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第15章 三日目

ムーランとベン・ゼンはゲームからログアウトすると、

即座に朝のルーティンを始めた。


ここ数日と同じく、まずは10キロのランニング。

今では、二人とも息を切らすこともなく、

足を止めることもなく、走りきっていた。

――どころか、今ならもっと走れると、体が確信していた。


走り終えた後、二人は家に戻り、さっとシャワーを浴びた。


温かいシャワーの下、ムーランの思考は遠くへと流れた。


――三日前。

俺はゼン・ズーの頭を吹き飛ばし、

彼と共に死んだ。

だが、目を開けたら――

また15歳の部屋に戻っていた。

そして、ベンがまだ生きていた。


あの朝、ドアの向こうに立つベンを見た瞬間、

涙を堪えるのがどれほど難しかったか。

もし涙を流していたら、彼は「どうした?」と尋ねただろう。

――そして、俺は何と答える?


「……もし、これが起きるって知ってたら、

もっと早くゼン・ズーを殺していただろうな」


ふと、暗い疑念が頭をよぎった。


――俺が死んで20年前に戻ったなら……

ゼン・ズーも、同じように過去に戻った可能性はないか?


即座に首を振った。

ない。

時間逆行は、誰にでも起こるような奇跡じゃない。

自分だけが、第二の人生を許された――

そう信じるしかない。


シャワーの下で、拳をぎゅっと握りしめた。


今、大切なのはただ一つ。

――自分も、ベンも、もっと強くなること。

彼が自分を守れるように。

そして、二度と彼を失わないように。


「おい、ムー!」

ベンの声が、思考を引き戻した。「

いつまで風呂場占領してんだよ?

学校遅れるぞ!」


「今、出る!」


ムーランは素早く体を拭き、キッチンへ向かった。

コーンフレークと牛乳を手に取り、ベンの向かいに座ると、

無言で朝食を始めた。


「……お前、今日はどこかぼーっとしてたな」

ベンが、注意深く彼の顔を覗き込んだ。「

大丈夫か?」


「気のせいだよ」ムーランは軽く笑った。

――もし「俺は未来から来た」と言ったら、

お前はどんな顔をする?

まだ、説明できない。

俺が準備できるまで、待ってほしい。


「……わかったよ」

ベンは肩をすくめた。「

無理に聞かない。」


朝食を終え、二人は学校へ向かう。

最初の授業は「実践格闘術」。

体育館に着くと、すでに着替えを済ませた生徒たちが集まり始めていた。

授業開始まで、あと15分。


ムーランがふと視線を巡らせた瞬間――

心臓が止まった。


シャ・レイが、体育館に入ってきていた。


彼女の動きは、まるで舞踏のようだった。

無機質な体育館の中に、一輪の花が咲いたような光景。

銀の髪が光を受けて輝き、翡翠のような緑の瞳が、

静かに周囲を掃いた。


だが――

その美しさを、耳障りな声が切り裂いた。


「おい、どこ見てんのよ、ヒョロガリ?

お前みたいなクズが、彼女をまともに見られると思ってんのか?」


ムーランが、ゆっくりと振り向いた。


そこに立っていたのは、ヤオ・ラオ。

全校生徒の中で、軍事学院への推薦を受けたただ五人の一人。

――ただし、ムーランは知っていた。

その推薦は、実力ではなくコネで勝ち取ったものだと。


ヤオ・ラオは鼻で笑った。「

どうした、ガキ?

文句あんのか?」


ムーランの返答は、静かで、眠たげさえあった。


「……何しに来た?」


その一言で、空気が凍った。

「軍の貴族」と自認するヤオ・ラオにとって、

無名のヒョロガリにそんな口を利かれるのは、

最大の侮辱だった。


「いいだろう」

ヤオ・ラオは舌打ちした。「

自分が強いって証明したいみたいだな?

ならば――ここで、正式対戦を申し込む。

校則でも認められてる。

今すぐ、リングに上がれ。」


ムーランは、目も動かさなかった。


「戦いたいのなら……

俺が相手になる。」


クラス中が、ざわめいた。


「マジかよ?」

「あの痩せこけたガキ、一撃で潰されるぞ!」

「ヤオ・ラオは実戦殺法の訓練済みだぞ?」


ヤオ・ラオは内心、嘲笑っていた。

――馬鹿野郎。シャ・レイに目を向けた時点で、お前は死んだ。

挑戦を受けた以上、誰もお前の死に文句は言えない。

これが、お前の最後の授業だ。


シャ・レイは、口を開かなかった。

ただ、静かな眼差しで、二人を見つめていた。


そのとき――

ベンが口を開いて、再び全員を驚かせた。


「なぁ、ムー……

やりすぎんなよ。

こいつも、俺たちと同じ生徒なんだからさ」


ヤオ・ラオの眉がぴくりと動いた。


「……忠犬め。

ありがたい忠告だ、ありがたく受け取っておくよ」

皮肉をたっぷり込めた声だったが、

その奥には、怒りが滾っていた。


周囲の生徒たちは、困惑していた。


「なんだよ、アレ?」

「ヒョロガリとデブが、自分たちが主役みたいに振る舞ってる!」

「ヤオ・ラオを、ただのゴミ扱いしてる……!

こんな屈辱、見たことねえ!」


ヤオ・ラオの顔が、怒りで真っ赤になった。

彼は一歩前に出て、低く、毒を含んだ声で言った。


「ムーラン……

今日から、お前は死人だ。

さっさとそのガリガリの体、マットの上に並べろ。

俺が、地面にこすりつけてやる。」


ムーランは、急がなかった。

怯えもしなかった。


ただ、ゆっくりと、しかし確実に、

まるで赤い絨毯を歩むように、マットへ向かっていった。

周囲の生徒たちは、自然と道を開け、

息を殺してその姿を見守った。


対戦は、今まさに始まろうとしていた。

そしてこの瞬間、

誰もが――勝者を確信できなくなっていた。

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