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【13】必殺技は秒間16連打

 元武道王ちゃんことの試合は、思った通りあたしをヒートアップさせてくれた。


 ちゃんこの両手両足は攻守共に申し分なく、あたしは他にどんな攻撃をするのか知りたくなった。


『ふぅー……流石元武道王だねッ! 他にどんな攻撃があるの?』

「心配しなくとも降参しなければもっと見られる」

『あぁ、そっか』

「余り手の内を見せるつもりはないのだがッ!」


 そう言い終えるかのタイミングで、ちゃんこは二本の旋棍を平行に構えた姿勢のまま飛び掛ってきた。

 あたしから見て、左方向から右方向へと振りぬくその攻撃は、スピードは言うまでもなく、重さまである様に感じた。

 それを当然の様に、あたしも左右の棍を使って上下で受け止め……ない。

 右に向かって放たれる攻撃ならば、素早く右斜め前に動けば意味がなくなるからだ。

 さらに、降り始めの姿勢が不安定だった様なので、少し押してやれば容易に……と言う事で、あたしはちゃんこの左肩を両手でポンと言う音が出る位に押してやった。


「ぐが!?」

 思った通り、ちゃんこの体は簡単に姿勢を崩して地面を転がる事になった。

 それでもとっさに右肩を内側に入れて、素早く一回転て受け身をとった後、すぐ立ち上がる辺りは流石元武道王と言った感じがする。


「貴様……!? 今一体何をした……?」

『何押した? ってあんたを押したに決まってるでしょ!? もしかしてボケたのッ!?』

「バカか!? 誰がうまい事を言えと……そうじゃない!

 今押された時、確かに貴様はまだオレの目の前に居たはずだ」

『えッ? そっちからじゃ押せないよッ!?』

「くそッ! 頭の悪いやつだ!」


 さっきまで余裕しゃくしゃくだったちゃんこが、なぜか唐突にキレて口調が乱れ出した。

 いい事教えてあげるよ、人間って言うのは余裕がなくなった時に本来の器がよく分かるんだよ。

 だからもし、お付き合いする相手が出来たら、一回わざと怒らせてみるといい。

 例えそのままになったとしても心配ご無用、その程度の相手なら早かれ遅かれそうなるもんだろうからね。

 それはそうと、あたしって何でいつも「バカ」とか言われるんだろう?


『もしかして怒ってるの? 謝った方がいい?』

「ウルセェッ! 黙ってろッ!」

『…………(黙った)』


 何なんだコイツ……。ちょっと押しただなのに、いきなり態度が豹変したぞ!? もしかしてイキリスイッチみたいなものを押しちゃったのだろうか。

 もうチャンコの表情には完全に余裕がなくなっていた。殺伐とした状況はそれはそれでいいもんなんだけど……。


「オラァ!」

 チャンコはさっきまでとうって変って、乱暴な声を発して飛び掛って来る様になった。

 しかし技を出す事はせず、堅実に旋棍を振るうのみ。それをあたしは「よッ!」と受けて流す。


「コノッ! クソッ!!」

 ムキになった様にひたすら撃ち続けるチャンコの攻撃は確かにスピードは速いんだけど、軌道が腕の長さそのままで単純だった。

 こう同じ攻撃ばっかだと段々と飽きてしまうなぁ……。退屈だしアレを撃ってみるか。


 攻撃パターンを変える目的で、チャンコの右手の軌道が伸びた瞬間に旋棍に向かってアレを撃ち込んだ。

 アレと旋棍が衝突した瞬間に激しい火花が散り、重心の全てを右手の旋棍と連動させていたチャンコは後方に10メートル程飛んでから、ゴロンゴロンと面白い格好で転がって、武道場のラインギリギリの所で止まった。

 チャンコは一体何が起こったのかとでも言う様な表情で、数秒ぼーっとしていたが、すぐに気を取り直して起き上がった。

 そのチャンコの右腕に旋棍はまだ掴まれてはいたけど、それはもう武器として使えそうもない状態になっていた。

 そればかりか、チャンコの手首なんておかしい方向に曲がってたりするんだけど。

 起き上がったチャンコに観客席から大きな声が上がった。でもガッカリした様な声もするから多分チャンコを応援する連中の声なのだろう。対するあたしは極少人数以外はアウェイだ。


「貴様……。今一体何をした!?」

『腕、大丈夫?』

 あたしはチャンコのおかしく曲がった腕に向けて、右手の片手棍を突き出して見せた。

「腕? ……うわぁぁ!! なっ……なんじゃこりゃーッ!? ぐぉぉぉぉぉーーーッ!」

『ね……』

 チャンコに腕の異変を教えてあげたら、腕に気付くなりとたんに痛がりはじめた。

「一体何をしたらこうなると言うのだ! クッ……」

 チャンコは苦しそうな表情であたしに聞いてきた。

『1秒間に16回叩くとそうなるらしいねッ!』

「い、1秒間に16回だぁッ!?」


 そのつまり、あたしが撃ち込んだアレと言うのは1秒間に16回物体を強打するもので、あたしの師匠直伝の技だ。

 連撃と基本は同じだけど、速度と破壊力が段違いで、あたしが一番好きな技だった。

 特に見た目の派手さと、殴ってる感がいいんだよね。

 因みに、あたしが使っている純白の片手棍二刀流は、この秒間16回殴る技に特化した作りとなっていて、打撃によって欠損しない様に魔法によって練成されたものなんだ。金属っぽくは見えるけど、空中に分解しない魔力の塊みたいなもの。


「この武道王と名乗った事のある者の腕を、たった一回の技で折っただと……?

 貴様は一体何者なのだ……」

『何者かと言われても……。ただのプリーストだよ、としか答えられないよッ!』

「なにッ!? 貴様……まさか……。今噂の“最凶の”とか呼ばれてるプリーストか!?」

『む、またもや悪意を感じるワード……。

 なぜか最近みんながあたしの事をそう呼ぶんだよッ! もしかしてイジメですかッ!?』


 そう言い放ったあたしに、あっけに取られた顔のチャンコが言った。

「いや、悪意を込めて呼んでるのは実力がない一部の者だ。そんな者は放っておけばいい。

 オレは一度戦ってみたいと思っていたぞ?」

『そかそか、なら良かった』

「しかし噂のプリーストは、想像以上の大バカ者だったな……戦えたオレは大満足だ」

 それだけ言うと、チャンコは闘技場から出て行ってしまった。

 チャンコが言った言葉の意味はよく分からなかったけど、戦いに満足してくれたならいいと言う事なのだろうか?


「勝者17番! 本選出場決定!」

 とりあえず本選に勝ち残れた。これでヘタレ格闘家も勝ち上がれば、対戦できる可能性が出てくるね。

 強い相手と戦えた嬉しさに、スキップしながらイシェルの待つベンチへ戻ると、イシェルは大喜びで抱きついて来た。


『うわッ!? ちょっとイシェル!?』

「ウフフ……、早く続きがしたーいッ!」


 あたしが試合に勝った事でテンションが上がっているのか、イシェルは周囲を気にする様子もなく丸い目をギラギラと光らせている。

 そうだった……。まだあたしは誤解を解いていないままだったんだ。


 その時、観客達が後方の闘技場を見て一斉に歓声を上げた。

 方向からすると、ヘタレ格闘家の居る闘技場だ。あたしがその方向へ振り返って見ると、今まさに勝負が決まった瞬間だった様だ。

 立っていたのは見慣れたあのヘタレ格闘家。そして、その前に倒れているのは……昨日あたしにわざとぶつかって来たあの腹のデカい男だった。


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