【44】王国からの増援
シンナバーが治療所の椅子に座って、スフェーンに膝枕をしている。
シンナバーがスフェーンの手を握って、ゆっくりと髪を撫でてあげていると、いつの間にかスフェーンは安心した様に眠りについていた。
エクトの街の北側で大爆発が起こった時、シンナバーは悪い予感がして急いで向かった。北門から外に出ると、そこに巨大なキノコ雲が立ち上っているのが見えた。その下の大地は赤く燃え、ゆらゆらとした蜃気楼が景色をゆがめており、青く茂っていた草木は一変して焦土と化していた。
そのシンナバーの少し先には呆然と立ち尽くしている魔導兵達と、地面を掻き毟って震えるスフェーンの姿があった。その時のスフェーンの体のふるえは酷く、しばらくは立つ事もできない程だった。その様子を見て、シンナバーは何が起こったかを理解した。
シンナバーは震えるスフェーンの肩を後ろから抱きしめ、いつもより小さく見える背中に頭を付けて泣いた。しかし、スフェーンは余りの衝撃のせいか、ただ震え続けるだけで、泣く事すら出来なかった。
治療所に入ってようやく震えは治まったものの、並べた椅子に寝転んで天井を眺め続けているだけだった。
その日の夕方、早くも増援部隊がエクトの街に到着した。その数総勢五千人と言う大部隊だった。魔導兵百名、ルクトイ五機を追加し、軍の主力部隊の半数もがエクトに集結したと言えた。
「随分早いんだね、何日も経ってないのにこんな大勢来るなんて」
イシェルはワッカ運河に次々と到着する軍用輸送船団を、西門の上の見張り台から眺めていた。昨日の兵の話では最低二~三日はかかると言われていた軍の増援が今到着した。余りにも早すぎる到着にイシェルも少し疑問に思ったが、直に特例が解除される事の方が嬉しく、余り深く考える事はなかった。
「まぁ、何にせよこれで一安心だな」
イシェルの背中越しに、ヘタレ格闘家もワッカ運河の方向を眺めている。
「そうだね、また旅が続けられるよ」
そう言って安堵の表情を浮かべ、ふぅと息を吐くイシェル。
「む……!?」
ヘタレ格闘家は、イカダ船から降りる兵達を見つめつつ小さく声を上げた。
「どうかした?」
「いや……何でもない。ちょっと用事を思い出しただけだ」
ヘタレ格闘家はそう言うと、すぐに側にある階段を降りて行った。イシェルは首をかしげて石段を降りて行くヘタレ格闘家を見送った。
夕食後、軍の要請により魔戦士組合員は食堂に集められた。昨日と違い、軍の一般兵の居ない食堂はがらんとしている。
シンナバーとスフェーン、そしてイシェルとヘタレ格闘家と親衛隊四人は背もたれのない簡素な椅子に座っている。前方の黒板前に、アキレサンド将軍と今日やって来たと思われる赤い髪の女性、その側に三人の兵士が立っていた。
スフェーンも大分落ち着いた様で、いつも通りとまでは行かないが、それでも多少は雑談に応じる程に回復した。シンナバーが度々スフェーンを気にかけて、話しかけていた効果が現れた様だ。
本当はシンナバー自身も精神的に辛い状態だったのだが、自分の事よりスフェーンを何より優先した。そうする事で、辛い気持ちをその時だけは紛らわせる事ができると思ったのだ。
赤い髪の女性は、軍服らしくない薄紫のワンピースを着ている。それは一見して高貴な印象を受けるが、随所にエッジの効いた装飾を施されたマトラ王国の武官の正式な制服であった。
「はじめまして、マトラ王国三位武官のガーネットです。
まずは魔戦士組合員の皆、今回の特例任務遂行ご苦労さま。
今の時をもって、特例期間の終了を告げるものとする」
赤い髪のガーネットと名乗る女性が淡々と話し始めた。シンナバー達は静かにガーネットを見つめている。アキレサンド将軍は、何も言わず傍聴に徹している振舞いから、現在の指揮権はガーネットが持っている事が伺える。
「特例任務にあたって頂いた皆には、勲章と報酬が支払われるので、後で兵から受け取る様に。
以上ですが質問があればどうぞ」
「あのぉ」
質問と聞かれて、スフェーンはすぐに小さく手を上げた。それを横に座るシンナバーは、ほんの少しだけ顔を向けた。
「あなたがスフェーンね、質問は何かしら?」
「はい、アローラ先生ってなぜこの街に居たのですかぁ?」
ガーネットはふむと小さい声で言うと、口を開いた。
「アローラは我々王国の武官で、バーライトとそこに居る者達も王国騎士隊の所属と言う事はもう知ってるでしょ?
