悪役令嬢が多すぎる世界〜魔法少女爆誕、かも知れない
その日、わたしは鏡台を前にして苦悩していた。古典漫画そのものの金髪縦ロール装備な、目尻の吊り上がったキッツイ、ライバル役顔で。
白いお姫様ちっくな鏡台に向かい、こうつぶやいた。
「こんなしょーもない世界に転生とか、なんなの。罰ゲームかな?」
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まなまなさんのつぶやき:
ここは、ビッチヒロインが、ありとあらゆる攻略対象を魅了して、婚約者たる令嬢を陥れる世界!
イケメン貴公子を婚約者に持った乙女は漏れなく無実の罪で殺される!
そこでは、悪の組織に操られたビッチヒロインが、日々令嬢を陥れる為に暗躍していた……。
そんな夢のない世界に、今、悪役令嬢の愛と夢と希望を背負い、魔法少女が立ち上がるのだ!
「恋する乙女を泣かせる悪は、許さないんだから!」(決めポーズ)
なーんてね。
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そう、最初のつぶやきを書いたのは、自分。
面白がった創作系の友人がそれを拾い、人気のSNS、ツブヤイターに専用ハッシュタグ、「#悪役令嬢が多すぎる世界」 を作り。
それは口コミで広がって、その友人や、そのまた友人が、次々に「ハメられるご令嬢」 と「イケメン攻略対象」 の造形、彼らの破局劇とその結末を描いていった。
電波系ゆんゆんなヒロインが何故悉く優秀なイケメンに愛されるか。
それは勿論、悪の秘密結社の技術力ゆえである。
イーと叫んでけなげに働くショッ(ピー) 的な裏方さんが、ヒロインに都合のいい環境を、作るからである!!
……いつの間にやらそんな、バックグラウンドも作られ。
折しも、ウェブ小説界隈では、無実の悪役令嬢が、ビッチヒロインに嵌められ落とされてから這い上がる系の創作が流行りであった。
ツイッターお題で遊んだら反応がよく、多数のネット上の書き手さんのお知恵により、様々な、古今東西の破局ものの、ヒーローと被害者、いや悪役令嬢が描かれていった。
そう。
悪の組織の仕業とすれば、逆ハーヒロインの訳のわからない……。
呪いめいたイベント遭遇率も。
大事な「貴族の義務」を捨ててまで庶民に走る、立派な青年な筈な攻略対しょ……貴公子らの暴挙も変節ぶりも。
無実の少女を貶めて平気な顔をしている、周囲の厚顔無恥と責任放棄ぶりも。
まるっと説明がつく。ついちゃったのだ。
悪の組織の、謎パワーのせいだってね。
一つのエピソードは、おおよそ決められたフレームがある。
Aパートに当たる日常パートで、主人公の悪役令嬢魔法少女(仮) の、ご友人の令嬢と貴公子の関係を描き、CM直前、ビッチヒロインの呪いのキスから貴公子がアホ化して、婚約破局。
Bパートに当たる後半は、二人の関係を象徴する愛を呪うモンスター、「モッテナイー」 が生まれて、貴公子役は囚われの身に。
そして、ビッチヒロインこと悪の幹部の使役する巨大モンスターと主人公がガチバトル、勝利!
かくして、偽りの恋から目覚めたヒーローは、真の愛に目覚め、令嬢の元へ戻るのだった。
魔法少女もののセオリーを踏まえればよく、話を作りやすいというのも、人気の秘訣だったろう。
気づけば、設定保存用ウィキや、SS保存用ブログまで出来てしまった、内輪受けながらも末長く愛された、ハッシュタグでありお題ネタであった。
創作能力のある者は設定を作り。
絵心のある人はキャラを描き。
そのキャラを元にSSが書かれ。
技術力のある者がオープニング的ショートアニメを作れば、テーマソングが付けられる。
ここまでくれば、歌詞が付き、歌い手が歌ってみるのは当然の流れ。
終いには、声優志望な子は名ゼリフを吐き、絵師志望の子はキャラデザを担当。
一分半程度のアニメサイズOP、EDが作られ。
さらに紙芝居調なショートアニメが連作された。……他人事のようだが、流行りってこんなもの。
手に職付けたくて、デザイン系の専門学校に通ってた当時のわたしは、せっかくの機会だしとサイト作ったりまとめ人してた。
楽しんでやれるし、手伝ってくれる諸先輩方から技術も盗めたしで、いい教材だったよ?
