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1-4

後輩にどれみこはよと言われました

【1】


 寝たまま意識が覚醒し、ゆっくりと瞼を開く。

 

 見えるのは、古ぼけて色が薄れてきた天井。所々に染みが入っていて、より一層年季を感じさせる。


 上体を起こして、座ったままで伸び。そのまま首を鳴らして、目を覚ます。瞼を二、三回閉じたり開いたりするも、眠気は取れずについつい擦ってしまう。

 

 そういえば、今日は学校を休むんだった。そうと決まれば話は早い。携帯で早々に電話を掛け、先生に申し訳ないと思いながらも欠席することを伝え、そのまま布団でグットナイト。


 完璧じゃないかと自画自賛し、携帯を探そうとして横に目をやる。


「んむ……」


 色々とアウトな詩織ちゃんが寝てた。


 巫女服をはだけさせ、見えるか見えないか際どい所で踏みとどまっている布切れ。下着はさも当然の事か付けていないようで、一つ寝返りを打てばその未発達の胸が露わになる、というホントにギリギリの状態であった。


 何とか理性を保ち、男子の朝のアレ以外の衝動を抑えながらも、詩織ちゃんの上、布団から離れたところの無造作に放り出されている携帯電話を取ろうと手を伸ばす。


 しかし、妙に距離が有る所為で中々に取れない。ぷるぷると震える手で何とか取ろうと思うが、一向に手が携帯に届く気配は無い。


 仕方なく、少し詩織ちゃんに覆いかぶさるように手を伸ばす。それでもギリギリで、指先が携帯の端に当たるだけ。何回か携帯を引き寄せ、何とかとれる所まで来たのでそのまま掴みとる。 


 掴んだまま寝た場所に戻ろうとしたときに。


「………」


 詩織ちゃんと目があった。


 さて、ここで今の俺の状況を確認してみよう。


 携帯をとろうとして、それが届かなくて詩織ちゃんに追いかぶさるような形で何とかゲット。しかし耐性はそのままで、詩織ちゃんと目が合った。これを詩織ちゃん目線から見たらどうなるだろうか。


 はい、朝から幼い少女に覆いかぶさっている思春期青少年の出来上がり。


 冷や汗をかきながら何とかして良い訳を考えているも、詩織ちゃんはコチラを赤面しながら見ている。いや、違うって。だからその視線を今すぐ止めろって。


「……いや、流石に朝からはちょっと体力の問題が……」


「違うから、ホント」


 ある意味予想通りな発言をしてきた詩織ちゃんに対し、手を振って否定する。朝からそんな品の無い言葉を使うんじゃありません。お兄さん泣いちゃうよ。



 ……詩織ちゃんの視線が痛い。


 とにかくだ。詩織ちゃんは取り敢えず布団で放置させておこう。勝手に動かれても困るし、何より面倒臭い事になったらのことも考えた方が良いし。


 布団から這い出て、朝の用足しついでに登録しておいた学校の番号へと電話を掛ける。三回位耳元でコールが成った後に、ガチャリと言う音と共に声が聞こえて来た。


『はい、こちら公立凌陽学園 』


 低い男の声。ああ、またいつもの担任かと嫌な顔をしながら嫌々口を開く。


「先生、俺です。詞耶です」


『また休みか』


 詞耶、と言う名前が出た瞬間、声が一層低くなった。だからこの担任は嫌いなんだよ、俺が神事やってるの分かってるだろ。休むのだって仕方ないだろ。


『ちゃんと出席日数取らないと卒業できんぞ? それでも良いなら良いんだが』


「こっちだって色々と有るんですよ、亮多先生」


 ――勝谷亮多。年齢32。担当科目は数学。一言で言えば熱血教師であり、また生徒指導の一人でもある。休み時間や放下の生徒指導室には先生が居座っており、寧ろ生徒指導室が彼の部屋と化していると言っても過言では無い。


 世話になってるとはいえ、此方とて色々と用事が有るのに、とやかく言って来る先生が亮多先生だ。いや、指導をしてくれるのは有り難いんだが、事情と言うものを知って欲しい。


