表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/24

森の異変の調査依頼

「いやぁ、いい天気だなぁ」


「能天気に現実逃避するな。ピクニックじゃないんだぜ」


 森の中からぽっかりと見える青空を仰いで、片桐さんはほうっとため息を吐いた。

 ランドルさんはぼやくように叱咤する。

 私たちの周りには倒れた木が何本も連なり、それだけで道が出来たようだ。

 地面は踏み荒らされ、折れた木の根元も見事に掘り返されている。


「明らかに作為的すぎるだろ! いくらなんでも! 魔獣の大移動なんて!」


 私たちは突如起きた魔獣の大移動という事件を調べに森の奥にやって来た。

 私たちというのは片桐さんとランドルさんと私と、私が捕獲テイムした狼である。

 ユキとミツは何か楽しげに話をして魔砲の改造をしていたので置いて来た。

 さて、森を通す新たな道の整備中に突然魔獣の集団が横切って踏み荒らされたという話だったけど。

 思ったより、これは酷い。


「こんなこと自然に起きるんですか?」


「いや? 魔獣は操られて集団行動させられたと思うんだが……」


 魔法使いにこんな高度な術は使えないという。

 捕獲テイムと同等の魔法はあるが、魔獣を集団行動させられるというわけではない。

 私の狼だって、集団行動はさせられるがボスを捕獲テイムしているからであって、ボスの意向に沿わなければ言うことなど聞かせられない。


「悪魔が関わってるのは間違いないが、痕跡がないし目的もわからん。カタギリ、そっちはどうだ?」


 ランドルさんが視線を向けると、片桐さんは相変わらずのんびりと青空を見上げている。

 何だか最近片桐さんが疲れているのは知っていた。

 けれどこんなに現実逃避するほどだったなんて……。

 私が呆然とする隣でランドルさんは困ったように頬を掻いていた。

 なんだか片桐さんがそうなることを予想していたようで。


「おい、カタギリ。人が増えた村がお前にとって疲れるのはわかるが、そろそろシャンとしろ。仕事だぜ?」


「ん? ああ……そうだね。それで、俺は何をしろって? お前の感知能力を今の俺が上回るはずないんだけど」


 今は人間の片桐さんは魔砲に頼らないと力も使えない。

 悪魔なランドルさんは、片桐さんに示唆していた。

 封印を解くように、と。


「えー? 緊急事態じゃないと解きたくない」


 でも片桐さんは封印を解くのは嫌そう。

 確かに最初に解いた時も緊急事態だったけど。

 人間に溶け込む為に悪魔の力は封印していると思っていた。

 でも、もし違う理由があるのだとしたら。


「そんな事言うなよ。生きた悪意探知機なんだから、お前は」


「だから嫌なんだ。本当に『悪意』があったら森に申し訳ないだろ」


「大丈夫だって。この周囲に人間も悪魔もいない。俺たちだけだ。お前の心配することはないから、この痕跡に『悪意』を感じるかだけを教えてくれればいいさ」


 私には意味の分からない会話だった。

 とにかくランドルさんは片桐さんの封印を解きたいらしい。

 片桐さんは渋い顔で黙っている。


「このままじゃ開拓村にいつこの力が向けられるかわからない。違うか?」


 ランドルさんの言葉に、仕方なさそうに片桐さんは懐に手を伸ばし、小さな魔砲を取りだした。

 片桐さんを人間から悪魔に変える術式である魔砲。

 片桐さんが躊躇わずに自分を撃つと、前見た通りに片桐さんが変わる。

 見た目は全く変わらないのに、私の目には違って見える。

 魔力の塊。透き通った蒼い、綺麗な色だった。

 そういえば、ランドルさんとは見え方が違う。

 ランドルさんの魔力の色は、豪快な橙色。


「パッと見た感じ何も感じない」


 片桐さんは周囲を見回してランドルさんに告げる。

 私の目から見ても、魔力の痕跡も見当たらない。

 でも、ランドルさんはきっと何かがあると確信しているようで。


「もっとよく集中して見てくれよ。ほんのちょっとだけかもしれねぇし」


「あんまり集中したくないんだけどなぁ」


 片桐さんはぼやいて、目を閉じた。

 すると片桐さんの魔力の色が変わる。

 蒼が深く、濃く、澄み渡るように足元から周囲に染み出す。

 すると、触れた部分が変色した。

 蒼から紫へと。


「え?」


「うわっ……ヤな感じ……」


 私がびっくりして声を上げるのと、片桐さんが声を出すのが重なった。

 片桐さんの方を見ると、またびっくりしてしまった。

 片桐さんの魔力の色に、別の色が混ざり込んでる。

 というか、目がほんのり赤いような……。


「うまい具合に感知できたじゃねぇか。方角は?」


「あっち」


 嫌そうに片桐さんは指を向ける。


「もういいだろ、戻っても」


「いいや。元まで行かないと調査とは言えないだろ?」


「うええ……」


 片桐さんは苦虫をかみつぶしたような顔でランドルさんの答えを聞いていた。


「ほらほら、お前に大好きな平穏の為だ。()()()()()()()? お嬢ちゃんもいるんだから」


 何だか含みを持たせるような言い方だ。

 一体片桐さんは何を堪えるんだろう。

 気分が悪そうだから、そのことだろうか。


「仕方ない……移動するよ。アカリさん、加速アクセルできる?」


「えっと……たぶん、できる」


「俺たちの方が早いと思うけど、魔力を追ってきて」


 片桐さんの言葉に頷くと、片桐さんはこの先の行動について言ってくる。


「片桐さんは何を追うの?」


 片桐さんが指した方角に何があるのか。

 それを私は知らない。

 片桐さんは少し困ったように笑う。

 どこか弱々しいと思うのは気のせいだろうか。


「この先に何があるかは俺にもわからない。確実にあるのは『悪意のある』何かだ。それじゃあ、追ってきて」


 そう言うと片桐さんは走る。飛ぶような速さで目の前から消えていく。

 でも私の目には明るい目印として彼の魔力が見える。


「んじゃ、俺もあいつを追うから」


 ランドルさんも言葉を残して片桐さんを追いかける。

 片桐さんに負けない早さだった。

 私も置いて行かれないように加速アクセルの魔砲を使い、片桐さんを追いかけたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