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ルキさん登場

 その人がやって来たのは、私が何回か片桐さんの助手として仕事に付き合い始めた頃だった。


「こんにちは。片桐さんはいるかしら?」


 この時に片桐さんは不在。

 私がその客人を見て連想したのはウェスタンガールだ。

 革のジャケットに、似た色のスカート。

 これまた同じような感じのロングブーツ。

 帽子もあれば完璧だった。

 ついでに腰のベルトには魔砲が吊るされている。

 艶やかな黒い髪がさらりと揺れる。

 片桐さんの知り合いの魔砲使いかな? とだけ、その時は思った。


「こんにちは。片桐さんは今出かけています。何かご用ですか?」


「あら残念。お仕事?」


 仕事なのかどうなのか、私は知らない。

 ユキやミツを私の代わりに連れて行ったので、多分弾薬とか材料の調達だと思うのだけど。


「多分、そうです。片桐さんの知り合いの人ですか?」


「ええ。片桐さんに呼ばれてきたのよ。隣の村が魔法使いに襲われて、魔砲使いがいなくなったって聞いてね」


 やっぱり片桐さんの知り合いだったみたい。

 魔法使いと悪魔のせいで、魔砲使いがいなくなった隣の村の為に、呼んだのがこの女の人、ということなの?

 片桐さんの知り合いってことは、もしかしたら普通の人間じゃないのかもしれないけど。


「ところで、貴方は? 前に来た時は男の子が二人いたと思うのだけれど」


「私は片桐さんの補佐の為に造られたアンドロイドで、森山朱里と言います」


「あら、アカリちゃんって言うのね。可愛らしいお名前だこと」


 意外そうにこのお姉さんは私を見て驚いている。

 もしかして、ミツやユキが私の名をつけたと思ってるんだろうか。

 たぶんそういうことにしといたほうがよさそうだ。

 詳しく説明するとややこしいことになる。

 頭のどこかでそんな風に考えた。


「ありがとうございます。お姉さんの名前も教えてください」

「いいわよ。私は椎名ルキ。ルキって呼んでちょうだいね」


 これも片桐さんと同じく偽名なんだろうか。

 名前の響きだけでは、日本人か、両親のどちらかが外国人みたいな感じだと思う。

 顔だちは片桐さんと似たような系統で、日本人としては違和感がある。

 他にもプロポーションが抜群で、私でも羨ましくなりそうな身体の凹凸があった。

 何を食べたらそこまで成長するのか是非とも教えてほしい。

 いや、でもルキさんは片桐さんの同類なのかもしれなくて。

 え? それって抜群のプロポーションは種族の違いがあるかもってことで。

 いや、深くは考えないでおこう。


「はい、ルキさん。片桐さんが帰ってくるまで待ちますか?」


「うーん……そうね。待たせてもらうわ」


 私はルキさんを居間に通して、お茶の準備をする。

 元の世界だったら何か一緒にお菓子を用意したいところだけど、ここには見事に何もない。

 私はアンドロイドだから、何も食べない。

 そのため、お菓子らしいお菓子なんてなかった。

 料理の仕方も実は知らない。興味を持たなかった。

 それが人生に行き詰った私だった。




 片桐さんが帰って来たのは、ルキさんを通して数十分後の事だった。


「げ……椎名さん……何でここに……?」


 ルキさんの顔を見て片桐さんの顔が引きつる。

 何だか仲が悪いのかな?


