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ジグザグ  作者: 千紫紅
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第2話 「尾行されている自分は至ってまとも」




どんな事があっても朝は来ます。

そう、例えどこかで大きなテロが起ころうが、大統領が暗殺されようが、そんなことでこの大地は、地球は、揺らがない。


まぁ、最近は温暖化とかで、人間が自分達で自分の首を絞めている事態になっていて、地球も苦労してマスけどね。


そんなだから、あたしみたいな小市民一人に何が起ころうが、地球どころか新聞一面も飾れないわけでして(まぁ惨殺事件ならイケルか?)何が言いたいのかと申しますと、昨日のことは全く大した事じゃないって事ですよ。まぁ、貴重な体験でした。

そう、昨日のことはもう過去で、今は今日と言う日を如何に楽しく生きるかってことが重要。



「んー、顔洗わないと・・・」

光り輝く太陽に起されたあたしは、水のみ場へと直行。

あ、因みにベンチで寝た。学校の制服が皺にならないように座ったまま・・・コレ数少ないあたしの特技だから良く覚えとけぃ!テストに出るかもよ?(出ません


伸びっぱなしの長い黒髪(散髪するお金ナイから)を邪魔だから一つに結って、バシャバシャと顔を洗う。ついでにうがいも忘れない。

冷たい水に完全に目が覚めたあたしは、うーんと伸びをすると、公園の時計で時間を確認。


「7時、か・・・早いけど学校行こうかなー」


そうすることに決めて、カバンを手に、歩く。

こんなあたしでも一応高校行ってます。

言うまでもなく公立だけど、学校行けるだけでスゲー満足。しかも、友人や先輩方は良い人ばかりで、運動部の部室にあるシャワーを何も言わず貸してくれるのだ。こういう野宿生活になって、銭湯代が浮くのはとても嬉しい。だってね、銭湯を利用するとなると大人ひとり400円も掛かるんだよ?

それこそ毎日入っていたら馬鹿にならないお金が掛かる――・・・!!

あぁ、しみじみ思います――皆イイ人ばかりであたしはなんて恵まれているのかと!!






―――――んー?あれれのれ~???


なんだろうか、この違和感。


今、普通に学校に向かって登校中なんだけど・・・どうやら後をつけられているみたいデス。気のせいかと放っておいたけど、態と複雑極まりない道を歩いているのにピタリと一定の距離を置いてついてくる。

あたし、尾行されるような事したか?

人を後ろから観察するのが好きな変態が知り合いにいたか?

答えはNO。


ここは逃げるべき?

いや、あたしは何も疚しいことはないんだからソレは可笑しい。

じゃあ、話し合い?――「貴方、尾行またはストーカーする人を間違えていますよ」って?


あ~・・・・・・・・うん。


え?これでも真面目に考えていますけど??脳みそフル活用ですけど!?

兎にも角にも、まずは向き合って話し合い・・・かな。


あたしはクルッと向きを変えると、怪しい人影に向かって疾走する。

うー出来るなら貴重なエネルギーを消費したくなかったのに!空きっ腹に朝の運動はきつい――これ、万国共通の常識でしょー。

その人は驚いたように固まっていたけれど、動じずにあたしが来るのを待っていた・・・うん、有り難いよ。どうかそのままでプリーズ、これ以上走ると何かが終わる気がするんだよね、何かが。


やっと謎の人影さんのお顔拝見――あららのら~??

その人は意外や意外、世間一般で言う、イケメンさんでした。

しかもどー見たって20歳前後だろうという若さ。あたしもここまでの美形はあまり見たことないっていうくらいの神々しさですよ。後光が見えるよ、うん。

ま、褒めちぎっておいてなんですが、そんなことはどーでもいいんだよね~?イケメンだろうがタンメンだろうが、他人の後を尾行するなんて行動はメチャクチャ怪しいことですから。もしも探偵や興信所の人間なら見逃そうとは思うけれど、可能性は限りなく0に近い。だって、プロは人間違えなんてしないからさ。



だから――「何者ですか?」



という誰何は可笑しくない、はず。

なのに、目の前のイケメンだけど怪しいお兄さんは笑った。

それもニッコリじゃない、ニヤリ。

口端を吊り上げ、あたしを品定めするかのようにじっくり眺めたあと、その整った顔を歪めて心底見下した感じで吐き捨てた。



「お前があの馬鹿女の娘か」



それで十分。

このお兄さんは、ストーカーでも探偵でも、興信所の人間でも、人間違えをしていたのでもない。≪あの馬鹿女≫の娘である、あたし自身をつけていたのだ。

これで納得がいく・・・イヤ、あんまし良くない方に向かってはいるけれど。


あぁ、それにしてもあの人は――今度は何を仕出かしてくれちゃったんだろーね?