皆ここで国家の任務を行っていたの、任務内容は守秘義務があるから一般人のあなた達に話す事はできないけど」
スフェーンはアローラが、魔物の資料の事を話していた事を思い出した。
「はい、先生が武官だと言う事は聞いてました……ありがとうございます」
スフェーンは目線を下げて、両手の指を組んで額に付けた。その様子をシンナバーは心配そうな顔をして見ている。
「ボクも質問していいのかな」
「はい、どうぞ」
次にイシェルが手を上げると、ガーネットはイシェルの上げた手を指差した。
「魔物って何なのですか? 人間とほとんど変わらない様に見えたんだけど」
そのイシェルの質問に、ガーネットがうーんと唸る。
「そうね、確かに戦う理由を知らなければ、そう言う疑問が湧くのも当然よね。
魔物が何かと言う事は、そのまま敵とは何かと言ってる事と同じ事だと思ってもらえればいいかしらね」
「敵……ですか」
「えぇ、魔物とは五百年もの長い間、この地域をめぐって対立している我々の敵よ。
その敵がどんな容姿かなんて関係ないわ、敵は敵だもの」
魔物はこの地域で争奪戦をしている敵である。戦争と言うものは、通常土地や資源が関係して来るものだ。軍が戦う理由としてはそれだけで十分なのかもしれない。
「イシェル、魔物って元々は<魔力を持つ者>って呼ばれてたらしいわぁ。
人間って昔は魔力を持ってなくて、それに対して魔力を持つ者って意味だったんだってぇ」
「そうなんだ。途中で意味が違っちゃったのかもね」
スフェーンは魔物から聞いた魔物の語源をイシェルに説明した。その様子を見て、ガーネットが少し驚いた表情をした。
「新時代の最強のソーサラーは博識ね、それもアローラから聞いたの?」
「いえ、ラーアマーの司令と言う魔物から直接聞きました」
「ラーアマーって……まさか」
この時、シンナバーとイシェル、そしてヘタレ格闘家はポカーンとした表情をしていた。それは、二人が何の事を話しているのか全く分からなかったからである。
「あなた、ラーアマーへ行ったの?」
ガーネットは少し顔を引きつらせて目を丸くした。その顔を見て、シンナバー達もそれが何かしらの問題であると認識した。
「正確には連れて行かれた訳ですけどぉ」
スフェーンは泣き真似の仕草をした。
「そういう事はすぐに話してくれないと」
ガーネットは困った表情をして、腕を組むとため息をついた。
「あ……すみません」
「まぁ、それは仕方ないか……。
それで、今は話して貰えるのかな?」
「あ、はい」
スフェーンは四体の魔物に捕まってしまった事や、ラーアマーであった一部始終を話した。
「そう、四体の魔物に捕獲されてラーアマーのザサス司令に会わされて話をしたと……。
取引きを断った後に隙を見て自力で脱出、その際要塞は半壊させて来たのね」
ガーネットはふむふむと興味深くスフェーンの話を聞いた後、その話を要約してまとめた。
「はい」
だが、スフェーンは嘘を付いていた。隙を見た訳ではなく、頃合を見てが正しかった。つまり本当はいつでも脱出する事は出来たのだ。それをしなかったのは、魔物から情報を聞き出す為であった。
ある事を隠したいが為に、いくつもの事実を隠す事になってしまった。
ラーアマーに行かず、または、行ったとしても到着してすぐにエクトへと戻っていたなら、違う結末となっていたかもしれない。
スフェーンは後悔の念に胸を苦しめつつも、絶対に本当の事なんて言えなかった。もし、本当の事を言ってしまったら……。スフェーンは心底自分は卑怯者なのだと思った。
「魔物は人間の魔導と、特殊能力について知りたがった、魔物が把握している人間の情報の大部分は十年近く古いもの」
ガーネットは、スフェーンの説明をチョークで黒板に書いていた。
「ラーアマーを半壊させたの、不味かったでしょうか……」
本当の事など言えやしない。スフェーンは自分の行動を正当化しようと必死だった。
「いいえ、あなたのプロパガンダとしては成功したんじゃないかしら」
