ギルド受付嬢、推し王子と転生初日に遭遇してしまう
【15話完結】
ギルド受付嬢×皇子兄弟×推し活コメディです。
日記に書き残したくなるレベルの「尊さ爆発!」をお届けします。
肩の力を抜いて、ふんわり読んでいただけたら嬉しいです。
※ ──「タイムリミット5歳の転生皇女」スピンオフ短編ですが
テンポもテンションも本編とはまるで異なりますので、ご注意くださいませ。
では、いきますっ!!
この物語は——
ギルドに勤めて三年、今では立派な受付嬢としてバリバリ働く、貧乏男爵令嬢ニコラのお話。
いわゆる「転生令嬢」19歳(実は25歳 from JAPAN)。異世界生活もついに19年目……ついに!その日、前世の記憶がカムバック!
そしてなんと!
記憶復活の初っ端から——
前世で「推しに推した、伝説の推し様」に遭遇するんですよ!?
鐘の音が響く中、目の前に現れた推し……
触れる指先、近づく距離、鼓動MAX、気絶寸前……なのに業務は続行ッ!!
しかもその日一日で、私は推しの妹たち(?)を救い、帝国すら救うことになる!
これは極めて真面目な——
\異世界推し活ストーリー/
◆ 第一章:静寂と登録希望者と、ほんのり緊張
──ギルドの朝。
いつも通り、なんの変哲もない朝……のはずだった。
でも、その日は違った。
正面扉が静かに開く。
そこから入ってきたのは、
ふわりとドレスを揺らし、
カチューシャについた宝石をキラリと輝かせる……二人の女の子。
(……あれ? 双子……!?)
私が視線を向けた、その瞬間——
ギルド内の空気がピタリと止まった。
彼女たちは堂々と私の前に立つと、胸を張って言い放った。
「想布の工房、代表のアナスタシア・ミカ・ルヴェルディです! バッグを作ります!! ギルド登録、お願いします!」
……その声で空気が震えた。
そしてそれが、すべての始まりだった——!!
その場が凍りついたあとのことは……正直あまりよく覚えていない。
でもこうして今、目の前の中央カウンターでは——
彼女たちが座って、手続きをしているのであーーーる!
(……幼女やん……! でも、なんか威厳……すご……)
透けるような銀髪の少女と、少し濃いめの銀髪の少女。
どこか気品を漂わせる双子。年齢? たぶん四歳そこそこ。
しかも同行者がヤバい。
近衛の男性と、そして——黒髪の超絶美青年。
(イケメン、きた……何者……?)
「必要な書類はすべて揃っております」
近衛が差し出した書類に、私は震える手で目を通した。
「……ご本人……ですか?」
「はいっ! もうすぐ四歳です!!」
満面の笑顔で答えられたその瞬間——
「ひ……姫様方……?」
「いや、でもちっちゃい……でもオーラが……すごっ」
「なんか布から花の香りしてない?」
「むり、かわいい……! 記念撮影したい……!」
どよめきがギルド中に走る。
そう、何を隠そうこの二人は——
この帝国初の皇女にして双子の、アナスタシア殿下とトリアージェ殿下!!
\皇族の本気、見せられたァ!!/
……いやほんと。面食らった。
「ヒャッホー」って叫びたかった。心の中では叫んでた。
でも私は受付嬢。
お金をもらって座らせていただいているこの椅子で、プロとしての責任感を見せなければならない——!
私は深呼吸して、でも声は空気の抜けた風船のようになりながら、確認した。
「……あ、あの。申し訳ありません。ギルド登録には、規定として『16歳以上』であることが必要となっておりまして……」
「ええええぇぇっ!? そ、そんなっ……!
わたし、代表としてやる気まんまんで……名前もちゃんと書いてあるのにっ!」
涙を浮かべる皇女殿下。
や、やめて……その顔でウルウルされると、正直こっちのHPがもたない……!
すると——
すっ……と一歩、前に出る近衛の騎士様。
背筋を伸ばして、毅然とした声で言い放つ。
「ご心配なく。年齢要件については確認済みです。
ギルド法第十七条。特定の立場にある皇族には、年齢に関係なく『代理署名の特例』が認められております。必要書類は、間もなく到着いたしますから……」
「……と、特例……?」
そんな裏技あったの!?
受付嬢である私ですら驚きの制度!
動揺しながら、不安を隠しきれずにいると……
そのときだった。
なんと視界に飛び込んできたのは——
(ま、まさか……!?)
——前世の記憶を呼び起こす、伝説の“推し”の姿だった……!
