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Clush on Claft  作者: ユキ サワネ
一章 廻り始めた〝星〟
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第二話 煌炎

いつも読んで頂きありがとうございます♪

ストレス発散目的で緩く書いてます

 とても夜中とは思えないほどそこら中、活気に満ちていて明々しく賑やかな魅惑の市場。


 その名はグレップ共和国名物【不夜城市場】


 どの店先にも島中の交易品がずらりと並んでいるがそもそもいつ閉まるのかと心配になるのだが、どうやらこの市場だけは特別らしい。


 市場通り以外の店や住民街などとは違って四六時中、冒険者や職人達が行き交うのは、この街【フルツ】を中心に点在する迷宮の恩恵……いや、迷宮の糞ったれのせいである。


 自宅の卓で目を通した資料によると、この街についての歴史が綴られていて、その歴史の古くは先人達の血と汗と涙の賜物によって築かれ、紆余曲折を経て迷宮との交流が全ての始まりとされる。


 迷宮では鉱石や食料などの素材が豊富に採取出来、果ては好戦的な魔物まできりが無く常に誰かが迷宮攻略に挑む。


 この島の大雄士達を始めとする幾つもの途方もなく受け継がれてきた世代達の働きにより今日の平穏……いや、街の均衡は保たれている。


 この島で生まれ育ってきた者は遺伝子に刷り込まれている次元であり、夜中だろうがなんだろうがお構い無しで皆立派な〝商魂〟を振るえる。


 一体、いつ寝ているのかと心配するも、殆どの店は交替制を採って商いに明け暮れており、それならと抱えていた心配を手離したが、そこまでする事なのかとも自然に思えた。


 そんな他所者の俺にはとても理解し難い文化だが、そうでもしないと、定期的に迷宮から吐き出される魔性生物もとい【地底魔種生物(マグル)】と呼ばれる戦闘狂種族からの脅威から地上社会を護れない。


 マグルは迷宮であれば必ず存在し、日々魔力を浴びて成長や繁殖を繰り返しており厄介な事に放っておく期間が長いと地上に溢れ出しては血肉を求め、破壊を好むという、なんとも物騒な生命体。

 島の各地にある都市はそうした脅威と常に背中合わせではあるのだが、特にフルツは島の玄関口ともあってかどうかは分からないが圧倒的に迷宮の数が多い。

 故に探検者や職人など人口が多く行き交い街もまた眠らない。


 他地区よりも街としての発展が著しい理由もそこにある。


 過去何度もマグルの脅威にさらされてきたクラフ島民達はあらゆる記憶や記録を残していて、それらに関する情報はこの街で確認できるのだが、なんとも膨大な数の資料が存在するため一日鑑読に費やしたところで頭がパンクして吐いてしまいそうになる。


 素材からマグルの癖まで網羅されている知識を取り込もうとすれば何年かかるか解かったもんじゃあない。


 ゆえに市場通りを散策するのはそんな気苦労からの解放感を満喫する為でもある。


 「(あん)ちゃん、疲れてるなぁ。」


 島に来てから半月以上。


 最早行きつけとなった食糧亭【バジルス】の店主ガブと話し込むのも日常のルーティンになり始めている。


 「昨日は迷宮から持ち帰った素材類を大宝殿で夜通し資料漁ってから工房で作業してたんだけどついに気持ち悪くなっちゃって。だから今日は休む事にしたんだ。」


 「だはは!そりゃ、たいそうお忙しいこって!この幸せ者!」


 勢いよく笑う店主のテンションの高さと声の大きさにげんなりするも頼んだ携帯食と頼んでもいない見るからに毒々しい液体を差し出されたがどうやら妙薬らしく飲めばたちまち調子が良くなるというが……


 「大将……これ飲めって?本当に飲んで大丈夫なやつ?」


 そうだの一点張りしか言わない店主の親父は、毒々しい見た目とは裏腹なその効果がハッキリと解ってしまったゆえ惚れ込んでしまう俺を傍らで嬉しそうに眺めて、そのレシピを教えてくれたが、なるほど、危ない素材は無さそうで一安心。


