第5話 「庶民、貧民、大貧民」
あたしは所詮、小市民。
ドラマで言えば通行人A。
RPGで言えば村人B。
でも、そういうのだっていいじゃないデスか。
あたしは満足してマスよ?
「皆さんも知っていると思いますが、今日からクラスメイトになる有園さんです」
「――有園咲禾です。どうぞ宜しくお願いします」
しぃーーん。
あぁ、悲しいくらいの非歓迎モード。
拍手なし!笑顔なし!歓迎の言葉もなし!
お坊ちゃんとお嬢様方はシャイなのかしらぁ?っていくらあたしでも、そんな無理やりポジティブ思考には走れません。全力疾走できませぇん!
まぁ・・・この反応、予想の範囲内だから良いんだけどね。
むしろ腐った生卵とかぶつけられなくてよかった!顔面キャッチとか・・・やりそうでヤダ。
内心、ほっとしているあたしに先生が腕をのばしてある生徒を示した。
「えー、有園さんの席は篠田君の隣ですね。篠田君いろいろ教えてあげてください」
「はい。有園さん、こっちだよ」
「――はい」
あたしは篠田クンに軽く挨拶して席に着く。
篠田クンは学級委員長やってそうな感じの人で表面上は穏やかに「宜しく」と返してくれた。
それにしても、チラチラとあたしを見る視線・・・この雰囲気、馴染めそうにないねぇ。見るっていうか品定めというか・・・あんまし良い気分じゃない。
担任の木嶋先生がHRを始めるのをぼんやりと眺めつつ、コソコソと交わされている会話は聞き耳を立てずとも聞こえてくる。
「あの子一般人なんだって・・・」
「なんでこの学園にいるのぉ?」
「なんでも、天宮家の使用人で・・・・・」
「えぇ?使用人の分際でこの学園に?」
「うわー身の程を弁えろって感じだよねー」
「ほら、天宮の皆様はお優しいから」
「げぇ〜、媚売ってこの学園に入れてもらったんだ」
「最悪〜」
「死ねって感じ」
「ウザイよねー」
etc、etc・・・。
おいおい。マジ勘弁してくれー。
なんでそうなるーというか、ご子息ご令嬢のわりにあんたら口悪いなぁ。もっとおほほほ〜って世界だと思っていたからプチショックだよー。
まぁ、確かにあたしは天宮家の使用人ということになっていますがね、やっぱりあたしってば異質な存在なんだねー。
あぁ、だから天宮の遠い親戚っていう設定を圭司さんは提案したのか。でもこのお嬢様方の嫉妬と侮蔑の入り混じった刺々しい視線は変わらなかったんじゃないかなぁ?うーん、刺し殺されそうだ。
いやぁ、天宮兄弟人気だねー。
ていうか、親戚の設定が駄目になったのは天宮兄弟が(特に弟)激しく嫌がったからなんだよねー曰く「こいつと少しでもどこかで繋がりがある設定なんて嘘でも吐き気がする!冗談じゃねー!!」らしいですよ?お兄様の方もスゲー嫌そうな顔して、拒絶オーラ放っていたからさー、この案を出してくれた圭司さんに「他じゃ駄目ですか?」と訊いてみたら、圭司さんが難しい顔して考え込んじゃったんだよね。そしたら天宮弟が「コイツなんか使用人でいーんじゃねー?」とあたしを嘲笑いながら言ってくれたので、サラッと「んじゃ、使用人という設定で」と言っちまったわけですよ。
いやーそう言ったら天宮親子揃って驚いていたよー。
使用人設定違和感あるかなぁ?と思っていたら結構上手くいくじゃないか。クラスの方々は勝手に想像して納得してくれたから、楽でいい。まぁ初日にしてスゲー悪者になっちゃったけど。
授業は滞り無く進んだ。
あたしコレでもまぁまぁ成績良かった方だったから、分からない所は無い。まぁ、少しこっちの方が授業の進み具合が早いけど、大したことじゃない。
ふむ。
順調、順調。
現国の授業が終わって、昼休みに入る。
ここには食堂(というよりはお洒落なカフェテラス)や購買(というよりは種類も豊富なちょっとしたお店)があって、皆それぞれ仲の良い友達と連れ立って教室から出て行く。
普通転校生ってものは初め、凄く騒がれるんだけどねー。
なんかあたし、この頃嫌われてばかりかも知れない。
少し、胸の中で冷たい風が通り過ぎるのを感じながら、鞄の中から弁当を取り出す。この学校には食堂とか購買とかあるらしいんだけど、あたしは弁当〜。これにはちょっとしたワケがある。
