第19章 死
「ベン」
ムーランは静かに切り出した。
「モンスターを倒せば経験値(XP)が入る。
でも、モンスターに殺されたら――XPを失う。
死に続ければ、最終的にはXPがゼロになる。
そうなったら、ボス狩りからやり直しだ。」
彼は身を乗り出し、目をきらめかせた。
「そして、ボスを倒すたびに――
まともな装備、通貨、そして何より――
スキルブックが手に入る。
俺が狙っているのは、一つの特定スキルブック。
それを手に入れれば、すべてが繋がる。
お前にも、最高のスキルを用意してある。」
「スキルブック!?」
ベンの目が、文字通り光った。「
マジか? まだ2回目のログインなのに!?
そんな装備、誰も使ってないはずだぞ!」
「今後、すぐに変わるだろう」
ムーランは静かに言った。「
何十億人ものプレイヤーがこの世界にいる。
誰かがスキルブックを発見する――
それは、避けられない運命だ。」
彼は立ち上がった。
「明日、学校は休む。
朝、トレーニングして、ログインしたら、
夕方までゲームに籠る。
明後日は休日だから、それも丸一日狩りだ。」
「了解!」
ベンは歯を見せて笑った。「
ボスを狩り尽くして、スキルブックを手に入れるぜ!
レベル0がこんなに有利だなんて、全然思ってなかったよ。
『すぐにレベル上げて最強になる』って、本気で思ってたからさ。」
「このゲームには、まだ無数の秘密が眠っている」
ムーランは言った。「
そのすべてを、一歩ずつ、解き明かしていく。
――行こう。」
「いつでもOKだ。」
二人は、即座に「神への挑戦」にログイン。
パーティーを組み、街を後にした。
目指すは――孤影の谷。
到着すると、そこにはレベル3~6のモンスターが群れをなしていた。
通常の蜘蛛とは比べものにならない、
巨大で、体の色は――
純白から深紅まで、刻一刻と変化していた。
二人は慎重に群れの中を進んだ。
雑魚モンスターは無視。
――そして、やがて、一つの存在を目にした。
岩場の先端に、虹色に輝く蜘蛛が、そびえ立っていた。
その体は、まるで一族の魂をすべて吸収したかのように、
七色の光を放っていた。
「……この蜘蛛、絶対にボスだ」
ベンが息を殺して囁いた。
[レインボー・スパイダー(ボス)]
レベル:5
HP:5,000
攻撃力:100~500
特殊能力:???
「グリーン・ウルフとは、桁が違う」
ムーランの声は重かった。「
一瞬のミスで、即死だ。
だが――構わない。
死んでも、このボスを倒す。
見てみろ、特殊能力まで持ってる。」
「作戦を聞かせてくれ」
ベンはメイスを握りしめた。「
この化け物、地獄へ送ってやる。」
「ウルフの時と同じだ。
キット(誘導)して、特殊能力の中身を暴く。」
――前世では、こんな蜘蛛、一度も見たことがない。
あの能力は、一体何を引き起こす?
そして、何をドロップする?
「……話はここまでだ」
ムーランは弓を構えた。「
行く。」
矢を放つ。
-1
-1
-1
-1
-1
蜘蛛は、微かに眉をひそめたような――
そんな反応しか示さなかった。
「虫の羽音か……」とでも言うように。
だが、次第に目を細め、
二人の姿を“無礼者”として認識した。
蜘蛛は、ムーランにだけ向かって突進した。
――遠距離から攻撃した弓兵を、本能的に排除しようとしたのだ。
ベンの存在を、完全に無視していた。
――それが、致命的なミスだった。
「ここだ!」
ベンが、背後から一気に攻撃を叩き込んだ。
-2
-3
-2
-3
-5
蜘蛛は、凍りついた。
“俺を、裏から……!?”
この小虫どもが、レインボー・スパイダーを――!?
蜘蛛は猛然と振り返ったが、
その瞬間、ムーランが再び矢を放った。
-1
-1
ターゲットが、再びムーランに移る。
――そして、再びベンが背後を突く。
無限ループ。
攻撃対象が、絶えず切り替わる。
ボスは、一度も全力を出せないまま、
HPをじわじわと削られていった。
残り10%。
ムーランは平静を装っていたが、内心はギリギリだった。
――特殊能力は、いつ発動する?
残り20%。
その瞬間、最悪の予感が現実になった。
蜘蛛が、天を仰いで体を反らせた――
そして、濃緑色の毒液を、一直線にムーランへ吐き出した。
距離はあったが、完全回避不能。
命中。
-100
ムーランのHPが一気に落ちたが――
錬金術師のローブの防御+50が命を繋ぎ止め、
即死は免れた。
代わりに、画面に赤いデバフが浮かんだ。
[毒]
-10 HP/秒
持続時間:30秒
――10秒で死ぬ。
ベンは、ムーランのHPバーがみるみる減るのを見て、
無言で蜘蛛に飛びかかった。
メイスを振り下ろし、殴り続けた。
怒りに燃え、決意に満ちて。
ムーランは、最後の力を振り絞って矢を放ち続けた。
だが、一発ごとに――矢は弱々しくなっていった。
10……
9……
8……
――0。
視界が、真っ黒になった。
[あなたは死亡しました]
-250 経験値
5分間、リスポーンできません
画面が静かに沈んだ。
だが――
ベンは、戦いを止めなかった。
一人。
怒りに駆られて。
決意を胸に。
戦いは、終わっていない。
彼らの使命も、終わっていない。




