いを止めてくださらなかったのだ」

 サクヤの歌で祓い清められた泉には、穢れが無い。だから、イザナミは大地の奥から現れて、言葉を発する事が出来るのだ。

「これも、大きな流れの内の一つだ」

 イザナミは、カカビコを見据えた。

「穢れとは何か、そなたは再度考えよ」

「穢れは穢れ。この土地に落としていくべきものだ。現世に伴うべきものでは無い」

「そなたは、イザナギの様な事を言うのだな」

 カカビコは言葉を詰まらせる。黄泉の国を穢れある死者の国として、忌み嫌う天津神と同じ考えであると指摘されたからだ。

「ツクヨミの涙が、黄泉の住人を焼くのは、穢れを払う聖なる熱と輝きを持っているからだ。どんなに辛く苦しいと思っていても、ツクヨミは昼の世界で、その気持ちを穢れとして日の光で焼き清められてしまっている。だから逃げ出す事も無く、イザナギの離宮に留まって繰り返すのだ。穢れを持たぬ身も、難儀なのだよ」

 穢れは良くない物で、払うべき悪しき物。

 カカビコは、神に産まれた感覚のままにそう信じていたが、イザナミはそれを否定した。

「穢れは神も人も歪ませる。なれど、持たないと言うのも、不自然な事なのだ。本当の歪みが何であるのか、そなたは考えねばならない。答えが見つからない限り、そなたもサクヤも、このままだ」

 イザナミは、それだけ告げると、泉からふわりと姿を消した。

 カカビコは、泉の前に立ち尽くした。

 サクヤは、生れる前からオオクニヌシの祝詞によって、異能と呼ばれる、イザナミの神力の一部を宿した特殊な魂だった。

 それは、本来神の力を失って、人の世を作る理に逆らう行いで、大罪だった。

 オオクニヌシがそれを考え出したのは、スクナビコの進言が大きかった。

 スクナビコは、不死だった自らの老いでさえ、楽しむ質だから、怖いと言う事を知らない。スクナビコは、天地開闢の理を逆行させる様な行いも、平気で考え出し、オオクニヌシに勧めたのだ。

