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探索

 村に入るまでは魔法使いにも、魔獣にも、もちろん悪魔にも出会うことなく順調だった。

 ただ、村に入ると私の探知範囲に気になる魔力が入って来た。


「片桐さん。あっちの方で魔力を感じます。流石にこの距離だと数はわかりませんけど」


「魔法使いたちはあっちにいるってことか。他に普通の人間の協力者もいるかもしれないな。よし、姿を隠そう」


 あっさり片桐さんはそう言うけれど、普通に考えたらそういう魔砲の使い方ってありなの?

 片桐さんは私との間に向けて引き金を引く。

 綺麗に突き刺さった魔砲の起点から、魔力が広がって私たちを覆い隠す。

 これ、向こうの魔法使いにはバレないのかな?


「これで、魔法使いはともかく一般の人間からは見えない」


 ああ、そう。そっちが目的だったのか。

 ようやく納得のいった私は片桐さんと共に慎重に足を進めた。

 村の中は不気味に静まり返っているように思える。

 実は私たちがいるのは隣の村なんかじゃなくて、別の所じゃないか。

 そんな疑念が私の中に湧き上がる。

 家の中に誰かがいるとしても、人がいるような感じじゃない。

 探知が出来ないのだ。


「人の探知はできないみたいです。これは、妨害されてるという事ですか?」


「うーん……それはまだわからない。こんな短時間に村の皆を殺して回るほど、魔法使いはヒマじゃないだろう」


 なら、妨害かな。

 確かに、魔法使いに対抗できる魔砲の使い手ならともかく、普通の住人たちをどうこうしてるはずはない、と思う。

 村の住人以外の気配もわからないんじゃ、確かに妨害と言えるけど。


「走り抜けますか?」


「いや、できるだけ偵察をしておきたい。向こうの戦力もわからないんだ」


 そう言って片桐さんはだんだん足をゆっくりと下ろしていく。

 なるべく音のしないように。

 そうすると村の中心の広場に、古めかしいローブに木の杖といういかにもな感じの魔法使いを数人発見した。

 この距離でも人間としての感知はできない。

 魔力を感じたのは、彼らが大きく描いた魔法陣を囲むように何かを唱えているからだった。


「あれは……」


「儀式魔法って奴か? 何でもああいった手間をかけることで、より大きな魔法を発動させるんだそうだけど」


 片桐さんってそういう知識、どこから手に入れてるのかな。

 やっぱ依頼関係?

 魔法使いを尋問した時もあったのかもしれない。

 仕事の話は、片桐さんと何もしていないので私は何も知らない。


「どうしたらいいですか?」


「何が発動するかわからないから、とりあえず終わる前に邪魔しよう」


 それでいいの?

 邪魔するって言っても、私はそんな魔砲の弾薬を持っていない。

 と、いうことは当然片桐さんが撃つことになる。

 片桐さんは自分の魔砲を取り出して構えた。


妨害ジャミング――撃て(ファイア)!」


 放たれた光は真っ直ぐ魔法陣に向かって飛んでいく。

 魔力を感じたのか魔法使いたちが振り返った。

 せっかく隠れてたのに、見つかってしまうよ。

 でも、わかってて撃ったんだよね?


「魔砲使い、だと?」


「どこから入った!」


「結界は……!」


 何だか慌ててるけど、結界なんてなかったよね。

 私たちと別の魔砲使いがいれば別だと思うけど。

 で、片桐さんはこれに対してどうするのかな?

 振り返った私は片桐さんの表情にギクッとした。

 怒ってる。何故か知らないけど怒ってる。


「かたぎり……さん?」


 ゴーグルの向こうに透けて見える目は怒りに燃えて、魔砲を握る手は震えていた。


「お前たち、村の人たちをどこへやった!」


 こんな乱入者の質問に敵が答えるわけない。

 魔法使いたちは杖を振り上げて、呪文を唱える。

 身体から杖に魔力が流れるのが私には見えた。

 片桐さんは魔砲を構えて撃つ姿勢だけど、多分もう十分な威力で撃てないと思う。

 だから私が代わりに魔砲を撃つ。

 装填されてるのは麻痺の弾薬。

 発動させるにはただ一言叫べばいい。


撃て(ファイア)!」


 飛び出すのは、片桐さんが撃った時とは違って、物理的な弾丸。

 その周りを魔力が取り巻いて、一直線に相手に向かう。

 それは直接相手に当たらなくていい。

 着弾した場所を中心に効力が発揮されるのだから。


「なっ……!」


 魔法使いたちが驚いた声を上げて倒れていく。

 着弾したところを中心に魔力が広がるのが見えた。

 麻痺の弾丸は、その効果通り敵を麻痺させたみたいだ。


「こんなのでも効くんですね」


 私はそのことにびっくりだ。

 てっきりよくても手足が麻痺するぐらいだと思ったんだけど。


「アカリさん。今日は君には何もさせないつもりだったんだけど、どうして撃ったんだい?」


 ちょっと落ち着きを取り戻したのか片桐さんが聞いてきた。

 どうしてって言われても。

 片桐さん気付いていなかったのかな?


「片桐さん、カートリッジの残量確認しました?」


「あ」


 気づいてなかったんだ。

 何でも屋の現場に出てたの片桐さん一人なんでしょ。

 一体今までどうやって仕事していたのか。


「――ごめん、アカリさん。助かった」


 これからも仕事の時はついて行こう。

 そうじゃないと片桐さんは弾薬の残りも考えないで魔砲を撃ちそうだもの。

 私はそんなことを考えながら、撃ちこんだ魔砲の効果が続いているうちに、魔法使いたちを引き裂いた布で縛り上げた。

 布は空いている家から調達した。

 家の中はやっぱり誰もいない。

 ごめんなさい、家主さん。恨むなら魔法使いを恨んでください。

 私がそうやって働いてる間に、片桐さんは魔砲のカートリッジを交換していた。

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