ガーネットは黒板にプロパガンダ成功と書き、それを丸で囲うとチョークでその丸の中心を力強く叩いた。そのせいでチョークの先が少し欠けて飛び散った。
「え? あたしのですか?」
「新しい脅威として魔物達にアピール出来た事でしょうね」
「新しい脅威……それってどういう」
ガーネットは、スフェーンが戸惑っているのを見てニコッと笑った。
「この際だから話しておいた方がいいかな」
ガーネットはチョークを置くと、横に居る兵士から渡された布で手を拭いた。
「アローラは、あなた達と出会う以前は教師ではなかったの。
彼女はマトラ王国のシンボルの一人、最強のソーサラーを勤める一位武官だったのよ」
武官とは王国の王室直下に文官と並んで十二階が設定され、その下に軍がぶら下がっている。まさに、アローラはその頂点に存在していた。
因みに親衛隊も王室直下だが、軍とは線が繋がっておらず、独立した存在となっている。
「先生が教師じゃなかったって、どういう事ですか?」
スフェーンは武官だったアローラが、なぜ自分の担任をしていたかの理由が気になった。
「アローラが魔法学校の教師をしていたのはね、あなたを育てる為だったの」
ガーネットは、アローラがマトラ王国からの任務によって、魔法学校へ派遣された教師だったと説明した。しかも、その目的はスフェーンの能力開発だったと言う。つまり、スフェーンはマトラ王国が「最強にすべくして育てられた魔導士」だったと言う事になる。
スフェーンは、アローラから六年間の教育を受け、王国の予想以上の成長を遂げる事となった。在学半ばにしてアローラの魔力値を抜き、その成長は未だ止まることもなく、今や前人未到の領域に達している。
しかし、王国が年月をかけて育成したスフェーンを、なぜすぐに王国内部へ引き入れ様としないかについては明らかにはなっていなかった。
「そんな、あたしの為だったなんて」
スフェーンはショックを感じていた。自分がマトラ王国に関係していた事もあるが、アローラが自分の為に教師をしていた事をすぐには受け入れ難かった。たまたまアローラが担任だったのだと思っていたのだ。
「スフェーン、でもあなたは薄々気付いていたはずよ、全てのカリキュラムはあなたに合わせて組まれていたものだったのだから。
それとシンナバー。神の子のあなたが魔法学校に入れた事を不思議に思わなかった?」
『へッ!?』
シンナバーは、突然自分に振られた事に驚いて一オクターブ高い声を出した。
『うーんうーん……すみません。全く思いませんでしたー』
「そ、そう……。
とにかく、あなた達が魔法学校で、アローラの生徒となった事は偶然ではないのだけど、その事を重くとらえる必要はないわ」
マトラ王国は優れた人材を育成する事に力を入れていて、武官や文官クラスが臨時教師になるケースは、国の方針から言えばありえない事ではなかった。
「スフェーンがラーアマーを半壊させたなら、その仕上げもしなくちゃね。
後は王国が引き継がせてもらうわ」
ガーネットは楽しそうににんまりとした。
その日の夜、ヘタレ格闘家はある人物に会いに行った。その人物とは、長身で細身な体に似合わず、巨大な剣を背負った男だった。
「よぉっ、久しぶりだな」
ヘタレ格闘家が右手を上げて、大剣の男に声をかけてかすかに微笑む。
「うぉッ!? 久しぶりって、何でお前がここに居るんだ?」
大剣の男は一瞬驚いたが、すぐに軽いノリで返した。
「まぁ、行きがかり上ってやつだ」
そう言うヘタレ格闘家の顔を、大剣の男が不思議そうな顔でじっと見つめている。
「んー? お前って確か頬に十字のキズが無かったか?」
大剣の男は首をかしげ、自分の頬を指差してなぞった。
「あぁ、ちょっとしたセンスの相違で消された」
「なに? 消されたって……あんなの超高位のヒーラーじゃなきゃ消せないだろ……。
んッ!? てめぇーーッ!」
大剣の男は突然声を上げると、ヘタレ格闘家の首を掴んで前後に振った。
「うわっ、何だぁー!?」
