【番外】5年の時を超えてなんとやら(2)
まさかの番外二回目。
今回もミメットとネフでお送りいたします。
本編の続きはもうちょっと時間下さい。
メガネをふきふきするミメットと、黒糖かりんとうをおいしそうに食べるネフ。
「え? 何でもう様子を説明されてるの? まだ休憩時間のはずなんだけど」
と、メガネから視線を外してこちらを見て、不満げに抗議するミメット。
「かりんとうおいしいですっ!(もぐー)」
早くも適応しているネフ14歳。これが若さと言うものか。
「本編なしで、このコーナー二回目っておかしいよね。
うん、絶対におかしいよ。
ぶらっきぎょうみたい!」
ミメットはおそらく「ブラック企業」と言いたいらしいが、この世界観にそれは存在しないので、意味を分かってない為に言えてなかった。
「ミメット姐さん、むしろこれはチャンスじゃないでしょうか」
「今日は先輩じゃなくて姐さんなのか……でも年増みたいで何かイメージよくないのでお姉ちゃんにして欲しいなぁ。
ネフより年上と言っても、まだ十代だし……」
「ミメットお姉ちゃんですか。
分かりました。
今回はそういう事にしておきます(がさごそ)」
ネフはやっとかりんとうの紙袋を畳んだ。
「はいっ、改めてこんにちは。
司会のミメット・アズです。
よい子のみんなは親しみを込めて、お姉ちゃんって呼んでね!」
ミメットは、メガネをかけつつはじまりの挨拶をした。
「アシスタントのネフ・インディゴです」
ぴょこっと頭を下げるネフ。
「巷でご好評かはとんと知りませんけど、想定外の二度目となってしまいました。
けしてまた五年経ってしまった訳ではありません。
更新が本編でない理由は、まだ全部読み返せてないからだそうです。と言う情報が先ほど入りました。
今ちまちまと読み返しては、(あったねーと)懐かしくて涙してるそうですよ。
当人曰く、『これがホントの自作自演だねッ!』との事です」
「多少なりともやる気は感じられますが、過去の事を思うと油断は出来ませんね」
「それだけ、わたし達のアピールタイムが増えるって言っても心境は複雑だよね」
「ですよね……」
*
「ミメットお姉ちゃん!
今日は何について教えてくれるのですか?」
唐突に喋り出したネフだが、あからさまに違和感が漂う。
「うっうん、とね。
じゃぁ今日は、魔物の話をしてみようかな」
ネフの妙なテンションに困惑するミメット。
「わたしはまだ魔物って見た事ないんですよねー。
何年か前までは、マトラ王国の旧市街に居たみたいですけど、今は街そのものが更地になっちゃってますよね。
そうなる前に見ておきたかったです」
がっかりするネフ。しかしネフは、魔物を観光名所の類と勘違いしている様だ。
「うーん、まず王国の言う魔物の定義って、大ざっぱなんだよね。
例えば、ネフが言ってるのはゴーストの類になるんだけど、マトラ王国が大昔から戦争してる相手も魔物って呼ばれてるでしょ。
この二つは全然違うものだよ?」
「えっ? 違うんですか?
確かに戦争してる相手がずっと街から出てこない上に、放置されてたのはおかしいとは思いましたけど……」
腕組みをしつつ、考えているふりをするネフだが、実はそんなには考えてない。
「わたしも旧市街の魔物は、話を聞いただけなんだけど、アレは魔法の開発に失敗して、まるまる街があんな事になってしまったらしいよ。
ゴーストも元は街の人だったんだって。
考えるととんでもない事だけど……」
「うっわぁー。
それはドン引きです! ありえないですっ!」
「そうそう。わたし達が昔国のクエストで戦った相手も魔物だったっけ。
なぜか、剣にはめ込んだ玉の状態になってたけど」
「はいっ? 何だか付け替え出来そうな形状なんですが……」
「多分ソレ。
で、その剣を手に取ると体を乗っ取られちゃうみたい。
多分だけど、あの玉の中身はマトラ王国が戦争してる相手(魔の者)だったんなんじゃないかな……って思ってる。
本編にプレーンな魔物も出て来てるけど、見た目が人間と一緒で、肌が白くて髪の毛が薄い灰色してるタイプの成れの果て的な存在の。
あれが国家が魔物と言う存在で、昔は魔力を持つ者と呼ばれてたけど、長いからか魔の者と略されて、さらに略されて魔物になっちゃったみたい。
でもそれだと区別しにくいので、人型のタイプは魔の者に統一しましょう」
「うっわぁー!
