第8話 「アノ人ね・・・納得です」
「・・・倖城徹二・・・あの人かぁ・・・」
あたしは遠い目をして呟く。
あの人関連なら何が起きても納得出来る――そんな事実が怖い。
「はい。若頭がどうしても咲禾さんと連絡を取りたいと・・・」
「それにしたってもっと穏便なやり方があるでしょーに。絶対わざとだよね」
はぁーと小さく溜息を吐く。
そんなあたしに、ここまでの経緯を説明してくれた宏樹さんが申し訳無さそうに眉尻を下げた。
宏樹さんとは何度か面識がある・・・倖城徹二のお守り役――と言っても可笑しくないほど「若頭」に振り回されている不憫なお方だ。
でも、人は見かけに寄らないんだなぁ〜コレが。
柔和な顔立ちの美青年な宏樹さんは、穏やかで優しいけれど、やっぱりアッチの世界では有名なお方で、日本でも最大規模の、広域指定暴力団【海淵組】の参謀的な存在なのですよ。
本当に色々な噂があるのだけど・・・。
特に若頭もとい、徹二さんと宏樹さんのコンビでやらかした数々の事件は伝説のように語り継がれている。
そういえば、そのほとんどの事件は徹二さんが原因で、宏樹さんは巻き込まれただけなのだと苦笑しながら言っていたなぁ。
それでもって不思議な事に、それらの数々の事件の中にあたしも何故かちょっとだけ巻き込まれたりなんかしちゃって、今では2人とも顔馴染み、というわけなんですよ。
しかしねぇ、最近会わないからってこういう強硬手段に出られるとやっぱり吃驚しちゃうじゃないですかー。
しかも、事態がややこしいことになりそうな予感がするし・・・。
「ご迷惑をお掛けして申しわけありません」
浮かない顔をしているあたしに、宏樹さんが丁寧に頭を下げる。
あたしはといえば、何も悪くはないはずの宏樹さんの謝罪に慌てた・・・慌てふためきましたとも。
だってさ年上の、本来敬うべき人に丁寧に謝って貰うのなんて、一介の高校生であるあたしが慣れているはずがない。
えーと・・・取り敢えず、混乱している頭でもこれだけは言える。
「迷惑ってなんの事ですか?」
「――え?」
「いや、あたし的には全くこの状況迷惑じゃないです。むしろ感謝したいくらいですよ。だってもしも、宏樹さん達じゃない他の組の人達がゾロゾロ現れたりなんかしたら、さすがにちょっとヤバかったと思うので」
「――だから、有難う御座います」
あたしが頭を下げると、頭上からふっと笑った気配がした。
疑問符をつけながら顔を上げると、宏樹さんの綺麗な笑顔とご対面出来た。
「・・・咲禾さんはそういう方でしたね」
そう言って満足そうに頷く宏樹さん・・・うーん良く分からん。
Piriririri…………。
突然鳴り出した機械的な着信音に素早く反応した宏樹さんは、携帯を手に一言二言喋ると、あたしへと視線を向けて、携帯を差し出してきた。
え?何々?どういうことですか?
視線で問えば、宏樹さんは困っているんだか、笑っているんだか良く分からない表情で口を開いた。
「これでも直接乗り込むと言い張る若頭を止めてきたので、痺れを切らしてあちらから電話を掛けてきてくれたみたいです」
「・・・・・」
沈黙の間、差し出された携帯電話を見、微笑んではいても有無を言わせない雰囲気の宏樹さんを見、を数回繰り返したあたしは、携帯電話を受け取った。
あぁ・・・文明の利器って時には考え物だよね。
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