目覚めは襲撃と共に
まず最初に聞こえたのは、何かが破裂する音だった。
周りが暗い。でも、それは私が目を閉じてるせいで。
「どうした、ユキ! 起動は!」
「そう急かすなよ。起動したって、正常に動くようになるまで時間が掛かるんだぞ」
若い声が近くで怒鳴りあうのが聞こえた。
何が起きたんだろう。私が死んだことは間違いないのに。
ふと、死んだと認識してから意識が途切れるまでの事を思い出した。
死神だと思ったあの声。
人生をやり直す。
別の世界で。
あれが嘘ではないのだとしたら。
私は今生まれ変わったということなの?
「頼むから持ちこたえてくれよ!」
ユキと呼ばれた声が祈るように叫ぶ。
身体が揺れるのは何だろう。
身体じゃなくて、私が寝ている床だか何だかが揺れている。
目はまだ開かない。
「防壁――撃て!」
もう一人の声が離れた場所でそう叫ぶのが聞こえた。
何だか呪文みたい、とおかしくなる。
と、考えていたら突然私の目が開いた。
「あ、よかった。動ける?」
目が開くと天井が見えた。
私の知ってる蛍光灯の天井じゃない。
それと、青いつなぎの若い人が私の顔を覗き込んでいる。
黒い髪に、黒い目。
私が生きている間に出会ったことのありそうな東洋人顔。
歳は私と同じか、何歳か年下ってぐらいだと思う。
別の世界っていうのは死にかけた私の夢で、ここも私の夢なんじゃないの。
「なに、これ……」
一体どうなっているというの。
声を出してみたものの、何かがおかしい。
声を出した実感がない。
私は確かに声を出して、自分の耳でも聞こえたのに。
「状況を説明してる時間はないんだけど、ちょっと手伝ってくれないかな」
申し訳なさそうにその人は言う。
でも手伝わせるぐらいなら状況の説明をしてほしい。
起き上がろうと思えば、普通に起き上れた。
それでも、違和感がつきまとう。
少し離れたところの窓で、もう一人若い人が銃を構えている。
やっぱり歳は近くの人と同じぐらい。
構えている物は銃って言っても形が似てるからそう判断したけど、私が知っている物とは違う。
私の記憶の中で、一番似てる物を上げるとしたら、アニメやマンガで見た光線銃だ。
「えっと……」
もう一つ、銃を構える人はゴーグルのような物をつけている。
何だか私がSFの世界に紛れ込んだ気になってきた。
「何と、戦ってるの?」
何故、とか考える余裕はなかった。
私の記憶は何も知らないのに、知識が突然流れ込んできた。
ここは戦わなくては生きていけない世界なんだ。
返って来た答えは、私が思っている以上に突拍子もなかった。
「魔法使い」
ドーン、とひときわ大きな音がする。
びりびりと私が乗っている台が揺れた。
さっきから揺れてるのはこのせいだったの。
「それで、何で応戦してるの。銃に見えるけど」
「あ、やっぱり君も銃だと思った?」
君も、ってことは他に誰かあれを銃だと思ったのね。
私はあれが何か知らないのに、使い方は知っている。
まるで誰かの身体を乗っ取ったみたいで、ちょっと気持ち悪い。
「でも戦い方は入力してあるから大丈夫だよ。さて、コードを外すから、ちょっと待っててね」
コード?
戦い方を入力してるなんて、まるで私が機械のよう。
不思議に思って身体を見下ろすと、あちこちに接続端子があって、コードと繋がっている。
ユキと呼ばれていたその人は、私の身体からコードを取り外していく。
生まれ変わった先はロボットなの?
でも、それだとつじつまが合う。
この人の言動も、私の違和感の答えも。この身体が人間ではないのだから。
正直、ここで応戦している人に加勢しないといけない理由はない。
私は一度死んだ人間だし、状況がわからない以上、この二人がいい人じゃないかもしれない。
それでも、無意識に銃を取ったのはきっと私を起こした人たちから説明を受けたかったからだ。
「後できちんと説明して」
そして私は銃を取り、窓際で応戦しているその人に近づいた。
「よかった。――頼む」
私を見て、ほっとしたように身を引いた。
当たり前のように私が戦うと思っている、その態度に腹が立つ。
でも、ここは私が向いてると知識が告げる。
開いた窓から外を見ると、古風なマントにトンガリ帽、木の杖を持った人が二人、この家に向かって杖を振り上げていた。
そこにいたのは私の思ってた魔法使いのイメージと同じだ。
やっぱり変なところに来てしまったかな。
なんてことを考えながら、私は手にした銃を構えた。
ゲームセンターのシューティングゲームで使うぐらいの大きさの銃。
使い方はわかっている。
私の知らない知識が、身体に使い方を教える。
「電光――撃て」
銃の先から光が走る。
魔法が銃の先から出るものだと思ったけれど、違う。
その光が地面に触れると、そこを中心に電光がバチバチと空気を切り裂く音を出した。
それは直接魔法使いに当たらなかったけれど、驚いだのか二人は逃げてくれた。
「ああ、よかった。間に合わないかと思った」
窓際でゴーグルを掛けた人が言う。
近くで見れば、その人は明るい茶髪だ。
部屋の中を見回すと、私が乗っていた台は作業机のようだった。
近くにパソコンみたいな機械もある。
と、いう事はやっぱりこの身体はロボットなんだろう。
「……私、まだよく状況が飲みこめてないんだけど。説明してくれる?」