人生の終わりと始まり
私は死んだ。
それは間違えようのない事だった。
今、私が認識できるのはそれだけだ。
振り返る人生はとても味気ない物だった。
何故なら私には夢もなく、目標もなく、ただ流されて生きていたから。
皆がそうするから進学して、就職しようとして、挫折した。
熱意も何もない人間を雇ってくれる会社などありはしない。
そんな私に未来などなく、幸せなんて今あるものだけで十分だった。
私が死んだのは奇跡的に最終面接まで通り、その最終結果が返って来た日の事だ。
結果は最終面接にして不採用。
何でだろう。不思議に思う。
やはり熱意がないのが向こうに伝わってしまったのか。
私はぐるぐるとわけのわからない感情を抱きしめた。
何故熱意が持てないのか。
――未来に希望が持てないからだ。
就職できたところで、いつまでその会社に置いてもらえるか先は不透明だ。
母さんはパートを転々として、父さんは会社の業績が悪く給料が下がったという。
本当につまらない人生だった。
でも。
私は思う。
もっと希望の持てる未来が見えたら、私は必死にそれを掴もうとしただろうか、と。
『さてさて、困ったな。迷い人にしてはずいぶんと感情の薄い奴だ』
どこからか声がした。
死んだと確信している私に話しかけてくる誰かがいる。
だけど周りは暗闇で何も見えない。
死んだのだから、何かが見えるはずはないのだけれども。
『――ああ、お前にはこっちの姿は見えないだろうな。だけど、もうちょっと驚いてくれてもいいんじゃないか?』
考えてみれば私も周りには感情が薄い変な子だって言われてきた。
そんなに変なのだろうか。
この声の相手は私が驚いてくれないことが不満だったようだ。
『てっきり死んだことを認められずに、泣いたり喚いたりするのかと思ったのにな。まだ若いのにな』
若さなんか関係ないじゃないか。
未来に希望がなかったのは変わらないし、生きる目的もなかった。
死ぬ時に生きてきた意味が分かると言ったのは誰だったのか。
そんなの、私が死ぬときでもわからなかったもの。
『まあ、感情が薄い奴の方が都合がいいか』
何だろう。
声の主は勝手に納得してしまった。
これは死神の声なのか。
私を迎えに来て、どこかへ連れ去って行くと言うのか。
『さてと、お前。人生をやり直せるとしたら、どうする? それも、別の世界でだ』
別の世界?
人生をやり直す?
何だか小説の中の話みたい。
でも、死んだ後にならそんな馬鹿な夢を見てみるのもいいかもしれない。
そこでなら、私は未来に希望が持てるのかもしれない。
「――」
私は返答をした、と思う。
実際に声に出したわけではないのだけど、伝わっただろう。
『よーし。じゃあ俺が連れて行ってやろう』
声が言うのと同時に私の周りに光が溢れた。
急に眩しくなって目を閉じる一瞬に黒い人影が見えた気がした。
意識が途切れる最後に私は思い出した。
私が未来に希望を持たなくなった理由を。
小さい頃、女の子向けの変身ヒロインものに憧れていた時。
ヒロインみたいになりたいと言った私に母さんが言ったのだ。
『そんなの、現実にいるわけないじゃない』
と、夢を砕く一言を。
――コマンド、入力。システムを起動します――