 この島では民全員、能力は個人差あれど何かしらの職人であるが、同時に迷宮探索者でもある。


 美味い飯を食べながら、あれやこれや生きる術を学べるのもこの世界ならではと改めて感じる。


 この店主が団長を務めるチームは皆違う系統の職人や商人であり、何度か彼らに誘われて潜り込んだ迷宮で手取り足取り、探索に関するあらゆる基礎経験値を学んでからというもの、俺はすっかりこの強面髭筋肉率いる面子に手なづけられているのだとよく理解出来るがその甲斐あって一人での探索も最近は困らなくなってきた。


 この数日の探索の成果や鍛冶試作品についてガブと語り合っていると見知った顔ぶれが揃い始めて来ていた。


 「よっ!ファウスト!」


 声の主を筆頭に数人が俺とガブの話に割り込んでくると早速俺の武具や道具の試作品に話題は集中する。


 低級迷宮で拾ってきた素材だけで作り上げた幾つかの武具や道具に興味があるのだろう。


 「この短剣、幾らで売りに出すつもりだ?」


 正直言って低級迷宮の素材で遊びがてら作った品々は俺からしたら作った経験という成果だけで充分事足りてしまうから価値なんてどうでも良い気持ちがある。

 が、しかし馬鹿正直に答えるとツチノコにまた大目玉を喰らうことになるから俺は決まって出来栄え毎の当たり障りない価格帯を言うのだが、それでも品質と価値の相場に乖離があるらしくチクチク突かれてしまう始末。


 「幾ら低級素材だからって『職人の腕』は付加価値がなきゃ意味も意義も見失っちまう。そりゃ、良い物が安けりゃ皆助かるわな。だが、ファウストの腕前をそれこそ価値を理解せずに扱う輩達の手に渡ってしまえば作り手も作った物も軽く見られてしまうし、需要供給のバランスだって崩れかねない。価値ある物に相応しい対価を払ってもらう気概さは買い手には必要不可欠だと思う。安けりゃ安いほど多くの手に渡るから有意義に思える人は多くなるだろうが、反面、腕の無いものや価値を履き違える者達も多く生まれる事になるのも必定。とはいえ、何事も表裏一体だからな。これ以上は何も言えんわ。」


 「出ましたね。クルボウお得意の小言。」


 「褒めてぇのか、説教かましてぇのかどっちなんだよってな。」


 精肉屋亭主のクルボウが何だかんだ口に出し、それを友人達が冷やかすのも結局の所、物作りは自身の格や物を作るにあたっての覚悟といった面や市場の〝バランス〟を忘れないように口酸っぱく言い聞かせる為であり、職人のプライドは計りかねるが、この世界において良くも悪くも道具は使われ方が重要なのだ。


 使い手の気持ちや行動一つで大きく意味合いが変わってしまう。


 少なくとも、腕の良い職人はその矛盾に(さいな)まれる事もある。


 世に出してはならない物というのは何も粗悪品だからというわけだけではない。


 「それはそれとして、今日の本題に入りませんか?」


 賑やかなカウンター席に穏やかな声が一言突き抜けてきたが、その声の主は市場通りで薬草調合を営むフラスコ。


 その男だった。


 「あぁ、そうだな。なぁ、ファウスト。今まではお客さん扱いで色々教えてきたが、お前さんの腕を見込んで近いうち、正式に素材集めの依頼をさせて欲しい。クァル迷宮の地下5層の探索。そろそろ探索に慣れてきて実力も解ってきたお前なら幾らで受けてくれる?」


 チーム登録外の協力者を募る場合、こと迷宮の探索において迷宮探索組合(ギルド)に依頼を申し込みそこから発注されるのが通例なのだが、個人間のギルド登録者同士の依頼は何かと面倒が多く推奨されていない。

