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第16章 一撃

ムーランの知識は、ヤオ・ラオのそれを、光年の差で凌駕していた。

前世では、20年間「神への挑戦」をアサシンとして極め、

この新的人生では、たった3日間で古代の肉体鍛錬術を繰り返し、

その技を血肉に変えた。


今、彼はヤオ・ラオを一撃で粉砕できる。


リングの周囲に集まった生徒たちは、互いに不安な目をやりあった。

枯れ枝がリングに立ったようだ。

一撃で折れるだけだ。

今、謝罪しておけば、まだ間に合う――。


ムーランは、静かにリングに足を踏み入れた。

ヤオ・ラオは両腕を組み、目には冷たい軽蔑が宿っていた。


数秒後、ヤオ・ラオが冷たく、形式的にルールを告げた。


「重い打撃を許可しますか?

……意識を失うまで、あるいはそれ以上に――?」


ムーランは、一瞬も動じなかった。


「お前が投げられるだけの勇気があれば、

俺は受け止めるだけの覚悟がある。」


クラスは、再び息をのんだ。


この少年は、一体何者だ?


ただ一人、ベン・ゼンだけが、

誇らしげに笑い、目を輝かせていた。


「行け、ムー!

お前の真価を見せつけてやれ!」


周囲では、ささやきが広がった。


「この二人、頭がおかしいのか?

ヤオ・ラオは、軍事学院のエリートだぞ!

朝食に勇気でも食ったのか?」


「それでは――開始」

ヤオ・ラオが低く唸った。


教室の外から、さらに生徒たちが押し寄せてきた。

元は単なる体育の練習だったが、

今や全校の注目を集める一大イベントに変わっていた。

誰かが、カウントダウンを始めた。


3…

2…

1…


ファイト!


ヤオ・ラオは瞬時に突進した。

拳を振りかぶって、ムーランの太陽神経叢へ――

誰もが思った。

これで終わりだ。

一撃。それだけで、この痩せこけた少年は吹き飛ぶ。


だが――


ムーランは、わずか45度、頭を傾けた。

それだけ。

ヤオ・ラオの拳は、耳の横をかすめて、空を切った。


沈黙。


そして――衝撃。


「……え? 避けた?」


ヤオ・ラオがまだ反動で体を揺らしているその瞬間、

ムーランは前蹴りを放った。


一撃、真っ直ぐ――


太陽神経叢へ。


ヤオ・ラオは、まったく見えていなかった。

自分の攻撃が空を切った衝撃で、体が未だ反応していない。

無防備な状態で、その一撃を直接受けた。


バーン!!


彼の体は大砲の玉のように、

リングの反対側の壁に轟音を響かせて突き刺さった。


全員が凍りついた。


彼らは、ムーランが倒れるのを期待していた。

しかし――

倒れたのは、ヤオ・ラオだった。


ムーランは、その場に静かに立ち、呼吸すら整えている。

派手な技でも、力押しでもない。

ただ――一万回繰り返された一撃。

「一万の蹴りを一度だけ練習した男は怖くない。

だが、一つの蹴りを一万回練習した男は、恐ろしい。」


――今、彼は、その言葉の真意を、体で理解した。


数人の生徒が駆け寄り、気を失ったヤオ・ラオを担ぎ、保健室へ運び出した。


ムーランは彼らの背中を見送り、

静かにリングを下り、ベンの元へと歩み寄った。

授業は、あと10分で始まる。


「ムー……」ベンは声を震わせ、目を大きく見開いて言った。「

あの技、何だった?

なんで教えてくれなかった?

俺たちは兄弟だろ?」


「俺も……こんなに強いとは思わなかった」

ムーランは率直に認めた。「

あの技は、お前が買ってきた武術の本に書いてあった。

毎日、一緒に練習してきたはずだ。

でも、お前は、俺にしか使ったことがない。

その威力を、他人に見たことがない。

今度は、誰か他の人に使ってみろ。

同じように、吹き飛ばせるから。」


ベンはゆっくりと息を吐いた。


「……つまり、一撃を一万回練習すれば、こんな力が生まれるのか……」


そして、彼は、にやりと笑った。


「……まあ、いい。

今日の「神への挑戦」、何する?

レベル上げ? 装備狩り?」


ムーランは声を落とし、周囲を警戒しながら言った。


「静かに。

さっきの出来事で、全員が俺たちを注目してる。

俺たちの行動は、一挙手一投足が意味を持つ。

もし誰かが、俺たちの計画を耳にしたら――

後をつけてくるか、それ以上に危険なことを企む。」


彼は視線を巡らせた。


「今はまだレベル0だ。

死んでも、経験値もアイテムも失わない。

これは弱さじゃない――最大のアドバンテージだ。

レベル1になる前に、最強の装備をすべて作る。

その準備を、今、終わらせる。」


「了解」

ベンは、力強く頷いた。「

俺は、お前についていく。

二人で、もっと強くなる。」


「もちろん」

ムーランは微笑んだ。「

俺たちは、このゲームの王になる。」


その瞬間――

教師が教室に入ってきた。


授業のベルが鳴る。


だが、本当の授業は、すでに始まっていた。

力とは何か。

規律とは何か。

二度目の人生とは、何を意味するのか――。


それは、一撃の先に、見えていた。

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