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1-5

遅れました

 境内の掃除っていうのは意外と落ち葉掃き位しか仕事がない。


 境内りに固まっている落ち葉を、箒で中心あたりに寄せ集めるだけの作業。秋にはあれだけ鮮やかに神社を彩っていた紅葉は、冬になると色を失って落ちてゆく。あんなに赤かった境内は、今では廃れた神社のようでしかない。だけど、四季というのはそういうものだ。


 それにしても、寒い。服装の所為でもあるだろうが、やはり冬だからだろうか、朝方はひどく冷え込んでいる。白い小袖は割と風を通すので、夏場はもってこいなのだが、こういった冬の日は少しきつい。マフラー位は巻いて来るんだったか。


 数分もすると、落ち葉が大分溜まってきたので境内の中心あたりに纏める。少し野山ができるくらいに集まった落ち葉の山の中に、今し方とってきた新聞紙を丸めてポイ。がしゃ、と落ち葉と新聞紙が擦れて嫌な音を立てる。


「燃点」


 新聞紙に向かって言い放つと、新聞紙を起点として炎が点いた。そのまま炎は燃え広がって、黒い煙を立て始める。ううむ、ここが山の中でよかった。周りに民家とかがあると近所迷惑になるから、こういった山場でしかできないんだよな。


 焚き火の前にしゃがみ込み、両手をかざす。両手に熱が伝わって、体が次第に暖かくなってきた。そういえば、あの日もこんな風に落ち葉でたき火をしていたかなぁ。あの時は、とても寒かったことを覚えている。それで、母さんが俺を温めてくれて―――


 びゅぅ、と不自然に風が吹き抜けた。


 風のせいで、落ち葉がほとんど飛んでいき、燃えカスが宙を舞う。一瞬、山火事になりそうかなと思ったが火はほとんど消えているようで、何も心配はいらなかった。急いで再び落ち葉を集め、再度同じ手順で火を灯す。


 まったく、さっき集めた努力が無駄じゃないか。内心で愚痴を吐きながらも、再度焚き火に手をかざすと、さっきと同じように手が温かみを帯びてきた。にぎにぎと手の運動を繰り返しているうちに、体の方も温かくなってくる。


「……何やってんだろな、俺」


 何時の間にか燃え尽きていた落ち葉の屑が、酷く悲しく見えたような気がする。


 ~ ~ ~ 


「ご主人様、何やってたんですか?」


 母屋の方に戻ると、いつの間にか起きていた詩織ちゃんが出迎えてくれた。どうやら、急にいなくなった俺の事を探していたらしい。頭をなでながら体の調子は如何だ? と聞くと、まだ青白さが残る顔で「大丈夫です」と答えてきた。


 どうやらさっきよりは血色が良いようで、調子も戻ってきているらしい。それならよし、と頷きながら返して箒を仕舞うために奥へと進むと、詩織ちゃんは後ろからついて来る。


 玄関を抜けて、そのまままっすぐ進む。突き当りで右に曲がると裏口があり、その裏口を開けて数歩先に倉庫。ガラリと古ぼけた音のする戸を開けて、手に持った箒を簡易に作った箒入れに投げ込むと、甲高い音を立てた。


 再び戸にを閉めて後ろを振り向くと。詩織ちゃんが立ってこちらを見ている


「なんで着いて来るし」


「え? あ、ごめんなさい!」


 呟いてみると、詩織ちゃんは慌ててお辞儀をした。いや、そうじゃなくて。


「……頭、上げてさ。なんでついて来るかだけ」


 面倒だ、と内心で愚痴を吐きながらも言うと、詩織ちゃんは頭を上げて申し訳なさそうに言った。


「私は奴隷なんです。ですから、ご主人様にいつでも尽くせるようにこうしてるんです」


 お気に触ったらすいません、と詩織ちゃんは再びお辞儀をした。


 ……こりゃ重症か?


 さっきあんなに心配するな、とか言って奴隷じゃない事を示そうと思ったのに、未だにそんなことを言い続ける。幼いからも有るだろうが、大抵はそれくらい理解できるだろう。


 いや、そもそも自分が『奴隷以外の身分になる』と言う事すら考えられない頭なのか? そう調教されたのだろうか? 生まれも育ちも知らないが、もしそうなのならばさっきあんなことを言っても俺は『只の優しい主人』程度の感覚なのだろうか。


 そうだったらさっきのは無意味なのか。そう思うとさっき格好をつけたのが酷く哀れに思えて、一つ溜息を吐いた。そのまま母屋の方へ戻って行くと、俺の後ろの詩織ちゃんが、ひょこひょこと小さい足取りでついて来た。



 ~ ~ ~ 



「昼ごはんです」


 と呟きながら、朝作った味噌汁の残りを詩織ちゃんを挟んだ卓袱台に配膳する。


 味噌汁はすっかり冷めてしまっていて、ただの冷たい飲み物になっているが詩織ちゃんにとっては御馳走なのだろうか、キラキラとした目で味噌汁の入った器を眺めている。当然俺はこんな飯腹の足しにもならないので一気に飲み干して「ごちそうさまでした」と昼食を終わらせた。この時間、6秒である。


 早々に昼食を終わらせて詩織ちゃんを待っていると、こちらの視線に気が付いたのか慌てて器を以て飲み始めた。しかし、朝飲んだとはいえ慣れない飲み物に手こずっているらしく、旗から見たらゆっくりと飲んでいる様にしか見えない。暫くして飲み干した後に、詩織ちゃんは行き成り咳き込み始めた。慌てて詩織ちゃんから器を受け取り、背中を摩る。