 依頼の難易度や報酬の有無から怪我や最悪死に関する一切の揉め事を誰も仲裁出来ないからだ。

 ゆえに、ギルドも個人間の契約は一切保障しないと言い切っており、その辺の話を俺に教えてくれた彼等も重々分かっているはず……


 「心配すんなって!ギルドを通さず依頼はかけね〜よ。ただ相場を知りたかったんさ。最近のファウスト観てたらルーキーの報酬額ではダメだよなって、皆で話合ったんだ。それに……プロテクト期間中だから正規の手順踏まねぇと僕らも不都合だしな。」


 肩をすくめながら柔らかい口調で語る魔道具技士のエインが、クルボウの言葉足らずな説明を噛み砕いて話を続ける。


 料理店主ガブ、精肉屋クルボウ、薬草調合フラスコ、魔道具技士エイン……それと。


 「はいはーい。ほい、ギルドの承認得てきたよ。じゃ、今夜突入って事で。」


 全員が呆気に呑まれる中、このガブチームの紅一点、商人のイヴリンが持ち前の勝ち気な性格をフル活用してギルドを丸め込んできたらしく俺の休日は折しもこの時に消え去っていた。


 「なぁ、クル。近いうちって今夜の事?」


 「いや、幾らなんでもそうじゃないんだが……。」


 イヴリンの性格からしてきっと商業的な利権を振りかざした交渉をしたに違いない。

 本人了承欄には書いた覚えのない、似ても似つかない俺の名前がかいてあるし、どこが正規の手順なんだよと思いつつも、この五人とは島入りしてからずっと世話になってるし、何だかんだ言っても居心地は悪くない。

 何よりツチノコやルックマンの推薦もありこのチームと行動を共にしているのも縁なのかも知れない。


 「解った、解った。今夜だな?行くよ行くよ。」


 小競り合いしていた五人は俺の返事に嬉しそうに反応するが、調子づいたイヴリンにクルボウが拳骨を軽く見舞ったのは御愛嬌というわけで、夜までは少し時間があるし、俺は探索準備を始める為にまずは、目の前の美味を食すことに精を出すとしよう。


☆☆☆


 フルツには大なり小なり、様々な迷宮が点在する。


 探索玄人好みで一攫千金も夢じゃない量や高品質の素材が採れる上級迷宮や〝(センス)〟が少なくともそれなりに稼ぎ甲斐がある低級迷宮まで実に様々であり、その難易度によって得られる対価は高まる一方、リスクも当然付きもので、そんな数ある迷宮の中で最も気楽に、最も簡単と云われるクァル迷宮。


 目指すはこの小規模迷宮の最下層地下5階の魔物や鉱物や植生物といった素材類の獲得。


 ゆえに地下5階までやってきた。

 

 元々クァル迷宮とは経験の浅いソロ探索者でも充分攻略出来るいわば、超初心者用の基礎を学ぶためと言ってもいいお手頃迷宮。


 ギルドでの登録時に行われる座学研修でもそう教えられる。


 その迷宮に探索玄人の5名と共に意気揚々と潜り込んだ。


 探索に不慣れな人でも怪我することはあれど死にはしない。


 大事な事だから二度言おう。


 そう、死にはしないのだ!


 ならばなぜ、地下5階にて居るはずのないバーンズボアに遭遇して退路を断たれ、最早虫の息と化しているのか……。


 道中、幾人の探索者や顔なじみとも話をした結果、成り行きで最下層まで来た。


 ここまで踏ん張ったせいでもあるが既に持ち込んだ回復薬は底をつきはじめ冷静沈着なフラスコは逃げ遅れた負傷者達の手当てに回り、体力自慢のガブとクルボウは替えの装備すら摩耗しはじめて、前衛としての勢いを失くしかけてしまっている。


 イヴリンは商魂逞しく、死んでも素材と仲間の生命は離さないと吐血しながらもエインの掘削用に連れてきた魔道具に護られ、エインは活路を見出す為に、持ち前の〝センス〟であるものを組み立てながら俺に時間を稼ぐよう叫ぶ。


