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【77】魔法学校時代の同級生

 今回の国葬式典は、先日起こったエクトでの戦闘によって、命を落としてしまった戦士達を追悼する式典である。

 エクトの要塞が、ラーアマーの魔物に襲われた結果、合計死者4,858名もの大きな犠牲を出してしまっていたらしい。

 もちろん、これ程の被害はそうそう起こるものではない。


 おさらいすると、ここで言う魔物って言うのは、正式にはアクエラ連邦国の事なんだけど、国家間で戦争してるにもかかわらず、国は戦ってる相手をエクトの兵士にも魔物とだけしか伝えていなかった。

 さらに国民には、魔物と戦っていた事すら知らされてもいなかった。

 戦闘からたった数日間で、停戦協定がすんなり結ばれる事となったのは、そうした情報操作がもたらしたものかもしれない。

 いや、もしかしたらだけど、とんとん拍子加減から、最初から停戦を想定していたのかもしれない。


 世界地図では、アクエラ連邦国が存在する場所は、ただの空白になってる。

 マトラ王国は情報を隠蔽している事にもなるけど、その理由は一国民のあたし達にはわからない。まぁ、知っていたとしても国交がないので、行くこともできない訳なのだけど。

 国家間の政治的な事情があるのかもしれないけど、そもそもマトラ王国の国民は、アクエラ連邦国と言う国名を知らなかった。


 アクエラ連邦国の委員会の一人であり、魔の者の王族のミカルラ・ルエ・イスレルは、「わたくしとお友達になりましょう」の一言で、あたしと友人関係を結んだ。

 つくづくミカルラは有能だと思う。

 しかも、あれを策として行っていないのだから恐れ入る。

 純粋に、あたしと友達になりたかったからと言うのだから。

 あたしなら、戦争してた国の人間に、そんな事は策略なしには言えないかもしれない。

 で、それによってミカルラが得られた成果は、実質の神託の女神とのライン。

 これは多分、アクエラにとっては非常に大きな成果になるだろうね。

 あの国は、再びの神託を求めて100年以上が経つのだから。


 でね、ちょっと思ったんだけど、あたしは今後、アクエラ連邦国にたびたび行く事になるんじゃないかな。

 停戦協定式典のあの様子から何となく察した訳だけど、次がないのならわざわざ一回目を作る事もないだろうから。

 つまりマトラ王国が、アクエラに神託を許さないのなら、あたしの参加は絶対なかったと思う。

 マトラ王国は、絶対何かしら考えてのはずだ。

 でももし、本当にそうなるとしたら、あたしとしてはちょっとうれしい事かもしれない。

 もちろんお仕事で行く訳だけど、知らない国に行くのはワクワクする。

 何しろあの歓迎ぶりだし、どんなおいしい料理でおもてなしされるのかも含めて。

 だけど、できればその前に、スフェーンの問題を解決しておきたいかな。

 旅の途中で抜けるのは、やっぱ嫌だから。


          ***


 あたし達は、王国が手配してくれたホテルに泊まる事になった。

 それは何と、セレブが泊りそうな地区の高級ホテルで、あたし達をじっと見つめていた警備員がいた所だった。

「こちらには何かご用で?」

 ビクビクしながらあたし達が近づいたのを、やはり警備員も不信に思ったのだろう。まぁ、当然の反応だとも思うけど、これは完全に不審者と思ってる目だよ。

「ご用があるから来たのよぉ。あたし達は王国から国葬式典に招かれてて、二日間ここに泊る事になってるのぉ」

 スフェーンが応対してくれた。あたし達の中で、一番セレブな雰囲気があるとしたらスフェーンだもんね。喋り方的にも。

「これは失礼いたしました。フロントにご案内いたします。こちらへどうぞ」

 仕事柄だからかな、警備員は特にうろたえる事もなく、あたし達をフロントへ案内してくれた。

 フロントで名前を書くと、すんなりと部屋に案内された。

 ちなみに名前を書いたのは、スフェーンとあたしだけ。後は合計何名として書いた。二人が四人に増えても問題ないのかちょっと心配したけど、その位は特に問題はないみたいだ。こういう式典に参加する人って、お付きの人とか連れてたりするからなのかも。