今朝、圭司さんから突然カードを渡されて、それを好きに使いなさいと言われ・・・即座に突っ返した。
当然だ。そこまでして貰う理由なんて無いからね。
沢山あるわけじゃ無いけどお金だってあるし、第一、あたしの身内――あたしも含めて――迷惑掛けているのにこれ以上迷惑は掛けられないじゃないデスか。うん、だからお弁当。
今日は朝ご飯の残り物を詰めさせて貰ったけど、早速今日からスーパーにでも行って食材を買うつもり・・・うーん、安いのは≪金太郎スーパー≫なんだけど、ここから金太郎に行く道が分からないしな〜どうすっかねぇー。
などなど考えながら、もぐもぐ弁当の中身を平らげていく。
あーウマイ。さすがプロの料理人に作ってもらっただけあるなぁ。
料理教えて貰えないかなー?・・・あぁ、無理か。
今日気が付いたんだけど、どうもね、天宮に居る使用人さん達にもスゲー嫌われているらしい。だって、朝起きてリビングに行ったときのあの空気・・・マジでビビッたぞぉー。
台所・・・貸して貰えないかもしれない・・・。
「ふぅ・・・」
思わず洩れる溜息。
ペットボトルのお茶を飲んで、弁当箱をしまう。
今気が付いたけど、クラスの皆さん、あたしが異様な怪物でもあるかのように見ていらっしゃいます。
なんだぁ??
視線を辿れば行き着くのは、しまい終わった弁当箱。
コレがどうしたよ?
何か問題でもあるんですかー?
教えてくれー、あたしにはこんな視線を心地良く思う神経などないのだからねー?
「ちょっと貴女」
「はい?」
おぉ、何とも言えないこの雰囲気の中、あたしに話しかけるとは・・・うぉ!美人さんだー!スゲー!!
ほけーっと名も知らぬ美人さんに見惚れていると、なんとも不愉快そうに視線を返してくれた。うぁー敵意剥き出しデスか、そうですか。
「ここは教室なのよ?分かっているの?」
「え?はい。分かりますけど・・・?」
「では、何故貴女はここで食事をしているのかしら?」
「ああ、教室で食事してはいけなかったんですか。すみません」
「全くこれだから一般人は・・・。言って置きますけれど、この学園は貴女のような人間が居ても良い場所では無いのよ?その自覚を持って、この様な無作法で品位の欠ける行動は慎むことね・・・そうだわ、貴女の様な人と同じクラスだからといって他の皆様に同じような人間だと思われたくないの、私達。どう?御分かりかしら?」
「――はい。ご忠告どうも有難う御座いました」
「・・・ここは天宮の皆様の様にお優しくはないわよ・・・」
吐き捨てるように言って、美人さんはお仲間のお嬢様たちの中に入っていった。
えーと。
やっぱり普通の学校とは違う、か。
しかしなぁ、どう違うのか教えてくれるような親しい人は悲しいことにいないんだよねー。
まぁ、いーか。
さっきの美人さんみたいな人がまた丁寧に教えてくれるかも知れないし・・・って、駄目だ。
あたしは天宮の使用人、ということは、あたしの失態は天宮の教育がなっていない、という面倒なことになっちゃう可能性がある。
うーん、問題は山積みだぁー。
HRが終わった。
ここまで何事もなく、過ごせたよ、一応ね。
昼のような事態になるのを避けるため、一々クラスメイトの言動を備に観察していくことにした。寿司職人じゃないけど、『目で見て盗め』作戦は上手くいっている。
さて、帰るか・・・。
各々に帰っていくクラスメイトたちを見て、鞄の中に新品の教科書を詰める。一気に貰ったから結構な量だ・・・重いぞー。
ここは金持ちが通う学園、だからなのかあたしの様に徒歩通学はいないらしい。お抱えの運転手さんが頭を垂れてお辞儀しているのを当然のように受け取って、車に乗り込んでいく同じ年頃の学生。
キラキラしているっていうか、なんというか・・・。
同じ年頃、同じ制服、それでもあたしはあんな風に振舞えないだろうなぁ〜。いやぁ、お金持ちも大変だなぁ。あんな風に頭下げられて傅かれて・・・堅苦しいことこの上ないねー。
そんなことを考えながら、歩く。
あら?あれ?
