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【5】武道大会がはじまるよ!

 次の日の朝、朝食を終えたあたし達は、武道大会の受付に向かった。


 ホテルの外では、朝から商人たちが街の中をせわしく行き来していた。この商人たちには果たして休みがあるのだろうか。

 会場に到着して、受付の係員に出場確認をしてもらうと、係員のおじさんが名簿に丸印を記入していた。

 ちゃんとあたしの名前が書いてある。当たり前だけど何だかうれしい。


「時間になったら選手は全員中に呼ばれるから、遅れない様にね」

『了解だよッ!』

 あたしが係員のおじさんにビシッと敬礼のポーズをして見せると、おじさんも釣られて敬礼してくれた。


 受付の周辺を見渡すと、他にそれらしい参加者が大勢来ていた。

 ざっくり見た感じでも、本当に百人近く参加するのかもしれないな。

 その参加者達の風貌は、魔法が使えないルールの大会だけに、やたらゴツくて図体のデカいのが目立った。

 どんな連中かと言うと、頭に目と口の部分に穴の開いた変な袋を被り、大きなナタの様なものを持った上半身裸の筋肉男や、鉄の玉に鎖がついたものを持ったやっぱり上半身裸の筋肉男。パターンとして一番多いのが、大きなオノを持って、変てこなヘルメットを被った上半身が裸の筋肉男だね。

 でも、筋肉男って何でデフォルトで上半身裸スタイルなんだろ。


 他に、瞑想ばっかしてる、眉間のシワが凄く鍛えられた格闘家に、高い裏声を出しそうなモンクっぽいのも居るけど、服を着たのって少数らしい。何だかいやな予感がする……。

 ほとんどが”力こそ全てだ”と言いそうな、上半身裸の筋肉男だ。

 気が付いた事と言えば、参加者のほとんどがどいつもコイツも兄弟並に顔も体格もファッションまでもそっくりな事。

 もしかして、そっくりさん大集合の会場かな。


「なんかすっごくゴツいのばっかねぇ……。それにしても、なんかみんな似てなーい?」

『あたしも今思ってた。そっくりさん大集合かって』


 その時、あたし達が手続きをした受付の方から大きな怒鳴り声が聞こえた。

 声の様子からすると、係員と誰かがもめている様だ。

 何事かと思って、声のした方に野次馬をしに行ったら、例の筋肉男達のそっくりさんの一人が、受付の係員に食って掛かっていた。


「あー!? 受付け時間が過ぎたから参加が出来ネェだぁ!?」

「時間もだが、そもそもあんたは事前登録もしてないだろう?

 昨日までに参加登録しないと、大会には参加できないんだ……。ウグッ!?」

「(あのヤロウ……。登録しておかなかったな)」


 筋肉男はつまんなそうな顔をしてブツブツ言うと、係員の胸倉を掴んで軽く持ち上げた。

 持ち上げられた係員のおじさんは、手足をバタバタしてもがいている。


「テメェ……。いい度胸じゃねぇか。あぁッ!?」

「はっ、離せッ! か……、係員に手を上げると指名手配になるぞ!!」

「チッ……」


 筋肉男は舌打ちをして係員を離すと、今度は辺りをギロリと見渡しはじめた。

 その瞬間、付近に居た筋肉男達が一斉に向きを変えた。

 すごい! 回れ右の号令がかかったのかと思う位の見事な反応速度だ。

 あたし達だけがそのまま筋肉男を見つめてる状態になった。すると、その筋肉男はあたし達を見てニヤニヤしながら近づいてきた。


「まさかとは思うが、お前達もこの大会の参加者か?」

「いいえー?」

 スフェーンは即答で否定した。

 確かにスフェーンは参加しないんだけど「お前達」って言われてるのに否定するのは何でなのやら。

『あたしは出るけど?』

「あーもー」

 スフェーンがあーあと言う顔をした。

「ブハハハハッ! そうかそうか、お前はついてるぜ。

 小僧ッ! お前の名前をフルネームで言ってみろ!」

 今度は小僧か……神に仕えるプリーストは坊主でも小僧でもないんだけどな。


『……? シンナバー・アメシスだけど?』

「シンナバー・アメシスか。よし、お前はもう帰っていいぞ」

 何を言ってるんだこの筋肉男は。これから試合が始まるってのに帰る訳ないじゃないか。

 筋肉男はぐふふと笑い、クルリと受付の方に方向を変える。のっしのっしと受付の係員の前へと歩いていった。


「おい、シンナバー・アメシスは参加できるよな!?」

「あぁ、もう受付を済ましているからな」

「オーケー!

 オレ様がシンナバー・アメシスだ。受付を済ましたんだから参加するぜ?」

「何だって? あんたがシンナバー・アメシスだったのか?

 さっき言ってた名前と違うが本当か!?」

「そうだ、さっきは手違いがあったんだよ」

 何だコイツ。人の名前を勝手に使いやがって。


『コラッ! そこの量産筋肉男!

 人の名前を勝手に使うんじゃないッ! お前の名前は……、えーと。マッチョとかだろッ!?』

「あ? 何だテメェ、まだ居たのか」

 筋肉男がジロリとあたしを睨む。


『みんな! コイツは人の名前を勝手に使って、ズルで参加しようとしてる悪いやつなんだよッ!?』

 だけども周りの筋肉男達と来たら、ただ黙って見てるだけだった。現行犯なのに。

 もしかして、この量産型筋肉男達って台詞すらないの?


