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狂人達の宴  作者: あっは~~~ん
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最初の3人

そこは監獄の様な場所だった。

部屋に付いている窓には全て鉄格子がついており、それも部屋の上部に取り付けてあるため、外を眺める事さえできない。

見る限りでは部屋には明かりを灯すための”電球”のような物はなく窓から差し込む光が、今のところ有一の光源である。

しかし、部屋には生活するには十分な家具が設置されていた。

ベッド、机、椅子、風呂シャワールーム、肥壷、掃除用具.......。

大きな家具は動かせないように床に接着され、衣類や食べ物は毎日決まった時間に部屋の扉の小窓から部屋の内側に落とされる。扉はドアノブすらなく、押してもビクともしなかった。

また、使った食器や衣類、肥壷は小窓から外側へ落としておくと、次の日新しい物が至急された。

一度、部屋の外を見ようと、小窓を覗いてみたが外は暗闇に覆われていて全く見通せなかった。

ちなみに、恐る恐る小窓に手を突っ込んでみても、何も触る事は出来ず、手を振ってみても空気を切る感触さえしなかった。当に不思議空間。

うん、部屋の外は鬼門だな。


この部屋は大体8畳くらい。床や壁は剥き出しの石で作られていて壁紙やカーペットといったたぐいは一切なく、酷く殺風景だ。そのせいか、夏場は絵や紺いらずで快適だが、冬場は凍え死にそうなくらい寒い。ベッドの中にこもりきりだ。といっても肝心のベッドは薄い布が2枚かけられているだけなのだが・・・。


私がここで寝起きするようになってから約3年がたった。

それまでの私がどこで暮らしていたのか分からない。記憶がないからだ。

私は何者で、ここはどこで、なぜ私はこんな所に閉じ込められているのか。

全てがなぞだ。

自分の体格からして年齢は7,8歳くらいだろうか?いや、栄養不足な事を考えるともう少し年上なのかもしれない。

髪の色は黒く、日に当たっていいにもかかわらず褐色の肌をしている。目の色は多分青系。

ここには鏡がないから食器に映った顔をみるしかないのだ。

顔は整っている?ような気もするが可愛げはない。もう少し肉がつけば印象もかわるかもしれない。

頬はこけていて眼光が鋭い。正直、髪を切ったら男にしか見えないだろう。


私が来ている服は長袖のワンピースのような形で白一色だ。季節問わず同じ服だ。下着や靴下といったたぐいの物は支給されず、冬場の寒い時はベッドのシーツを破って体中にグルグルに巻いて暖をとっている。

体に巻く布は一度外側に落とした時戻ってこなかったため、(おそらくは捨てられた)風呂場で自分で洗っている。だが、最近は使いすぎたせいか、もうボロボロになっていて新しく作らないといけなくなってきている。


今年の冬は特に寒い。天井付近にある窓からは雪が入ってきて床に降り積もっている。

いつもだと、溶け出した雪を風呂場に誘導して部屋が水没しないようにしているが、今年は溶け出す気配もなく凍っていている。仕方が無いから、風呂場から水をもってきて凍った雪の固まりにかけては見るが、なかなか溶けない。窓をしめられればいいが、石壁がツルツルすぎて登れないし、登れたとしても窓の手前に格子があって窓に届かない。ついでに言えば登れるだけの体力も腕力も気力もない。


八方塞がりだ。


まぁ、といってもこのぐらいのヤバさはまだ許容範囲。

この体はガリガリなのにも関わらず結構丈夫なのだ。こんな不健康な暮らしをしていれば、病にくらいかかってもいいはずが、未だに病気になった事はない。風邪をひいたり、熱をだしたりする気配もない。

では、何がヤバいのか。


ついにご飯の配給が1日一回になったのだ。


ただでさえ少ないご飯がもっと少なくなった。しかも、配給が毎日行われず、不定期になった。

ようは、丸1日何も食べないで過ごす日もあるって事だ。

今までの暮らしも贅沢はできないが、細々と生きられる程度には生かされていた。


だが、今度は別に生きても死んでも、どっちでもいいという投げやり感が漂よっている。


ふと床に出来た影を見た。いつも通り配給がくるなら、およそ2時間前のはずだ。

「今日も無しか・・・。」

自分の体を見る。配給が不定期になる前からガリガリだったが、今はもはや骨と皮だ。

こんな状態になっておよそ1ヶ月あまりたつ。

正直自分の体ここまで保つとは思ってなかった。”私の前の記憶”の常識からすると、もう死んでいてもおかしくない。けれど、この状態でも歩き回れはするんだから、私の常識が非常識なのか、私の体が非常識なのか。