 オオクニヌシは迷った。

 オオクニヌシの魂は、かつて、イザナミを崇拝し、天津神として存在する事を拒んだスサノオの魂が転生を繰り返したものだ。神力は薄れ、記憶も無くしている。

 しかし、アマテラスがどの様な神なのか、スクナビコと会話をする事で、思い起こしてしまったのだ。魂に刻まれた、太古の記憶を。

 全てを支配下に置き、逆らう者を赦さない太陽の女神。それがアマテラスだ。

 日の光の届かない場所にまで、光を当てて、穢れを払い、自らの支配下に置きたいと願っている。

 スサノオが、海原を治める様にイザナギに命じられた時、アマテラスに深い海の底まで光を届けると宣言された。

 光は熱を伴う。それでは、浅瀬は熱湯と化し、あっと言う間に干上がってしまう。いくらそれを説いても、アマテラスは納得しない。

 スサノオの力で、海の水を注ぎ続ければ、干上がりはしないと言い張った。

 その様な海原には、命が宿らない。中津国が滅びてしまう。それを父神であるイザナギに訴えても、聞く耳を持たない。

 だからスサノオは、天津神である事をやめて、アマテラスと誓約を交わし、中津国をアマテラスの強い光から守る事にしたのだ。

 オオクニヌシとしての意思は、理を破る事を怖れているのに、太古に染みついた記憶が、アマテラスの苛烈さへの、警告を促す。

 ニニギが子孫を残さずに死ねば、アマテラスは中津国を消すかも知れない。

 アマテラスの事だから、自分の支配出来ない中津国など、残さず消してしまおうと考えるかも知れない。遠い魂の記憶はそう告げる。

 既に統治権は天に譲り渡した。新たな統治者が下って来るまで時間が無い。

 オオクニヌシは、スクナビコの力を借りて、黄泉の女神であるイザナミに願いを届ける為の祭壇を、社の中に作り上げ、供物と祝詞を捧げた。

 その祝詞と供物は、小さな一つの勾玉と成って、黄泉にあるイザナミの祭壇へと届いた。

 カカビコは、祭壇も当然管理しているから、すぐに勾玉の存在に気付いた。

 祭壇へは、人の魂も形代も入る事は許されていない。カカビコと、神力をまだ宿している魂のみが入る事を許された、黄泉の聖域だ。

 今ここに入れるのは、カカビコを除けば、ほんの僅かだ。

 そんな場所に一体誰がこんな物を。

 カカビコは、触れてみて驚く。勾玉から今中津国に居る筈のスサノオの気配がしたからだ。

 カカビコは、恐る恐る、中の祝詞を読み解いた。

 読み解く内に、現在の中津国の事情が分かって来る。

 オオクニヌシがスサノオの記憶を断片的に思い出し、アマテラスを怖れ、イザナミを頼って、この勾玉を黄泉へと送って来た事が分かった。

 オオクニヌシは、現世に居るから、スサノオの記憶など本来持っている筈が無い。それを思い出すのは、彼がアマテラスに匹敵する強い神だからだ。六度も転生しているのに、まだそれだけの神力があるのだ。

 長く黄泉に居るが、こんな事は初めてだった。そもそもイザナミは、たまにカカビコに語り掛け、命令を下す事はあっても、カカビコの声など聞きはしなかった。

 黄泉へとやって来たスサノオにも語り掛けはしたけれど、スサノオの声に返事は返さなかった。現世で、その事は思い出さなかったらしい。

 確かに、中津国の危機ではある。しかし、 姿も無く、対話も成立しないイザナミに、どうやって届けろと言うのか。第一、こんな理から外れた願い、イザナミが叶える筈も無い。

 そう思っていた時だった。

『女人の魂を、祭壇へ捧げよ』

 イザナミの命じる声だった。

 イザナミの命令は絶対だ。しかし、この聖域に人の魂を入れた事など無い。

 それに、イザナミは確かに言った。捧げよと。単に連れて来るだけではいけないのだ。

 贄として、イザナミは女を欲したのだ。

 恐ろしい、良くない事が起こる予感がする。

 カカビコは、今まで人の魂の安寧を願い、形代達と共に手厚く守って来た。

 それはカカビコが生れた事で終わりを告げた国生みが、そのまま失敗したのでは無く、続いていると言う事実を確認する作業だった。

 カカビコ本来の火の神としての力は、中津国を活性化する為の力だった。一度炎で土地が燃えても、後にその灰で更に豊かな大地が再生される。豊穣を約束する力だった。大地を灰にしない時には、大地を耕す為の道具を、作り出す為の力でもあった。

 カカビコは、大罪により怪物の姿になってはいるが、それは大罪故に転生を許されない身である為だ。

 しかし、それ故に姿は怪物でも、中には神の魂が宿ったままだ。中津国の大地と人の為に産まれた神である事を忘れてはいない。

 イザナミも、ずっと同じ様に考えていると思っていた。しかし、そうでは無い。

 イザナミは何をしようとしているのか?

