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片桐さんの真の力

 片手に魔砲をぶら下げて、現れた片桐さんは緊張もなく私に向けて言った。


「本物の悪魔相手によく持ちこたえたな」


 持ちこたえたって言うか、生きるか死ぬかがどうでもよかったので聞きたかったことを聞いただけだったんだけど。


「片桐、さん……」


 悪魔相手だと一発で弾薬を空にすると言っていたのを思い出す。

 正直不利だった。


「何だ。もう戻って来たのか、何でも屋。もっとゆっくり村人を探してもよかったのだぞ」


 悪魔が嫌な笑い方をして、片桐さんに声を掛ける。


「ゆっくりしていたら、その子が危ないからな」


 片桐さん、そうは言っても私はもう既に危ないんだけど。

 すぐ近くに悪魔がいて、私は悪魔の手の届くところにいる。

 これを危ないと言わずに何を危ないと言うんだろう。


「状況を見て言っておるのか? コレが何者かは知らんが、何でも屋の助手なのだろう?」


 悪魔が私の首根っこを押さえて引き寄せる。

 ほら、危ない状況だ。

 いつ身体が壊されてもおかしくない。


「この女の命が惜しければお前の身に着けてるその魔砲おもちゃを捨ててもらおうか」


 魔砲を捨てる事は、この状況では命を捨てるのと同じだと思う。


「かたぎり、さん……私のことはいいから……」


 まるで囚われのヒロインのようなセリフだと自分でも思う。

 だけど、この場ではこう言うしかなかった。


「そういうわけにもいかないんだ。君を見捨てたとなれば後悔することはわかりきってる」


 片桐さんはそう言って、まず魔眼鏡をむしり取って大地に落とす。

 何で魔砲じゃなくて、魔眼鏡の方を捨てたのかわからない。


「ほう……進んで魔力を見る玩具も捨てるか。良い心がけだ」


 それから片桐さんは持っていた魔砲を後ろへ投げ落とす。

 そういえば魔砲って衝撃で撃てなくなったりはしないんだろうか。


「さあ、覚悟してもらおうか」


 私の目は見る。

 悪魔の魔力が手に集束するのを。

 魔力の塊が手を振り上げた悪魔の周りに出現する。

 多分普通に見ても見えると思う。


「……片桐さん!」


 でも片桐さんは慌てていない。

 冷静に悪魔と向き合っている。

 そんな場合じゃないから逃げて。

 私はそう言いたいけれど、声に出せない。


「……あまり使いたくなかったんだけど、しょうがないな」


 命の危機にあるというのに、片桐さんはやれやれと肩をすくめてジャケットの中に手を入れた。

 すぐに引き抜いた手には小さな銃が握られていた。

 拳銃みたいなサイズだけど、あれも魔砲なの?

 っていうかちょっと前に話していた奥の手?


「そんな魔砲おもちゃで私をどうにかできると思っているのか!」


「俺はこれだけでお前をどうにかしようとは思ってない」


 そりゃそうだ。

 じゃあアレは何のために使うのか。

 私には見当もつかない。

 悪魔も様子見なのか、警戒しながらもまだ手は出さない。

 優位に立ってると言う自信からかな。

 片桐さんはその小さな魔砲の銃口をこめかみに当てた。

 ってあれ?


封印解除シール・リリース――撃て(ファイア)


 撃つ魔砲の種類を口にして、確かに引き金を片桐さんが引いた。

 魔力が銃口から片桐さんの頭を貫く。

 同時にガラスが割れるような甲高い音が響いたと同時に、私の目が信じられないものを見た。

 片桐さんの身体が魔力の塊に見える。


「え? 片桐さん……?」


「何だと!?」


 私が驚いたのと同時に、悪魔も驚いたみたいだ。

 そりゃそうだよね。

 唯の人間だと思っていた相手が同類だったんだもの。

 本当にどうなってるの?


「できるだけコレは使いたくなかったんだけどな」


 片桐さんは苦笑して投げ落とした魔砲を拾った。

 ――片桐さん、悪魔なら魔砲いらないんじゃないの?

 片桐さんはそんな私の疑問をよそに、カートリッジを抜いて仕舞い込む。


「馬鹿な……! 何故人間どもに味方をする! こいつらは我らが領域を侵す愚か者なのだぞ!」


 必死に訴えかける悪魔に魔砲の銃口を向けて、片桐さんは呆れたように言う。


「同胞なら知らないわけはないよな? この大地が誰の持ち物か。勝手に領域を侵してるのはどっちだと思ってるんだ」


 片桐さんの手から魔砲に魔力が流れ込むのが見えた。

 カートリッジを使っていた時よりも強大な力だ。

 はっきり言って私には状況が飲みこめていなかった。

 片桐さんが悪魔だっていう事もそうだけど、片桐さんの言い分だと悪魔が領域侵害してることになるんだけど、どういうことなの?


「ま、待て……!」


「待てない」


 短くそう言って片桐さんは引き金を引いた。

 今度は『撃て《ファイア》』の掛け声もない。

 無言で撃った魔力は真っ直ぐに悪魔を貫いた。

 あまりのその魔力の強さに、冗談でなく目が眩む。

 何もかもを白く塗りつぶす魔力にクラクラしながら、私は嵐が過ぎるのを待った。


「嗚呼……疲れた」


 魔力の奔流が収まると、そこには大地の抉れた痕しか残っていない。

 悪魔はそれこそ跡形もなく消えてしまったんだろう。


「アカリさん、無事か?」


「私は見ての通りだけど……片桐さんは、何者なんですか?」


 魔力の塊に見える片桐さんに聞く。

 少なくとも味方には違いないけれど、何で悪魔なのに魔砲使いで、何でも屋なんてやってるんだろう。


「俺? 俺は片桐悠介。今は何でも屋をやってる悪魔……じゃダメか?」


「ダメです」


 いくら私がただ流され続けていたからと言っても、これは流石に流せないよ。

 何のために何でも屋をやっているのかもそうだけど、魔砲使ってることも。


「うーん……説明はしてあげたいけど、それは全部あとでいいかな? 村人たちを救出しないと」


 片桐さんに言われて、私たちの当初の目的を思い出す。

 ああ、連絡取れなくなった村の調査をしに来たんだった。

 私はしぶしぶ頷いて、生命探知機能を起動させる。

 さっき壁に叩きつけられたことで、麻痺した機能も無事に動き出したみたい。

 探知に人間の反応が返る。

 それは距離からして村の外で、たくさんの人がそこにいる。


「村の外です」


 私は村人の居場所を片桐さんに告げた。

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