 はいはい分かりましたよ、などと亮多先生の有り難いお説教に適当に相槌を打って、面倒だからこのまま切ろうかと考えた矢先。


「ご主人さまー! やっぱり朝の処理出来ますよー!」


 スッゴイ笑顔で詩織ちゃんがこっちに来ながらそんな事を言って来た。やけの距離が有るので大声で、朝の耳には少しきつい。


 いや、そうじゃなくて。取り敢えずココが僻地だったことには感謝しよう。此処の他には誰も居ないから良し。いや、いや、だからそうじゃなくて


『……お、おい詠永? 今のなん――』


「おおっと手が滑ったなァ!!」


 明らかに戸惑っている亮多先生を無視し、ノーモーションで携帯電話を床に叩き付ける。恐らくあっちの耳と携帯の液晶には多大な負荷がかかっている事だろう。普段の仕返しだ。


 ぜぇぜぇはぁはぁと、肩で息をしながら携帯を取り上げる。如何いう事か液晶にはヒビ一つなかった。不幸中の幸いか。


「あのー……どうかしましたか? ご主人さま」


 お前のせいだよ! 人が電話してる時に何て事言ってんだ!


 朝の所為かそんなに叫ぶ気力も無く、未だ膝に手を突いて肩で息をする。さっきよりは幾分落ち着いたが、それでもまだ心臓の動機は早いままだ。焦った。真面目に焦った。


 完全に落ち着き、上体を起こして一言。


「朝から止めろっつってんだろ!」



 ~ ~ ~



 詩織ちゃんを居間で待機させ、台所へ向かう。今日のご飯は如何しようか。昨日と同じで良いか? いや、ご飯が無くなっていたはずだ。となると炭水化物ないんじゃないか?


 段々考えている内に負のサイクルになって来るので、思考を停止させながら何とかして食料を探し出す。確か、昨日の味噌汁が少しのこっていたはずだ。それを量増しすれば朝は乗り越えられるか。


 鍋に入ったままの味噌汁に昨日と同じ様な方法で火を点け、沸騰させる。その間に、また何かないかと台所を漁る。少なくとも、何かの破片は見つかるはずだ。いや、破片ではだめか。ちゃんとした物が見つかるはずだ。


 味噌汁を煮込む事3分。


 結局のところは無かった。仕方なく、引き出しを開けてお盆、お椀と箸を二つ取り出し、味噌汁を注ぐ。具材は少ないが、何も食べないよりかはマシだ。今日の午後辺りに買い出しにでも行くか?


 お盆を持って、居間に向かう。


 今を片手で開けると、詩織ちゃんは机にうつぶせていた。黒髪が机の上に広がっていて、傍から見れば一種の妖怪だった。「起きろ」と声を掛けると、黒髪を翻して上体を思いっきり起こしたかと思うと、首辺りを痛めたのか声を上げて首を抑えていた。


「何やってんだよ……」


 呆れた声を上げながらも、お椀を配膳する。そう言えば、詩織ちゃんは箸使えないんだったか。詩織ちゃんの分と俺の分の箸を配膳した後に、台所にスプーンを持ちに向かう。


 居間に帰ると、詩織ちゃんは顔だけで味噌汁を呑もうとしていたが、猫舌なのか下を付けると声を上げて口を押えていた。何やってんだよ、と再び呆れながらスプーンを差し出す。


 ありがとうございます! と詩織ちゃんは満面の笑みで言った後に、スプーンを逆手で持って味噌汁を掬って呑みはじめる。だから、片手で食うモンじゃなくて……まぁ良いか。


 俺も箸を使って味噌汁を呑む。具が殆ど無い哀しい味噌汁だが、何も飲まず食わずのままよりはマシ。そう考えると、どれだけ有難いことか。ゆっくりと、味わいながら飲む。


 詩織ちゃんは早くに飲み干している。こんな料理でも満足なのか、どこか嬉しそうな顔をしていた。こんなので喜ぶなんて、詩織ちゃんはどう過ごしていたのだろうか。


 ふと思ってみる。詩織ちゃんの奴隷だったころの生活はどんなものなのだろうか? まだあれだけの年で性に関してのことはわかっている故、禄でもない生活だったんだろう。考えてみるだけでも反吐が出る。