 分からないが、カカビコは贄を連れて祭壇に戻って来なくてはならない。時間はあまり無い。

 カカビコは、一つの魂を選んだ。

「イザナミ様の祭壇?」

 何も知らない無垢な魂は、首を傾げた。

 ツクヨミの血から生まれ、中津国に生れ落ちると同時に死んだ為、生れて間もない赤ん坊のまま黄泉に落ちて来た一つの魂。名も与えられないまま、埋葬された女の子供。

 偶然見つけ、不憫に思い、カカビコが世話をした。次の生は、息災なれと願をかけ、ある程度、育つまで黄泉で暮らさせるつもりで留めて置いた。

 こんな事になるなら、もっと早く手放すべきだった。カカビコは後悔した。

 他の魂達は、イザナミの祭壇が聖域だと理解しているから、カカビコの言葉に恐れをなして、逃げ出す者ばかりだった。

 イザナミは死を司る女神だ。人として転生を望む魂が、死の女神の祭壇へと足を向けるのは、自ら刃物に首を晒せと言うのと同じだった。

 カカビコは、癒え切った魂がそんな要求に応じない事を十分理解していた。しかし、穢れを背負い、動けない魂を祭壇に連れて行くのは、腐った供物を用意する事と同義だ。

 カカビコはイザナミに対して、既に大罪を背負っている。母であるイザナミに、これ以上の苦痛を与えるなど、論外だった。

 カカビコは苦渋の決断をして、自分が育てた魂を贄にする事にしたのだ。

 丸い目で、見上げて来る小さな子供を見て、これを贄に差し出す自分の事が、分からなくなりそうだった。

「イザナミ様が、女の魂を求めている。そなた、来るか?」

 来いと、命令は出来なかった。

 もし怖いから嫌だと言ったら、すぐに止めよう。他の魂を無理にでも連れて行こう。そう思いながら問うと、子供はにっこりと笑った。

「行く」

 そう言って、カカビコの腕に飛びついた。

 怪物に無遠慮に触れるのは、この子供だけだ。皆、親しくはしてくれても、穢れを怖れ、触れようとは思わない。それが普通なのだ。

 しかし、この子供は現世を知らない。高天原から、いきなり黄泉に生れ落ちた様なものなのだ。だから、黄泉を自分の生きる世界だと思い込んでいる。

 カカビコは、温もりを知らない。黄泉で怪物になる前から、誰も触れる事が出来なかったから。元々孤独には慣れていた。

 しかし、何の傷も負わず、赤ん坊としてこの黄泉に落ちて来た魂を腕に抱いた瞬間から、カカビコは孤独を辛いと感じる様になってしまった。温もりと言う、人から与えられる熱を知ってしまったからだ。

