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ジグザグ  作者: 千紫紅
12/15

番外編1 「どーゆーこと。そーゆーこと。」

番外編1 「どーゆーこと。そーゆーこと。」



「まーちゃん先生、どーゆーことですか」


しーんとした教室にあたしの声だけが教室に響く。

睨むようにして担任を見据えても、まーちゃん先生は困った顔をするだけだ。

その表情は、聞き分けの無い子供を仕方が無いなーと見下ろす大人のソレだ。

あぁ・・・腹が立つ。


「いや、だからな、有園は家の事情で転校となったんだ。急だったが・・・本人も納得していた」

「――納得?」


違う、違う。

そうじゃない。

あいつは・・・咲禾は・・・。


いつも笑っていて。

どんなに辛くても、笑っていて・・・ずっと友達やってるあたしでも涙なんか見たこと無くて。



――あぁ、そうか。



また笑って引き受けたんだ。

また荷物を背負ったんだ。


なにやってんの?

あんた頭良いくせに、本当は馬鹿なんじゃないの?


馬鹿な奴。

いつも笑ってないで、ちょっとは嫌だって怒ってみなさいよ。

今のあたしみたいに・・・子供みたいに駄々を捏ねてみなさいよ。

あんたがそうやって、聞き分けの良い子をやってるから、見てるこっちまで腹が立ってくるじゃない――苦しくなるじゃない。


そうよ。

あんたそんなに一杯荷物抱えてどうするつもり?

そんな重い荷物背負ってどこに消えたのよ?


どうせ、あんたの事だから、親切に荷物をもってあげようとした人にも笑って「大丈夫」だって言うんでしょ?

どうせ、あんたの事だから、いらないお節介焼いて新しい荷物をほいほい引き受けるんでしょ?




ねぇ、咲禾。




「・・・・・赤津先生・・・」

普段使うことの無い、苗字でまーちゃん先生を呼ぶ。

それは縋る様な声音だったかもしれない。


「有園さんは・・・笑ってましたか?」

「―――ああ。笑ってた」



言われた瞬間「あぁ、やっぱり」と、納得するのと同時に胸がズキズキ痛んだ。



「おい!長谷部!!」

まーちゃん先生に呼び止められけれど、あたしは足を止めなかった。

教室を飛び出して、全力で廊下を駆け抜ける。




どうしよう、どうしよう。

泣きそうだ。


咲禾。


何で行っちゃったのよ。

あたしに一言も無しってわけ?

この薄情者。馬鹿。阿呆。間抜け。



思いつく限りの悪態をついて、気を紛らわそうにも、上手く行かない。



「っ・・・何・・・!?」

ぐいっと腕を掴まれて後ろに倒れこむ。

あたしを受け止めた人は長い溜息を吐いて、仕方なさそうに呟いた。


「廊下を走るなって、小学校で習っただろう?」



「・・・まーちゃん先生・・・何で?」

「バカ。自分の生徒が教室から逃走したんだぞ。追わない訳ないだろ」

「でも・・・いっつも放って置くじゃないですか」


「それはサボりたい奴とか、一人になりたい奴とか・・・後は・・・トイレ行きたい奴とかだけ。長谷部はどれにも該当してない」

「・・・一人になりたいです」

「駄目」

「何でですか」


「一人にしたら泣くだろ?」

「!!」


「だから、だーめ」



あぁ、もう。

本当にこの先生は腹が立つ。

普段はやる気無いのにこういう時は、何もかもお見通しみたいなそんな目で見るなんて・・・悔しい。


先生に抵抗するように俯いていると、無理やり顔を上げさせられた。


「・・・もう、泣いてんじゃん」


そっと、伝う涙を拭う手が優しい。

突然のことに呆然としていたあたしは、泣き顔を見られたことや、あまつさえ涙を拭ってもらったことを自覚して、羞恥に顔を真っ赤に染め上げた。


「――な、泣いてません!」

「あーはいはい」

「・・・・・・教室に戻ればいいんですよね・・・行きますから。もう大丈夫です」



「本当に?」

「――え?」



「長谷部、お前も有園も、泣かないな。今日初めて見たよ泣き顔」

「・・・・それは・・・」

「声を荒げたところも、初めて見た」

「――だって、咲禾が・・・いつも笑ってるから・・・」


悲しみとか、苦しさとか、心細さとか・・・無いはずがないその感情を、全部包んで強く綺麗に笑うあんたの隣であたしも笑っていたかったから・・・。



――だから――。



「――実は、有園から、お前宛ての手紙を頼まれてたんだ」



息を呑む。

咲禾からの手紙・・・。



「ほら」

差し出された無地の淡い水色の封筒を受け取る。





由香里ゆかり


突然だけど、転校することになりました。

急で時間も無かったからお別れもできなかったけど、まぁ元気でやって下さい。

んじゃ、遅くても半年くらいで戻ってくると思うから、心配しないで下さいねー。

では、また。


咲禾より





は・・・・・・・・・・・。

え・・・・・?

半年?

戻る?



「・・・・・・センセイ・・・」

「うん」

「どーゆーことですか?」

「うーん、まぁ・・・そういう事なんです」

「・・・・・・・・っ!!!」

「は、長谷部、落ち着け。深呼吸しろ深呼吸」

「有園咲禾・・・許すまじ」

「・・・喧嘩はほどほどにな?な?」

「喧嘩?そんな甘いものじゃないですよ。先生」

「お、おいおい!」


「さぁ・・・手始めに・・・まーちゃん先生」

「は、はい」

「どーしてさっさと教えてくれなかったんですか・・・?」

「え?いや、その・・・」

「――あたしを揶揄って遊ぶなんて・・・」

「なっ!違う!誤解だ長谷部!!」

「問答無用。天誅!!」




あたしは、少量の血痕がついた拳を高々と振り上げる。

ふふふ・・・咲禾、戻ってきたら覚えてなさいよ!!!

ある意味すっきりしたあたしは、教室へ戻ろうと踵を返した。

勿論、まーちゃん先生は置き去りだ。





その頃の咲禾・・・。


「アレ?なんか悪寒・・・」

やべぇー三日前、新種の雑草にチャレンジしたのが不味かったかなー。

いやいや、それなら腹ですよねー。


「うーんと・・・まーいいか」




半年後、まーいいか・・・で終わるのかは分からない。




咲禾の親友、長谷部由香里はせべゆかりさんです。類は友を呼ぶというか・・・笑

半年後が楽しみです。

では、ここまで読んでくださって有難うございます!

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