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いちのいち

 初めまして。ぐだぐだしながら見てってください。

【1】


 奴隷市。


 とある路地裏のそのまた奥深く。絶対、社会の表に出ないような場所にこの市場は有る。


 市場、と言っても普通の市場とは違い、どちらかと言えば競りに近い様な場所だ。一つのステージの上に、奴隷が売り出され、その奴隷を求めている人間達が、だんだんと値段を上げて行く、と言うオークションの様な物、とでも解釈して欲しい。


 此処に集まる人は色々。単純に手伝いが欲しい人もいるし、自分の欲望の為に性奴隷として買い漁る人もいる。尤も、こういった裏の市場では後者の方が9割方占めている……と言うか、手伝いが欲しい為にこんな路地裏に来る奴は、そうそう居ないだろう。


 奴隷、と言っても人間だからそれなりの高値は付く。


 それなり、と言うか明らかに法外の値段で、万は当然、競り合いによっては億は超えるそうだ。其処までして奴隷を欲しがる意味が分からないが、人には人の事情が有るのだろう。性奴隷に関しては知らん。可哀想と思えるだけだ。


 そんな高額な金を出せる時点で、この場に集まる人々の身分は分かるだろう。政治の上層に位置する身分や、何処かの貴族の血族。あるいは、何処かの大手企業に居る社長なのかもしれない。まぁ、皆社会での有権者である。


 故に、皆仮面をして素顔をばらさない様にしているのが、滑稽な所だ。オペラの仮面や、和風の面。変な所では火男の仮面を被っているのだが、そういった人間が実はとんでもない人間だったりする。現に――――


「今回のラインナップは少々味気が無いですな」

「全くです。最近はどうも湿気ていますねぇ」


 ――――目の前で火男の仮面をした男性が二人、話しているのだ。その他にもちらほらと火男の仮面をした人物がいるのだが、どれもこれも経験じみた話をしている点、常連客なのだろう。こんな所に何回も来ている時点で大体は絞り込めるのだが。


 火男の仮面をした輩は、全体の4割程度と言った所か。その全部が高揚とした目をしている点、此処は狂っていると改めて実感させられる。


「さぁ! 大変お待たせいたしました、これより第48回目の市を開催します!」


 ステージの上に立って居る、白いスーツ姿の男がマイクを持って高々と宣言した。その男も、やはり顔に火男の面。何だろう、此処の市は火男でも信仰しているのだろうか?


 そんな疑問は露知らず、スーツの男はステージの脇へと入り、黒い袋を引きずり出して来た。その中身に有る何かは、もぞもぞと蠢いている。恐らく、中に奴隷が入っているのだろう。


 スーツの男が黒い袋を起用に破ると、中から出て来たのは10歳にも満たない様な全裸の少女。首には黒い首輪を付けており、全体的に栄養失調気味な事が分かる。体の所々に痣が浮き出ていて、見るに堪えない格好をしている少女だ。


「一品目はこの少女! それでは入札、10万から! 」


 スーツ姿の男が高らかと叫ぶと、周りの観衆がドッと騒ぎ始めた。


「16万!」「いいや、18万!」

「では、29万!」「30万でどうでしょう!」


 まだまだ序の口か―――と思わず呟いた。


 呆れながらも、周りの観衆は熱を持って叫び続ける。

 

 これほど哀れな物が、この世に有るのだろうか。

 

 まだまだ、世界は変わらないといけない。こんな事を、見つけられない政府もどうかしているが、主催者側が気付かなければ何も変わらないだろう。

 