けれど、もう自分が動けなくなるのは時間の問題だろう。今は歩く事はできても体力が続かない。もし、この空間から逃げ出せてもすぐに捕まったんじゃ意味がない。行動を起こすなら早くしなくては。


ぐるっと部屋を見渡す。相変わらず部屋はもはや氷と貸した雪に覆われ、ただでさえ殺風景な部屋をより寒々しくしている。上には有一外界と接している窓。周囲には床に固定され動かせない家具。

何度となく突きつけられた現実だ。そして変えられない現実だ。冷たい床に足をつける。冷気が体を巡り、気力を奪い去っていく。吐いた息がそのまま凍り付く世界に思わず嗤いがでる。それでも私は歩き回る。歩き回る。あきらめられる訳がない。その度何度となく絶望に陥っても。何度となく泣き叫んでも諦められるはずがない。私が”ここ”に生まれ生きた記憶はまだ3年だ。けれど、”前の私”の記憶はこの現実がいかに非常で非情であるかを私に知らしめた。何も知らない私であったなら、こんなにも不安に思わなかったのかもしれない。自分以外生きた生物にあった事もない現実を自然に受け止められたかもしれない。

けれど、”私”はここにいる。

”私”にはやり残した事がある。それを果たせるこんな胸くそ悪い奇跡が舞い降りたからには、かならず・・・。


しかし、どんなに意気込んでも現実はままならないものだ。

アッと思た瞬間には体は床に打ち付けられていた。もう手足の感覚がないのだが、どうもいすに蹴躓いたらしい。反応速度も鈍くなっているのか、受け身もとれず頭を机の角にしたたかに打った。


「クッ・・・。」


頭が割れるように痛む。頭部に手を当てると血がベットリとついていた。

必死に床に手をついて起き上がる。

体の中を何かが暴れ回る。堪えきれない吐き気がこみ上げた。


結局、口から出た粘液すら拭う余裕すらなく椅子に座った。まさに弱り目に祟り目。打ち所が悪かったのか三半規管が狂ったみたいに立てなくなった。


「んあ・・ぁ・・・。」


目を瞑ってうめいてみても、体調は変わらない。痛みから目を逸らして、目をこじ開ける。視界はぼんやりしていて定まらなかったが、そこら辺から氷をつかみ、服をちぎって頭に巻いた布の上から冷やす。既にこれ以上ないくらい体は冷えていたが、これ以外対処が思いうかばなかったのだから仕方がない。


幸いにも頭以外の体にはたいした怪我はない。青痣ができたくらいだ。とりあえず、立てるようになるまで、これからどうするか考える。闇雲に動き回っても、何にもなさない。反って、害しか生まなかったのは、残念ながらさっき証明してしまった。


私は椅子に横に座りながら考える。よく、脱獄囚の映画を見たが、そこでは他の囚人と連携して事に当たっていたし、そもそも警備員すらいなく出口があるのかさえ分からないのだから、そんなやり口は通用しない。部屋にはドアがあるが、それは便宜上ドアと記しただけで、部屋を囲む石壁にうっすら四角い線が入っているだけの完全なる”はめ殺し”だ。おそらく、私をこの部屋に入れた後ドアを接続したのだろう。本当にそんな事ができるのかはしらないが、小窓の外を見た時も思ったが、ここにはそういった特殊な技術があるのかもしれない。


次に思いだしたのが、スプーンやフォークを使って壁を刳り貫いて脱出するという方法だ。実は、この方法は既に試していた。天井付近に窓があることから、外に繋がっている事は分かっている。ならそっちの方向に掘っていけばいい。だが、残念な事にスプーンやフォークといった文化的な物は支給されていない。それらが存在すらしていない所ではないと信じたい。一応、皿はあったので、それを割って使う事を考えた。しかし、皿は落としても、投げても、踏んづけても割れなかった。手触りは陶器みたいなのに、実に不思議だ。ちなみに、石壁は皿をたたきつけても、傷一つ付かなかった。他の物を投げても以下同様。


私の頭のできでは、この位しか考えつかない。最後の手段として、大声をだして外の人に気付いてもらおうとしたが、案の定体力を消耗しただけで意味はまるでなかった。

1年ほどは脱出を試みて試行錯誤したが、命の危険もない怠惰な生活は人をダメにするらしい。今の今になるまで暇つぶしの方法くらいしか考えてこなかったのが悔やまれる。


普通、物語の主人公だと、絶体絶命のピンチに派手な能力を身につけたりするものだ。私は石壁を睨みつけながら念じる。

”目からビーム・・・・目からビーム・・・・・・超絶レーザー光線・・・・・・・”