「あたし・・・迷っちまいましたか?」
ぽつりと呟いても返ってくるのは沈黙だけ。
あーあ。
もうこの際、探検だ。探検。
歩けば知っている場所に着くかもしれないし。
開き直って、ズンズン足を進めていく。
真っ直ぐの大きな道を、右に曲がってみたり。人一人、通るのがやっとな感じの狭い道をわざと行ってみたり。目的は一応、帰ること。ついでにスーパーなんかも発見できればいいなぁと思って・・・・・いたりしたんですが――あらまぁ、大変。この道は一体どこに続いているんですか?
あははは。迷子だよ、スーパーハイパーミラクル迷子。この年になって迷子なんて・・・あぁ、目から青春の汗が滴り落ちそうだぜ。
あたしは一縷の望みをかけて辺りを見回してみる。
うっわーー、人っ子ひとりいないのですけど!
住宅街なのに人がいないって、ナニコレ?大規模な嫌がらせ?それとも町内全員参加のかくれんぼ大会でもやっているんですか?!大の大人が童心に戻りきって、白熱したバトルを繰り広げていらっしゃるのですか!!?
悶々と八つ当たり気味の妄想をしていたあたしに、なんだかいろいろと思念の混ざった鋭い視線が突き刺さる―――あれ?真新しいこの感覚は・・・まさか。
あたしは事実を確認するためにチラリと後ろを見やった。
やっぱりだ。尾行されている・・・監視、か。多分朝から監視してたんだろうけど気が付かなかった。
あっちは仕事。絶対に接触してこないだろうから、あたしから道案内とか頼んじゃダメかなぁ?もう1時間近く歩いているけど全く、ゴールが見えないんだよね。
駄目元で・・・いってみるか・・・。
そうと決まれば話は早い。
あたしはクルッと踵を返して、人影に向かって疾走する。
おぉ、デジャヴ。あたしって2日連続こんなことしているのか・・・ある意味スゲー。
物陰にいたその人とついに対面。
あらら〜。
期待を裏切らない監視役。
スキンヘッドのグラサンお兄さんだよ。
マッチョだマッチョ。どんな鍛え方しているんだろう?
えーい、触っちゃえ。
「――固っ!おぉーコレ位鍛えれば、どんな奴にも勝てそーだ!どうすれば強くなれますかー?トレーニング方法は?腹筋何回やっているの?」
あたしの質問攻めにサングラス越しに見えた鋭い目つきが、一瞬呆気にとられたように見開かれた。
「・・・なんなんだお前は・・・・・」
低い声に若干の苛立ちを含ませているお兄さんはあまり気の長い方ではないらしい。
「あれ?お兄さん監視役じゃないんですか?」
窺うように大きな体を見上げれば、溜息で返された。
「確かに俺はお前の監視役だが・・・」
「それじゃあ、あたしの事知っているでしょ。でもマナーは大事だよねぇ。ごめんなさい。では、改めまして有園咲禾です。宜しくお願いします」
「――それで、なんの用だ」
オー、イッツソークール。
あーあ。やっぱり嫌われている。
しかーし、ここでめげないぞー。あたしはしつこいぞ〜。
「えと、お気づきかもしれませんが・・・あたし道に現在進行形で迷っている次第です。道を教えてくれませんか?出来れば安いスーパーなんかも教えてくれると有り難いんですけど・・・」
自分でも図々しいと思うお願いに、お兄さんは眉間にぐぐっと力を入れた。
「――・・・スーパー?そんな所へ行く必要がどこにある」
「あー、あたしお金あんまり持ってないんで、自炊しないと・・・今月厳しいし・・・」
お兄さんの迫力に、ヤクザさんに慣れているあたしでも少しびびる。
「ハッ、誰がそんなことを信じる?下手な嘘は止めろ。道に迷った振りをして、下らない作り話で俺が隙を作るとでも?」
冷たい視線が、あたしを射抜く。あぁ、全く信用されていない。
そりゃそうか・・・と思いつつ、スーパーは諦めることにする。
「そんなこと全然思ってないです。本気で迷子なんですけど・・・道だけでも教えてくれませんか?」
「――チッ。道順、頭の中に叩き込めよ・・・逃げようなんて余計なことは考えずに着いて来い」
「はい。有難う御座います」
瞬間、厭そうに歪んでいたお兄さんの顔が、ハッと驚いたかのように表情をなくしたのをあたしは全く気付かなかった。
きちんと案内してくれるとは・・・相当あたしのこと嫌いなんだろうにこの人、優しいなー。
しかも強い・・・と思う。
あたしなんかの監視役なんて勿体無いね、マジで。
そんなことを、無言の道中で考えているとやっと大きなお屋敷が見えてきましたよ。
巨大な門の前に立ったあたしは、お兄さんの前に回り込んで感謝の思いを込めて礼をする。
「――。さっさと入れ」
素気無く返された。でもその言葉は、あたしの気のせいだとは思うけれど・・・あまり冷たく響くことはなかったような気がする。その感触に嬉しくなってもう一度だけ、今度は緩んだ顔をそのままに喋る。
「案内してくれて有難う御座いました!」
「・・・・・・」
あとはもう、振り返らない。
スキンヘッドなお兄さんは良い人だけれど、他の人たちのようにあまりあたしに良い感情はもっていないだろうからね。不愉快な思いにさせるのは本意じゃないんだ。
よし、目下の目標は取り敢えず・・・もう迷子にはならないぞー!