でも何で人間と似た形してた魔物が、玉になっちゃったんでしょうね。
もしかして、王国って結構ヤバイ国なんでしょうか」
「しっ、ダメだよ。
王国の事を悪く言っちゃ。
この国では、国家反逆は即死刑だからね。
民主主義じゃなくて王制って事を忘れちゃいけないよ。
はやく”マトラ王国に光あれー!”って言ってみて!」
「死っ!? ガクブルガクブル……マ、マトラ王国に光あれー!」
几帳面に両手を天に向かって上げるネフ。
「魔の者には人間そっくりな形のも居るんだけど、見た目的に化け物タイプもいるんだよね。
区別しやすい様にそのタイプは化け物って呼ぼうかな。
本編だとスフェーンが捕まって、ラーアマーに連れていかれた時に見てるけど、明らかに違う種族どころか、知的生命体なのかとも思う化け物タイプも、魔の者と一緒に住んでるの」
「なるほど化け物ですか。
まんまで分かりやすいですけど……(本人の前で言いにくいですよね、普通”あなたは化け物ですか?”とか絶対に言われたくないですもん)」
「うん。
化け物も、魔の者として一まとめにしちゃってるけど、人間がまだ現れる前は、魔の者と化け物は対立してたらしいよ。
分かりやすい様に、それらを先人類って呼ぶ事にするね。
そんで、魔力を持った人間が段々と出て来て、それが想定外にやる様になって来ちゃった訳ですよ。
先人類達も、悠長に対立してる場合じゃなくなって、お互い協力して人間と戦う事にしたんだって」
「なるほどっ、歴史的な事情がありそうです。
それにしても、人間の魔導って意外と歴史が浅いんですね。
しかも、人間対策に本気出さなきゃいけない状況になったって、普通に先住民族の危機なのでしょうか」
ネフは「うーむ」と唸って「わたし達って一体……」と呟いた。
「うん、それに気が付くなんてさすがはネフだね。
残念ながら真実はわからないけど、実際そうなのかもしれないよね。
ところでネフは、魔の者達とかと仲良くしたい、又は出来ると思う? わたしは召喚士だからかな、異種の生物に、そんなには抵抗を感じないのだけど(だって召喚獣に比べたら先人類の方が遥かに人間だもの)」
「えっ!? 何言ってるんですかミメットお姉ちゃん!? できる訳ないじゃないですかっ! 理想論と現実は別物ですよ! まぁでも、争わないで済めば、その方がいいとは思いますけど……」
それまでの話の流れを見事にぶち壊したネフ。そこは理想論だけでいいだろう。
「うん、ネフがいい事言ったね。
争わないで済めば。
本当に人類にとっての課題ですよね、差別とかも含めて。
本編では、双方に多大な被害が出た事で休戦協定を結んだけど、今後その協定がどうなってくかはわたしも気になる所かな」
ミメットは、ネフの言った事の前半をスルーして、それっぽくまとめた。
***
「魔物についてはそんなとこかな? じゃぁ今日はもう一つ。
わたしたちの成人年齢について、話してみたいと思います!
ネフは当然成人年齢っていくつか知ってるでしょ?」
「成人年齢ですか。
国によって違うかもしれませんけど、マトラ王国では十三歳ですよね。
まだ体は成長過程ではありますけど、十三歳でいっぱしの大人として扱われてます。
もう泣いても笑っても、全てが自己責任です。
わたしも十四歳なので、大人になって一年が経ちました。
ちょっと転んだ位で泣いてた頃が懐かしいです(しみじみ)」
「ネフって魔法学校出て、まだ一年だけど言動とか妙にしっかりしてるよね。
そう言えば、ネフは今仕事とか何してるの?」
「うぐっ……何と言われましても。
ちょっと前までは魔戦士組合員でした……。
今はその……更なるスキルアップの為の準備中と言うか、主に部屋を守ってます」
「一言で言うと、自宅警備員ですね! わかりますっ!」
げらげらと笑うミメット。
「だってだって! セラフィ(幼馴染のプリースト)がぁっ!」
ネフは未だ前途多難の真っ最中らしい。
「コホン。ネフが部屋を守ってる事はともかくとして、マトラ王国ではネフが言ってくれた様に十三歳で大人になります。
魔法学校を卒業すると、丁度十三歳になる年ですね。
成人すると、お酒なんかも飲み放題で、個人の判断で結婚も出来る様になります」
「そうですね。わたしはまだお酒を飲んだ事がない訳ですけど……」
「まぁ無理に飲む事はないと思うけど、ネフはお酒の前に地盤作りだもんね!
そうだ、地盤が出来たら一緒に飲もうよ! ガード下の屋台のおでんとか食べたいなぁ」
「あ、はい! ぜひっ! がんばりますっ!(ガード下って何だろう)」
ネフはよく分からないけど、適当に話を合わせた。
「話を戻すね。
成人年齢が十三歳と言うのは、わたし達魔戦士組合員や、軍人の平均寿命と関連してるの。
マトラ王国は、結構お盛んに戦争してたからね。
比較的若い年齢で死んでしまう人が多いんです。
街の人達などの非戦闘員は、もっともっと長生きしてるんだけど、マトラは武力国家だから、戦士達に合わしてるって訳。
十三歳で軍に入れる様になるし、魔戦士組合員も十三歳から登録可能ね」
「そうだったんですねー。
軍とか魔戦士組合員の平均寿命って、いくつ位なんですか?」
「三十歳は切ってるよー! 死んじゃう人はやっぱすぐ死んじゃうんだ。
軍は最前線で戦うから当然としても、魔戦士組合員ですら生きるか死ぬかの世界だから殺伐としてて”美少女戦士がきゃぴきゃぴっ!”って感じじゃないよ!
そんな事してたら初回で死んじゃうって!
たまに体を欠損してる団員を見かけるけど、大体すぐに引退しちゃうね。
そんな状態じゃ、もう戦えないから」
「その話、身に染みて理解します……」
「うんうん、ネフも大変だったものね。
今生きてるのは本当に運がよかったと思うよ」
「は……ひっ」
ネフは何かを思い出したのか、泣きそうな顔をしている。
「はい、今回は世界観の設定の一つの核心に触れる事が出来た気がしますっ!
それでは今日はこの辺で!
またの機会(あるかは分かりませんが)をおたのしみに~!」
と、にこやかに手を振って見せるミメット。
「のたおしみにぃ~」
ネフはこれからがんばってこうね。