第6話 「遅刻はいけません」
お金、というものは生きていく上で必要ですよね?
必要だから、皆汗水垂らして働いているのだと思うのですよ。
しかも、あたしみたいな借金塗れの人間は特にね。
というわけで・・・。
レッツ・バイト探し!
求人雑誌をペラペラ〜っと捲って、素早く場所、年齢、時給をチェック。
「むぅー・・・。どうもしっくりこないなぁ〜」
確かに時給は高い方が嬉しい・・・うん。
でも時間帯がなぁ〜・・・うぅーむ。
あたしは一人唸りながら、求人雑誌を睨む。
貯金はまだ、ある。
それでも、沢山あるわけじゃない。
もうすぐ、ローンにして貰ってやっと払っている借金のお金が通帳から引き下ろされる。
つまり、早急に手を打たねばならんのだよ!
「んんー・・・って!あぁぁ!!!」
AM8:03
遅刻する!!!
あたしは素早く立ち上がると、弁当箱を引っ掴んで部屋を飛び出した――と、そこにグッドなタイミングで志月サマサマ(敬ってません)が現れたー・・・避けては通れない道デスか?そうですか。
まぁ、何としても遅刻は御免なので通らせて頂きますが。
あたしが何事も無い風を装って、志月さんに目礼しつつ横を通り過ぎようとする・・・と腕を掴まれマシた。
「・・・送っていってやろうか」
「は?」
「このままじゃ遅刻だが?」
「いえ、大丈夫・・・」
「なわけないだろう。人の厚意は素直に受け取るものだ」
「・・・はぁ・・・」
うーん・・・厚意、ね。
嘘くさい、果てしな〜く疑わしい。
つか、嘘だろ!!
はぁ・・・なんで嫌いな相手に突っかかってくるかなー。
あー嫌いだからデスよね・・・あはは。
こっちが避ければ相手が突っかかってくる・・・どうすりゃいいんですかー・・・。
「平岡、出せ」
「はい、畏まりました」
「・・・・・」
今実感した。
志月さんて、高校生なんだよな〜。
いやぁ、スーツ姿で会社に出勤していても違和感ないのになー。
高校生――友達とともに笑い合い、時には先生にお叱りを受ける・・・はじける青春――に、似合わねー!
高校生が似合わない高校生って・・・。
なんだか志月さんが可哀想に思えてきましたよ。
いやいや、ブレザーも素敵に着こなしているんだけどさ・・・どこかが噛み合ってない・・・(失礼
まぁ、似合わないと言えばこの現状。
お抱え運転手に、お坊ちゃんな志月さん・・・とあたし。
我ながら場違いだと心底思うのですけれど。
居心地の悪さを流れていく景色で紛らわしているあたしに、志月さんが機会を窺っていたかのようなタイミングで話し掛けてきた。
「――有園祥子から連絡はあったか?」
「無いですよ」
「・・・そうか」
口を開けばこの話題・・・いや、志月さんの口からお天気の話がでてきても困るのだろうけど。
「お前の役目は自分の母親を誘き寄せることだ。天宮を欺く事は出来ない・・・己の身が可愛いなら馬鹿はするなよ」
あたしを視界に入れたくないのだろう。こちらをチラとも見ずに、淡々と釘を刺す。
裏切る気なんか毛頭ない。
でもそんなことを言っても無駄だってことは十分分かっている。
あたしはただ首を縦に振って頷いた。
そんなこんなで遅刻を免れたあたしは教室の扉を開けた。
途端に静まり返るクラス。
悪意の篭った幾数もの目、目、目、目、目。
昨日まで纏まりの無いクラスだと思っていた。
でも、前言撤回。
どうやらあたしという敵を見つけたことで一致団結したらしい。
朝っぱらから臨戦態勢の皆さんとのご対面は予想していませんでしたよー。転校2日目からこの状況、ギネスブック更新ですか?嫌われ者世界新ですか?
あはは・・・16年間生きて来てこんなにも人の視線を集めたのは初めてですよ。あーあ、朝ご飯食べてくれば良かった・・・。
読んでくださって有難う御座います。