 「時間稼げって言われてもな……やるしかないか。」


 目の前に立ちはだかるは厄介極まりないバーンズボア。


 群れの行動はしないタイプで、マグルの中で最も弱いとされるカテゴリ1に属するのだが、今までに見知ったカテゴリ1の強度とは思えず、なんならカテゴリ5はあるんじゃないかとさえ思える。


 クァル迷宮はもう幾度となく攻略してきたが、こんな強敵に一度も遭遇してこなかった。


 いや、そもそもバーンズボアがクァル迷宮に存在する事自体、可笑しいのだ。


 迷宮に生息するマグルの種類はそれぞれがその特性に(ちな)んだ法則がある。


 ここクァル迷宮は鉱物や植生素材の宝庫でせいぜい存在するマグルは木や石に因んだ、ロック系やフラワー系統のマグルと相場は決まっている。


 だからそんな場所に全身火達磨(ひだるま)の巨体のバーンズボアが出歩くもんなら辺り一面、樹木や草原、鉱物が火の海と化してしまう。


 身の丈より三倍ほど大きいマグルに対して、俺は今回の探索用にこしらえた頑丈に仕上げた剣を抜き、この半月の経験をぶち当てる。


 生き死にが掛かった場面、遠慮なんてしていられるかッ!!


 巨体の火達磨の爪をかわし続けながら隙ありの胸に一突きかますが、倒れるどころかむしろ一層マグルの動きが活性化しているように思える。


 身体強化魔法をかけていても交わすのがやっとな爪擊、表皮が硬く剣だけでは苦戦は必至。


 下準備を入念にしていた事が功を奏したか、爆破魔道具を大量に持ってきた甲斐もあり、上手く使えばそれなりに戦える。


 徐々に眼が慣れ始めて来た頃、妙に落ち着いて周りが見れるようになった瞬間、宙を舞う俺の耳元で小さな破砕音と大きな咆哮につられたか、自身でも分かるくらい瞳孔が大きく開くのが感じ取れた。


 折れた切先がゆっくりと頬を横切り、マグルの大きな爪が顔面めがけてゆっくりと向かってくるのが理解できた。


 俺の頭の中に浮かんだ八文字よりもほんの少し早く身体は答えを導きだしていてその答えはバーンズボアの悲鳴という結果を連れてきた。 


 ―死ぬよりはマシか―


 腰に帯刀していた蒼刀を抜いてからは手放さぬよう、着地後も怯まず打って出る。


 打って出るしかないのだ。


 水を得た魚のように―ではなく火の海を駆け抜ける飛沫の如く。

 

 バーンズボアのお構いなしの飛び散る火の粉を冷気で掻き消しながら攻撃は最大の防御となる。


 振り抜くのを止めれば間違いなくこちらが火達磨になるくらいの熱量に押されはすれど、なんとか凌いでいたらやがて、後方から聞こえてきたエインの声に俺は安堵して刀にありったけの力を込めて振り抜いた。


 「喰らえッ!」


 縦切一閃の蒼い魔力の塊はバーンズボアの生命源の炎を掻き消さんと纏わりつく。


 たまらず音を上げるバーンズボア。


 その断末魔を聞き終える前にトドメを刺すと、ついぞ充満していた殺気が跡形もなく消え失せていた。


 気が抜けた俺はその場に倒れ込み地下5階の天井をしばらく見据えていたが、見覚えのない顔が何処かからフレームインしてくると、その男は真っ直ぐな視線を落としながら声をかけてきた。


