片桐さんの謎は続く
縛り上げていた魔法使いたちは全員気絶していた。
拘束してるから見張りもいらないかと思って、私は片桐さんと一緒に村の外へと向かう。
片桐さんはさっき自分で自分に撃った魔砲を、もう一度使って普通の人間に見えるようになった。
どういう原理か知らないけれど、封印してるみたい。
「ところで、この先って何があるんですか?」
私たちが向かう先に、消えた村人たちがいるみたい。
でもそこに村人全員がいるっておかしなことだと思う。
「この先は魔幻鉱石の採掘場があるんだ。どうも、それを合わせて魔法使いたちは儀式魔法に使おうと思ったみたいだな」
片桐さんの説明に嫌な予感がして、私は恐る恐る片桐さんに尋ねる。
魔幻鉱石、村人、魔法陣。
魔法使い達、まさか生贄のつもりだったりして……?
「片桐さん……村の人たち無事ですか?」
探知したところ生命反応はあるけれど、これが半分は死んでたなんてことがあると怖い。
ぜったい後悔する。
「多分無事だろうね。あの魔法陣は悪魔を外から多く呼ぶためのものだ。生贄もたくさん必要になる。魔法で操られるか、眠らされるかして連れて行かれたんだと思う」
「片桐さん、もしかして魔法陣見てすぐにわかったんですか?」
魔法使いが何をしようとしてるのか。
村の人たちを生贄に悪魔を呼ぼうとしていること。
そうじゃなきゃ、魔法陣を見て妨害の魔砲を撃ちこんだ上に、さらに何か撃とうとしたことに説明がつかないもの。
「ああ。すぐにわかった」
片桐さんと話している間に、私たちは採掘場に辿りついた。
そこは開けた場所で岩肌がむき出しになっていて、キラキラとあちこちが光っている。
村人たちはその岩肌のむき出しになっているところで倒れているのが見えた。
村人たちは無事だった。
無事だったんだけど、その村にいた魔砲使いたちは殺されていた。
考えれば当然だ。
でも、殺すだの殺されるだの物騒な事とは無縁でいた私には――。
「はぁ……ここってこういう世界なんですね」
私には辛すぎる現実だ。
私自身も殺されるところだったんだけど、自分の事と他人の事は違う。
何でも屋のある村に戻る途中に私はそんな風にぼやいた。
「アカリさんに辛い思いをさせるつもりはなかったんだ。すまない。これからはできるだけ、アカリさんを巻き込まないようにするよ」
それとこれとはまた別の話。
私が傷ついたからって、私を連れて行かないなんて発想はありえない。
死人が出ない方向に頑張らないといけないんでしょうに。
「ちょっと待ってください。私は片桐さんの仕事にはできるだけついて行きます。いくら切り札があるからって、弾薬を空にしそうな片桐さんにはサポートが必要です」
口にして思い出したけど、結局片桐さんの正体って何なの?
「そういえば、片桐さん。あとで説明してくれるって言ってましたけど、片桐さんって何者? ミツやユキも片桐さんの正体知ってるんですか?」
この際だから聞いてしまえと私は一気に質問をぶつけた。
多分ミツやユキは片桐さんの正体知ってるんだろうな。
これは勘だけどね。
「俺が何者かっていうと、悪い悪魔を退治してる悪魔っていうのが一番近いと思う。仲間の不始末を処理してるって言うか……」
片桐さんの説明は歯切れが悪い。
何かたいそうな秘密でも抱えてる?
悪魔だっていうだけでもすごい秘密だけどね。
「魔法使いとかは敵ってことでいいんですか?」
悪魔は敵っていうなら多分そうなんだろうけど。
これで片桐さんが裏切って私たちの敵でした、ってなると私の第二の人生が終わるのは目に見えてる。
「魔法使い自体が敵なんじゃないんだ。彼らは自分たちと同じ力を普通の人間が行使することに我慢ならないっていうだけの人だから。俺にとっての敵はそんな魔法使いを唆して開拓を止めた黒幕の悪魔がどっかにいるはずなんだ」
その悪い悪魔を見つけるのが片桐さんの目的かぁ。
大変だな。私も足手まといにならないように頑張らないと。
「わざわざ悪い悪魔を探すために入り込んだんですか?」
てっきり私はそう思ってた。
けれどそれは片桐さんによって否定される。
「違う違う。俺の口ぶりだと誤解させたかな。俺は元々『ここ』の保安要員さ。無事に開拓ができるように、手伝ったり見守ったりしてたんだ」
片桐さんの正体がまた謎の存在になってしまった。
いや、悪魔なんだけどね。
保安要員って誰かに派遣されたような口ぶりだし。
誰から派遣されたんだろ。
「そうですか」
「もしかして、疑ってる?」
「片桐さんが説明に困ってるという事はわかりました。そのことをミツやユキは?」
知ってるんですよね?
暗に問いかけた私に向かって片桐さんは頷く。
やっぱり知ってたんだ。
「いつから?」
「割と最初の方だったかなぁ。アカリさんより質問攻めにされた。あの二人は好奇心旺盛だなぁ」
それは同意する。
この世界の人間じゃないうえに、私より年下なのに魔砲の整備資格とか魔砲の免許とか持ってるんだもの。
ただそこにある物だけで暮らしていた私とは大違いだ。
「きっと私よりたくさんエネルギーを持ってるんですよ」
思えば私は自分から何かをしようと自発的に行動することは少なかった。
前世で熱意がなかったのは未来に希望が持てなかったからだ。
じゃあ今は? あの二人と私は何が違うんだろう。
思考がぐるぐると回転を始める。
「ははは……アカリさんって真面目な表情でそんな冗談言えるんだ」
冗談を言ったつもりではなかったんだけど。
「さて、質問タイムは終わりでいいかな? アレコレ聞かれると俺が混乱するから勘弁してもらえると嬉しいんだけど」
それは誤魔化しにつじつまが合わなくなるからでは?
そう指摘するだけのエネルギーは私にはないので、返答の代わりに話題を切り替える。
「あーあ……ひどくぶつけたから身体がおかしくなってないといいなぁ」
人間の時の名残で、大きく伸びをする。
機械の身体だし、生身の時と違って別に肩が凝ってるわけでもない。
ただ気分の問題だった。
「思ったんだけど、アカリさん」
「何ですか?」
「この際だから言ってしまうけど、敬語で話しかけられるとゾワッとするんだ」
片桐さんは寒い時に私たちがするように、両手でそれぞれ二の腕をさすっている。
ミツやユキが片桐さんとタメ口な理由がやっとわかった。
不思議に思ってたんだ。
年上相手に敬語じゃないのって。
私とは友達感覚なんだろうけど。
「わかった。これからは普通にしゃべるわ。これでいい? 片桐さん」
私が頷いて敬語を止めると、見るからにほっとした。
そんなに嫌だったんなら早く言えばいいのに。
でもほっとして肩の力を抜く片桐さんの様子がおかしくて、私は笑ってしまう。
こんなにおかしな気分は初めてのようで、久々なようで。
おかしな気持ちを抱えたまま私は片桐さんと帰路についた。