プロローグ
一つ、神は力。
一つ、神は魔法。
一つ、神は知恵。
一つ、神は美。
一つ、神は絶対。
一つ、神は癒し。
一つ、神は奇跡。
暖かな春の風が吹き込み花が咲き乱れる美しい庭園。
そこからはこの世界が一望できた。
「ルート、あなたはこの世界がどう見える?」
光が当たると銀色に輝く長く美しい白い髪をなびかせ、青い瞳を細めながら彼女は微笑んだ。
「メルト………?」
ルートと呼ばれた彼は会話の相手と同じ白い髪と青い瞳を持っていた。
「美しいと、……愛しいと思う?」
何気ない質問だったが彼女の青い瞳はルートを真っすぐに見つめていた。
ルートは少し考えるように目線をそらし自信なさげに彼女を見つめ直した。
「はい、この世界は驚くほど美しいと思います」
「海は輝き、自然は躍動し、――――生き物、人間は愛しいと思います」
「ルート、あなたは私によく似ている形も中身も、ね」
「あなたの力は自分自身には使えないけど、あなたが愛する人の為に使ってあげて」
彼女は小さく微笑み機嫌良さそうにルートの髪の毛をかき回した。
世界は女神から創造され。
彼女の分身である7人の人ならざる力を持つ使徒によって管理されていた。
ルートと呼ばれる彼は7番目の女神の使徒。
世界と世界のつながりを管理する。
転移者の案内係。
「よぁルート帰ってたのか」
「相変わらず冴えない顔ね」
いつも変わらない仲間がいて。
メルトがいて。
それだけで良かった。
「ラッカス、ローズも珍しいですね」
ずっとこの幸せな生活が続くと思ってた。
いや、僕だけが思ってた幸せだったのかもしれない。
「お前こそここに来るの珍しいだろ」
僕が知らないだけで。
悲劇への前兆はあったんだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おい大丈夫か」
「ん」
長い夢を見ていたかのような感覚から起こされる。
「ここは、…?」
知らない男。
知らない場所。
「気が付いて良かったよ、」
体を起こすとここはどこかの小さな部屋のようだ。
「君は近くの森の中で倒れていてね」
「少し前からここにも魔物が出るようになって危険なんだよ」
「まもの・・・?」
聞き覚えのない言葉を反復する。
「記憶が混乱しているようだね、もう少しここで休むといいよ」
男は優しそうに笑うと部屋を出て行った。
誰もいなくなった部屋。
心拍数が徐々に上がっていくのに頭は冷めていくばかりだ。
「待って、・・・」
壁にかかっていた鏡を覗くとそこには、黒い髪と瞳の貧相な少年が映っていた。
全てが分かった気がした。
『残念だルート』
「ちょっと待って」
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
何がどうなってるんだ。
「メルト、・・・」
記憶が混乱している。
最後の記憶を必死に思い出す。
「あぁ、」
「ぁぁああぁ、ぁあ―――――」
『どうせ俺とお前が会うのは最後だろうから教えてやるよ』
『お前が起きる頃にはとっくの昔に終わってる事になってるだろうが』
『俺たちは、これから女神を殺しに行くんだ』
「ほんとにヤッたのか、・・・お前らぁ、」
本当に彼らは犯してしまったのだ。
犯してはならない世界の秩序。
神殺し。