第3章 最初のアカウント
ムーランとベン・ゼンは、まったく落ち着いていられなかった。
「神への挑戦」のキャラクター作成システムが開放されるまで、残り3時間。
その期待感は、まるで空気を震わせるほどの緊張に満ちていた。
「なあ、ムー」
ベンが悪戯っぽくにやりと笑った。「あと3時間もあるんだ。ネットで可愛い女の子でも探して暇つぶししない?」
ムーランは苦笑した。
彼はよく知っていた――ベンは昔から女の子に目がなく、いつもネットで「理想の彼女」を探していた。
だが現実は残酷だった。
二人とも、一度も女の子に振り向かれたことがなかった。
完璧なミスマッチ――ムーランは40キロの痩せこけた体、ベンは100キロ近いがっしり体型。
それでも、ムーランは軽く乗ってみた。
「ベン、さっき買ってきた武術の本、覚えてるか? あれで訓練しよう。
ネットで女の子の写真見てよだれ垂らしてるより、本物の女の子が振り向くような男になろうぜ。どうだ?」
ベンは即座に言い返した。「俺はもう、本物の女の子見てるよ。」
「……でも、向こうは俺たちを見てないだろ?」
ムーランは静かに言った。「俺たちは“ヒョロガリ”と“デブ”。
部屋に入っただけで、女の子たちは鳥のように逃げ散る。
彼女なんて、一度もできたことない。
話しかけようものなら、即リジェクト。
……裏で笑われてると思うのは、気のせいじゃないはずだ。」
ベンの笑みが、ゆっくりと消えた。
長い沈黙の後、彼はぽつりと言った。
「……お前、正しいな。そろそろ、俺たちも変わる時だ。」
この年頃の女の子は、容赦なく正直だった。
目を向けるのは、強くて自信に満ちた男だけ。
例外もいるにはいたが――
その例外すら、二人には見向きもしなかった。
「じゃあ」ベンが顔を上げた。「どの本からやる?」
「『古武術』だ」ムーランは迷わず答えた。「現代のAIが古代の記録を再構築したもので、細部まで再現されてる。
もう一つの『一撃万脚』は、昔見た武術映画のセリフが元になってる。
……心に刺さった言葉があるんだ。」
彼は少し間を置いて、静かに呟いた。
「一万の蹴りを一度だけ練習した男は怖くない。
だが、一つの蹴りを一万回練習した男は、恐ろしい。」
ベンは眉を上げた。「それ、誰の言葉だ?」
「ブルース・リー……少なくとも、伝説ではそう言われてる」
ムーランはかすかに微笑んだ。「今のAI強化マニュアルなら、どれだけの秘密が詰まってるかわからない。
とにかく、今から確かめてやる。」
二人は言葉を交わさず、まず『古武術』を開いた。
神経補助学習技術のおかげで、理論は瞬時に理解できた。
だが、実践こそが真の試練だった。
ムーランはまず全編を暗記し、次に本をベンに渡した。
ベンが記憶に没頭する間、ムーランは『一撃万脚』を手に取った。
すると、冒頭の一文が胸を強打した。
「一万の蹴りを一度だけ練習した男は怖くない。
だが、一つの蹴りを一万回練習した男は、恐ろしい。」
――一字一句、間違っていなかった。
1時間もしないうちに、ムーランは両方の本を完全に記憶していた。
ベンはまだ『古武術』の途中だったが、ムーランには前世の経験があった。
知識の吸収速度が圧倒的に違った。
使った数万クレジットは、決して無駄ではなかった。
これらは単なる本ではない――変身の設計図だった。
今、ムーランは自分を無敵だと感じていた。
だが、その肉体はまだ追いついていなかった。
それでも、彼は知っていた――どうすれば強くなれるかを。
即座に、彼は実践を始めた。
汗だくになり、息も絶え絶えになったムーランが、ベンに向かって言った。
「テーブルの上の二冊目、取ってくれ。」
ベンが本を受け取った。「すぐ訓練始めるよ。お前は、そのまま続けて。」
1時間後、ムーランの筋肉は焼けるように痛んだ。
前世の鍛錬がわずかなアドバンテージをもたらしていたが、この15歳の体は未熟で脆かった。
それでも、一回一回の反復が、確実に肉体を変えていった。
ベンがそっと近づいてきた。「ムー、あと2時間でキャラ作成だ。
お前、ずっとやってるな。俺も今、二冊目を全部覚えたよ。
……本当に、この本たちに出会えてよかった。誰も、もう俺たちを止められない。
これから1、2時間、俺も本格的に鍛える。終わったらシャワー浴びる。
その頃には、お前みたいにぐったりして、汗まみれになってるだろうな。」
「ハァ……ああ……ハァ……やれよ」ムーランは息を切らしながら言った。「俺は……ハァ……その後にシャワー浴びる。」
1時間半後、完全にへとへとになったムーランがよろよろとバスルームに向かうと――
そこで、同じく汗だくのベンとほぼぶつかりそうになった。
「おい」ムーランが時計を見て言った。「あと30分でキャラ作成だ。お前、まだシャワー入ってないのか?」
ベンは目を丸くした。「マジで? もうそんな時間!?
この技、めっちゃヤバい! 明日からスタミナ強化だ。夜明け前にランニング。
何があっても止めない。その後、学校行こう。」
「了解」ムーランはバスルームに入っていった。
幸い、このアパートにはバスルームが二つあった。
親がまだ生活費を出してくれているおかげで、二人は快適に暮らせていた――
だからこそ、こんな高級な住まいも、VR装置も手に入れられたのだ。
25分後、ムーランが清々しくも疲労感に満ちた表情で戻ってきた。
その直後、ベンもシャワーを終えて現れた。
残り時間は――5分。
二人はVRヘッドセットを手に取った。
それは、ヘルメット型の最新鋭機器。
ゲーム中はもちろん、睡眠中でさえ神経接続を維持し、
プレイヤーは「神への挑戦」の世界で夢を見ることが可能だった。
リアルタイムでインターネットにアクセスし、ニュースやメッセージ、戦略を確認することもできる。
まさに革命的な装置だった。
ムーランとベンはヘッドセットを装着し、ログイン。
――瞬間、彼らは未来都市を思わせる、清潔で洗練されたゲームロビーに立っていた。
【キャラクター作成まで:2分】
【キャラクター作成まで:1分】
……
【キャラクター作成まで:1秒】
カウントダウンがゼロになった瞬間、二人は同時にクリックした。
画面が切り替わり、キャラクター作成画面が開いた。
「神への挑戦」では、アバターはプレイヤーの実際の容姿を反映する仕様だった。
ただし、匿名性を保ちたい場合は、髪色や瞳の色など、軽微な変更が許可されていた。
とはいえ、ほとんどのプレイヤーは隠そうとしなかった。
この時代、名声こそが新たな通貨だったのだ。
ムーランは迷わず、五大基本クラスの一つ――アーチャーを選択した。
そして、名前欄に文字を打ち込んだ。
ゴッドスレイヤー
【決定】を押す。
[キャラクターが正常に作成されました。]




