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【8】武道大会~二戦目はダガー男~

 あたしの第一戦は、かくもあっけなく終わってしまった。


「お前って結構強いんだな、あっという間だったじゃないか……」

 ヘタレ格闘家は、意外そうな顔であたしを見て言った。

『え? あっという間はあんたもじゃない?

 でも、あんなんじゃ全然戦った気がしないよね』

「んあ? あ、あぁ……そうかもな」


 武道大会に期待して参加したからには、次はこんな勝負じゃないといいな。

 この予選で選手の数も半分に減った。

 参加選手は101人だったから、1人戦えなくて、残りは51人だ。あと五回ここで予選が行われるのだ。

 各ブロックから代表が1人っつ出て、その5人が準々決勝に進出する訳だね。


「予選第2戦を開始します!

 1番4番はブロック1の格闘場へ、22番、23番はブロック2の格闘場へ……」

 予選第2戦はすぐに行われるらしい。


「あ。オレ最初だ、行って来る」

 今回ヘタレ格闘家が一番目か。でも、対戦相手はまたさっきと同じ感じの筋肉男だね。

 ヘタレ格闘家が筋肉男に負けるとは思えないし、あたしはちょっと用事を思い出したので、この試合は観戦せずに席を立つ事にした。

 少し湿った空気の涼しい廊下を通り、ある部屋のドアをガラリと開けた。そこは試合で傷ついた選手達が収容されていた。

 けが人が収容されているこの部屋は、もちろん医務室だ。

 キョロキョロと部屋の中を見渡すと、椅子に座って苦痛の表情を浮かべているフヌフヌを発見した。


『よッ! フヌフヌッ! 元気そうだねッ!』

「な……ッ!? あ……」

 フヌフヌはあたしに気付くなり、ビクッとして怯える表情をした。

 それを見て、あたしは大男が怯える顔も悪くはないなと思ったけど、あたしには太マッチョの筋肉男への興味はない。

 フヌフヌは包帯でぐるぐる巻きになった両手を、中途半端な高さに浮かせ、無意識だろうけど防御の体制をとっていた。


『ん……なんだ、包帯巻いただけかぁ。

 ここって魔法治療士っていなかったんだね』

 魔法治療士とは、プリーストやクレリック等ヒーラーと呼ばれるクラスが、医務室等で治療業務に専念している場合に呼ばれる総称で、実際にはそういうクラスは存在しない。

 "何とか係"とかそいういう類のものだ。

 こういう大会の場合、魔法治療士は待機させておくのが常識だと思うんだけどね。


『しょうがないなぁー』

 あたしはフヌフヌの力なく差し出す両手をつかんで言った。


「うわッ! も……もう許してくれ……」

 フヌフヌは完全に怯えきって、力なくその手をフルフルと震わせていた。

 しかし、フヌフヌはこんなに怯えて、一体何があったって言うんだ。


『少しじっとしてるんだよッ!』

 あたしは手のひらの内側の、フヌフヌの手の甲にのみ集中して回復魔法をかけてあげた。

 手のひらの中だけに魔法を集中して、回復魔法で発生する、聖なる光を回りに放出しない様にした。もちろん、他のけが人に知られない為に。

 ケチ臭い様だけど、武道大会は全力で戦いたいから、魔力は温存させておきたいんだ。魔力が低下すると集中力にも影響があるからね。

 フヌフヌはあたしが怪我させちゃったから特別だけど、他の連中は大会が終わった後にでもさせてもらおうかな。


『ほら、これでもう大丈夫でしょ?』

「うぅ? あ……あれ? 手が痛くない? 治ったのか?」

 フヌフヌはぐるぐる巻きになった包帯を解くと、手をグーにしたりパーにしたりして確かめていた。


『神の祝福がフヌフヌにもあらんことを』

「あんた……プリースト? だったのか」

『そっ。正確にはプリーステス? だけどねッ!