何もでない。


当たり前だ。だが、諦めない。この時、私はなぞのテンションに支配されていた。

そうだ、何も目からに拘らなくてもいいだろう。だが、ビームは譲らない。そこにロマンがあるのだから。今度は格好にも拘ってみる。椅子に座ったままだが私の熱意が伝わるように腰に左手をあて、右手を前に出し、心持ち上から目線で石壁を再度睨め付ける。


”いでよ!我が身命をもって命ずる、天上に住まう神々が一神、破壊竜ファーフニルよ!契約の名の元にその履行を求めん。吠えよ、邪眼天照破壊砲!!!!!!!!!”


なっにも、でない・・・・だと・・、なぜだ?

あっ、なるほど。

これでは私と契約している(ことになっている)ファーフニルがビームを出すことになる。

ってことは、私がビームを出せないではないか。

それでは前に出している右手との整合性がとれない。

奥が深い。


またも石壁を睨め付ける。

ふっ、全く、この私の敵として不足はなし。

私の中の死んでも治らなかった"厨二魂”がうずきだす。

それから、何度となく台詞や格好を変えてみた。

途中から歩ける程まで回復したので、腰のひねりもいれてポーズを決める。

だが、疲労もたまってきているのか、石壁が一部、段々歪んで見え始めた。

最初はぼんやりそう見えたが、歪みが段々とクリアになってくる。

ここまではっきりと見えると、単なる目の病気というより、私のいままでの成果のように思えてならない。


ほほう・・・。

ついに世界が私を認めたか・・。

私はしたり顔で氷をつかみ、歪みに向かって投げてみた。

すると、まるで当然のように氷は歪みの向こうへ消えていった。


え? まじで?


恐る恐るまた、氷を掴んで投げてみる。すると同じように消えていった。

何コレ珍百景。

ちょっと面白くなってきた。

次々投げ入れてみる。

最初は的(歪み)を外す事もあったが、慣れてくると目をつぶってでも入るようになった。


私の投げるフォームが段々様になってくるにつれ、私に微かに残った”正気”が顔を出す。

おい、おい・・・。ちょっと待て。私、何やってんだ?こんな事してる場合じゃないだろう。

とりあえず、歪みの側まで行って観察してみる。

歪みの大きさは直径1メートルの円程で、床から50センチくらいの高さにあった。

なんで、いきなりこの歪みが現れたのかは全く分からない。

中がどうなっているか確かめるために、そこら辺に落ちてた箒の柄の部分をつっこんでみた。

箒は少し抵抗を感じながらも、向こう側?へ突き抜けていった。


「おおぅ。これは凄いな。」

正直、こんなご都合主義な展開は期待してなかった。怪しさがフルスロットルだ。

だが、こんな絶妙な機会を見逃す程私のスルースキルは高くない。

よし、女は度胸。えぇい、ままよ。

歪みに腕を勢いよく突っ込んでみる。腕を動かしてみると、風をきったような感触がした。

どうやら、小窓の外みたいな不思議空間が広がっている訳ではないらしい。

それに、なんだか冷たい物体に手があたる。

それを、こちら側に持ってくると案の定、さっき私が投げた氷だった。

もう一回、腕を入れて触れた物をこちらに持ってくる。

今度は、黄色くて丸い果物のような物体だった。

匂いからして凄く美味しそうだ。危険性を考える間もなく、齧っていた。


「うまっ。あぁ!生きかえるぅ。」

あっという間に食べ終わった。正直、”今まで”生きてきた中でこれ以上に美味しい物はないくらいだった。

けれど、同時に今まで騙し騙しにしていた飢餓感が私を支配し始めた。

じっと、歪みを睨みつける。

もう、いいだろう。少しは理性的な振りをしたが、本当は歪みの向こうに行きたくて行きたくて仕方のない自分がいる事を知っている。無計画に飛び込んで危機に陥ったとしても、所詮おこで朽ちるはずだった命、粋狂な事をするのもまた一興。


よしっ!