◆ 第二章:そのとき、空気が変わった。そして、ニコラは思い出した。
「やあやあ、間に合ったみたいだね。書類はここにあるよ、レイモンド」
ふたたび、ギルドの扉が開く。
金髪の青年。
軍装に身を包み、外套を揺らしながら静かに歩を進める姿。
その瞬間、空気が変わった。
張り詰めたような静寂が、一気に場を包む。
(……あの服装……その顔……えっ)
「ま、マリシス様……!? 皇太子、殿下っ……!?」
(うそ。あの“寡黙皇子”が……昇格してる……!?
えっ、皇太子って、ちょっと……えっ、無理、無理、尊い……)
気づけば私は、思わず声を上げていた。
ギルドの空気が揺れ、ざわめきが走る。
「え……あれって本物?」
「ちょ、まって顔が整いすぎじゃ……」
「皇太子様!? マジで!?」
「でも落ち着いて……いや無理、落ち着けるわけがない……!」
受付フロアに、ひときわ強い視線が集中する。
「軍服、やば……似合いすぎる……」
「推せる……いや、もう推してた……!」
民たちのささやきが次第に熱を帯び、
ギルドはちょっとした“騒ぎの渦中”と化していた。
(うそ……どうしよう……)
私の鼓動も、どんどん早くなる。
そのとき——
頭の中に、ディンゴンディンゴンと鐘の音が響いた。
そして、目の前のその人の姿と、
どこか懐かしい感覚が、私の記憶をつなぎ合わせていく。
(この顔……この立ち姿……剣の角度まで、見覚えが……)
(ま、まさか……)
(この人……私が前世で、命を懸けて“推してた”……伝説の推し様!!うそでしょ!?……なんで、よりによって今!?)
——記憶が戻ったのがこのタイミングってどういう……運命……?
(なんで!? いやほんとなんで!?)
けれど、目の前の彼は、変わらぬ涼しい表情で歩を進める。
そして当然のように、こう言った。
「レイモンド、提出を」
「はい、殿下。こちら、登録用の正式書類です」
騎士様が丁寧に書類を差し出す。
私はそれに、精一杯の笑顔で対応する。
ぐらぐらしちゃうくらい動揺してるけど、でも、私は受付嬢だから。
(いまは……ギルド職員として、ちゃんとしないと……!)
仕事モードの自分を必死で保ちながら、私は震える手で書類を受け取った。
(落ち着けニコラ……これが“日常の仕事”……たぶん……)
……そう言い聞かせながらも
頭の中ではずっと、鐘が鳴り続けていた。
◆ 第三章:爆発する民の推し活魂
ギルド内の空気が、突然ざわつき始めた。
「え? 本物だよね!? 本物でしょ!?」
「マリシス様の顔、小さすぎて近づけない……」
「やっぱり王族のオーラって違うな……」
「私の王がこんな近くにいるなんて信じられない!」
「今日から推し活本気出すわ!!」
女子たちが次々と前のめりになって、羊皮紙を落とす。
ギルドの受付カウンターは、一気に“推し活会場”に早変わり。
「これ、記録しなきゃ! 『ギルドで推しに遭遇した記録』!」
「もう心臓が追いつかないよーー!!」
「殿下ーー! サインください!」
歓声というより、熱狂に近い声が飛び交う。
全員、ギラついた目でマリシスをロックオン。
奥の書記官女子がスケッチボードを取り出し、無言で描き始めた。
「……これ……練習用……いや本番だ……額装しよう……」
その様子を横目に見ながら、私は自分の役目を思い出す。
(ああ、これも仕事の一部なのよね……)
内心は動揺しつつも、受付嬢としての責務はきちんと果たすべく気を引き締める。
◆ 第四章:二人目の王子、降臨
マリシス殿下の後ろから、もう一人の青年が静かに現れた。
「……書類が上下逆ですよ、兄上」
ふんわりと、優しくツッコミが混じる。
「あっ、またか……ありがとう、ウィル!」
第二皇子、ウィルフレッド殿下だ。
彼は制服の上にローブを無造作に羽織り、手には重要そうな魔封筒を持っている。
軽く私に一礼をして、証明書を丁寧に差し出した。
「登録者二名分の書類です。署名と捺印は済んでいます。補足条文に基づき、特例の適用も明記されています」
彼の落ち着いた物腰に、私はつい息を飲む。
そして、周囲の女子たちの反応もまた、激しかった。
平民女子、壊れるの巻——。
「えっ、ウィル様!? 兄弟揃って来るなんて……!」
「ローブのひらめきがすごい……物理法則超えてない?」
「控えめ王子なのに爆イケすぎる……」
「マリシス様も捨てがたいけど、ウィル様も推せる……!」
「推しが増えすぎて困る!」
二派に分かれたファンたちは熱く語り合い、受付嬢の私は、思わず机の下で深呼吸した。
「はあ……無理……呼吸が浅くなる……」
その時、男子からも声が上がった。
「あの剣……聖剣じゃないか?」
「本物かよ、マジで!?」
男女問わず、推し活は確実に盛り上がりを見せた。
私はただ、押し寄せる興奮を目の前にしながら、心のなかで呟いた。
(また死にそう……いや、生きるためにがんばろう……!)
