表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

第3章 最初のアカウント

ムーランとベン・ゼンは、まったく落ち着いていられなかった。

「神への挑戦」のキャラクター作成システムが開放されるまで、残り3時間。

その期待感は、まるで空気を震わせるほどの緊張に満ちていた。


「なあ、ムー」

ベンが悪戯っぽくにやりと笑った。「あと3時間もあるんだ。ネットで可愛い女の子でも探して暇つぶししない?」


ムーランは苦笑した。

彼はよく知っていた――ベンは昔から女の子に目がなく、いつもネットで「理想の彼女」を探していた。

だが現実は残酷だった。

二人とも、一度も女の子に振り向かれたことがなかった。

完璧なミスマッチ――ムーランは40キロの痩せこけた体、ベンは100キロ近いがっしり体型。

それでも、ムーランは軽く乗ってみた。


「ベン、さっき買ってきた武術の本、覚えてるか? あれで訓練しよう。

ネットで女の子の写真見てよだれ垂らしてるより、本物の女の子が振り向くような男になろうぜ。どうだ?」


ベンは即座に言い返した。「俺はもう、本物の女の子見てるよ。」


「……でも、向こうは俺たちを見てないだろ?」

ムーランは静かに言った。「俺たちは“ヒョロガリ”と“デブ”。

部屋に入っただけで、女の子たちは鳥のように逃げ散る。

彼女なんて、一度もできたことない。

話しかけようものなら、即リジェクト。

……裏で笑われてると思うのは、気のせいじゃないはずだ。」


ベンの笑みが、ゆっくりと消えた。

長い沈黙の後、彼はぽつりと言った。

「……お前、正しいな。そろそろ、俺たちも変わる時だ。」


この年頃の女の子は、容赦なく正直だった。

目を向けるのは、強くて自信に満ちた男だけ。

例外もいるにはいたが――

その例外すら、二人には見向きもしなかった。


「じゃあ」ベンが顔を上げた。「どの本からやる?」


「『古武術』だ」ムーランは迷わず答えた。「現代のAIが古代の記録を再構築したもので、細部まで再現されてる。

もう一つの『一撃万脚』は、昔見た武術映画のセリフが元になってる。

……心に刺さった言葉があるんだ。」


彼は少し間を置いて、静かに呟いた。


「一万の蹴りを一度だけ練習した男は怖くない。

だが、一つの蹴りを一万回練習した男は、恐ろしい。」


ベンは眉を上げた。「それ、誰の言葉だ?」


「ブルース・リー……少なくとも、伝説ではそう言われてる」

ムーランはかすかに微笑んだ。「今のAI強化マニュアルなら、どれだけの秘密が詰まってるかわからない。

とにかく、今から確かめてやる。」


二人は言葉を交わさず、まず『古武術』を開いた。

神経補助学習ニューラル・アシスト技術のおかげで、理論は瞬時に理解できた。

だが、実践こそが真の試練だった。


ムーランはまず全編を暗記し、次に本をベンに渡した。

ベンが記憶に没頭する間、ムーランは『一撃万脚』を手に取った。

すると、冒頭の一文が胸を強打した。


「一万の蹴りを一度だけ練習した男は怖くない。

だが、一つの蹴りを一万回練習した男は、恐ろしい。」


――一字一句、間違っていなかった。


1時間もしないうちに、ムーランは両方の本を完全に記憶していた。

ベンはまだ『古武術』の途中だったが、ムーランには前世の経験があった。

知識の吸収速度が圧倒的に違った。

使った数万クレジットは、決して無駄ではなかった。

これらは単なる本ではない――変身の設計図だった。


今、ムーランは自分を無敵だと感じていた。

だが、その肉体はまだ追いついていなかった。

それでも、彼は知っていた――どうすれば強くなれるかを。


即座に、彼は実践を始めた。


汗だくになり、息も絶え絶えになったムーランが、ベンに向かって言った。

「テーブルの上の二冊目、取ってくれ。」


ベンが本を受け取った。「すぐ訓練始めるよ。お前は、そのまま続けて。」


1時間後、ムーランの筋肉は焼けるように痛んだ。

前世の鍛錬がわずかなアドバンテージをもたらしていたが、この15歳の体は未熟で脆かった。

それでも、一回一回の反復が、確実に肉体を変えていった。


ベンがそっと近づいてきた。「ムー、あと2時間でキャラ作成だ。

お前、ずっとやってるな。俺も今、二冊目を全部覚えたよ。

……本当に、この本たちに出会えてよかった。誰も、もう俺たちを止められない。

これから1、2時間、俺も本格的に鍛える。終わったらシャワー浴びる。

その頃には、お前みたいにぐったりして、汗まみれになってるだろうな。」


「ハァ……ああ……ハァ……やれよ」ムーランは息を切らしながら言った。「俺は……ハァ……その後にシャワー浴びる。」


1時間半後、完全にへとへとになったムーランがよろよろとバスルームに向かうと――

そこで、同じく汗だくのベンとほぼぶつかりそうになった。


「おい」ムーランが時計を見て言った。「あと30分でキャラ作成だ。お前、まだシャワー入ってないのか?」


ベンは目を丸くした。「マジで? もうそんな時間!?

この技、めっちゃヤバい! 明日からスタミナ強化だ。夜明け前にランニング。

何があっても止めない。その後、学校行こう。」


「了解」ムーランはバスルームに入っていった。


幸い、このアパートにはバスルームが二つあった。

親がまだ生活費を出してくれているおかげで、二人は快適に暮らせていた――

だからこそ、こんな高級な住まいも、VR装置も手に入れられたのだ。


25分後、ムーランが清々しくも疲労感に満ちた表情で戻ってきた。

その直後、ベンもシャワーを終えて現れた。

残り時間は――5分。


二人はVRヘッドセットを手に取った。

それは、ヘルメット型の最新鋭機器。

ゲーム中はもちろん、睡眠中でさえ神経接続を維持し、

プレイヤーは「神への挑戦」の世界で夢を見ることが可能だった。

リアルタイムでインターネットにアクセスし、ニュースやメッセージ、戦略を確認することもできる。

まさに革命的な装置だった。


ムーランとベンはヘッドセットを装着し、ログイン。


――瞬間、彼らは未来都市を思わせる、清潔で洗練されたゲームロビーに立っていた。


【キャラクター作成まで:2分】

【キャラクター作成まで:1分】

……

【キャラクター作成まで:1秒】


カウントダウンがゼロになった瞬間、二人は同時にクリックした。


画面が切り替わり、キャラクター作成画面が開いた。


「神への挑戦」では、アバターはプレイヤーの実際の容姿を反映する仕様だった。

ただし、匿名性を保ちたい場合は、髪色や瞳の色など、軽微な変更が許可されていた。

とはいえ、ほとんどのプレイヤーは隠そうとしなかった。

この時代、名声こそが新たな通貨だったのだ。


ムーランは迷わず、五大基本クラスの一つ――アーチャーを選択した。


そして、名前欄に文字を打ち込んだ。


ゴッドスレイヤー


【決定】を押す。


[キャラクターが正常に作成されました。]

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