第四話「知らなかった現実」
第四話では、これまで断片的に語られていた藤堂篤の「日常」を、狭間雄大の視点を通して描きました。
学校という閉じた世界で生きてきた雄大にとって、夜の街も、大人向けの仕事も、すべてが異質な現実です。
本話で重要なのは、職業や刺激的な要素そのものではなく――
「価値観の衝突」 にあります。
夢や努力が通用すると思っていた世界。
だが実際には、需要と金で回る現実も存在する。
その事実が、雄大の中に静かな揺らぎを生みます。
そして篤という人間。
彼の言葉や態度は相変わらず軽薄に見えますが、彼の周囲に広がる空気は決して軽くない。
今回のエピソードは、篤の背景を説明するためではなく、
雄大の視界を強制的に広げるための回でもあります。
物語はここから、より現実的で、より残酷な方向へと進んでいきます。
夜の街は、雄大にとって異世界に近かった。
ネオンの光。
騒がしい笑い声。
制服姿では明らかに場違いな空気。
「……なんで俺がこんな所に……」
隣を歩く藤堂篤は気だるそうに言った。
「面白いもん見せてやる」
連れてこられた雑居ビル。
薄暗い店内。
そして――彼女。
「篤の彼女です」
華やかな女だった。
場の空気に馴染みすぎている。
違和感を覚えたのは、その雰囲気。
「……仕事は……?」
女は軽く笑った。
「女優」
意外な言葉。
だが次の一言が、雄大の認識を揺らす。
「ちょっと大人向けのね」
「……え?」
篤が横から口を挟む。
「グラビア系」
女は悪びれもせず続けた。
「写真とか映像とか」
「そういう仕事」
雄大の思考が止まる。
テレビの世界とは違う響き。
「……それって……」
言葉を濁す雄大に、彼女はあっさり言った。
「脱ぐ仕事だよ」
あまりにも軽い口調。
だがその一言は重かった。
夢や華やかさとは違う現実の匂い。
「需要あるし」
「お金も悪くないし」
篤が笑う。
「現実ってやつだろ」
雄大は彼女の目を見る。
そこにあったのは、どこか冷めた光。
「……嫌じゃないのか……?」
一瞬だけ沈黙。
彼女は微かに笑った。
「別に」
短い答え。
その軽さが逆に胸へ刺さる。
夜のネオンが揺れる。
雄大は初めて、自分の知らない世界の存在を強く意識した。
そして理解する。
篤のいる場所。
自分の知らない現実。
二つの世界は、想像以上に遠かった。
第四話の核は、「知らなかった世界」です。
人間は、自分の立っている場所を基準に世界を測ります。
雄大にとっての常識。
篤にとっての常識。
そのズレが、ようやく明確な形として表面化しました。
特に意識したのは、彼女の描写です。
悲劇的にも、過度に重くもせず、
どこか淡々とした空気を持たせています。
なぜなら、この世界ではそれが「特別なことではない」からです。
非日常ではなく、日常。
その感覚こそが、雄大にとっての最大の衝撃になります。
また、篤のキャラクターも少しだけ色が変わり始めています。
単なる不良ではなく、
単なる才能の塊でもなく、
彼の立っている現実の輪郭が徐々に浮かび上がってきました。
二人の距離はまだ縮まりません。
だが、互いの世界を無視できない段階へと確実に進んでいます。




