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第5章 高校生活

ムーランとベン・ゼンは、ぐったりしながら学校へと向かっていた。

ただ一つだけ望んでいたこと――

机に突っ伏して、罪悪感なく授業中眠りこむこと。

それが、今この瞬間に許される唯一の休息だった。


校門に着くまで、わずか10分。

時計を見ると、次の授業「技術植物学」まであと5分。

どこにも寄らず、二人はまっすぐ教室へと急いだ。


教室に入り、いつも通りの後ろから二列目の席に座る。

机に顔をうずめ、目を閉じる。

ベン・ゼンは数秒でいびきをかき始めた。


だが、ムーランはまだ眠れなかった。

視線が、斜め前の席に自然と吸い寄せられた――

シャ・レイ。


銀色の髪が肩先をふわりと包み、その下に浮かぶ翡翠のような緑の瞳は、静かな知性を湛えていた。

その姿は、思春期の少年たちの夢をそのまま形にしたようだった。


前世、ムーランは彼女に一目惚れしていた。

だが、一度も話しかける勇気を持てなかった。

その無言の後悔が、何年も胸を締めつけてきた。

今度こそ――そんな過ちは繰り返さない。

必ず、声をかける。


……ただし、今日はまだじゃない。


ただ、彼女がここにいて、生きている――それだけで、今は十分だった。

ほんの少し安堵の息を吐き、ムーランはようやく意識を沈めた。



教師が入室し、挨拶もそこそこに授業が始まった。


30分ほど経った頃、突然、怒号が教室を貫いた。


「おい! 起きてるか!?」


ムーランはぼんやりと目を開けた。「……何ですか?」


クラス全員が凍りついた。

李先生にそんな口を利く生徒は、まずいない。

この痩せこけたガキ、一体何様だ?


ざわめきが広がる。

同情する者、そして「ああ、終わったな」と身構える者。

誰もが、ムーランの退学を確信していた。


「私の授業中に寝るとは、どういうつもりだ!」李先生が怒鳴った。


ムーランはあくびをしながら答えた。「先生の話、全然面白くないですし。

俺たち、徹夜でトレーニングしてんだから、ちょっとくらい寝かせてくださいよ。

他の奴らはちゃんと聞いてればいいでしょ?」


先生の目が細くなった。「……いいだろう。

ただし、条件がある。

私の質問に正解できれば、お前とそいつ――」

彼はベンを指差した。「――今学期の残り、私の授業中は好きなだけ寝ても構わない。

間違えたら、即保護者呼び出し。二人とも退学だ。」


ムーランは内心、笑った。

この手口、前世でも見たことがある。

李先生の十八番おはこだ。

誰も答えを知らない前提で“勝てる賭け”をする――

負けないギャンブラーほど怖いものはない。


「どうぞ」ムーランは涼しい顔で言った。「質問してください。」


先生は勝ち誇ったように身を乗り出した。「まだ習ってない内容だ。

では聞く――技術植物学における最大の画期的成果とは何か?

正解なら、好きなだけ寝ていい。」


ムーランは迷わず答えた。


「技術植物学の核は、“遺伝子融合”です。

異なる植物、あるいは果物同士を融合させ、まったく新しい種を生み出す技術。

例えば、バナナとオレンジを融合させて、一つの果実に両方の味を宿す――

バナナ風味のオレンジ、あるいはオレンジ香るバナナ。

さらに言えば、リンゴの中にバナナとオレンジの味が同時に広がる果実だって可能。

それがこの分野の頂点です。

味だけでなく、収量・耐病性・栄養価を最大化するハイブリッド化――

それが、現代技術植物学の真骨頂です。」


教室は、静寂に包まれた。


先生は目を見開き、生徒たちは呆然とした。

トップクラスの秀才ですら、この内容を知らなかった。

なのに、後ろの隅でいつも黙っているあのヒョロガリが――?


ムーランは少し体を起こした。「他に質問がなければ……

俺たちはまた寝ます。昼休みになるまで、起こさないでください。」


再び机に顔を伏せた。

隣では、ベンが誇らしげに胸を張ってから、堂々と机に倒れ込んだ。

正式に、昼寝権を獲得したのだ。



二人は、昼休みまでぐっすりと眠り続けた。


朝の10キロランとトレーニングで空っぽになった胃袋が、猛烈に燃料を要求していた。

放課後ではなく、昼休み一発目で食堂へ直行。


トレーを1枚取る。

2枚目。

3枚目――。


5枚目のトレーを手にした頃、ようやく「満たされた」と感じた。


食堂はざわついていた。

スマホを向けられる。写真を撮られる。

「ベンが5皿食うのは分かる。あの体格ならな」

「でもムーラン? あんな痩せこけたヤツが……?」


噂は、すでに広まり始めていた。


腹いっぱいになった二人は、食堂を後にし、屋上へと向かった。

ここが、彼らの秘密の訓練場だ。

午後の授業までまだ1時間ある。

その時間を、無駄にするわけにはいかない。

ゲーム本格ローンチまでの一日一日が、未来を左右する。


30分間、二人は黙々と稽古した。

構え、突き、蹴り、足捌き――

『古武術』と『一撃万脚』のすべてを、現実の体に刻み込むように。

軽いスパーリングも交えながら。

制御された戦闘こそ、肉体を鍛える最良の方法だと、ムーランは知っていた。


チャイムが鳴ると、二人は教室に戻り、最後の2コマを無事に終えた。

そして、アパートへ帰宅。


「神への挑戦」完全オープンまでのカウントダウンは、着実に進んでいた。

それまでの一秒たりとも、無駄にしない。

帰宅後も、訓練は続いた。

部屋には、汗と筋肉痛、そして時折漏れる笑い声が満ちていた。


この人生は、前世とは違う。

今度こそ――

一瞬も、無駄にしない。

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