……そんな、一時の熱情が生んだのが、この世界、か?
記憶が、就活前後の頃からふっつり、と消えてる事からすると、多分あの楽しいネットでの遊びから数年後には、わたしは死んでしまったんだろう。
結局、就活では、出来のいいwebページとか参考作品として使っちゃったしね……!!
学生時代の目立った活動がそれだったんだよ、web系の会社ではウケもよかったよ! くそぅ!
でも、でもね、女神様!!
多分、わたしの楽しんでた姿を見て、やさしい気持ちでこの創作世界に転生させてくれたんだろうけど。
「……なんの奇もてらいもない、ふつうの世界に転生で、よかったんだよ……!!」
ご愛読はありがとうございます、だ!!
何せ、賑やかしのギャラリー含めて参加者数百人規模のネタだ。「悪戯好きの神が戯れに作って壊すには、もってこいだったのだろう」……。と。
魔法の国からやって来たニヒルなアイツが言う。
はあ。
そんな世界に爆誕しちゃったわたしは。
そして、数多の被害者……悪役令嬢を救うのがマスコット連れの、フルコンタクト系魔法少女な主人公、やってる。
でも、こんなに恥ずかしいなんて……!!
軽く文化破壊じゃないか?
何で、中世ヨーロッパ風社会を元にしといて、主人公にブリブリミニスカな魔法少女系を振ったんだ、わたし! 破廉恥極まりないわ!
と、吊り目に厚化粧に真っ赤なルージュの、悪趣味ドレスを着た、それは見事な古典漫画のライバル役令嬢が、鏡台を前に頭を抱える。
「何を戸惑っておる。そなたがこの世界を描いたのだろう。数多の乙女達が、多情な色魔によって泣かされておるのだ、ほれ、責任持ってエンディングまで導け。サポート業はしっかりとこの妖精プリティが果たしてやろう」
そして、何でパートナーであるマスコットキャラクターの性格が、魔王系なんだろう。
解せぬ……。
当時は捻ってていい設定だなんて満足していたが、アホか、自分!
見た目は丸くてファンシーでも、性格が尊大過ぎて側にいても癒されないぞこいつ!!
「ほれ。南に色魔の魅了反応ありだ。あの場所は……、ハッ、あの近辺で、色魔の好きそうな美形と言えば、マヌカルハニー国のプリンセス、マキュア嬢の婚約者である公爵家次男ジュレ殿がいる。きっと彼のピュアなハートが狙われているぞ! 急ぐのだご主人! 色魔の魔力に囚われた彼が、無実の乙女を断罪する前に、現場に行かなくては」
何で、マスコットの基本性能だけは引き継いでるのー!
完璧な背景説明を横目に、わたしは慌ててパステルカラーの魔法のステッキを取り出すと、ペンダントを掴んで変身する。
「ぷ、プリンセスマジック! スタンバイ! マジック、パステル、きゅるるんぱ!」
泣きながら酷い魔法の呪文を唱え、不思議な光をまとってわたしは変身する!
するとそこには、ナチュラルメイクのうる艶ぷるるんリップでもてカワキュートな、体の線バッチリなロリロリ衣装の、美少女魔法少女が立っていた!
……自分で言ってて正直引くわ!
「やだもーこれ恥ずいー!」
「それどころではないと言っているだろうが! 色魔の魅了を解除しに行くぞ。無実の令嬢と騙された子息の、未来が掛かっているのだ!」
「うえええん!」
マスコットに急かされ、魔法のステッキに横座りして空を飛び去っていくわたしはしらない。
「へえ、あの魔法少女に、こんな秘密があっただなんて……面白い」
わたしが病に倒れてからも続いていた、お題遊び。
……その追加設定で、新たに作られた、主人公狙いの男型色魔(魔法少女系お約束の悪の組織の幹部)である狡猾系イケメンが、駆け去るわたしを見てニヤリと笑っていたことを。