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【2】心にひっかかっているもの

 あたしとスフェーンは、小さい頃からの幼なじみ。二人はいつも一緒でとっても仲良しなんだ。

 スフェーンは今や最強のソーサラーと言われる様になったけど、少しも偉そうになんかしないで、昔と変わらずに接してくれてる。

 彼女はあたしの自慢の友達だ。これからもずっと一緒に居られるといいな。

 スフェーンとあたしが魔法学校を卒業して、魔戦士組合に入って約三年の月日が経過した。その後はあっち行きこっち行きと、色んな街を旅してきたよ。

 訳あって、固定の拠点を持たない流れ旅だけど、この三年間はとても楽しく過ごせたと思う。

 旅の表向きの目的は、スフェーンの為だけど、もちろんあたしだってちゃんとした企み……。いや、目的がある。

 それはちょっと難しい事かもしれないけど、必ず叶えたいと思ってる事なんだ。


 あたしとスフェーンは現在、バイチと言う様々な物資が流通する活気あふれる街にいた。その街の魔戦士組合で、次の依頼を探している所だ。

『うーんうんうんうん……』

「シンナバー、あんた何唸ってるの?」

 あたしが掲示板に貼られた依頼の紙とにらめっこして悩んでたら、スフェーンが声をかけてきたよ。

『ねぇ、スフェーン。あたし、あんなんじゃ全然戦い足りないよ! もっとこう……、強い相手と戦いたいんだよ!』

 あたしは手足をバタバタして、沸き起こる熱き闘志を訴えてみた。

「あんなんじゃって、モグラの事?」

『うん、モグラ!』

「確かにあれはねぇ……。それで、暴れられそうな依頼はありそう?」

『このマトラ旧市街の開放とかどう? 難易度Aだよッ?』

 これ、実はいわくつきとの噂のある依頼である。

 あたし達が旅立った三年前には既にあった依頼なんだけど、今もまだあるって事は誰も成功してないって事だからね。

 一説には設定難易度がおかしいとも言われてる。

 でも、それだけにやりがいもありそうだし、きっと確かな満足が得られると思う。大きな街一つ、まるまるが戦闘区域になる訳だから。

「んー……。旧市街って魔物に占拠されてるから人が居ないのよねぇ」

『あ、そか……。じゃぁ他は何があるかな?』

 ちょっと残念だけどしょうがない。

 スフェーンはこの三年間、ある人物をずっと探してる。

 だから、人が居ない所には行ってもしょうがないんだよね。

 あたしは掲示板に貼られた依頼たちにまた目を向けた。


「ならさぁ、こういうのとかいいんじゃなーい?」

 スフェーンは一般依頼の掲示板ではなく、おしらせの掲示板の、赤い縁取りがされている紙を指さした。

 その紙は武道大会の参加者募集のチラシだった。


『おぉーーーッ!? こんなのがあるのかッ!』

「ねッ? 楽しそうじゃなーい?」

 いいねいいね。ツワモノがいっぱい集まって来そう。

 武道大会はコウソと言う街で行われるらしい。何と日付は明日になっている。参加受付は、今日の夕方までらしい。あまり時間はないけど、このバイチからなら定期便バスで向かえば十分間に合いそうだ。


「コウソの街ってここから結構近いみたいね。定期便のバスも出てるみたいだし」

『あー。でも魔法は使っちゃダメって書いてあるー! これじゃスフェーンが出られないよッ!?』

「あたしはいいの。また街の方に用事があるしね。シンナバーはしっかり楽しんでおいでーッ!」


 またか……。スフェーンは一緒に旅をしてるけど、人探しのせいでどうも心はここにあらずなんだよね。

 あたしは確かに戦いたいのだけど、出来ればスフェーンと一緒に戦いたいんだ。

 そんで、二人で生きるか死ぬかって程の修羅場を潜り抜けられたらいいのに。

 例えば、あたしがピンチになっちゃって「危ない!」って感じの場面があって。そんでそんで、見事スフェーンがあたしを助けてくれるってシナリオ……。とかを何度妄想した事だろうか。

 その後、負傷したあたしをスフェーンがやさしく介抱してくれてるうちに、情が沸いて人探しはどうでもよくなっちゃって、……そして……とかさ。

「おーい! シンナバー! コウソ行きのバスがもうじき出るってぇー!」

 スフェーンは外の定期便のバス停の前で、バスの切符を振ってあたしを呼んだ。はやっ、いつの間に。

『ハッ!? うっかり妄想の世界にふけってしまっていたよッ!』

 あたしはあわててバスに乗り込んだ。


 その定期便バスは、わりと古そうな蒸気機関の乗り物だった。

 蒸気機関のバスは、運転手と切符を切ったり売ったりする人、それと今は少し珍しいくなったけど、バスの後ろで薪をくべる人の三人必要とする乗り物だ。最新式のバスには蒸気機関じゃないのもあるのだけど、まだまだ蒸気機関のバスも多く残ってる。

 あたしは急いでコウソ行きの定期便に乗り込むと、スフェーンの隣に座った。スフェーンはあたしの切符をくれた。ちょっと厚目の切符には、コウソ行きと書いたハンコが押してある。