「只今帰りました」
「お帰り〜。遅かったね、どうしたの?」
玄関近くでばったり圭司さんに会う。当然の疑問に正直に答えようと思います・・・高校生にもなって・・・アレでした・・・迷子でした。
「道に迷ってしまって・・・」
「あぁ、道が入り組んでいるからね。大丈夫だった?」
「はい」
苦く笑うあたしに圭司さんがさり気無くフォローを入れてくれた、さすがです。
「――学校は、どうだった?」
和やかな会話の流れだったけれど、恐らく圭司さんが一番聞きたかったことはこの話題なのだろう。雰囲気が変わった。あたしはただ正直に感想を言うしかない。
「えーと、納豆よりもネバネバで、ドリアンの匂いよりもキツイ・・・そんでもって、息苦しい・・・そんな感じでした」
「成る程」
圭司さんは呟くように言うと、思案するように長く綺麗な指を唇に添えた。
うーん。様になっているなぁ・・・と感心しつつ、学園で過ごした一日を改めて振り返ってみる。
なんていうか・・・皆が皆お互いの顔色窺って、いつも緊張しながら行動しているのは見ていて物凄く堅苦しかった。学校っていう一つの世界で成り立ってしまっている上下関係や独特のルール・・・狭い世界で様々な思惑が渦巻いているのを感じた。
表面上は穏やかに過ぎていった一日の中にどこかぎこちないクラスメイトの言動――そんな中、一際目立つ大手企業の御子息・御令嬢の皆々様。
あたしは、庶民どころか貧民・・・否、大貧民だからお金持ち同士の事情なんか全く分からない。それでも・・・もう少し、肩の力を抜いて生きていかないと、いつかパンクしてしまいそうだなぁなんて・・・あたしがこんな事思うのも何様って感じなのは重々承知しているけどねー。昔の自分を見ているようで――あまり思い出したくはない過去が頭の隅にチラつくから、柄にも無く心配だな、と思っている。まっ、これは自分勝手な想いだけどね。
「うん、そうか。ところで咲禾ちゃん・・・ドリアン、食べた事あるの?」
「無いですね」
即答すると、圭司さんは唇を歪めて、堪え切れないとでも言うように噴出した。
「くっ、ははは。咲禾ちゃんは強いね、しかも面白い」
「?――そうですか?」
良く分からなかったけれど、多分圭司さんの表情からするに・・・ドリアン食ったこともねーのに何話の例えに出してンだよコノヤローという感じじゃなかったのでひとまず安心。
「今朝、使用人として学園に編入するって言ったときはどうなるかと思っていたけど・・・平気な様で良かったよ」
そう言って微笑む圭司さんは、本当にエンジェルスマイリーの異名に相応しい。
会話が途切れたところで、重要な話を思い出した。
「あの圭司さん、アルバイトってしても良いですか?」
監視されている身の上でこんなお願いが通るかと半ば諦めの入った問いに、圭司さんはこちらが拍子抜けするほどあっさりと首を縦に振った。
「構わないけど・・・。お金の事なら心配しなくて良いんだよ?」
本気でそう言ってくれている圭司さんにあたしは真顔になって彼の目を見つめる。
「いえ。寝床も用意してもらって、学校まで行かせて頂いているのにそこまで迷惑掛けられません」
これは見栄や意地、可笑しなプライドなんかじゃない。
ただ、あたしは毎日をしっかりと生きたい・・・それだけ。
「そう言うけど、家は部屋も沢山余っているし、学園だって咲禾ちゃんが成績優秀だから授業料・入学金・その他諸々免除だし、何も負担なんてないんだよ?むしろ、祥子の件で咲禾ちゃんまで巻き込んでしまったのは俺だし」
「それでも自分のことは自分でやる。これ、当然ですから、気を遣って頂かなくて結構です」
笑顔でそう言ったあたしとじぃっっと数秒睨めっこした後、圭司さんは小さく頷いた。
「――そうか・・・うん、分かった。でも、何かあったら言うんだよ?」
「はい。有難う御座います」
「ふぅ・・・咲禾ちゃんと智慧くらいだよ。俺を丸めこむなんて」