深呼吸をしてから、目をつむる。

先に両腕を歪みの中に突っ込んでから、次に頭を突っ込む。

少しの抵抗を経てからめを開けるとそこは、全てを真っ白な壁で覆われた豪奢な部屋がそこにあった。

どうやら、私が腕と頭を出している場所は床から3メートル程の所らしい。

なんだか、私の体がすごい事になっているような気がするが、そこは気にしない。気にしないったらしない。

下を見ると、大きな壇上の上に山盛りの果物や肉、巻物、それから、よく分からない伝統工芸品等が奇麗に積まれていた。しかし、所々水で濡れており、特に果物の横にある奇麗な布の山は水浸しになっていた。

全く、誰だこんな事をしたのは勿体ない。


とりあえず、頭だけ壁から出しているのは不格好だ。

腕に力を入れて、残りの体を出す。勢い余って頭から果物の山に突っ込んだが仕方がない。

あの体勢からでは上出来だ。

私の周りには色とりどりの果物で敷き詰められていた。いかにも毒がありそうな物もたくさんあったが、そんなものは関係ない。空腹の前では御馳走だ。

ってな事で、手あたり次第に果物を腹に詰め込む。途中、果物じゃない、どうみても食べちゃいけない系のゲテモノもまざってはいたが、取り敢えず空腹を満たす。


どの位の時間が経っただろうか。

周りを見れば、3メートルはあった山が全て平地となり、食べれそうな物は全て私の腹に収まっていた。


「よくもまぁ、ここまで食べれたもんだ。」


これだけ食べても私のお腹はへこんだまま。切羽詰まった飢餓感は満たされたが、まだ、食べれるか?と聞かれれば食べれるだろう。私の体は結構不思議だ。


さっきまで極寒の世界にいたせいか、ここは余計に常春のように暖かくかんじる。

腹が満たされれば心も満たされる。あの閉塞感しか感じられない部屋から脱出できたんだから尚更だ。

さて、次はなにをしようか。

横を見ると、水浸しになった布の束が置いてある。その束の中から一番濡れていなそうな物を取り出し体に巻き付ける。これで、おんぼろな服から”なんちゃってローマ人”まで進化したはずだ。

布自体の仕立ては良いからか光沢のある高級な服に見える。


さて、人心地ついたら部屋の探検だ。

この部屋は全体的に白い家具や装飾で統一されていて、なんだか神殿みたいな厳かな雰囲気さえする。

部屋の大きさはちょっとしたダンスホール位はあり、天井は20メートルは確実にありそうなほど高い。

うん、歪みがそこまで高い所になくて良かった。死因が墜落死に変わるところだった。

色んな物が置いてあった白い壇上を降りると、床は大理石のような物で出来ていた。

壁には等間隔に燭台が並べられているが、蝋燭がさされた形跡はなく、部屋の中は薄暗かった。

けれど、壁に特殊な塗料をつかっているのか、壁自体が仄かに光を発しておりそれが部屋をさらに幻想的にみせていた。

さっきは気付かなかったが、私がいた壇上は美しい彫刻がされており、驚く事に、その彫刻はゆっくりと動いており見ている者を飽きさせない魅力があった。また、私が通ってきた歪みのある壁には威厳のある年配の男性の像が彫られていた。そこから考えるに、壇上にあった大量の物はその男性への供物?といったところだろうか。

すると私は、それを粗方食べてしまった罰当たりものになるのか・・・。

このおじさんが何者かは分からないけれど、優しい人がいいなぁ・・・。


この壇(ここからは祭壇と呼ぶ事にする)は、この部屋の約半分を占め、その祭壇を降りると通路を挟んだ向こう側に上へ上る5段程の小さな階段がついていて、それを上ると大きな天幕によって空間がしきられていた。


少しドギマギしながら天幕をめくると、そこにはさっきの祭壇と同じような装飾がほどこされた豪奢なベッドと、それとは対照的なほどボロイ(使い古された感のある)机、いす、本棚、食器棚、日用品、草臥れた服、何かが書かれているノート、使用用途の分からないガラクタが大量に置かれていた。


「いまいち、統一感のない部屋だなぁ。」

ボロイ机や椅子には親近感をおぼえるが、今注目すべきはデカくてフカフカしたベッドだろう。

今まであんな板張りで、防寒さえまともにできなかったんだ。ここでダイブの誘惑に負けても仕方ないじゃないか。

「ふおぉぉおぉわぁぁあぁ・・。」

やばい、とろける。ほどよく腹を満たした後の午後?のまどろみに勝るものはない。

この、体を優しく包み込む感触は人を堕落させる魔性の心地よさだ。

今まで蓄積された疲労が昇華されていく。

私は瞼が閉じ、意識が薄れていく衝動に逆らわずみをまかせ・・


ポカっ。


られなかった。
































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