 「話聞いて救援に駆けつけたが、助太刀はどうやら要らなかったみたいだな。」


 そう言葉にした若い男の差し出された手を握り起き上がると彼の仲間らしき姿があちらこちらに散見できる。


 バーンズボアとの一戦中、上階から続く入口付近に何人かの気配には気付いていたが、見るからに強者達と今なら解る。


 握った手の感触と醸し出す雰囲気はルックマンに似ているのもあるのだが、何よりもその若者の身につけている装備品から感じるそれはツチノコの工房で見覚えがあったからだ。


 「怪我人の手当てと、本隊への報告完了しました。それと、バーンズボアの回収はいかがしますか?」


 別の男が若者にそう尋ねているが、若者は俺にも聞こえるようにこの国のルールに従うよう手配した。


 ―探索ルールの百ヶ条の内、『迷宮緊急時に限らず、討伐者及び採集者の承認があれば他者も協力者として一部の享受に値する。』という部分と『協力者への報奨は討伐者及び採集者の承認とギルドの承認が必要』というこの国の数あるルール

の二つが適用される―


 「別に金や宝は要らねーんだ。今回()()じゃ何にもしてねーからな。だが、街まで運ぶ分に関してはウチの隊の出番だし、どうだ?運び屋として承認するか?ウチは有能だぜ?報酬はそうだな……。」


 「どのみち俺達はもう歩くのがやっとだから、宜しく頼むよ。報酬については仲間達と後で話し合うって事でいいか?流石に俺一人じゃ判断しかねる。」


 互いに快諾すると若者は張り切って仲間達と帰還の準備に取りかかり、その傍らで逃げ遅れていた負傷者や一命を取り留めていたイヴリン達が介抱されている。


 「ガブ、すまない。勝手な判断したが……。」


 「気にするな、ファウスト。この有様じゃ俺達だけじゃ処理しきれん。あのままバーンズボアを放っておくと迷宮の餌になるだけだしな。ここは、どう考えても賢明な判断さ。それに、あの坊主は信頼できるからな。」


 「知ってるのか?彼が何者か?」


 「あぁ、まぁな。続きは無事に街に帰ってからにするとしよう。今は疲れてそれどころじゃない……。」


☆☆☆☆☆


 「バイスバード皇国カルハーザ国王陛下、遠路はるばる、ようこそお越し下さいました。」


 「互いに王家となったとはいえ、よしてくれ。かつての戦友にそう呼ばれるのは公の場だけでよいわ。此度はお偲びで来ておるのだ。ついでにウチの子達も挨拶くらいをと思ってな、シェラサード。」


 「ご無沙汰しております。グレップ共和国王、シェラサード陛下。我ら()()()、ご挨拶に伺った所存……だと言うのに、馬鹿三男め、何処をほっつき歩いてるのか……!!不徳の致すかぎりで大変申し訳ございません。長兄として深くお詫び申し上げます!」


「よいよい。ダインよ。貴殿らの顔を拝見出来ただけでも私は嬉しいのだぞ?しっかりと逞しく成長したのは一目みれば解るというもの。アルバ殿もオルテガ殿もご健勝でなによりだ。折角の機会、フィーネにも会ってやってくれぬか?」


 「はっ!有難きご配慮感謝致します!アルバ、オルテガ、お前達は先にフィーネ様にご挨拶を。私はあの馬鹿を見つけ次第挨拶に伺うとお伝えしてくれ。」


 次兄と四兄が部屋から退出後、ダインの口から昨今の近況が語られるのだが、程なくしてその部屋の扉は激しく開くと、シェラサードは伝令兵に落ち着き払いつつ諭すように問いかけた。

 

 ―低級迷宮にてマグルの氾濫、【オーバーフロー】の発生により、地上にて警備隊、複数の探索者で迎撃交戦、マグルの主戦力は星3相当という事態であったが、幸いその場に居合わせた【蛮勇】や王国警備隊を始めとする数部隊であったことと煌炎(こうえん)の団旗を掲げた赤黒団隊によって地上はほどなく鎮圧はされたものの複数隊の迷宮突入を確認と報告があがった。


 それを聞いてダインは呆れながら手を額に当てながら悩む仕草をしたが、両国の王は、けらけらと笑いをあげた。


 「相変わらずのようで、私は安心したぞ。」

 