 少しだけ。後、少しだけ。

 カカビコは、子供の魂をそう言い訳して側に置いた。何も知らない魂は、カカビコを何処までも慕って付いて来た。

 大罪を背負った自分が、安らぎなど求めたのが間違いだった。そんなカカビコの苦悩を知らず、子供は無邪気に告げる。

「行こうよ」

 このまま、黄泉平坂の先へ押し出してしまおうか。

「そなた、中津国へ行きたくないのか?」

「行かない」

 子供はすぐにそう言って、頬を膨らませ、不貞腐れた様に言った。

「皆が言っていた。カカビコ様は、黄泉の国から出られないって。だったら、行きたくない」

 子供はカカビコを見上げ、真剣に言った。

「どんなお方でも、イザナミ様にお願いして、カカビコ様の側に居られる様にお願いする。だから祭壇に行く」

 死の女神であるイザナミの祭壇へ、自ら行くと言う、カカビコが大切に育てた魂。傷一つなく黄泉で育った美しい魂。贄になるに相応しい女の魂は、この魂しか無い。

「そなたの願いは叶わない」

「どうして?」

 子供は不思議そうに聞く。

「そなたは、イザナミ様の贄になるのだ」

「贄って何?」

「イザナミ様に捧げられる供物の事だ。捧げられたら、どうなるのか分からない」

 暫く黙って考えた後、子供は答えた。

「それでもいいよ」

 カカビコは、目を見開いた。

「現世に行ったら、カカビコ様を忘れてしまうのでしょう?今の私が消えちゃうなら、中津国へ行くのも、贄になるのも同じ。だったら、カカビコ様のお役に立つ方にする」

「そなた、自分の言っている事を分かっているのか?」

「うん。私はカカビコ様が大好き。それしか知らない。だからいいの」

 穢れの無い、まっすぐな想いしか知らない魂。その決意は他の選択肢を持たない。

 カカビコは、その強い視線を避けたくて、子供を抱き上げると肩に乗せた。

 子供は、カカビコの頭に抱き付いた。

「カカビコ様は私の事、好き?」

 カカビコは、子供を支える手に力を入れ、震えそうな声で告げた。

「魂ある限り、他の誰よりも想う」

 子供は、カカビコの頭を抱く腕に力を込める。何よりも大事な物を手に入れたかの様に。

「良かった。凄く嬉しい」

 火の神であったカカビコは涙を持たない。だから、どれだけ苦しくとも、涙を流して悲しみを払う事が出来ない。

 連れて行きたくない。こんな事はしたくない。そう思うのに、体は勝手に動く。イザナミの祭壇へ。罪に縛られたカカビコに自由は存在しない。

 聖域に踏み込んでも、子供は平然としていた。そして、祭壇に辿り着き、肩から降ろすと言った。

「イザナミ様は、カカビコ様のお母さんだから、絶対に怖い神様じゃないよ」

 子供は迷わず祭壇の前に歩いて行った。

「イザナミ様、私を食べていいよ。その代わり、カカビコ様に優しくして。お願い」

『贄が神に願をかけるか。面白い。そなたは今から我の眷属だ』

 実の子の言葉にすら返事をしなかったイザナミの声が、その場に響き渡る。

 次の瞬間、子供の魂が大きく震え、気配が一変した。カカビコは大きな神力の圧迫で金縛りになり、身動き一つ出来ない。

「黄泉の空気に良くなじんだ良い魂だ」

 子供らしからぬ口調で子供が言った。

 カカビコの方を振り返ったその顔には、無邪気な表情は無かった。

 イザナミが憑依したのだ。

「この魂には異能を与えた。幾度転生しようとも、この異能は消えない。我が内から宿したものだからな」

 何も持たない魂の奥に、真名が深々と刻み込まれている。

 コノハナサクヤヒメ。

 神から真名を魂に与えられ、異能を刻まれた子供、サクヤはどのような姿に産まれようとも、その真名のままに異能を振るう。

 カカビコが大切にしていた魂は、イザナミによって大きく変えられてしまったのだ。

「オオクニヌシの願いは、魂一つに背負わせるには大き過ぎる」

 イザナミは、子供の小さな手で祭壇に置かれた勾玉を掌に取り、ふっと息を吹きかけた。

 すると勾玉は物実と化し、サクヤと同じ姿の魂が現れた。

 イワナガヒメ。

 人でありながら、物実である為、人の情をすぐには理解しない硬く強い魂。

「中津国へ遣わせ」

 サクヤの姿から抜け出る前に、そう言い放つと、イザナミは去って行った。

 後には、茫然と立つ物実の魂と、倒れ伏した小さな女の子供の魂だけが残った。

 カカビコは、金縛りが解け、サクヤを抱き上げた。サクヤは目を閉じたまま、ピクリとも動かない。

「黄泉では、もう目覚めません」

 イワナガが冷たく言い放った。

「人の身でありながら、イザナミ様を憑依させたのですから」

 神の魂を持つカカビコにも、そんな事は分かっている。魂の内部に真名を刻み込まれ、衝撃によって、黄泉で培った人格が壊れてしまったのだ。

 さっきまで元気だった子供はもう居ない。コノハナサクヤヒメに転生する為の魂しか残っていない。

 人格も記憶も、転生で再構築される。しかし、それはもうカカビコが側に置いた子供とは違う。

 カカビコは、新しい生を送るサクヤが黄泉に戻っても、決して関わってはいけないと思った。

 自分は災厄でしか無い。

 そう言い聞かせ、サクヤを黄泉平坂の先へと送った。

 しかし、イザナミの眷属と成ったサクヤの現世の状態は、祭壇で眺める事が出来る様になった。

 魂ある限り、他の誰よりも想う。その言霊故なのか、カカビコはサクヤの中津国での一生を見てしまう。

 イザナミの眷属であるが故だろうか。

 カグツチがイザナミを内から焼いて死なせた様に、サクヤも炎の中で出産し、命を落とした。

 美しい魂は酷く傷つき、壊れそうになっていた。カカビコは、サクヤの様子を見ずには居られなかった。

 放置されて消えて行く様な事があれば、カカビコは自分が許せないから。

 だから、毎日見舞った。

 やがて再生が始まったが、安心出来るまでカカビコはサクヤを見舞った。見舞ってしまったのだ。

 カカビコは、大きく息を吐く。

 また、長く側に居過ぎてしまったのだ。

 自分の想い故に、真名に異能、そして穢れも背負った魂。今度は、黄泉の国の形代の一つも、巻き込んでしまった。

 大きな流れの一つだと、イザナミは言った。

 イザナミは、サクヤに異能を与えた事で、何かをしようとしている。その意図を理解出来ない限り、この苦しみは更に深まる。

 穢れが何であるのか、本当の歪みとは何なのか。イザナミは考えろと言ったが、カカビコには、皆目見当も付かなかった。

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