 そんなことを考えているうちに味噌汁を飲み終える。何もないお椀の中身を除いている詩織ちゃんからお椀を貰い、台所へ行って洗面台に浸す。


 そういえば、今日は詩織ちゃんはどうすればいいだろうか。俺はちゃんとやることあるからいいのだが、詩織ちゃんは暇になるだろうし。本当、守ると誓ったとはいえいらないものをもらってきてしまった。


 さてどうするか、と思いつつも自室へ向かう。そこのフスマを開いて神職服一式を取出し、今着ているものと着替える。いつも着替えているので、普通の人よりは早い。着替え終わった後に首を鳴らし、体の調子を整えながら思考。


 本当に詩織ちゃんの処理はどうしようか。とりあえず今日は寝かせておこう。パッと見衰弱しているようだし、寝かせておけばこちらの行動にも支障が出ない。寝ているうちに買出しにも行けるし、そうなると寝かせておいたままのほうがいいか。


 着替える前の服を持って自室の縁側から外に出る。本堂を回るようにすると小屋があり、その中を開けるとどこから電気を引っ張っているのか洗濯機、その横に開いている簡易のドアと風呂がある。 


 洗濯機の中に服を放り投げ、そのまま洗う。洗剤は金が無いので無し。相変わらずお賽銭がないことを恨みながらも自室へと戻る道を辿り、そのまま居間へと向かう。


 居間につくと、詩織ちゃんはまた机に俯せていた。何をしているんだ、と声をかけてみると今度はゆっくりと状態を起こした。髪の隙間から眠たげな瞳が見える。


「ねむいです」


 どうやら、予感は的中していたようで。衰弱ではなく、疲労のようだった。目の色は少し乾いているようだったし、こりゃぁちょっと重大なのかもしれない。


 起きれる? と聞くと、ふらつきながらも立てるようだ。このまま寝室まで行かせようと思ったが、途中で倒れそうにりあわてて体を支える。顔を見てみると、目は虚ろだし呼吸音も微かにしか聞こえない。


「おーい、大丈夫か?」


「………」


 顔の目の前で手を振ってみるも、返事は帰ってこない。口が微かに動いているが何を言っているのかわからず、とりあえず詩織ちゃんを抱いて寝室まで持っていく。


 まだ乱雑にされている布団に詩織ちゃんを寝かせ、肩まで布団をかける。しばらく様子を見ていると詩織ちゃんは目を段々と開いていき、意識が安定してきたのかこちらを向いた。


「……すいません」


 申し訳なさそうに、詩織ちゃんが口を開いた。その声もかすれていて、ようやく聞こえるくらいの声で。


「どうして謝る?」


「ご主人さまに、迷惑になっちゃって」


 いらだって聞くと、またかすれた声で詩織ちゃんは答えた。

 

「なんで迷惑なんだ?」


「……え?」


 聞くと、どうやら何も分かっていない様で。一つため息を吐いて、詩織ちゃんの頭にそっと手を乗せる。最初は怖がって目をつむっていたが、触れると何もしないと分かったのか恐る恐る目を開いた。


「迷惑とか、そんなこと考えないでくれ。そう考えられるほうが迷惑だからな」


 ほんと、そうしてこんな口が開くんだか。自分でも考えられないようなことを言うと、詩織ちゃんは一瞬だけ目を見開いた後にゆっくりと目を閉じた。やっと眠ってくれるらしい。


 さて、俺はどうしようかねぇ。境内の掃除でもしようか。


 

腐女子の後輩に「先輩! どれみこはよ!はよ!(威圧)」と言われてビクビクしながら書いてました。あんたはホモ専やないの。

次回も遅れるかもしれません。


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