 「まぁ、なんというか、すまんな、シェラサード。」


☆☆☆☆☆


 「ところで、ガリ。この旗のモチーフはなんだ?」


 「あぁ、これか。これは、隼だ。颯爽と現れては瞬く間に獲物を狩るっつーのが信条でな。イカスだろ?」


 赤く縁取りされた旗の中央に羽根を天高く拡げる黄色の隼の背景は漆黒色に染まり切っており、ガリこと、この団の発起人であり、団長のガリウスが着ている鎧と同じ3色構成で成り立つ。


 階を登るにつれ団旗の数も増えてきて大世帯を感じさせる。


 移動中の荷馬車の上でそんな景色しか眺めることが出来ないのは、傷ついた仲間たちが安静に眠っている事もあるが、地上帰還後に待ち受ける様々な対応に頭を悩まされ、ある種現実逃避して呆けているからでもある。


 ガリから聞いた話だと、【オーバーフロー】にどうやら巻き込まれたのは間違いなく、その後始末が随分面倒。


 時系列に沿っての報告書作成や報酬分配の手続き、ギルドや王宮への報告会議という名の事情聴取など身の毛がよだつほどイベントが目白押し。


 「バーンズボアの討伐さぁ、あれ、ガリがやったことにしてくんない?」


 「残念。そこは諦めな。あれ見たら、どうやったって無理。だが、何も面倒なことばかりじゃないぜ?報告会議の後は祝賀会があるからな。」


 「祝賀会?」


 俺の質問にガリウスは笑いながらそりゃそうだと返すと、報告会議でこってり絞られたあとに美味しい食事が待っているものと聞かされるが、それよりも目立つ事が何より嫌だ。


 島入りして神殿長とルックマンに言われた言葉がよぎる。


 ただでさえのっけから重役職から釘を刺されていたにも関わらず、後に明かされたバーンズボアのカテゴリを知れば騒ぎになるのは必定とガリから言われたのだ。


 現に彼と最下層に来た団員達もバーンズボア回収時に解析した時驚きを隠さなかったしな。


 出るわ溜息だが、考え方を変えてみれば、ガリの言う通りここがまだ低級迷宮で良かったのかも知れない。


 【魔素氾濫(オーバーフロー)】とは迷宮の原動力であるオーブと呼ばれる結晶石が何かしらの作用により魔素を漏れ出し、長い年月をかけてその迷宮中に魔素を充満させ、オーブに近い階層から徐々に魔素濃度が高まり、その影響でマグルや素材も高品質に変化する一方、弱肉強食の世界に沿って弱いマグルほど上層へと追いやられる。もちろんたっぷりと高濃度の魔素を浴びてだ。


 今回、カテゴリ1のマグル生息地域であっても対峙して解ったのは普段、何気なく過ごせる慣れた場所でも時に死線と化すこと。


 その経験値は計り知れない。


 そして、探索玄人の5名が瀕死になる事も頷ける。


 何より、時期的に【オーバーフロー】の兆候が地上で見受けられ際に既に潜り込んでしまっていた日には最悪極まりなく、その最悪のド真ん中の間の悪さにただ呆れるしかない。


 なにはともあれ、今は生きている。


 生きているからこそその対価は計り知れないとガリは言うが、そこは死線を乗り越えたからこそ解る話だ。


 大量になびく赤黒団旗が増えきった頃合いに見えた景色に底しれぬ安心感が押し寄せてきた。


 さほど距離の離れていないフルツの街並み。


 あぁ、確かに生きている。


 風が妙に染みる。

 あちらこちらから悲鳴と怒号が飛び交う最中、命からがら逃げ出してきた探索者達の救助にあたる。


 「まだ、知り合いが奥に潜ってんだ!頼む!助けてやってくれねーか!?」


 傷だらけの青年が今にも倒れそうになりながらも懇願する様に何が起きているか容易に想像がついた。


 「団長、これより先は最下層。退路確保をしてからの突入のほうが宜しいのでは?」


 「だな。低級迷宮の地下4階とはいえ広い。この混乱をまず鎮めないと命が幾つあっても足りないな。ハヤの部隊はこのフロアの斥候を、デュレンの部隊は負傷者の手当てを、ブレンダとラシオの部隊は機動力で逃げ遅れの探索者の救援にかかれ!俺は漏れたマグルが上層へと抜けぬようここを死守する!残りの者達は俺についてこい!」


