いちのさん
ここまでで書き溜めは終わりです。
次回からは、少なくても月刊ペースで。
ほんとにグダグダしながら待っててください
【3】
石段を登りきると、暗い境内に着いた。
中心に敷かれている石畳と、脇に敷き詰められている砂利道。手水舎と拝殿が有る、普通の境内だ。
辛うじて見える奥の方には、一軒家より一回り小さい幣殿が建てられている。その前には申し訳程度の賽銭箱がちょこんと。
少し歩くと見えるのは、幣殿より一回り大きい本殿。脇には小さい物置が置かれ、その反対には少し小さ目の神池が有る。
拝殿を歩いて行くと、後ろから詩織ちゃんが付いて来る。
本当に面倒だな、と悪態を吐きつつ、いつもの様に賽銭箱の中身を覗いた。
スッカラカン。
見た目ではそう見えるが、実は暗くて見えないだけで奥の方に5円や一円が有ったりする。 負け惜しみじゃなくて、ほんとは有ったりする。ほんとに。ほんとに。
ごめん、マジで頼む。
また明日見ようと決めて、社務所と一体になった幣殿の脇道を進む。
普通、こういった拝殿の玄関は裏口に有る。
拝殿の正面は障子で塞がれているが、実の所あれは玄関では無い。そもそも賽銭箱が道を邪魔しているし、何より下駄箱が無い。
一軒家買いてぇ、と内心で愚痴を吐きつつも、引き戸を開けて中に入る。
中は和式。靴を脱いで、下駄箱に放り投げる。がこん、と仕切っている板にぶつかって落ちるが、また後で直そうと無視して床に上がる。
詩織ちゃんは……
「……草鞋っすか」
「?」
こて、と首を傾げて、疑問符を頭に浮かべる詩織ちゃん。
さっきまで気が付かなかった。今時草鞋なんて、この娘は本当に巫女さんとして育てられてきたんだなぁ。
そこに投げ込んどいて、と下駄箱に指を指して支持する。直ぐに脱いで、下駄箱にきちんと揃えて置いた。
さて、これからどうするか。俺は腹が減っているし、詩織ちゃんはもとより。寧ろ、詩織ちゃんの方が空腹なのだろう。
となると、粉物。しかし、今の時間帯は深夜帯。詩織ちゃんは如何か分からないが、俺はそんなに食える人間じゃ無い。
適当にインスタントで済まそうか。そういえば、お湯って沸いていたっけ? ああ、確か淹れてすら無かった気がする。
取り敢えず、居間辺りで待って貰おう。部屋の場所を教えて、詩織ちゃんを向かわせる。とてとて、と小走りで歩いて行った。
「(なんか、あれだな。妹が出来たみたい)」
ははは、と今の思考に苦笑を漏らす。
「(正直巫女さんとかは欲しかったんだけどね。職業柄の関係上で)」
さて、精進料理しか出ない家にカップ麺なんて有ったか。
【4】
無かった。
カップ麺どころか、野菜や白米まで無い始末。気づけよ、自分。
取り敢えずは、なけなしの食材でご飯を作ろう。青菜に胡麻と醤油を垂らして、炊いてあった残り少ない白米を茶碗に盛りつける。
味噌汁を作ろうと、鍋に水を入れて竈の上に置く。
此処で、ちょっと特技。
「『燃』」
つぶやくと、途端に竈から炎が上がり、鍋を一瞬で沸かした。超便利。
味噌掬って、溶かす。後は豆腐や葱とか入れて、味噌汁は完成。味見したけど、塩味が効きすぎてる気がするな。まだまだか。
ちゃんと二人分のお皿を用意して、盆に載せて居間へと運ぶ。居間への道は、ご飯作る度に運んでいるから目を瞑っていてでもわかる。
がらがら、と襖を開ける。
卓袱台の前に、詩織ちゃんがうつろな目をしてで座っていた。まぁ、無理もないか。普通の女の子だったら既に眠っている時間だし。
