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ジグザグ  作者: 千紫紅
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第4話 「長い人生疲れることもあるでしょう」




「・・・はぁあああ〜〜」

あたしは大きな溜息を吐く、一生縁の無かったはずの、見るからに高級そうな調度品満載で、その癖上品で広過ぎる部屋を見て、再度溜息を落とす。


「さすがに、ちょっと、ねぇ・・・」


今日は本当に色々あったと思う。

あたしは混乱する頭の中を整理するため、圭司さん(そう呼べと言われた)との対話を繰り返す。


そう、つまり・・・圭司さんの父である孝司さんはあたしの母、祥子に惚れ込み、貢ぎまくった挙句、養子にし、祥子の願いを何でも訊いて上げた結果。天宮の恥、ともすれば自身が失脚するような汚く危ない事業にも手を出して、1年後脳梗塞で死亡。


その後圭司さんが≪仕方なく≫天宮を継ぎ、ボロボロの経営を立て直していくことに・・・。しかし、祥子は孝司が亡くなった後も天宮に居続ける。

祥子如く「私は天宮孝司の子供なのだから当然」らしい。しかも、孝司さんに遺言状を書かせていたらしく、遺産もちゃっかり頂き、孝司さんの葬儀が終わる頃には沢山の男と楽しく過ごしていたという・・・。我が母親ながら最低最悪だ。

しかし圭司さんが祥子を野放しにして置くわけもなく、見事天宮と縁切りさせ、旧姓の有園に戻った祥子を追い出した。どんな手を使ったのかは命が惜しいから聞けない。


その半年後、圭司さんは智慧ちえさんと結婚。今日はお友達と出掛けていて帰ってくるのは三日後らしい。圭司さんはこの件を話す時、凄く穏やかで優しい表情をしていたから智慧さんのことをとても大切にしているのだと知れた。あたしも思わず穏やかな気持になって、気持ちが弛んだ。それがいけなかったんだ・・・、再び話し出した圭司さんの目は怒りと憎悪が浮かんでいて・・・その不意打ちにあたしは気圧されて息を呑んだ。







「・・・なんて事をしてくれたんだろうね・・・あの人は」

思い出して、あたしも遣り切れない感情が溢れ出す。

散々あの人のことで苦労してきたけど、それでも、仕方ないと思っていたのは紛れも無い、あの人が自分を生んだ母親だからだ。

例え、あの人がどう思っていようが・・・真実親子だから。



それなのに――。

圭司さんは思ったよりも落ち着いた声で語ってくれた。きっと物凄い努力と労力を要したのだろうと思う。


祥子が出て行って一年。圭司さんと智慧さんが結婚して半年、所謂出来ていました結婚(結婚当初知らなかった)だった智慧さんのお腹には長男の志月さんが居たのだ。それを当時引っ掛けておいた天宮の使用人から伝って知った祥子が自分を追い出した腹いせに、智慧さんの外出中を狙って、階段から突き落としたのだ、しかもお腹を庇いながら落ちた智慧さんの顔を殴り、腹を殴ろうとしたところを、通行人に見咎められ、逃走したらしい。

智慧さんは軽い掠り傷と顔が腫れたこと以外、異常は無く、子供にも影響なかったが、それは本当に奇跡としか言いようが無かったらしい。


――言葉も出なかった。

あたしは何も、言えなかった。

終わったこと、それで済まされるべき事じゃない。

圭司さんの顔を見ることが出来なかった・・・それでも、それは逃げる、ということだから、みっともなく震える身体を叱咤して、向き直った・・・あたしに出来る事といえばこれ位で、情けなさ過ぎて歪みそうになる顔に、奥歯を噛み締めて堪えた。



圭司さんはそんなあたしを待っていてくれて、あたしが頷くと、また話しを再開した。



圭司さんは、警察に報せようとしたらしいが、智慧さんがそれを止めた。大丈夫だから、と笑ったそうだ。圭司さんは渋々了承し、智慧さんの警護を万全に整え、祥子と繋がっていた使用人を即刻クビにしただけなのかは、命が惜しい以下略。

それからは祥子などの妨害にも遭わず、無事に長男・志月さんを出産。それからは穏やかな日々が過ぎ、次男の遊月さんにも恵まれ、祥子の存在を警戒し、警護を整え何事もなく出産。


幸せな日々が過ぎ、天宮は日本のトップとなり世界的にも有名になって、テレビや経済新聞、雑誌で天宮の文字を見ない日は無いほどになっていた。事件は今から数年前、志月さんが15歳、遊月さんが13歳の時、祥子が2人を誘拐――しようとしたが、返り討ちに遭い、失敗。祥子は何を思ったか、32歳とは思えない若々しく美しい外見を生かして、志月に迫ったそうだ。しかしそれも失敗。