「すみません、せっかくご主人様が作ってくれたものなのに」


 一通り咳をして落ち着いた後に、詩織ちゃんは申し訳なさそうに言った。


「仕方無いだろ。まだ食生活が整ってないんだから」


 そういうと、詩織ちゃんは顔を俯かせて再び「すいません」と小さな声で呟いた。これじゃぁ何時まで経っても埒が明かないので、溜息を一つ吐いて器を二つ、台所へ持って行く。器を簡単に洗い、逆さに干して居間に戻ると、詩織ちゃんはまだ俯いたままだった。


 声をかけると、詩織ちゃんがはっとした顔でこちらを向いた。心なしか、目が赤くなっているような気がする。まさかそんなことで泣いたのか、と思うがどうやらその様らしい。こんなことで泣くなんて、と内心で愚痴を吐くが、それを押し殺して詩織ちゃんの頭に手をぽんと乗せる。


「こんなことで泣くなよ。あれくらいいつでも作れるから」


 そう声をかけると、詩織ちゃんはまた「すいません」と呟いた。


「取り敢えず、数日間は詩織ちゃんの生活リズムを整えないとな……」


 昨日今日でわかったが、詩織ちゃんが調教されてきた頃はマトモな食事を摂っていないらしい。今朝の味噌汁でこんなに咳き込むのだから、おそらく長い間にわたって摂れる水分も限定されてきたんだろう。となると、食事も限られてくるのか。


 しかし、味噌汁だけで咳き込むなんて詩織ちゃんの食生活はどうなってんだ。その事が少し気になり、頭をなでられて少し嬉しそうにしている詩織ちゃんに訊いてみると。


「ええと、前のご主人様から貰ったのはぱんと、お水と、あと……白い飲み物です」


 訊くんじゃなかった、こんちくしょう。



 ~ ~ ~ 



 午後は外で食糧の買い出し。そう決め、外用の服に着替えて母屋を出る。


 詩織ちゃんは睡眠もあまり摂って無かったようで、味噌汁で僅かな栄養分を取った後にそれを何とかしようとする体が眠気を誘い、たちまち眠ってしまった。しかし、体がそうしているのだから詩織ちゃんにとっては健康なことなのだろう。そうすれば、詩織ちゃんの為にもなるし。


 神社に有る食料も丁度底を尽きそうなので、この機に一気に買い溜めておこう。そう決めて長い石段を下り、山道を下りること20分。更に山の辺ぽな所に有るので10分歩いたのちに、若干田舎っぽい商店街へと辿り着いた。


 日は少し傾いて商店街にもまだ夕暮れのような活気は無い。夕暮れ時には何時もの様に活気付いて食糧を買うのが困難になるため、こっちの方が良いと言えばいい方か。そんなことを考えながら、シャッターがちらほらしまっている商店街の中を歩く。


 八百屋、魚屋と回って行き、順々に食料は買い集まった。これで今週一杯は生きられるだろう。詩織ちゃんの分も別に買ったので金銭が圧迫されるが、致し方ない物か。今考えると本当にあの判断でよかったのだろうかと疑問を持つ程である。


 と言う訳で、そろそろ帰宅しようと思って帰路に着いていると、ふと通りかかった路地裏で人影が見えた。興味半分で除いてみると、体格の良い男が二人、もう一人は男か女かは分からないが、囲んで何か言っているようだった。平日の昼間なのだし、不良に絡まれたんだろう。今はそっとして面倒事に巻き込まれる前に逃げておこうか。


 と少し思考していると男の片方がこっちに気づいたらしく、不機嫌な顔をしてこちらにずかずかと歩み寄って来た。うわ、面倒なと内心で愚痴を吐きながらも囲まれている方の人物……とある女性を見て俺は戦慄した。


 黒く、艶のかかった髪は腰あたりまで届いている。整った顔つきに、こちらをに睨んで殺せそうな程に鋭い目。その目がこっちを向いた瞬間、俺は思わず「うげ」と声を上げてしまった。そんな俺に気が付いたのか、もう一人はこちらを向いた。


「なんだ、そのガキ。さっさと追っ払っちまえよ」


 今すぐにでもそうしたい気分である。しかし、もう一人の方は気が付いていないのだろうか。その女性が俺を殺そうとばかりに睨んで居るということを。


 ヤバイ。ここで無視したら殺される。不良どもに絡まれるとはまた別の、捕まったら逃げられないという恐怖感が全身を蝕んだ。まだ女性は一言も言葉を発していない。それが逆に怖い。超怖い。腋汗がすごい。


 怒鳴り散らしてくる不良が見えず、ぎゃぁぎゃぁ喚いているのを無視していると、突然胸倉辺りをつかまれた。それで気が付き、思わず手を上げて無抵抗を示すも、不良たちはそれを無視する様子。あ、ヤバイこれと思った瞬間、その女性は口を開いた。


「……詠永。助けてくれないか?」



 ――遅れたが、紹介しよう。


 この女性の名は、叢月詩奈と言う。年齢は17歳。俺と同じで、体格はおれより少し小さいくらい。胸は大きい方で、街を歩いていれば10人中8人は振り向くであろう。それほどの美貌を持つ。性格は男勝りで、俺に対してやけに強気な面がある。そして、何よりも特徴的なのが……



 ……こいつも巫女だということだ。


















更新遅れてすみません。

これからも大体遅れるかもしれませんが、お付き合いの程、よろしくお願いします。

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