卓袱台の中心に盆を置いて、二人の分をてきぱきと配膳。ちゃんと箸も忘れずに。
ぽけー、としている詩織ちゃんは一瞬目を開くと、目の前のご飯を見つめ始めた。
「……これ、誰の分ですか?」
「うわぁエグい」
こて、と首を傾げる詩織ちゃんに、思わず声を上げた。
まさか、この娘。自分にこんな大層な物出る訳無いとか思ってるんだろうか。
恐らくそうだろう。そう教育されたんだろう。
「詩織ちゃんの分、だよ」
「……な、な……」
言うと、詩織ちゃんは明らかに驚いた顔をした。
気にせず、ご飯の配膳を続ける。二人分の白米とお浸し。零れないように味噌汁を置いて、盆を卓袱台の脇に置く。
ぱん、と手を合わせ、生き物に感謝して「いただきます」
詩織ちゃんも、俺の事を見様見真似で「いただきます」
うん、と頷きながら白米を口に運ぶ。炊き立てでは無いので、少し硬めだが無いよりはマシだろう。もぐもぐと咀嚼をしていると、詩織ちゃんがご飯をじーっと見つめているのに気付く。
如何したの? と声を掛けてみると、目の前に置かれた箸を持って一言。
「あの、コレ、どうやって使うんですか?」
「……マジすか」
がくり、と茶碗を片手に項垂れる。
そんな俺を見て、詩織ちゃんは怒ったと思ったのか、「ご、ごめんなさい!」と頭を下げる始末。そんなに謝るなよ鬱陶しい。
内心愚痴を吐きながら、何とかして箸の持ち方を教えようとする。しかし、箸の持つ型と言うのは日本独特の持ち方であり、何というか教え方が難しい。
幾ら教えても無駄だと割り切り、台所に戻ってスプーンを取ってくる。
詩織ちゃんに渡すと、さすがにコレの使い方は分かったようで、スプーンを逆手に持ってご飯を掬って食べ始めた。
それ逆手で持つモンじゃ……ま、良いか。
ご飯を口に運び、感激の表情をしている詩織ちゃんを眺めながら、溜息を一つ吐いた。
【5】
今日は風呂は無し。節水の為も有るし、時間も時間なので止めておくことにした。詩織ちゃんの事も考えないといけないし、明日の朝にでも入れば良い話だ。
洗い物は台所に浸けておくだけで良し。明日の学校は行けるかどうか分からないからまた明日に決めるとして。歯磨きは良し、詩織ちゃんも態々新しいの開けて良し。
歯磨きぐらいは教えなくても出来るみたい。先っぽに毛が付いてるから、ソレと俺の磨き方を見れば、何となく分かるのだろう。俺も歯磨きをそこまで教えてもらった記憶は無いし
と言う事で、布団を敷いて寝る訳なのだ、が。
再確認しよう。俺は現在神社に住む男子高校生。両親は無し。言う所の独り暮らしな訳で、日用品は一人分しかない。消耗品の予備は別として。
何が言いたいかと言うと、布団が一つしかないと言う事で。
「……。」
「あの、えっと、どうしたんですか?」
フスマを開いたまま固まっていた。
うわー、盲点だった。別に住むのは良いけど、その分日用品も買わなきゃいけないんだった。面倒臭い。今度買いに行くか。
いやいやそうじゃなくて。
壁にかけてある電子時計を確認すると、1/28日の1:30分。まだ冬の寒さが残っていて、正直足が冷たい状況にある。
そんな中で布団は必須である。しかし、ここにいる人間は二人。対して布団は掛け布団と敷き布団合わせて一枚ずつ。つまり、なんだ。
一緒に寝るしかないのか。
今日で何度目かの溜め息を吐きながら、布団をズルズルと引き出す。詩織ちゃんは後ろにいたのか、声を上げて後ずさった。
ぶわ、と勢いよくあげて敷き布団を床に。続いて掛け布団。幾分か軽いので一気に取出し、敷き布団の上にかぶせる。