 コウソとバイチは商人がよく行き来してるから定期便がある。この便には他のお客はそれなりに乗っているけど、見た感じは殆ど商人で、一般の客は余りいない様だ。

 少しして定期便が出発すると、スフェーンは窓の外でゆっくり動き始める景色をぼんやりと眺めていた。あたしは寝たふりをして、スフェーンにちょこっと寄りかかった。

「おチビたん……。どこに行っちゃったの?」

 スフェーンが独り言をポツリともらす。その言葉にあたしの胸は少し苦しくなった。


          ***


 定期便バスは、午後三時前にコウソの街に到着した。

 街は活気のある商人だらけで賑わっている。

 それもそのはず。ここには様々な品物が集まるけど、商人相手にまとまった量を販売する所だからね。一つの商談で結構なお金が動く訳だ。だから商人たちは一つでも商談を増やそうとして、ひたすら声を出しまくるってるんだ。

 こんなコウソの街で、武道大会が行われる。

 その大会の試合で魔法を禁止してるのは、魔法は武道に含まれないって考えなんだろう。純粋な武道を求める者には魔導は邪道だと考える人も多いみたい。とは言っても、魔法を許可するのなら、この街全部位の広さは必要になりそうだけど。例えばスフェーンみたいなのが出るとしたらね。現実的に魔法は許可するのは難しそうだ。


 後ね、コウソの街は河港でもあるんだけど、街がワッカ運河に面してるの。

 ワッカ運河を使って、貨物船がどっかからコウソへ物資を運んで来たり、どっかへ運んでいったりする。

 その貨物船は一般の人も乗れるみたい。

 船旅っていうのもいいかもしれないな。


 あたし達は、武道大会の受付けを探した。

 街を見渡してたら、いきなり背中に何か大きなものがぶつかって、あたしは吹っ飛ばされてしまった。

『うわぁーーーッ! 何だ何だ!?』

 振り返って見ると、そこには大きなお腹をした男があたしの様子を見て「ガハハ」と笑っていた。

「ガハハハハハッ! 悪りぃ悪りぃ! ンガハハハハハハッ!」

『コラーッ! わざとやったなァーッ!?』

「ガハ? なんだテメェは? 随分と威勢のいいガキだなァ」

『そう言う事なら、あんたも随分とデカい腹だなッ!』

「あーん? おめぇ誰に対してそんな口聞いてんだ?」

 コイツ、最初に自分がぶつかって来たくせに、なんて腹の立つ男なんだ。いや、腹のデカい男なんだ。あたしは男の腹を思いっきり睨んでやった。

「シンナバー、あっち行こっ」

 スフェーンはそう言って、あたしの手をひっぱった。あの男は気に入らなかったけど、スフェーンが言う事なら従うよ。

 振り返ってあの男を見たら、まだガハハと笑ってた。もし外でそんな事したら、一瞬でその口を黙らせてやる。

「ダメよー? あんな分からず屋なんて相手にしちゃぁ」

『えーッ!? 分からず屋なら、なおさら分からせてあげた方がいいんじゃないッ? 口で言って分かんないなら、トンカチで分からせてやるッ!』

「ブッ! でもねぇ、この街の中では戦わない方がいいみたいよ」

『えっ? なんでなんでなんで?』

「だってこの街って商人の街でしょぉ? だから、軍が警備してて何か問題を起こすと、商人サイドの言い分が通って指名手配されたりもしちゃうの。そうなったらめんどくさいでしょー?」

『えぇっ!? そうなんだッ! 危なかったッ!』

 あの男は商人っぽくはなかったけど、万が一と言う事もある。街の中では極力大人しくしておこう。ガマンが出来る範囲内で。


 それから、あたし達は武道大会の受付を見つけ、参加手続きをすました。

 受付場所がまさか、倉庫の中にあるとは思わなかったけどさ。

『ねぇ。この大会って何人位でるの?』

 あたしは受付のおじさんに、参加人数を聞いてみた。

「んー、毎年百人位かな? 今年も同じくらいは参加すると思うよ」

『ヤッターッ! 凄く強い人が参加するといいねッ!』

「ほっほー。ボウズは随分とやる気だなぁ?」

 あたしはボウズと言う言葉に反射的に反応した。

『あたしはボウズじゃないよッ!? 見たら分かるでしょッ!?』

 あたしはおじさんに、服がよく見える様に袖を指でつかんで左右に広げて見せた。

 ボウズはダメだ。少年ならまだいいけど、ボウズに見られちゃ黙ってられない。

 なんたって、あたしは一応神に仕えるプリーストって設定なんだから。

「え……? 女の子だったのかい?」

 そういう事を言いたかった訳じゃないんだけど、おじさんはどういう意味にとったんだろ。

『こ服装からして女に決まってるでしょッ!? 因みにボウズじゃなくて、プリーストだから。もっと厳密に言うとプリーステスね!』

「ふぅーん、何だか知らんけど分かりにくいな」

 受付のおじさんは、あたしの服装を見つつ、何かを探している様に視線が泳いでいた。

 うん、言いたい事は大体分かる。いつもの反応だからね。

 受付を済ませて外に出ると、あたしは明日が待ち遠しくて少しテンションが上がっていた。

『さぁ、大会の参加手続きもしたし、宿とかも探さないとねッ! 今日は食べるゾォーーッ! そして食べられちゃうゾォーーッ!』

「アハッ! あんたが食べられてどうするのッ!」

 きっと、この武道大会は思いっきり戦えるに違いない。

 心にひっかかっている事が少しでも忘れられるなら、今はそれでいいんだ。


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