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アンケート-選ばないという選択-  作者: 菊池まりな


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第46話 そこは変わらない

翔の準備は整っていた。




PCの画面には、美佳の端末への接続ログが表示されていた。タイムスタンプが数秒おきに更新され続けていた。接続は切れていなかった。




「やり方を説明します」と翔は言った。「端末に届いているデータを、ここのPCで同時に受信できるようにする。美佳さんの端末で直接見るより、こっちで見た方が痕跡を残さずに済む」




「向こうに気づかれない?」




「気づかれない、とは言い切れない」と翔は言った。「ただ、通常の接続の範囲内に見せることはできる」




美佳は頷いた。「やって」




翔がケーブルを美佳のスマートフォンに接続した。PCの画面が切り替わった。ファイルのリストが表示された。


多かった。




美佳は画面を見た。ファイルの数は三十を超えていた。最古のタイムスタンプは、二年三ヶ月前だった。LAPISのアンケートに最初に答えた日の、翌日だった。




「ずっと来てた」と美佳は言った。




「ずっと」と翔は言った。「ただ、ファイルの中身が変わっています。最初の一年と、最近とで」




「どう変わってる」




翔は最古のファイルを開いた。




数字の羅列だった。選択のログだった。美佳がLAPISのアンケートで選んだ回答が、そのまま記録されていた。どの問いに何秒かけたか、何度選び直したか、最終的に何を選んだか。




「これは分かってた」と美佳は言った。




「次を見てください」と翔は言った。




半年前のファイルを開いた。




形式が変わっていた。選択のログではなかった。テキストデータだった。




対象:三枝美佳


分類:設計者候補・最高位


現状評価:接触段階


次フェーズ:提示




美佳は読んだ。




朝倉が画面を覗き込んだ。有栖川も立ち上がって来た。




「評価されてた」と朝倉が言った。怒りではなく、確認として。




「接触段階、というのが」と有栖川が言った。「@LAPIS_echoのDMのことだと思います。次フェーズの提示が、設計者としての位置づけ」




「つまり」と翔が言った。「美佳さんへのアプローチは、計画の中にあった」




美佳はファイルを見続けた。




次のファイルを開いた。三ヶ月前。




現状評価:提示済み・保留中


備考:予想外の抵抗。ただし関心は持続している。


方針:待機。対象は自ら動く可能性が高い。




「予想外の抵抗」と美佳は声に出した。


自分が断り続けていたことが、向こうから見れば「予想外の抵抗」だった。そしてそれでも「関心は持続している」と判断されていた。




「対象は自ら動く可能性が高い」──美佳は今夜、この建物に来た。




翔が次のファイルを開いた。二週間前。




現状評価:接近中


備考:周辺人物の調査継続。副次的接触を開始。


副次的接触対象:宮下ユリ




部屋の中が、静かになった。




翔がキーボードから手を離した。




副次的接触対象、宮下ユリ。二週間前から、




ユリへの接触が始まっていた。美佳に直接届かないなら、美佳の周辺から──そういう設計だった。




「ユリさんに場所を教えたのは」と朝倉が言った。




「Aライン側の人間」と美佳は言った。「彩音さんじゃない」




美佳はスマートフォンを見た。接続は続いていた。




最新のファイルを開いた。今夜のタイムスタンプだった。




現状評価:収束段階


備考:対象、建物内に到達。予定通り。




「予定通り」と美佳は言った。




翔が美佳を見た。朝倉も見た。有栖川も。




美佳は画面を見ていた。




今夜ここに来たことが、予定通りだった。翔が単独で動いたことも、三人が続いたことも、向こうの計算の中にあった可能性があった。




美佳は息を吐いた。




「怒ってる?」と朝倉が静かに聞いた。




「怒ってない」と美佳は言った。「ただ──」




言葉を探した。




「予定通りだとしても」と美佳は言った。




「今夜ここに来たのは、自分で決めた。そこは変わらない」




翔が小さく頷いた。




「それと」と美佳は続けた。「予定通りだということは、次の予定もある」




有栖川が「ええ」と言った。「最新ファイルの後に、もう一つあります」




翔が画面を操作した。




タイムスタンプは、今から十分前だった。




次フェーズ:対話。


場所:現在地。


時刻:今夜。




四人が顔を見合わせた。




建物のどこかで、音がした。




一階だった。扉が開く音だった。




足音が、階段を上り始めた。



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