そう言って肩を竦める圭司さんが可笑しくてクスクス笑った。
「ほぁー、すげー・・・」
あたしは今、自室にいる。
昨日はこの広い部屋の中をゆっくり見る暇も無かったけれど、さすが天宮。自室には風呂、トイレ、キッチン完備。
う〜む、至れり尽くせりとはこのことだよなぁー。
いやー今日は転校初っ端から超悪役になるわ、道に迷うわで、安いスーパーも、新しいバイト先の目星もつかなくて、収穫無しかと思いきや・・・台所という問題はコレで呆気無く解決されたわけですよ。うーん、良かった〜。
あーでも、明日の弁当はどうしよーか。
今日、朝ご飯の残りを詰めていた時のあの雰囲気・・・。
というか夕御飯もここで作って食べようかなー。
昨日も圭司さんに言われて天宮一家と食べたけど、なんていうか・・・空気が重かったし、折角の美味しい料理と家族の団欒――その中にいるあたし――台無し。
いやぁ、天宮兄弟はあたしなんか居ないように扱っていたけど、圭司さんが気を遣って話し掛けてきてくれるから、使用人さんたちに滅茶苦茶睨まれた。そりゃスゲー冷めた視線でしたヨ。凍るかと危惧したくらい、あはは。
あの目は語っていたね、目は口ほどにモノを言う、とはよく言ったもんだねー。嫌悪・憎悪・侮蔑・嘲笑・・・そんな熱くも冷たい視線に晒されても料理はメチャクチャ旨かったなぁ。
でも、さ。
やっぱり、あたしってぶっちゃけ邪魔者・お荷物・役立たず。
それくらいは分かっているからね、これ以上迷惑掛けたくない。
圭司さんがあたしに必要以上に構う事で(夕御飯しかり今日の事しかり)天宮兄弟が不機嫌になっている。
そういうのは、嫌なんだー・・・あたしなんかのせいで、天宮親子の関係がギスギスするのは。
だってさ、たかが1、2日過ごしただけのあたしでも分かる程、天宮一家って、スゲー仲が良いんだよ。
こっちが羨ましくなるほど、お互いを思い合っているっていうか。
まだ圭司さんの奥さんである智慧さんには会ったことはないけど、あたしの部屋は智慧さんが用意してくれたのだそうで、所々に垣間見える温かな空気とさりげない気遣いに、胸が一杯になる。
きっと智慧さんが帰ってきたら、この天宮の家は今まで以上に温かで穏やかな空気が流れるのだと思うんだ。
――そこに、あたしという不協和音・・・。
この家の中にある違和感の正体。
天宮兄弟の不機嫌の原因。
今までの事件の元凶の娘。
あたしには似合わない、広くて機能的で、豪華な部屋。
あたしは知らない、温かく穏やかで、包まれるような優しさ。
あたしが憧れていた、家族。
2日間、そばで見ていて分かった。
あたしが密かに憧れていた夢は手にするどころか、触れる事すら躊躇われる、そんな綺麗な世界だった。
全部分かっていたことだけど。
圭司さんは、あたしを気遣っているように見えるけど、実はそんな事はない。ずっと、観察されているのが分かるから。
あたしってば、長年あまりにデンジャラスな人達と関わってきたから、なんていうか、人の感情とかには敏感なんですよ。一種の自己防衛術かな?
うん。
とどの詰まり、あたしはこの家に居る限り大人しく、空気のように気配を消して過ごす・・・そんなこと位しか出来ないけど、天宮一家にはコレで我慢して貰わなくてはいけない。
圭司さん直々の夕御飯のお誘いを丁重にお断りして、自室に付いいた冷蔵庫の中の食材(何から何まで揃ってました)を使って、簡単な料理を作る・・・あー、こんな高級食材を目の前にしてメニューはチャーハンと野菜スープ(コンソメ味)・・・節約術も思わず駆使してしまう自分・・・なんだか切ないかも。
もぞもぞとフワフワ布団に寝転がれば、途端瞼が重くなる。
これから数ヶ月。
トラブルが降ってきたり、湧いてきたりしませんように・・・。
なんだか嫌な予感に捉われつつ、あたしはお休み3秒の早業で、深い眠りに就いた。
拙い文を読んで下さって有難う御座います!