 案内された部屋は、全てがゴージャスな部屋だった。それどころか、一家族が普通に暮らせる設備もある。部屋もいくつもあった。思った通り、お付きの人用っぽい部屋もあって、それも二つもある。何だこのロイヤルスイートな世界は。

 正直、あたし達にはお付きの人用の部屋一つだけで十分な気がした。そこには小さいながら、お風呂までついてたし。

 入ってすぐにお付きの人用っぽい部屋が二つ。そしてキッチンとトイレ。その奥に結構大きな応接間があって、立派なジュウタンが敷かれていて、テーブルとソファーがあった。その先に寝室が三つもある。

 これは、一人一部屋使っても一部屋余る計算だ。その場合、一人はお付きの人の部屋になるけどね。だけど、多分……いや、間違いなくだけど、あたしとスフェーンとイシェルは、同じ部屋に寝る事になるだろう。ヘタレ格闘家だけ、心おきなく一部屋満喫する事になるんだろうな。

 たとえ最初にそれぞれが一部屋おうって言っても、寝る時になったら枕持参で集まるに決まってる。イシェルはあたしと寝たがるのは確実だし、スフェーンはイシェルと寝たがるからね。その条件を満たすためには、そうする以外ないのだから。


「アハッ! 奥にも三部屋もあるじゃなーい?」

「うん、すごいね」

 スフェーンとイシェルは早速寝室を覗いている。あたしもベッドが気になって、その後ろから中を覗いてみた。

 なるほど、これがキングサイズのベッドと言うものか。さすがに大きいな、これなら三人横楽々になれるだろう。キングサイズのベッドは、三人が縦になろうが横になろうが、楽に眠れるだけの大きさがあった。

「お前らはそっち使うだろ? オレは手前のシンプルな部屋のが気楽でいいや」

 このヘタレ格闘家の発言は、遠慮したと言うより本心だろう。あたしも正直奥の部屋は興味はあるけど、寝るとしたらちょっと落ち着かない。

 装飾だとか美術品だとか、やたら余計なものが多すぎてギラギラしてるんだ。だけど、お菓子と果物だけは欲しいかも。お菓子や果物は、各部屋と応接間にもある。果物は名前の知らないのもあった。夕食食べた後にでも頂こう。

 お菓子はチョコとクッキーとお酒のおつまみなのか、ナッツ類も置いてある。お酒も棚にいくつかある様だ。

 最初からこういうのが充実してて、自由に食べたり飲んだりしていいのだけど、多分それら全部含めた金額が宿泊料金に含まれてるんだろう。それが無料で泊れるなんて、滅多にないパラダイスだ。

 でもあたしはふと思った。あたしがアクエラ連邦国にお呼ばれされたとしたら、こんな感じのサービスが得られたりするんだろうか。だとしたら、悪くない。悪くないぞ。

 あたし達は、普段なら贅沢しても絶対に泊る事のない、超高級ホテルでの宿泊を満喫した。


 翌日、あたし達は城へと向かった。門番に文官との打ち合わせの件を伝えると、少しして昨日の文官二人が迎えに来た。

「よくお出で下さいました。こちらへどうぞ」

 あたし達が文官達の後をついて行くと、お城にしては小ざっぱりした会議室らしき部屋に案内された。お城全体はかなり大きい作りみたいだけど、あたし達が通された会議室は、一番手前にある二階だった。他にもいくつもこういう会議室があるのを見ると、王室まで行く必要がない場合はこういう所で済ますんだね。

 それから紅茶を出され、これまた嗅いだ事のない香りを楽しみつつ、文官達の説明を聞いた。

「シンナバー様。早速ですが、こちらが王室が発行した書簡になります。内容をご確認ください」

『はい、では確認いたします』

 あたしは神の子モードで返答し、書簡の中身を確認した。内容は想像通り、王室からの命令として式典で神託をしなさいってものだった。

『内容を確認いたしました』

 命令書の返事はイエスしかないから、確認したとだけ返すんだ。多分、これを断わったりしたら、反逆と扱われて牢屋にぶち込まれたりするんだろう。その後は、殺されないとしても、おそらく生きにくい人生を歩む事になるのかもしれない。ただの想像でしかないんだけど。