 じゃぁ、あたしは戻るから』

「あたしって……お前女だったのか!?」

『うむ。まぁそれもいつもの事さ』

 フヌフヌの目は、必死にあたしの体にあるべき何かを探してる様子だったけど、その視線の先は一向に定まっていなかった。いつもの事だ……。

 その後、予選会場に戻ると、既にヘタレ格闘家は椅子に戻っており、退屈そうに他の試合を眺めていた。


「ん? お前どこ行ってたんだ?」

『ちょっとトイレにね、ヘタレは勝ったんでしょ?』

「あぁ、何とかな。

 つか、すっかりオレの名前ってヘタレで定着してるよな」

『どう? 強そうなのいた?』

「(オレの事に興味ないのが丸分かりだな)あぁ……、お前と同じ第1ブロックのあのナイフ使いは強そうだぞ」

『ナイフ使い?』

 ヘタレ格闘家の指さす方向を見ると、小柄な人物が椅子に座っているのが見えた。


「あの男、ナイフの腕も去ることながら、剣さばきも相当なもんだな」

『ふーん、座ってるって事はもう終わったの?』

「今さっきな。それはそうと次あたりお前の番だが、次に勝ったらアイツと当たるぞ」

『そっか、楽しみだねッ!』

「17番、19番はブロック1の格闘場へ、36番、40番はブロック2の格闘場へ……」

『よしッ! 行って来るよーッ!』


 あたしはヘタレ格闘家に手を振ると、ブロック1の格闘場へ小走りで向かった。

 小走りな理由は、もちろんピンクのドレスの女性の歓声をなるべく短縮にする為だ。


 ブロック1の格闘場に立つと、反対側に細身でやけに手足の長い男が立っていた。

 その男の両手には、それぞれ何枚もの刃が付いているダガーナイフが握られていた。

 今度は接近型の相手だし、かなり期待できるかもしれない。


 やがて、中央のドラが鳴って試合が開始された。

 腰を折り曲げた前傾姿勢のまま、全く足音を立てずに走って来るその姿から、ダガーの男が暗殺系の技を持つことが分かる。

 それに対して、あたしはわざと不定期な速度で近寄ってみた。速度を上げたり下げたりすると、相手のペースが狂うんだ。

 ダガーの男は間合いに入る直前でグンと加速して、自分だけが攻撃できる間合いを作った。

 この男は手足が長い分、あたしより間合いが広い。あたしはもう一歩は踏み出さないと、間合いには入らない。

 だが、男はニヤリとして間合いを保った。あたしが一歩出ると一歩下がり、すかさずダガーを振るってけん制する。

 自分だけが常に攻撃できる距離を保つつもりだ。

 それも作戦だろうけど、あたしにはちょっとストレスの溜まる相手だった。


 次にダガー男がその刃を振ったタイミングに合わせ、あたしは片手棍の連撃でダガーをはじくと、鋭いダガーの刃が砕けて飛び散った。

 その時、ついでにストレス発散を兼ね、ダガーを持つ手にも数発当ててやった。

 これで、少なくとも指の骨が2~3本は折れた事だろう。

 片手が凄い勢いではじかれた事に焦ったダガー男は、すぐに間合いを取ろうと後ろに飛ぼうとした。

 しかし、ダガー男が後ろに飛ぶことはなかった。

 ガクンと体全体が揺れただけで、その場から動かずにいたのだ。

 ダガー男が後ろへ飛べなかった理由? それはあたしがダガー男の右足を思い切り踏み付けていたからだよ。


「ぬぐッ!?」

『残念だったねッ! せっかくの獲物だし、逃がしゃしないよッ!』


 ここであたしは一気に畳まず、足を踏んだまま動きを止めて、ダガー男がどう出るのかを待ってみる事にした。

 ダガー男は、右手が使い物にならなくなっているのを目先で確認すると、ニヤリとして左手に持ったダガーで斬りかかって来た。

 それを迷わず右手の連撃で跳ね飛ばすと、ダガー男が不自然に大きな口を開いた。


「うがッ!?」

 あたしは左手の片手棍をダガー男の口にねじ込んでいた。突然あんな大きな口をあけられたらね。

 このダガー男は左手を犠牲にして、口の中に仕込んでいる何かを撃とうとしていたんだ。

 きっと、切り札ってやつだろうから、その一撃は人を殺せる位の殺傷能力を持っている事だろう。


『連撃まで一秒前!』

「がッ! うがうがッ!!」


 この勝負は結局ここで決着が付いた。

 うん、今のは少しだけ面白かったかもね。

 左手を犠牲にするって作戦を考えついた辺りとかは悪くない。悪くはないけどあれじゃ不自然過ぎてバレバレなのがダメだ。もっと自然にしなきゃ。

 ダガーの腕前に関しては、リーチの長さに頼りきってて、特筆するものは何もなかったね。


「勝者17番!」


 あたしの勝利を審判が告げると、またピンクのドレスのおばさんの黄色い歓声が聞こえて来たのは言うまでもない。


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