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3.ハエトリグモと過ごした日々


 ※タイトルの通り、蜘蛛の話です。苦手な方は無理せず読み飛ばしてください。






 もうだいぶ前のことなのだが、部屋の中を歩いている小さな蜘蛛を見つけた。本当に小さくて、だいたい小豆あずき一粒程度のサイズだ。


 なんの蜘蛛だろうとちょっと気になってスマホで検索してみたら、どうやら『ハエトリグモ』というようだった。少なくとも危険な蜘蛛ではないことがわかった。

 聞いたことのある名前だし、写真で見たこともあるなと思い出した。つぶらなお目々が可愛いと話題になってたときがあったような。


 幼い頃、私は蜘蛛が大の苦手だった。

 当時の環境が自然の多いところだったゆえに、デカい蜘蛛や虫を見かける機会が多かったというのもありそうだ。そこで強い嫌悪感を持ってしまっているからなのか、小さな蜘蛛や虫でさえ悲鳴を上げて逃げ回るほどだった。


 よく見かけるからといって慣れるかといったらそうとは言い切れない。人による。

 しかし大人になるに連れて冷静に見られるようになったり、好みが変わるなんてこともあるらしい、と自分を見ていて思った。


 大人になってからは、小さな蜘蛛や虫を怖がる人の多さに驚くことが増えた(もちろん毒性があるなどの有害な生き物なら注意が必要だが)

 でもそもそも“小さい”という基準が人によって違うんだろうけどね。


 なにはともあれ私は、ハエトリグモなら“小さい”の部類だと認識しているし、ピョンピョンと跳ねる様子が可愛らしいと思うのだ。


 それから何度か部屋の中でハエトリグモの姿を見かけるようになった。多分同じ個体だったのではないかと思う。


 そうしているうちにハエトリグモさんはすっかり人慣れしたようで、ゲームをしている家族の指にピョンと乗ったりすることもあった。


 朝の蜘蛛は良い意味で、夜の蜘蛛は悪い意味などと聞くが、もし住み着いているのなら良いも悪いもない気がする。


 朝目が覚めると壁にくっついてるその子が見えたり、たまに足元を歩いていて「床を歩くなよ、危ないだろ〜」と声をかけることもあった。


 しかし当然ながら蜘蛛の寿命は人間よりも短い。もしいつかこの子が部屋の中で力尽きたらどうしよう。


 このときすでに愛着を感じていた私は、『蜘蛛 埋葬』などと本気で検索し始めた。

 でもはっきりとした答えは見つからない。タランチュラなどのペットの場合は方法があるようなのだが、たまに部屋で見かけるハエトリグモを埋葬しようなどという人間は稀なのか。


 公園に埋めるとかすれば良いのだろうか。でも大の大人が土を掘り起こしているなんて、それではなんだか不審者っぽい。

 小さな鉢植えを買ってきてそこに埋めるのは? それはやりすぎなんだろうか。


 ともかくゴミとして捨てるのには抵抗がある。そうするしかないのかもしれないが、それが正直な気持ちだった。


 だけど結局、室内で蜘蛛の亡骸を発見することはなかった。

 いつの間にか出て行ったのだと考えられる。


 その時期は真夏で、まだ暑い日が続いていた。

 外に出て生き延びられるのだろうかと考えはしたが、だからといって私にできることはない。

「寿命まで強く生きろよ」そんなふうに、内心でせめてものエールを送った。


 あれからずっとハエトリグモは全く部屋に現れていない。

 もしかしたらやはり、なんらかのメッセージを持って訪れていたのだろうか。それは何かはわからなかったのだけどね。


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