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【22】決勝戦 タンザ・ゾイの罠

 15分後に行われる決勝に向け、あたしはウォーミングアップを行っていた。


 柔軟をしながら、あのデカい腹の男について考えていた。

 体も大きいけど、不自然に突き出た大きな腹の中身は多分そのほとんどが仕掛けだろう。

 今まで確認出来ているのは、対人兵器にしては強力過ぎる大砲と、攻撃すると爆発するトラップの様なものの二種類。

 長距離と近接の仕掛けか、他にもまだある気がする。

 その他の武器と言えば棍棒を腰に装備しているけど、メインの武器があの腹らしく、それを一度も手に取る事はなかった。逆に言えば、手をフリーにしておく必要があるとも考えられなくもないね。


『遠距離と中距離は避ければいいから気にする必要はないけど、近接が他にもありそうだなぁ』

「へぇ、シンナバーでもあの男の戦法が気になるんだ」

 あたしが独り言をつぶやくと、側に居たイシェルが意外そうな顔をして言った。

『うん、あんな変な格好したやつが、どんな戦い方するかって興味あるからね』

「ふふっ、やっぱりね。

 勝つために考えてるんじゃなくて興味の方か」

『えーッ!? 普通そうじゃないのッ!?

 戦闘用意! って言われてあんな装備する人がいるって凄くないッ!? 世界の常識から絶対外れてると思うよッ! 第一格好悪いよッ!』


 冷静に考えたらあのスタイルを採用したって凄い事だって思うんだけど、何をどう考えればあんな形に行きつくんだ。

 まぁそれはそれとして、もうそろそろ時間かな? 柔軟をしっかりして体も随分温まって来た。もういつでも準備オッケーだよ。

 会場を見渡すと、ハンドベルを持った係員がベルを鳴らしながら観客席の前を歩き、会場の人々に決勝開始の時間を知らせていた。


『イシェルーッ!』

「なぁに?」

『大砲撃つかもしれないから、観客席で見ててもらっていいかな?』

「うん、分かった!

 シンナバーが思い切り戦える様に言う事聞くね」


 あんな凶悪な弾が万が一にもイシェルに当たったら大変だ。

 観客席が100%安全かって事もないけど、大砲の弾はほとんど水平に飛び出すみたいだし、闘技場より高い位置の観客席の方が安心できる。


「これより決勝戦を始めます!

 シンナバー・アメシス選手とタンザ・ゾイ選手は格闘場へ上がって下さい!」


 いよいよだ、あたしは観客席のみんなに手を振り格闘場へと向かった。

 格闘場に上がると反対側から腹のデカい男、タンザ・ゾイが現れた。


「ンガハハハハハッ! ガハッ! ンガハハハハッ!」


 しかし、あの男っていつも笑ってるけど、一体何が面白いのかさっぱり分からないな。

 タンザは両手を腰に当て、デカい腹を真っ直ぐあたしに向けていた。

 あたしは純白の棍棒を両手に持ち、それをクロスさせて精神を集中させた。

 会場からは様々な声が上がり、それが混ざって唸り声の様な音となって響いていた。

 そしてしばらくした後、ドラムロールが起こり、開始の合図である大きなドラが鳴らされた。


 ドラが鳴った直後、耳に来る炸裂音がした。

 タンザがあたしに向かって大砲を撃ったらしい、これは読み通りだ。

 その時既に、右前方に全力で走っていたのだけど、左方向に風を切る大砲の弾の音が聞こえた。


「ぬ? ぬぬぬ?」


 今のあたしはタンザにはまるで点滅している様に見える事だろう。あたしはそんな風に錯覚して見える様に走っているのだ。

 人間の目は簡単に騙す事ができる。渦巻きを回転させてあげると、絵が動いている様に見える様に。その類の錯覚に似た効果を利用したもので、あたしが使う錯覚は相手が動かない様に見える。

 だから錯覚している状態で止まってる様に見えて、実際のあたしは移動している。その錯覚が切れた瞬間に実物のあたしが現れるんだ、それを繰り返すとまるで点滅するみたいに飛び飛びに見えるって訳。