いきなり首をガクガク揺さぶられ、ヘタレ格闘家は何が何だか分からずに慌てふためいている。
「ちくしょぉ……お前だけはと信じたオレがバカだったか」
大剣の男は、ヘタレ格闘家の首から手を滑る様に離すと、肩をガックリと落として落ち込んだ。
「あぁっ? お前何言ってるんだ?」
すると、大剣の男は大きなため息を吐き、死んだ魚の様な目でヘタレ格闘家を見つめた。
「この裏切り者め……つか確実にマフオ決定だなッ! それだけはざまぁだ!」
大剣の男が両手を左右に広げ、お手上げのポーズをした。
因みに、この男の言ったマフオとは、永遠のベストセラーである家族ものの四コママンガに出てくる登場人物である。
何でもそこそこはできるが、特に秀でたものがない平凡な主人公マフオが、裕福だが浪費癖があり破天荒な性格の妻、ナザエと結婚して大家族の一員となる所から始まる。一コマ目で事件が起こり、四コマ目でマフオがその事件の謎を、あてずっぽうな事を言って無理やり落とすと言う王道のスタイルだ。
現在は主役の座は妻に取られ、ハラオと言う謎の多い子が生まれた後は、めっきり出番が減ってしまう残念な展開を見せている。世間一般的には、逆玉を狙い妻の実家に入ったものの、影が薄くなる様子を言う。
事件と言っても、戸棚のオヤツが無くなったとかその程度で、そのほのぼのとした雰囲気に人気がある。新聞に連載している為にファンも多く、もう三十年以上も続いているベストセラーだ。
マトラ王国で人気の漫画には他にも、「ゲジゲジのゲジロー」と言う妖怪漫画、「ドラと碁とボール」と言う冒険漫画、「赤毛のレンコン地主」と言う農業漫画などがあり、民衆の娯楽として広い年代に親しまれているのだが、その話はまた別の機会に……。
「ざまぁって……何を勘違いしてるか分からんが、多分お前が思ってる事とは違うぞ」
「あん? 何だ、オレはお前が超セレブなプリーストと付き合ってるのかと」
大剣の男はなぜかホッとした表情をした。
「残念だがそれはないな……」
「ウハッ! 残念なのかよ! なんだ、お得意の片想いか?」
「それはもういいって……ところでな」
突然神妙な顔になるヘタレ格闘家に、大剣の男も顔を引き締める。
「なぜ、お前が軍と行動してるんだ?」
「ちょっと訳ありでな……と、言いたい所だがただの仕事だ」
ヘタレ格闘家はふーんと言いつつ、大剣の男の背負っている異様な色の剣に目が止まる。
「何だその剣は、それが今のお前の剣なのか?」
「いや、軍が開発中の新兵器だそうだ、まだ試作品だがな」
ヘタレ格闘家は、アローラが言っていた新兵器の話を思い出した。アローラは王国は魔力を持たない一般兵向けの武器を開発していると言っていた。
大剣の男は、背中の巨大な剣を片手で軽がると抜いて見せた。その柄の部分には何かを差し込む為の様な丸い穴が開いている。
「……その剣はまるで血で出来ている様だな」
大剣の男が持つその剣は、不思議な事に全てが血のように赤い部品で作られていた。
「あれ? ヘタレさん、こんな所で何してるの?」
突然ヘタレ格闘家の背後から声がし、ヘタレ格闘家が顔半分後ろに向けると小さく声を上げた。
「おっと、イシェルか」
その声の主は、黒いバンダナを頭に巻き、真っ黒な布を纏ったイシェルだった。イシェルはヘタレ格闘家の前に居る大剣の男に気が付き、首を傾げて丸い目で見つめている。
「ん? もしかしてその子がアレか?」
大剣の男は、イシェルを見ると小指を立てる。
「そんなんじゃねぇ、コイツは旅の仲間だ」
ヘタレ格闘家は、面倒な事になるのを恐れて即否定した。
大剣の男は、ヘタレ格闘家をどかすとイシェルの前にしゃがみ、そして軽く笑顔を作り挨拶をした。それにイシェルも挨拶で返した。
「やぁ、名前は何て言うんだい?」
少し驚いた顔をしたイシェルの目は一層丸くなる、その様子を見て大剣の男がさらににこっと笑った。
「ボクはイシェル、イシェル・プレナ……それでキミは?」
自分の名を名乗らず聞かれた事に、イシェルは少し不満そうな顔をしつつ答えた。
「あぁ、すまん!