◆ 第五章:王子の言葉と、正式な登録
「妹たちが無事に登録できるようにって……レイモンドから聞いて、僕にできることをしただけさ」
マリシス殿下は、カウンター越しにそっと歩み寄ってくる。
私の目の前、ほとんど息がかかりそうな距離で——ふっと、微笑んだ。
「……大丈夫、緊張しなくていいよ」
(ちょ……近っ……無理……推し至近距離は無理……!)
声が出なくなりそうで、私はうなずくことしかできなかった。
(王子が、私に直接話しかけてる……!?)
すっかり緊張の極みで、まるでモブキャラの気分。
「これで年齢要件はクリアです。登録、お願いします」
騎士様の言葉が美しく響いて、私は震える手で書類を受け取った。
「は、はいっ! 承知しました!」
声が裏返りそうになりながらも、スタンプを押す。
勢い余って、二重に押してしまった。
「あ……しまった……」
マリシス殿下が微笑みながら、軽くクスリと笑う。
(えっ、殿下が笑った!?)
その瞬間、ギルド内のざわめきが一層大きくなる。
「マリシス様が笑ったぞ!」
「微笑みが近距離で直撃って、即死じゃん!」
「この“微笑み王子”属性はズルい!」
「うちの妹たち、よろしくね。バッグ作り、きっと上手になるから」
「“妹”って言った!? 公式で!? やばい、推せる……」
「身内に優しい王子、最高です!」
受付嬢の私は、溢れる熱気に圧倒されながらも、確かな喜びを感じていた。
◆ 第六章:登録完了。そして、拍手の中で
「じゃ、登録、できるよね?」
「は、はいっ!! 特例適用、確認しました……!」
私は何度もうなずいて、ようやく声を絞り出す。
「お、おおおおっけーです!! これ正式に登録通ります!! ギルド長にも報告します!!」
ついに、双子の皇女殿下にギルド職印が手渡されたのだった。
ほんとにこの時、空気が一瞬で変わったんだよね。
「やったぁ……!」
二人の殿下が手を取り合って跳ねるように喜ぶ。
なんだこの可愛さは。
「これで、“バッグ屋”として堂々と活動できるんだな」
「うん。でも、私たちの本業は『死なないバッグ』を作ること。だからね」
「……そのセリフ、重役みたいでかっけぇな、姫さん」
片時もアナスタシア殿下から離れなかった黒髪の超絶美青年がつぶやいた。
やがてギルド内に、ぱらぱらと拍手が起こる。
それが徐々に広がり、祝福と称賛の波になっていった。
──こうして、双子の皇女によるバッグ工房『想布の工房』は、
ギルド登録というかたちで、正式にデビューを果たしたのだった。
そうして拍手のなか、ふとトリアージェ殿下が小さくつぶやく。
「ニコラさん……さっきスタンプ、二回押してましたね?」
「……気づいてた……!?」
私が叫びかけると、アナスタシア殿下が口元を抑えながらくすくすと笑った。
「だって……“うわぁ”って言ってたんだもん。耳に届いちゃったよ」
「う……ぅぅ……推しの前でやらかしたぁ……ッ!!」
すると、ふたりは顔を見合わせて——
「「ふふっ」」
まるで示し合わせたかのように、同時に失笑した。
その笑顔がなんとも無邪気で、
私は思わず、ほっと息をついたのだった。
(……なんだろう、すごく救われた……)
その瞬間、私は悟ったのだ。
これからの日々、ちょっとだけ楽しくなりそうだって——。
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【あとがき】
転生して19年。ようやく思い出した前世の記憶。
そして今日、“推し”と邂逅してしまいました——!
ギルド受付嬢×皇子兄弟×推し活コメディです。
日記に書き残したくなるレベルの「尊さ爆発」をお届けしました。
いかがでしたでしょうか。
肩の力を抜いて、ふんわり読んでいただけたら嬉しいです。
※ ──「タイムリミット5歳の転生皇女」スピンオフ短編