志月と遊月は、現場から逃走し、圭司に嫌悪感露に報告。

圭司はソレを訊いて、過去の出来事を全て話した・・・2人の怒り様はさぞ凄まじかったのではないかと、あたしは思う。



そして現在、今日から3日程前に、祥子から脅迫電話があったらしい。如く「昔やっていた違法の数々を世間に暴露してやる」というもの。はっきり言って馬鹿だ〜馬鹿すぎる。


だってねぇ、天宮デスよ?日本でトップの天宮。

それを今や一般人の祥子がどうこう出来るわけが無い。

あたしはソレを訊いて呆れを通り越して脱力したさ。

圭司さんは「まぁ普通はそういう反応だよね」と言いながら、あたしを探るように見詰めた。

あー、なんだか取り調べを受けているような気分だったねー。

暫くの沈黙の後「咲禾ちゃんは何も知らないんだね」と呟くように言われれば何を?と思うじゃありませんか。


訊いてみればどうやら祥子――天宮とまでは行かなくとも、国内では知らぬ人はいないであろう大企業≪狭山コンツェルン≫と繋がっているらしい。

狭山は今、結構悪どいことに手を出しているご様子。祥子とは裏の方で知り合ったのだろうと圭司さんは言っていた。

一体あの人は今なにをしているんだ・・・。

思わず気が遠くなりましたヨ。あはは。


祥子がメディアに言っても相手にされないだろうが、狭山コンツェルンが訴えに出れば全く違うシナリオになる。

圭司さんが継いでからの天宮は全くの潔白で、訴えられたとしても先代の孝司さんの時代のことなのだから、と思うが・・・そこは一時的でも養子に入っていた祥子が嘘八百でも千でも並べ立てれば、養子だった事実、そして追い出されたというのも脚色すれば、あっちにとって面白い物語になる。しかも信憑性は十分だ。



あたしはそこまで考えて、じゃあ、自分が何故天宮に居るのかを考える。母と子だから何か情報を持っていると思ったから?あたしを人質に取ればあちらが降伏するとでも?違う、違う。

自分で言うのも何だけど、天宮にとってあたしなど何の価値も無い・・・では、何故あたしは此処に居る?


圭司さんはその疑問に簡潔に答えてくれましたよー。


「用心には用心を。言わば監視だね。君は祥子をどう思っているか知らないが中々にしぶとい女で悪知恵が利く。害虫のようにウロチョロされるのは我慢の限界なんだ――俺、潰すから・・・」



あはは。

滅茶苦茶怖かった。

うん、圭司さんに逆らったらいけないね。

日本は愚か、世界のどこでも生きて行けないよーきっと。




まぁ、ちょっと複雑だけど。

やっぱり罪は自分で償うべきだと思うから・・・圭司さんは優しい人だし、あの人を国外追放するくらいで納まりそうだし、あたしもあの人は長生きすると思うから、大丈夫だろう。


さて、あたしは大人しく監視されるという事になりました。

あたしに異論なんてある筈もない。

身内が阿呆なことしているのだから、むしろ当然。

圭司さんにはコッチで勝手に監視させて貰うことになるから、この家で暮らして欲しいという事、学校はすでに編入届けも出してあり、志月さん(なんと高校3年生)と遊月さん(なんと高校1年生)2人と同じ学校に通う事になりました・・・お金持ちのご子息ご令嬢が通う、小中高エスカレーター式の巨大な≪不知火学園≫・・・しかも早速明日からご登校。あー幸先不安だぜ、このヤロウ。



「あぁーどんな日でも明日はやって来るんだよねー」

一人で呟いて、なんだかちょっと笑えてきた。

おっと、これはヤバイぞぉー。

人間疲れると意味不明な行動をとってしまうものだからねー。


これはさっさと風呂に入って寝るか〜。

足を伸ばしても余るくらい大きな風呂に感動しつつ、風呂から上がれば・・・まだ午前10時。あれ?もう一日経ったのかと思ってマシたよ。


「うーん・・・まぁ疲れたし。睡眠とれる時に取っとこう」

頷きつつ、寝室のドアを開けばスゲーでかいベッドがあった。

実はあたし、初めてベッドというもので寝る。


いつも薄い敷布団にペターっとした重い布団だったからなぁ。

そろそろとベッドの上に寝そべってみる。

おぉっ・・・スゲーふかふかだぁ〜。

この布団には何が入っているんでしょー?


寝心地の良いベッドに身を委ねてしまえば後は簡単。

もう瞼が重い・・・思ったより疲れていたみたいデス。

霞がかった意識の中で圭司さんの顔が浮かんだ。

監視を了承したあたしに去り際呟いた「覚悟しておくんだよ」という言葉・・・様々な思いが含まれていて・・・あたしはきっと明日から今まで以上の波を乗り越えていかなければいかなくなるのだろうと。朧げにそう思った。




読んで下さって有難う御座います!


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