 錯覚に騙されたタンザは大砲を撃ちまくっていた。その全ての弾は、遥か遠くの壁に重い音を立ててめり込んだ。

 あたしが近付いて両目の焦点の角度が大きくなればなる程、錯覚の効果はさらに大きくなる。

 捕らえきれないターゲットを前にした時、この男も恐怖とかするのだろうか。


『どこ見てるんだろね、あたしはここだよ』

 その時、きっとタンザには、あたしが右真横に突然現れた様に見えた事だろう。

「ウガァァッ!」

 大きな声を上げて右腕を振るってあたしをなぎ払おうとするタンザ、振り払った後できっと近距離用の技を使うんだろうな。

 くるりと回転したタンザが右手でわき腹の何かを操作すると、けたたましい炸裂音が響いた。

 それは近くで聞くとまるで雷が近くで鳴った様な音だった。

 直後に少し離れた地面にたくさんの小石を撒いた様な音がしていた。今のは火薬の爆発で大量の金属の粒を撒き散らしたものだった。


「フハッ! ザマァ……?」

『今のって初めて使った技だよね、今のも近接攻撃なんだ』


 あたしはタンザの奥にさらに回り込んで回避していた。今の様子だと、あたしの残像に当てて喜んでた感じか。

 そしてあたしは躊躇せず、タンザの左肩パットに秒間16連打のアレを撃ち込んだ。

 鎧の装甲は、火花を散らして紙を引き千切る様にひしゃげて飛び散り、剥き出しとなったタンザの肩にも命中した。


「グガァァァーーッ!」

 その衝撃に、咆哮の様な声を上げるタンザ。腕は力なくだらりと垂れ下がり、体全体がぐらりと揺れて跪いた。


「ググゥ……いっ痛ぅ」

『まだやる気ある?』


 あたしは念のために聞いてみた。左腕をやられただけなら、右腕でまだ仕掛けを操作できるだろうから降参はしないとは思うけど。


「い……いや……肩がすげぇ痛ぇ……」

 そう言ってタンザは苦しそうな左肩を押さえていた。

 これって降参したと思っていいのかな?

 思ったよりあっさり戦闘放棄したのを見て、あたしはちょっと拍子抜けをしてしまった。


『降参するならちゃんと降参って言うんだよッ!?』

「わ、わかったちゃんと言うから……。右手を引っ張って起き上がらせてくれ」


 タンザはそう言って、震える右手をあたしに伸ばして助けを求めていた。

 何だかなぁ……。こんなの決勝戦とは思えないや。

 仕方なく、あたしはタンザの右手を掴んで思い切り引っ張った。


『重いなぁ……ビクともしないよ』

「もう少しだ、両手で引っ張ってみてくれないか?」


 タンザの巨体はあたしの力では全く動きそうもなかったけど、タンザがもう少しと言うので両手で思い切り引っ張る事にした。

 タンザの手首を両手で思い切り引っ張ってあげると、やっと少しタンザの体が動いた。


『あ、今少し動いたよッ! もうひと息ッ!』

 そう言って思い切り引っ張った時、タンザの右手があたしの両腕をまとめて掴んだ。


「ガハハハハハッ! どうだ捕まえたぞ」

 下品な声を上げてタンザが笑った時、やっとあたしは騙された事に気がついた。

 のそっと起き上がったタンザは、あたしの両手を掴んでいる右手に物凄い力を入れた。

 その怪力に、あたしの両腕の骨がギシギシと音を立て、やがて木の枝が折れる様な感覚がして折れた。


「ンガハハハハッ! 両腕の骨が折れたな」


 あたしの両腕に激痛が走り、額からは冷や汗が出てきた。


「あぁッ? 何黙ってるんだ?

 痛いんだろ? 黙ってないで泣き叫んだらどうなんだ? ガハハハハハハッ!」

『なんだ、さっき降参するって言ったのはウソだったんだね』

「あーッ? そんな事言った記憶はねぇなぁー。

 ンガハハハハハハハッ!」

『そうか、よくわかったよ。

 ヘタレ格闘家もこの手にひっかかったんだね』

「ガハッ!? そんな事今更分かってどうすんだぁ!?

 テメェはこれから派手に吹っ飛ばされて死ぬってのによぉ!?」


 タンザはそう言うと、デカい腹をあたしに向けニヤリとした。


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