 相変わらず、世界は腐っている。それこそ、腐り果てて堕ちた林檎の様に腐り果てている。その林檎にハエが集り、気が付けば一匹の蟻からその林檎は分解されて行く。


 俺達は、その蟻にならなければならない。腐った世界を分解し、無くしてしまう。そして、また新たな世界を作り出すのだ。


 気が付けば、一人目は終わって二人目に入っていた。


 それからも矢継ぎ早に競りは続き、3人目、4人目が袋の中から出されては競り落とされて行く。


 中には、金髪の外国人や白髪赤目の異国人も居た。それらも全て競り落とされたが、80から90辺りの値段だったのだろう。異国の少女は売れるのだろうか。


 気の毒だ、と心の中で吐き棄てる周りの観衆が更に気迫を増した。


「ついに、今回の目玉ですな」


「ええ、その所為か割と残っているようですね」


 目の前の火男二人が何やら話し合っている。


 如何やら、次で最後の出し物かつ、今回の目玉らしい。この二人はその目玉とやらに興味が有る様だ。

 

 こんな市の目玉なんて、基準が分からない。使えるか、使えないかだろうか。いや、こんな所だからこそ見た目なのかもしれない。若しくは、性的な価値か。


 いずれにせよ、哀れな……いや、哀れになる人だ。


「さぁ、皆様お待たせしました! 本日の大目玉は―――」


 白いスーツの男はさっきと全く違う高ぶり様を見せると、ステージの脇に入って行った。また袋か、と思うと其処から出て来たのは――――


「この商品! 」


 ――――巫女服を着ている少女だった。


「ではではお値段、300万から!」


 歳は10、11歳と言った所か。他の奴隷と同じ様な年頃の少女だ。それも、行き成り300万。よほどあの巫女さんが高値なのだろう。


 しかし、なんであの巫女さんだけ巫女服を着ているのだろうか? 体格上は他の少女と変わり無いのに、彼女だけ優遇されているのだろう?


 ともかく、彼女は普通の奴隷とは違って質が良いのだろう。そうすれば、彼女だけ袋詰めにされていない理由や巫女服を着ている理由にもなる。



「330万!」


 一人の男が声を上げた。


「いや、400万でどうだ!」


「ならば500万!」


 それに釣られて、周りの観衆が声を荒げる。今までとは全く桁違いの額だが、この娘の為に貯めて置いた、若しくは元から持っていて、温存しておいたのだろう。こんな事に頭を使うなんて馬鹿な奴だ。


「1000万!」


 おぉ、と周りの奴等がどよめいて、視線を一点に向ける。


 なんとまた、法外な値段が出たものだ。1000万なんて早々出せる金額では無いのに。こうなると、人物の特定がかなり絞られてくるのだが、果たしてどんな奴なのだろうか。


 視線を皆と同じ方向に向けると、やはり火男の仮面をした、いかつい体格の男が手を上げていた。スーツを着ていても分かる位に筋肉が付いており、プロレスラーか何かの職業だろう。かなり絞り込めるけど本当に大丈夫なのか?


 ふと気が付いたが、その男以外は誰も手を上げていない。やはり、皆1000万以上は手が出せない、若しくは身元がバレる危険性が有るのだろう。


 司会の男が、周りを見渡して、他に上げている人が居ないことを確認すると


「では1000万円! 此方の方に決定です!」 


 また、どわぁと観衆が騒めく。あまりにもうるさいから、思わず手で耳を塞いでしまった。その男は、誇らしい顔をしながら壇上へと上がっていく。


 はぁ、と溜め息を吐く。

 

 また哀れなもんだ。出来れば救ってやりたいが、そんな小さなことまで救えるような人間では無い。今日も帰るか。晩飯如何しよう。


「………。」


 と、晩飯の事を考えていると男がずっと視線を此方に向けているのが分かる。


 何だろうか、はっきり言って気味が悪い。不良に絡まれたような、そんな嫌悪感だ。


「……おい、其処の狐の面を被った奴」


 狐の面を被った輩なんて幾らでもいるだろうに。


「お前だ、其処の黒いコート着てる奴だよ」


 黒いコート着てる奴なんて幾らでも……とはいかないかぁ。


「聞こえてんのか!? あぁ!? 」


 如何やら、男は俺の事をご指名らしい。狐の面に、黒いコート。あからさまに俺だろう。周りの皆はどれもこれもスーツ姿だし、黒いコートで区別されるのも納得だ。


 仕方なく、立ち上がってみる。周りに居る屑の目線が、妙に気持ち悪かった。


「何だ、お前。さっきから変な目線でこっちの事見てよぉ」


 妄想癖凄いね。


「何か文句有るってのか!? ブッ殺すぞ!」


 そう男が叫ぶと、何処からか銀色に光るナイフを取り出した。慣れた手つきで取り出した辺り、コイツはプロレスラーとかじゃなくて軍の上層部に位置する奴だろうか。


 それはともかく。周りの観衆は何故か熱を込めた目線で、俺達を見て来た。


 まぁまぁ慌てなさんな。ここは競り市の筈でしょう?