オレはヘリオだ、ヘリオ・ブラッド! よろしくな」
その名前にイシェルはハッとする。それは、その名前にイシェルは見覚えがあったからだ。
「キミってもしかして魔戦士組合員の人? 組合の定期刊行物の名簿の一枚目で名前見た事あるよ」
「ほぉ、そりゃ都合がいい」
ヘリオはニッとした顔でイシェルの前で立ち上がる。長身のヘリオの顔を見つめるイシェルの首が、徐々に苦しそうな角度になって行った。
「ヘリオ、その位にしとけ」
ヘタレ格闘家に注意されると、ヘリオは少し離れた所にヘタレ格闘家を引っ張って行った。
「なぁ、あの子って彼氏とか居るのか?」
「彼氏なら居ないが絶対に無理だぞ。
つかお前、あれでよく女だって分かったな」
「あれでって、フツー見りゃ分かるだろ? それより無理ってどういう事なんだよ?」
ヘタレ格闘家は、ボールの空気が抜ける様に息を吐いた。自分が見て分からなかった事をヘリオが一目で見抜いた事に落ち込んだのもあるが、無理な理由を言う訳にも行かず困って取った行動だった。
「ヘリオ、ちょっといい?」
今度はヘリオの後ろで誰かの声がした。声のした方向にはガーネットが立っていた。
「ん、ガーネットか、どうかしたか?」
ヘリオは振り返ると、ガーネットに体を向けた。
「今すぐ作戦会議を始めるからあなたも参加して」
「分かった、仕方ねぇ……。
そんじゃオレは仕事しに行くわ、お前も元気でな、イシェルもまたなーッ!」
ヘリオはイシェルに明るく手を振ると、既に歩き始めたガーネットの後ろを追いかけて行った。
「そうか、あの人だよね? 前に言ってた四天王の仲間って」
「そうだが四天王じゃねーぞ、何度も言うが三人だ」
「あの人のクラスって、最強クラスって言われてるバーサーカーなんでしょ? 魔法より強いクラスがあるってちょっと信じられないけど」
「あぁ、だがヤツは今まで超難易度の依頼をたった一人でこなしてるんだ、相当な実力があるのは確かだな」
「ならヘタレさんも負けて当然だね」
「……負けてはねぇ、勝ってもいないが」
あくまで負けてはいない事を主張するヘタレ格闘家だが、ぼそぼそと言うその声は小さすぎてイシェルにはよく聞き取れなかった。
「ヘタレさん、今何か言った?」
「いや? 気のせいだろ」
ヘタレ格闘家は負け惜しみを言った様な気がしてとぼけた。
「でも、何で軍はあんな人を連れて来たんだろうね、軍人じゃないのに」
「さぁな、一つ言える事は高ランクってヤツはそれなりに大変だって事だろう」
ヘリオは最強クラスと言われるだけあって、最高ランクであるランク十の評価を得ていた。このランクは依頼の難易度と達成度で評価されている部分が多い所である為、ランクの高さがそのまま強さに繋がる訳ではないが、依頼の達成率としては十分な指標となる。仕事を依頼する側にとって、信頼の高さが一番重要視されるのだ。