これで四季折々日本の寝床が完成。
掛け布団をめくって、詩織ちゃんに入るように促す。すると、何故か顔を赤らめながら入っていく詩織ちゃん。はよ入れや。
俺も出来るだけ面積を取らないように入り、掛け布団を自分の体にかぶせる。服は着替えてないけど別に良いか。明日着替えればいいだけだし。
そうだ、電気。
「ぁー……『電』……」
メンドくせと思いながらも呟くと部屋の電気、神社の行灯、台所についていた電気が消えて、暗闇が訪れる。相変わらず便利だな、俺の特技。
自画自賛して苦笑いを浮かべていると、隣で寝ころびながら顔を赤らめている詩織ちゃんが話しかけてきた。
「あ、あの……ど、どっちですれば良いですか……?」
「ナニ言ってるのこの娘!」
思わず上体を起こして叫んだ。
どうして紅潮させてるんだと思ってたらそんな事考えてたのか。奴隷とはいえ、こんな歳でそういう知識が有るとなると、本当に腐ってるな、と思う。
ごめんなさい! とまた謝ってくる詩織ちゃんを制して、もう一度布団にもぐりこむ。俺はそんなことしないし、第一こんな幼気な少女に手を出すなんて……
ん? 待てよ?
「……あのさ」
「は、はい?」
「もしかすると詩織ちゃんってそういった経験……」
地雷だ、と思いながらも聞くと、詩織ちゃんは頬をさらに紅潮させたかと思えば、羞恥心が絶頂に達したのか顔を布団に埋めた。
この反応はどっちだろう。「マジかよ……」と言えばいいんだろうか。「ご、ごめん」とか言って謝ればいのか。後者がセーフ。前者がアウト。
良く良く考えればどっちもアウトなことに気付き、ヤベェと思っていると、詩織ちゃんがいつの間にか此方を向いている。
「……えっと、その」
「え、あ、うん」
「どちらかと言うと、ありません……」
セーフッ!
「だけど、見た事は数十回……位ですかね」
「……マジすか」
アウトじゃね? と思いながら、詩織ちゃんの話を聞く。
「あと、手でするのなら……ほぼ毎日は」
「……ごめん」
なるほど。話を聞く限り、詩織ちゃんは割かし待遇されてきたらしい。聞こえが悪いが、商品価値を落とさない程度には調教されているような。
虚しいな。何でだろう。こんなにも、人を殺したくなったのは。こんな娘が、そういったところに連れられて、調教されるのなんて間違ってると思う。
詩織ちゃんを見てみると、眠気が絶頂に達していたのか寝息を立てて眠っている。その手は、何処か壊れそうで、小さな手だった。
そんな手を、俺が守らなきゃならないのか。神職に就いている身として、そういう奴は許せない。格好つけだが、詩織ちゃんは俺が守る。
……マジで俺、こんなこと考える人間だったか? 詩織ちゃんに有ってから、何かが変わったような気がする。
きっと眠たいんだろう、と思いまぶたを閉じる。心地よい眠気と、布団の感触に包まれながら、俺の意識はゆっくりと落ちて行った。
明日学校休もう!
―閑話―
『詞』と言うのは『言』を『司る』もの。
『詠』と言うのは『言』を『永る』もの。
詞を詠むのは、詞を永るということ。
神の領域に達すれば、詞は力を持つもの。
その領域に達すものは、『詞神』と言うもの。
『詞神』を詠むと、『幻想神』と読むもの。
今に生きる、詞を永る『詞神』は。
――――詠永神社、蔵の最深部に有る巻物より抜粋。
ルビって正しく振り分けられてますかね?
あとこれってファンタジーの方が良いんすかね?
色々と疑問に満ち溢れてますが、次回もぽこぽこしながら待っててください。