 下層から湧き上がる無数のマグルを薙ぎ払いつつ赤黒の団旗が猛威を示す。


 「はっ!なんでアンタがここにいるってんだ!?」


 「久しいな!ノイキス!まさか貴殿とこんな形で会うとはな!」


 流石の手練れである。


 会話しながらもしっかりと打ち漏らすことなく、マグルの侵攻を防ぎ切る。


 「情ねぇぜ!〝星4〟に昇華したはいいが、ぶっちゃけ舐めてた!クァル迷宮のオーバーフローがこんなにキツイとはな!……ガリウスぼっちゃん様様だ!お前ら【蛮勇】の名の下に気合い入れろよ!死んでもマグル達を食い止めろ!【煌炎】の援護にあたれぇ!」


 そうノイキスが檄を飛ばしながらも、間髪入れず飛びかかる大量のマグルを切り落とすと負けじと赤黒団旗の強者達も腕を振るう。


 マグルの勢いが途切れ、大勢が喫したのはそれから間もなくの事。


 「部隊の再編を急ぐ!生存者の確認、保護と地下5階への突入だ。上階からの援軍と退路確保を急げ!」


 忙しなく駆け抜ける号令に一糸乱れず、赤黒の波は走り出す。


 地下4階の平定、機動力に長ける騎馬同士も相まって幾分余裕のあるガリウスとノイキスは地下5階への通路を駆け抜ける最中、言葉を交わす。


 もう間もなく、グレップで催される収穫祭の為に連日高品質の素材が採れると噂になっていたクァル迷宮。


 それゆえいつも以上に多くの探索者が行き交うのが仇となった。


 生存者は一人でも多く助けねばならない。


 携帯型連絡晶石で道中の要救助者は後続の部隊が拾い上げてゆくのだが、その疾さといえば舌を巻く。


 「なぁ、ガリウスさんよ!オーバーフローの割にマグルの数少なくないか!?」


 本来ならば魔素の暴走で無限とも呼べる数の暴力があって然りなのだが今回は何やら様相が違い、その答えは地下5階の入口付近の崖伝いに到着した頃、判明。


 一箇所に固まる複数の人影を認識したが、それよりもフロアの中央より奥で立ち回る一人の猛者に目を奪われた。


 「ノイキス。貴殿はあの者をどう見る?」


 馬に跨りながら魔道具を片手に神妙な面持ちでそう聞いてきたガリウスを横目にノイキスは手持ちの魔道具で戦況を推し量った。


 「奥で踏ん張ってる奴、グレップの勲章てことはウチの国の奴だが……ってルーキーじゃねぇか!……おい!アイツ死ぬぞ!助けに……。」


 ノイキスの言葉尻を叩き切るようにガリウスは言葉を被せ、その場で待機するように促すと、呆気にとられたノイキスはガリウスを注視していた。

 

 「あの者の立ち回り、荒削りであれど面白い。何よりもマジックバッグから取り出す道具はどれも逸品だな。興味深い……なに、真にマズくなるならば助太刀に入るさ。」


 フロアはそこら中に火の手があがっており自慢の馬の機動力は役に立たない事も承知の上での判断である。


 ノイキスもガリウスの先見の明に従う他、ないのだ。


 「それにしても、あんな奴ウチのギルドにいたっけな?ガブの部隊は馴染みだが解るんだが……。」


 しばらくして、戦場の一部が氷床と化したかと思うと、バーンズボアの炎が消え去った。


 ガリウスの手が肩に乗ったと同時に彼の指示に自然と【蛮勇】達も役割を担っていた。


 「夢でも見てんのか?俺は……。」


 その言葉に数人は反応したが、誰も彼もが同意見であった。

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