 かわいそうなどれいさんたちを買って行くところだと思うんだよね。


 殺し合いなんて早々するもんじゃ――――


「行け! 殺れ! 久々の見ものだ!」


 ――――うわぁ、ババ引いたわ、コレ。


 誰かが叫ぶと、周りの奴等も凄い叫び声をあげた。如何やら、彼等そう言った遊びや賭け事に熱意を持つタイプの危ない人間らしく……そもそも、こういった所で奴隷の競り市やってる時点で危ない人間なのだが。


 ともかく、なすが儘なされるが儘で危ない人間達に連れられて。

 

 気が付いたら男と同じ壇上に居て。


 男がナイフを振りかぶって来――――はぁ!?


「ちょっ、ストップ!」 


 紙一重で回避。前髪が数束裂けられ、はたりと木製の床に落ちた。


 その後も軍曹らしき男は猛攻を続けて来た。大きく振りかぶって袈裟切り。咄嗟にバックステップで躱すも、そのまま突きにつなげられた。


 上体をひねって躱すと、逆手持ちに持ち替えられて、横に振りかぶって来る。腹の辺りに、金属の感触。痛みが走り、思わず吐血した。


「さぁ、盛り上がってまいりました、久々の血闘! 奴隷を求めての殺し合い!」


 なんだソレ。そんなルール初めて聞いたんだけど。


 奴隷を求めて、と言う事は相手を殺せば奴隷がもらえるんだろうか。其処までして、殺し合いまでして己の欲望を叶えたいのだろうか。


 くだらない。


 何時から、人間はこんなに哀れな、醜い存在になってしまったのだろう。


 本当に、本当にくだらない。


「くだらない」


 左手に力が篭る。


 途端、淡い光が左手に纏わり付いて、左の掌が幽霊の様な光で出来た様な手になった。


 何て事は無い、俺の特技。でも目の前の男性は不思議に俺の手を見つめている。


「あ? おまえ、なんだ、その手――――」


 男性が何か言った瞬間、地面を蹴る。


 そのまま走り、ボケっと突っ立ってる男の腹辺りに左手を突き刺した。


 生温い感触の後、肉の焼ける音。


 引き抜くと、男の腹には立派に手の平の形をした大穴が空いていた。


「が、ぎ………」


 呻き声を上げながらながら男性が倒れた。どしん、とそれなりの重量の音がして、男の真下には血の水溜りが広がっていく。


「おめでとうございます! 」


 と白いスーツの男が巫女さんの手を引いて近寄って来た。


「この商品は、貴方の物ですよ! ささ、どうぞどうぞ!」


 そんな感じでセールスマンの様に巫女さんの手を此方に差し出してくると、此方の手を取って巫女さんの手に近づけた。


 なんぞこれ、と迷っていると白いスーツの男は俺達の手を放して観衆に両手を広げて叫ぶ。途中で話された所為か、巫女さんの手は力なく落ちて行った。


「さぁ、今日はお開きです! 次回はまた一週間後! 沢山の御来賓、お待ちしております!」

 

 ギンギンと耳に声が響く中、意識が朦朧としてきた。


 そういえば、腹、刺されたんだっけか。


 畜生、今になって痛みが増して来やがる。 

 

 うわー……そろそろ、限界っぽいな。




 最後に見えたのは、俺が倒れた事に驚いて駆け寄って来た巫女さんの姿だった。


 現在の書き溜めは三話分まで。

 それ以上になると、亀更新になりそうなのでご注意を

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