 それから明日の詳しい打ち合わせをした。その大半は、会議室の机と椅子を端に寄せての予行練習だった。立ち位置とか挨拶の仕方とか、そういう見える部分は全部文官達が準備してくれている。こういう式典では決まった事しか言わなくていいので楽だ。実際の式典では、多少緊張するかもしれないけど、やる事がわかってれば不安はなくなる。あたしも今まで、多少なりとも人前に立った経験があるし、それの大勢版だと思えばやり過ごせるだろう。

 イシェルとヘタレ格闘家は、要望通りに護衛をする事になった。と言っても、ヘタレ格闘家は式典のステージの隅の方に、目立たない様に立たされるみたいだ。イシェルはあたしの専属護衛として、常に周囲にいる感じ。だから、あたしが神託やる時は、イシェルもあたしの近くに立つ事になる。護衛にも式典用の服があるみたいで、明日はそれを着る事になる様だ。

 そうそう、スフェーンは何をするのかなんだけど、椅子に座ってるだけで特に何もないらしい。ステージへの入場と退場の仕方を説明されただけにとどまった。こういう式典は、誰が参加したって形式が重要なのだろう。


「ねぇ、シンナバー。ボクが関所で言った怪しい男の事、言っておいた方がいいんじゃない?」

『あっ、そうだったね』

「怪しい男……ですか?」

 イシェルがあたしに小声で言った内容に対し、文官が反応した。手間がはぶけたと言うことで、あたしは怪しい男がいた事を説明した。

「なるほど、お話は理解いたしました。周囲の警備を強化いたしましょう」

「キミはボクを信じてないね、何もしないつもりでしょ?」

 イシェルは、あたし達に説明してくれた文官をじっと見つめつつ言った。文官の心を読んだのかな?

「えっ!? どういう事でしょう」

「だって、キミは今日のお昼は何を食べようかって事しか考えてないよね」

「あ、あの!? なっ!?」

 確かに、この文官はたまに時計を見ていたけど、会議室の予定時間に関係してるのかと思ってた。この文官はそんな事考えてたのか。意外と普通の人間だ、あたしも丁度お昼の事を考えてたとこだけど。

『お分かりの様に、こちらのイシェルは特殊能力によって、人の心を読むことができます。そのイシェルが式典で何かしようとしている男を目撃いたしました。そして今、事の重大さを理解していただけた事と思います』

「し、失礼いたしましたっ! 警備強化は厳粛に対応させて頂きます!」

 文官は恐縮して深々と頭を下げた。そこまでは責めてはいないんだけど。

『よろしくお願いいたします』

「んー、イシェルたん。今日も冴えてるぅー!」

 打ち合わせは、文官の予定通りとはおもうけど、お昼になる前に終了した。

 スフェーンの希望した、マール・アルマとのセッティングの件は、連絡はしたらしいので式典の後で、日取りが伝えられるとの事。そちらも心配なさそうだ。


「お昼はどうしようかしらぁ?」

「うん、あの人たちにあんな事言ったけど、ボクもお腹は空いてたんだよね」

 そうなんだよね。ホテルでは希望しないとお昼は出ないのだ。さっきの打ち合わせが、いつまでかかるか分からなかったから、あたし達はお昼を希望していなかった。外食をする事になるけど、ここでしか食べられないものとかってあるんだろうか。

「あれ? スフェーンとシンナバーじゃん!」

「えっ!? マジで!? おぉっいた!」

 あたしとスフェーンの名前を呼んだ声の方へと振り向くと、魔法学校の同級生だったナシルとミシリエが立っていた。

 ナシルは在学時代、どこから仕入れたのかわからない様な、怪しい都市伝説みたいなものを仕入れては、ミシリエと一緒に検証していたっけね。そういえばあたし達もついてった事があったなぁ。確かおチビも連れて。あれは何だったかな……。