「このクソガキがァッ!!」

 筋肉男は声を荒げると、ズンズンと地響きを立て、あたしとスフェーンの方に近づいて来た。


「ちょっと! あんた挑発してどうすんのッ!?

 さっき一言参加しないって言えば済んだのに……」

『大丈夫、戦わないよッ!』

 そう言って、あたしは「キッ!」と筋肉男の眼を睨み付けた。

 その直後、筋肉男はぐらりと体勢を崩し、膝から力が抜けた様にその場に倒れこんでしまった。


「「「何だ!? マッチョのやつがいきなり倒れたぞ!?」」」

 周囲の筋肉男達は、声そろえて叫んだ。

 何だか数人で一つの台詞を与えられて喋ってる様な感じがするけど、気にしちゃいけない事だろね。

 それより、この筋肉男は本当に「マッチョ」って名前だったのか。

 まるでエスパーになった気分だよ。


 そのマッチョはと言えば、見事な大いびきをかいて地面で寝てしまっている。

 実は、あたしには相手の目を見ただけで魔法をかけれる「ものぐさな特技」があるんだ。

 そのお陰で不自然だけど、魔法を使ったのに誰にも気付かれずに済んでた訳。

 因みに今マッチョにかけたのは、深い眠りに陥れられる昏睡の魔法。

 昏睡の魔法は、解除しない限り、丸一日は眠り続ける。脳にかかる魔法で多少殴った位じゃ起きやしない。

 睡眠系の魔法の超強力版で、属性は光だ。あたしは使えないけど、闇属性にも同じ様な魔法があるってスフェーンが言ってたな。


 もしかしたら属性に興味はないかもしれないけど、一応説明させてもらってもいいかな。

 光属性とは、精霊魔法の六つの属性の上位属性で、もちろん対極の属性は闇属性。

 そして、この光耐性を持っている人間はかなり少ない。

 高位の聖職者か、会った事ないから居るかはわかんないけど、ナイトという伝説のクラスがもし実在するならば、きっと光の耐性を持っているはずだ。一応因んでおくと、あたしも光耐性は持っている。

 魔法を扱わない筋肉男のマッチョなら、赤ん坊よりも簡単に寝かしつけられる訳ね。

 ただし、耐性を持ってなかったとしても対策は可能なので安心して欲しい。耐性を上げる魔法もちゃんとあるのです。

 あんまり話しても退屈だろうから、今日はこの位にするけど、知っておいても多少の損しかしないと思うよ。

 もし、使い所があったらにわか知識をひけらかしてみるといいかも。

 多分「光属性って闇の対極で、六大属性の上位の属性なんだよねッ!」とか言ったら、きっと周囲から一目置かれる存在になると思うよ。いろんな意味でね。


「あらぁ? この人寝ちゃったよぉ?」

『マッチョは寝不足みたいだから、このままそっと寝かせておいてやるがいいよッ!』


 それから少しすると、どこからともなく大きな担架が運ばれてきて、四人がかりでマッチョを乗せてどっかへ消えて行った。

 これで一件落着だ。

 それから間もなくカランカランと係員がハンドベルを鳴らした。でもこれ、多分福引の当たりで鳴らす奴と同じ音だから、一瞬ワクワクしちゃうのがくやしい。

 これが定刻の合図らしく、追って出場者は全員中に入るように指示された。


「んじゃガンバって!

 用事が済んだら戻るから、それまでは勝ち残れよーッ」

『うんッ! スフェーンの為にガンバルからッ! 絶対ガンバるからッ!』

 あたしはスフェーンの両手をギュッと握って意気込みを伝えた。

「プッ! あんた相変わらず面白いナァーッ!

 んじゃねぇー!」


 ひどい……。あたし本気で言ったのに……。

 手を振って用事に出かけるスフェーンを見送ると、あたしは一人で建物の中に入ろうとした。そうしたら突然声をかけられた。

「ちょっと待って!」

 声がする方向に振り向くと、お金持ちそうな中年の女性が立っていた。

 でっかい宝石の付いた、お世辞にもセンスの良いとは言えないアクセサリーをたくさん身に付け、全く似合ってないピンクのドレスを着ていた。このドレス、十代前半のあたし世代の子が着てるデザインだ。あたしは絶対に着ないけど。


『ん……? おばさん誰?』

「んふ……。そのぶっきらぼうな感じっていいわね。

 あなたのお名前は? 良かったらフルネームで教えてくれない?」

『名前は言わない……。さっき人の名前使ってズルしようとした、マッチョってやつがいたから』

「ズル? わたしはそんな事しないわよー?

 ただね、あなたを応援しようと思っただけなの。だから教えてちょうだい? おねがいっ!」

 まぁ、応援してくれるって言うんなら教えてもいいかな?


『シンナバー……。シンナバー・アメシス』

「シンナバー・アメシスね? キレイな名前ねー! あなたにとっても似合ってるわ」

『どうも……。では』

「シンナバーガンバってねー! 応援してるからっ!」

 こういう人ってちょっと苦手だな。何か圧倒されちゃって、何を話していいか分かんなくなるから。

 あたしはそそくさと建物の中へ逃げた。


 さぁ、お楽しみの武道大会がいよいよ始まるよ。スフェーンの為にもガンバるぞぉ。


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