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半身のペンネーム2  作者: マーたん


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2/12

第二話「最悪の共通点」

第二話では、第一話で生まれた「衝突」の余熱を引き継ぎながら、二人の関係性の核となる要素を描きました。


喧嘩そのものではなく、その後の空気。

処分を待つ時間。

言葉のぶつかり合い。


物語において重要なのは、事件よりもその余波であることが多々あります。


優等生・狭間雄大と、不良・藤堂篤。

本来なら理解し合うことのない二人ですが、本話では「価値観」ではなく「状況」の共通性を浮き彫りにしました。


一方は将来を強制され、

一方は将来を放棄している。


対極でありながら、どちらも現状に閉塞感を抱えているという構図です。


そして物語の転換点となるのが、篤の才能の可視化。

ただの問題児ではないという事実が、雄大の認識を静かに揺さぶります。


ここから物語は、単なる対立関係から一段階進みます。


「嫌いだが無視できない関係」


その始まりとしてお楽しみください。

職員室の空気は、独特の重さを持っている。


静かでありながら圧迫感に満ちた空間。

壁際に並ぶ机。

規則正しく積まれた書類。


そして――説教の匂い。


「……で、どういうつもりだ」


担任教師の低い声が響く。


目の前には二人。


狭間雄大。

藤堂篤。


並んで立たされているその光景は、どう見ても異様だった。


「狭間……お前は何を考えている」


教師の視線が鋭く突き刺さる。


「お前が暴力沙汰だと?」


失望と苛立ちが混ざった声音。


雄大は無言のまま立っていた。


言い訳などできない。

事実として殴ったのは自分だ。


だが納得はしていなかった。


「……向こうが挑発したんです」


かろうじて絞り出した声。


篤が横で鼻を鳴らす。


「は、優等生様の言い訳かよ」


その一言で空気がさらに悪化する。


「藤堂ォ……!」


教師の怒声。


「お前は黙ってろ!」


だが篤はどこ吹く風だった。


壁にもたれ、完全に他人事の顔。


「どうせ停学だろ」


投げやりな声。


「慣れてるし」


その態度に教師のこめかみが引きつる。


雄大は思わず歯を食いしばった。


この男は何も変わらない。

責任感も、緊張感もない。


それなのに――


なぜか引っかかる。


昨日の喧嘩の感触。


確かに手応えはあった。

だが、篤は本気ではなかった。


それは明らかだった。


「……とにかく」


教師が深くため息を吐く。


「処分は追って決める」


「今日はもう帰れ」


吐き捨てるような言葉。


職員室を出た瞬間、緊張が解けた。


廊下の静寂。


重苦しい沈黙が流れる。


数歩先を歩く篤。


ポケットに手を突っ込み、気だるそうな背中。


雄大の中で苛立ちが再燃する。


「おい」


思わず声をかけていた。


篤が振り向く。


「……あ?」


「なんであんな適当なんだ」


「漫画家だの何だの……本気で言ってんのか」


篤は一瞬だけ黙った。


そして――笑った。


「お前さ」


「真面目すぎんだよ」


「は?」


「漫画家なんて、なれりゃいいだろ」


軽い。


あまりにも軽い。


雄大の神経を逆撫でするには十分だった。


「そんな甘い世界じゃない」


「知りもしないくせに」


その時だった。


篤の視線が僅かに変わる。


面倒くさそうな色が消える。


「……じゃあよ」


「お前は何目指してんだ」


「……納戸井大学だ」


反射的に答える。


篤が鼻で笑う。


「は、エリート様じゃねえか」


「勝ち組コース確定だろ」


その言葉が、妙に刺さった。


勝ち組。


誰もが言う。


だが――


「……別に……」


気付けば口をついていた。


「行きたいわけじゃない」


篤の動きが止まる。


「……あ?」


「親が勝手に決めてるだけだ」


吐き出すような声。


胸の奥に溜まっていたものが零れる。


「期待だの将来だの……」


「全部押し付けだ」


篤がじっと雄大を見る。


からかうでもなく、笑うでもなく。


初めて見せる、妙に真剣な視線。


「……へえ」


短い呟き。


「お前も大変なんだな」


その言葉は、予想外だった。


嘲笑でも挑発でもない。


ただの感想。


雄大は言葉を失う。


篤がふいに言う。


「じゃあお前も同じじゃねえか」


「……何がだ」


「逃げ場探してんだろ」


その一言が、胸の奥へ突き刺さった。


否定できなかった。


勉強。

進学。

将来。


全てが決められた道。


そこから外れることへの恐怖。


そして――


どこかで思っていた。


「別の何か」を。


篤がポケットから紙切れを取り出す。


ぐしゃぐしゃに折れたコピー用紙。


そこに描かれていたのは――


圧倒的な画力のイラストだった。


雄大の目が見開かれる。


「……お前……これ……」


言葉が続かない。


篤は無造作に笑う。


「暇つぶし」


あまりにも軽い答え。


だがその絵は、明らかに異常だった。


才能。


その二文字が、否応なく脳裏をよぎる。


雄大の中で何かが軋む。


理解不能な違和感。


そして確信。


――最悪だ。


こいつは、本当に描ける人間だ。


大嫌いな相手。

認めたくない現実。


だが二人の間には、決定的な共通点が生まれていた。


「……漫画か……」


雄大の小さな呟き。


篤がニヤリと笑う。


「お前、向いてる顔してるぜ」


最悪の共通点。


最悪の組み合わせ。


だが運命は、静かに動き始めていた。

第二話のテーマは非常に明確です。


共通点。


だがそれは友情や共感ではなく、もっと歪んだものとして描かれています。


雄大は篤を理解しない。

篤も雄大を理解しない。


それでも互いの中に、自分と同じ「逃げ場を探す気配」を見出してしまう。


この構造は、長編物語において非常に強力な推進力となります。


特に重要なのは、篤の絵。


彼が「努力して得た才能」なのか、

「無自覚な天賦の才」なのか。


現時点では曖昧に留めています。


なぜなら、この不確定さこそが物語の緊張感を生むからです。


そして雄大に芽生えた違和感。

それは尊敬ではなく、危機感に近い感情です。


認めたくない相手の才能ほど、人間の心を強く揺さぶるものはありません。


二人の距離はまだ最悪のまま。

だが確実に、同じ方向を向き始めています。

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