朝っぱらから面倒だ、厄介だぁ〜。



有園咲禾ありぞのしょうかだろ・・・返事も出来ないのか」



反応の無いあたしをその長身で見下ろし、嫌悪と蔑みの混じった声で名前を呼ぶ。

あぁ、怒っていらっしゃるー。

あたしが黙っていたのは、この人に対する反抗心からでは全くナイ。


――側の家から漂ってきた味噌汁の香りに、気を取られていたからだ。


どーでしょう、この切実な理由。朝ご飯抜きのあたしにこの香りは拷問デスヨ。あーあたしのお腹がスゲー音で飯くれコールをしちゃったら顰め面したお兄さんはどうするんだろう・・・気になる。


人間離れした秀麗なお顔がポカーンと間の抜けた表情をするのを想像したあたしは猛烈に見たくなった。あぁぁあああもどかしい!!あたしのお腹鳴らないのか?何で今鳴らないんだっ、いつもシーンと静まり返っている式典なんかで騒ぎ立てるのに!!さぁ、あたしの妄想よ現実になれ!


あたしがじぃっっと自分の腹に念を送っていると、すぐそばから只ならぬ殺気が・・・あ、やべー。さっぱりかっきり忘れてた。

お兄さん、あたしに無視されてキレそうだ。

うん、回避せねば。



「あーはい、あたしが有園咲禾です。初めまして」

「喋るという行為に随分と時間が掛かったな。しっかりと馬鹿女のDNAを受け継いでいるようじゃないか」


おーおー。強烈な皮肉。

遠慮が無いねー、これは嫌いってレベルじゃないね。

もう憎んでいるよ、憎悪だよ。あたしドロドロした感じ苦手なんだけど?

でも・・・怯んでいる時間はないみたい。あちらさんの様子からして長いお話になりそうだ。それならば――サラッと本題行きましょう。だって遅刻の罰掃除は面倒だ。


「はぁ。それで、あたしに何か御用でも?」

「・・・」


ありゃ、あたしの慇懃な態度にカチンときてマスね、お兄さん。

え?態とじゃありませんよ。我らが担任まーちゃんこと赤津昌巳あかつ まさみ先生が『有園の敬語は気持ちが全く入ってないから馬鹿にされている気がする・・・』と半泣きで語ってくれマシタから〜。その後まーちゃん宥めるのは大変だったよ。うん、直す気ないデス。



「――着いて来い」

「それは無理です」

あたし即答。

あーお兄さんの眉間の皺が、うん、なまじ顔が良いから怖い。

「・・・何故だ」

お、あたしの意見を訊くのか。


う〜む。どうやら強行な手段に出るような野蛮人(失礼)ではないらしいデス。いやーあたしもヤクザさんとかじゃ無いと思ってはいたけど・・・一応ね。人は見かけに寄らないし。



なんてったって今まで“あの人”関連でやって来た人達は、血走った危ない目をしながら突然(昼夜問わず)やって来ては有無を言わさず「あの女はどこだ!!!」って具合に殴りかかって来るものだから、あたしも平和で穏やかな話し合いが出来なくて・・・うん。仕方なく武力行使させて貰いました。と言っても、やっぱりあの人の子供だから借金の取立てなんかには応じていたけど・・・お陰で貯金も貯まったかと思えば新しい取立て屋に持って行かれるし。

あーそう言えば明後日か。ローンにして貰っている分が引き降ろされるの・・・今月はちょっと苦しいなぁ〜。


脱線したけど、あたしが何を言いたいのかっていうと、今までやって来た危ないおっさんや、お兄さんたちに比べれば、このイケメンお兄さんは、スゲー常識的でお優しいってこと。

そう考えるとラッキーか?

うーん、ポジティブに行こう。


――おっと、ヤベッ。

お兄さん待たせたまんまだった!


あたしは「穏便に済ませる計画」が台無しにならないように、さも思案に暮れた結果、考えが纏まりましたよー的な雰囲気を漂わせつつ、口を開いた。


「今から――学校がありますから・・・ご用件ならここでお聞きします」

用心に用心を重ねマス。

だって、あたしの母は言わずもがな・・・血縁者であるあたしの事も大嫌いです!憎んでいます!というオーラをバンバン出している人にノコノコ着いて行って、袋叩きに遭いました〜じゃ、あんまりじゃないか。


「学校、ね。行く必要は無い」

「ハ?何で?」

あ、素で話しちゃったよ。

おぉっとお兄さん、そんな満足気に邪悪な笑顔を浮かべないで欲しい。

嫌な予感がヒシヒシと伝わってきますよー。




「もう退学届けは出してある。理事長からの印も貰った。よってお前は学校へ行く必要はない」




おー、予感的中。

さり気無く、お兄さんを観察・・・あーどうやら本当の事らしい。

さすがにそんな事になっているとは思っていなかった。

というか、あり得ないじゃないデスかー普通は。なんでこんな事態になったのか情報が少なすぎるしさ〜・・・こうなると、もう仕方ないよね。

きっちりはっきり話を着けないと、あたしのハッピーライフに支障が出る。


「取り敢えず、お話を聞く必要があるのは分かりました」

あたしが言うと、お兄さんは軽く頷きさっさと踵を返した。

「――行くぞ」

「はい」



すっげー嫌だけど、着いていくしかないでしょう?




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