「あら、つれないわね。ルキさんって呼んでくれてもいいのよ」


 と、思ったけどルキさんは積極的に片桐さんに絡みにいってる。

 立ち上がって片桐さんに近づいたかと思うと、腕に抱きつく。


 うわぁ……大胆。


 まるで恋人にするみたい。

 てっきり片桐さんは照れるか慌てるかと思ったのだけど、片桐さんの反応は少し違っていた。

 あくまでも迷惑そうに腕を振り払った。


 えー? うっそー……。


 私はちょっとびっくりした。

 あんな美人に抱きつかれて、照れたりしないなんて。

 何か病気なんじゃないだろうか。

 真面目に心配してしまう。


「ルキさん、そういう冗談は俺にはわからないから止めてくれって言ってるじゃないか」


「そういう片桐さんの鈍い所、私は好きよ」


 それを『鈍い』で済ませるには無理があると思う。

 私は疑問に思いながら、ミツとユキに視線を向ける。

 何か問いかけたかったわけじゃないんだけど、ミツは私と目が合うと肩をすくめて首を振った。

 片桐さんとルキさんのやりとりはいつもの事、ということかな。


「だから、冗談でもそう言うのやめてくれって。俺には理解できない事なんだから」


 さっきから片桐さんの言ってる意味が分からない。

 からかわれて照れてるとか、そういう問題じゃない。

 本当に困ってる。理解できないって、一体何が?


「ここで照れるとかしてくれたら、私ももうちょっと考えるんだけど」


「――婚約者のいる身で俺に絡むのはどうかと思うぞ」

「あの人は照れて手も握ってくれないんだから。ま、そこが可愛いんだけど」


 なんと、ルキさんには婚約者がいるようだ。そりゃそうだ。妙齢の美女なんだから。

 でも、片桐さんに絡むのは何でなんだろう。


「ところで、ルキさん。さっさと用件に入ってほしいんだけど」


「そうだったわね。あまりにも片桐さんの反応が面白くて」


 あの反応を面白いと評するルキさんの方がよっぽど面白い。

 普通は機嫌を損ねるところだと思うの。付き合いはそれなりに長そう。

 ということはやっぱりルキさんの正体も悪魔?

 ぐるぐると私が考えている間にルキさんは本題に入った。


「はいはい、片桐さんが私を呼んだのでしょう? 隣村の魔砲使いのことよね?」


「そうだけど。そうなんだけど……」


 片桐さんが歯切れ悪い。

 よっぽど言いにくいことなのだろうか。


「隣町に新しい魔砲使いが必要なんだけど、俺が知る限り信頼できる魔砲使いって悲しいことに椎名さんしかいなかったんだよな」


 どこか悔しそうに片桐さんはそう言った。

 ルキさんをめっちゃ信頼している。

 片桐さんがそう思ってるのなら、信頼できるのだろう。

 うん。ルキさんは悪魔。

 私の中では結論が出てしまった。


「ふふっ……言ってくれるじゃない? いいわ。私が隣村の警備担当してあげるわ」


 代わりに、とルキさんは言葉を続ける。


「隣村へは貴方の可愛らしい助手さんと一緒に行くわよ」


 ……はい?

 今何とおっしゃいました?

 私と一緒に? 何故に? どうして?

 道案内なら片桐さんにでも連れて行って貰えばいいのに。


「私と……?」


 自然と声が零れ落ちる。


「そうよ。片桐さんの助手ならとても長い付き合いになるかもしれないじゃない? 今のうちに親睦を深めておきたいの」


 よくわからないけれど、そういうものか。

 私は何となく納得して頷いていた。


「片桐さんもいいわね?」


 片桐さんは答えない。ただ、表情は渋そうだった。

 そんなに私が送っていくのってダメなんだろうか?


「アカリさんがいないと、うかつに外出できないんだけど」


 まあ、ミツとユキだけじゃ魔法使いが攻めてきたら危ない。

 ここで目覚めた時の事を思い出すと、確かにそうなのだけど。

 依頼も頻繁に入ってくるわけでもないのでいいんじゃないだろうか。


「あら? 隣の村までの往復よ? 魔砲で強化すればあっという間じゃない」


 ふふっとルキさんは意味ありげに笑った。

 ちらりと片桐さんを上目遣いに見る。

 傍で見る私の方が何だかドキドキしてきちゃう。

 それなのに片桐さんってば無反応なのだ。


「本当に、隣の村までだったらね。まぁ……反対しても椎名さんを止める事は出来なさそうだ」


 しぶしぶと諦めたように片桐さんは許可を出したのだった。

 ルキさんと外出決定。

 隣村までだけれど、よろしくお願いします。

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