始まり①
俺の人生はきっと不運だったのだろう。
周りの友達と大差なんてない普通に歩んでるつもりだった、普通に年を重ねて学校に行って、普通に彼女とかもできて、普通に結婚するんだろうなと昔は思ってた。一体何が違ったのか、どうすれば良かったのか考えても分からない。
それでもあきらめないでここまで来たのに、やっと実る瞬間だったのに。
まさか乗っていた車が事故に遭うなんて。
本当に運がない。
高校2年の夏。
こんな形で人生が終わるなんて、やっぱり俺一人では何にも出来なかったんだ。
「こんにちは」
誰だろうと声の先を見ると白い髪と美しい青い瞳を持った少年が立っていた。
「・・・・・こんにちは」
まるで今まで自分の意識の中にいたかのような状態から引き離されたかのように周りが認識できた。
全然気が付かなかったが、俺は一人で真っ白い空間に立っていたのだ。
「卓海さんですよね?……失礼ですが記録を見させてもらいました」
「車の事故のこと覚えていますか?」
俺は小さく頷いた。
なぜ知ってるんだ?記録ってなんだ?という質問より先に言葉が出ていた。
「あなたは誰?」
少年はまるで慣れているかのように、声のトーンやリズムを変えず淡々と話す。
「僕はルートと言います、卓海さんと取引したくて会いにきました」
「取引?」
「隣を見てください」
言われるがままに首を傾け見ると、いつの間にか1つのベットがあった。
その上には沢山の管につながれている自分が寝ていた。
包帯まみれの姿は痛々しい。
「あなたはまだ生きています、かろうじてではありますが」
なんとなく分かる、もうすぐ俺の体は動かなくなる。
死ぬのだ。
「違う世界で新しい人生を生きてみませんか?」
「違う世界・・・?」
からかわれているのかと思ったが、ルートという少年から冗談は感じられなかった。
もっと言えば、極めて真面目だった。
「卓海さんが生きていた世界とは全く異なる世界です」
「そこで新しい人生を過ごせます」
「そこの世界の人より少し恵まれたポテンシャルの体にもなります」
「その代わり、世界を救って欲しいのです」
「魔王を倒して欲しいのです」
「・・・本気で言ってますか?」
「本気ですよ」
「もし俺が違う世界に行ったら、こっちの俺はどうなるんですか?」
「・・・残念ながら死んでしまいます」
つまり、どうしたってもうすぐ死んでしまうのだ。
選択肢なんて最初から無いじゃないか。
「・・・・引き受けます」
「交渉成立です」
ルートは少し笑って俺の手を掴んだ
「もう動けるでしょ?」
「・・・ほんとだ」
今まで根がついていたかのように立っていた足が、体が一気に軽くなり自分の力で歩けた。
「では、時間も無いので他のメンバーと合流しましょうか」
ルートがそういった瞬間世界がはじけ、視界が開けた。