「うわっ! ナシルとミシリエかぁー! ひっさしぶりぃー!」

 スフェーンが即反応した。

『うーん、ナシルとミシリエか。こいつは妙なヤツらに会っちまったな。その様子じゃ今も都市伝説とか追いかけてんだねッ! トイレのマナコさんには会えた?』

 久々な二人へのリップサービスだ。三年ぶりっていうのは、思ったよりも意外と距離があいちゃったりするもんね。こういう事を言うと一気に取り戻せるのだ。

「アッハッハッハッ! シンナバー! それ久しぶりだわぁー!」

「ホント! あんたも変わってないねー。特にここら辺が」

 ミシリエが胸の辺りで手を垂直に上下してみせた。

『失敬な! これでもこの三年でかすかに成長したんだよッ! 魔性の魅力に一歩近づいたよッ!』

「ブッ! かすかにかいッ!」

 スフェーンも笑ってくれた。後ろでは、イシェルとヘタレ格闘家がポカーンとした顔で見ている。ごめんよ、ちゃんと後で紹介するから待ってておくれよ。


「そっか、あんた達も国葬式典に出るために来たんだね。ホント、驚いちゃったよ……」

 ナシルはちょっとだけ俯いて言う。彼女達もアローラ先生の教え子だもんね。

「ねぇ、シンナバー……」

 イシェルがあたしの袖を引いて言った。

『あ、ゴメン。紹介するね、今あたし達はこの四人で色んな街を旅してるんだ。全員魔戦士組合員だよ。

 こっちがイシェル、もう一人がヘタレ』

「ヘタレ? ふーん、変わった名前だね。

 あたしがナシルでこっちがミシリエだよ。同じく魔戦士組合員ね。どこかで会ったらよろしくねー!


「あっ、そういやあんた達って、ルビーの事探してんだったよね。なんか噂で聞いたー」

「えっ!? なになにっ!? おチビたん知ってるの!?」

 おチビの名前が出た瞬間、スフェーンが物凄い反応をして、ナシルの肩をがしっと掴んだ。当然の反応だね。魔法学校を卒業してから三年間、あたしとスフェーンはおチビを探してあちこち旅して来たけど、ここで偶然旅の終わりが見え隠れしはじめた様だ。何事にも終わりは来るものだ。これから忙しくなりそう。あたしもそろそろ、今後どうするかを考えなきゃいけなくなるね。

「ひゃー、近い近い! まぁ知ってるけど。うはっ! やっぱ目力つよっ!」

「教えて教えてぇー! おチビたんどこにいるのぉー!?」

 あー、いいなぁ。あたしもそんな風に、スフェーンに問い詰められてみたい。

「おー、ナシルさん! 突然のぴんちぃー!」

 ミシリエもノリノリだ。魔法学校時代を思い出すなぁ。


「おいっ! 時間だ、行くぞ!」

 スフェーンがナシルににじり寄ってると、また別の声がした。男の声だ。ナシル達のパーティーメンバーとかだろうか。

 声のした方を見ると、ごく普通っぽい感じの男がナシル達を見ていた。ナシル達は魔戦士組合員らしい恰好だけど、この男はここに住んでますって感じの服装だ。その男は立ち止まる事もなく、そのままどこかへ歩いて行った。

「あー、ごめーん! 行かないと!」

 ナシルは急用を思い出したかの様に、男の後を追って行った。

「ごめんね。式典が終わったら、魔戦士組合で会いましょ! じゃっ」

 ミシリエもナシルの後を追って行ってしまった。二人とも何やら急いでる様な感じだ。

「あっ……」

 スフェーンが小さな声を出した。せっかくおチビの情報を得られそうだったのに、これはガッカリだよね。

『式典が終わったら、魔戦士組合で会えるから大丈夫だよッ! それより、お昼はどのカレーにする?』

「まー、そうなんだけどぉー……って! カレーオンリーかよッ!」

 ガッカリするスフェーンだけど、後で会えるんだから大丈夫さ。確かにあたしも今すぐに聞きたかったけど。


 イシェルとヘタレ格闘家の方に振り向くと、イシェルが神妙な顔をして、声をかけた男が去った方向をじっと見つめていた。

「あの男……」

「あぁ」

 イシェルがつぶやくと、ヘタレ格闘家が反応した。何だなんだ二人とも。あの男がどうかしたんだろうか。あたしみたいに、あの男の服装が普通なのが気になったとか?

『あの男がどうかした……あっ!』

 ここであたしは、関所で見かけた男の事を思い出した。後ろ姿しか見てなかったけど、背格好は似ている気がする。

「あれって、関所で言ってた悪い男?」

 スフェーンも気が付いた様だ。


 関所でイシェルが言っていた”悪い男”と、ナシルとミシリエはどういう関係があるのだろう。あたしはどことなく嫌な予感がしてならなかった。


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