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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ゲームセンターの少し甘い日常

作者: 宿木ミル

 少なくとも私というダウナー系な感じの女子には太陽のような存在は似合わないだろう。

 客観的には、なんか不愛想だーとか言われるし。


「どしたの? 元気ないよ! うすめちゃん!」

「いや、ひかりと一緒にいると変な噂が立ちそうでやだなーって思ってただけ」

「平気だよ、今日誘ったのはわたしからだもん!」

「その自信はどっから来るんだか」


 放課後のゲームセンター。

 学生の私たちは放課後に集まってゲームを楽しむ予定を組んでいた。

 私の隣でぴょんぴょん跳ねているのは、日向ひかり。文字通り明るい性格でクラスでも存在感があるムードメイカーだ。

 そんな彼女と違い、テンションが低いのが私ごと影野うすめだ。よく薄目しがちだとか顔が怖いとかそういうことを言われるタイプの、日陰者だ。


「自信? 友達だからに決まってるじゃん!」

「……まっすぐな眼を見ているとなんだか自分が小さく感じるかも」


 とにかくキラキラしている彼女を案内しながら、ゲームセンターを移動する。

 私自身はゲーセンと略すことが多いけど、学生寮付近のゲームセンターはなんだか明るい雰囲気を感じる。少なくとも私がホームにしているゲーセンとは違う雰囲気だ。変な熱に当てられてる人もいない印象を感じる。


「くっそー、今の当たるのかよ!」

「はぁ? マジありえねーし!」


 男子高校生の元気な声が響く。

 最近更新があったアーケードゲームだ。シリーズが続いていて人気なものだ。私もよく遊んでいる。


「す、凄いねぇ、熱意」

「心から楽しめてるってことよ」


 ひとつのゲームが終わり、思いっきり決めポーズをとる人がいた。

 その隣では、超悔しそうに身を突っ伏す高校生もいた。


「ゲームって、ここまで熱中できるんだ」

「対人型のやつは辞め時がわからなくなるからね」

「うすめちゃんも遊んでるの?」

「ノーコメントで」


 ……少なくとも台パンしている人の隣で黙々と連コしてるとは言えない、とは思った。

 ここにいる男子高校生の方々はそこまで荒ぶっている様子がなくてほっとする。

 ひかりはそこまでゲーセンに詳しくないだろうし、こういうところでマイナスイメージを付与されるのはよくないだろう。


「どうする? 遊んでみる?」


 本人が気になってたらやってみるのもいいかもしれない。

 そう思いながら尋ねてみる。

 すると、彼女は首を横に振った。


「ちょっと、刺激が強いような……」

「そうよね、じゃあ、初心者向けのものに行こっか」


 アーケードゲームに慣れてる人でも、場所によっては独特な文化が形成されている空間だ。

 近寄りがたいのも無理はない。私はそういうテンションがやたら高い人も含めて楽しいゲームだとは思ってるけど。

 次の場所へと移動していく。

 カジュアルなタイプの音ゲーもよさそうだけれども、実力差があるともどかしい気持ちにさせてしまうかもしれない。

 そう思った私は、クレーンゲームの場所まで赴くことにした。


「素直なやつだけど、クレーンゲームはどうかな」

「いいよね! クレーンゲーム! 私、好きだよ!」

「どういうところが好きなの?」

「うーん、なんて言えばいいのかなぁ……こう、かわいいフィギュアが多いのがいいよね!」

「フィギュア派なんだ」

「うん」


 ちょっと意外だった。

 表向き、彼女はゆめかわ系とかそういうのが好きな印象があったけれど違うのか。

 私が訪ねるよりも先にひかりが言葉を続けた。


「きゅって可愛いぬいぐるみもいいけど、それよりも……こう、大胆な服装の女の子のフィギュアに惹かれちゃう!」

「大胆な服装?」

「こういうやつとか!」


 そういって彼女が指を指したもの。

 それはバニーの美少女フィギュアだった。

 青髪ロングの女の子が黒いバニースーツを着ていて、少し恥ずかしそうな顔をしている。

 ……私としてもなかなかいいと思うセンスだ。


「いいよね、バニースーツ。着てみたいなぁ」

「バニースーツを、着る……?」


 さらっととんでもないことを言ってる気がする。

 ふと、ひかりの姿を確認する。

 私より少し小柄な彼女ではあるものの、胸は大きめ。

 すらっとした印象を感じさせるスタイルもあって似合いそう……


「どうしたの、じっと見て?」

「ううん、なんでもない」


 ひかりのことをずっと見つめるのはよくないだろう。

 それこそ不審な印象を感じさせてしまう。


「うすめちゃんも似合うと思うよ? バニー?」

「わ、私?」

「うん。大人のお姉さんって感じになるなぁって。ほら、背も高いしモデルっぽいでしょ?」

「……考えたこともなかった」


 猫背になりそうだし、正直合う気がしない。

 でも、彼女が言うのなら悪くないのかもしれない。


「ちょっと挑戦してみよっと!」


 本気でほしいのか、繰り返し投与されるお金。

 しかし、なかなかうまく行かず、ギリギリのところで戻ってしまう。


「うまく行かないー!」

「この位置ならいけそうかも……ちょっとやってみるね」

「任せたよ、うすめちゃん!」


 フィギュアを集めるのはそれなりにやっているのもあって、ある程度はできるはずだ。

 そう思いながら、角度を調整してフィギュアの箱を掴む。

 落ちない位置、落としたい場所。それらを調整してクレーンを動かした結果、見事にフィギュアを手に入れることができた。


「やった! バニーちゃんゲット! ありがとう、うすめちゃん!」

「どういたしまして、飾ってあげてね」

「うん!」


 バニー談義はこれで終わりだろうか。

 そう思いながら、取ったものを袋にしまって移動していく。

 次にたどり着いたのは写真を撮るタイプの筐体のところだった。

 プリントシール機というのが妥当かもしれない。


「そう、これふたりでやってみたかったんだよね!」

「なんていうか、陽の気を感じる」

「うすめちゃんは入ったことない?」

「ひとりでゲーセン入ってるからね、こういうところはない」

「入ってみようよ!」

「あぁ、ちょっと」


 彼女の勢いに負けて、そのまま手を繋いで案内させられる。

 プリントシール機の中は証明写真を撮る機会のような印象を感じさせるものの、それ以上になんだか女の子女の子してる印象だ。

 中に入れる人数は詰めれば四人くらいか。大きな画面の上には撮影用のカメラが置かれていて、案内の声がテンションが高い。


「ここをこうして、こうやって……」


 お金を入れたのちのひかりは色々細かい設定を調整したのち、決定ボタンを押した。


「一緒に写真撮るよ、うすめちゃん。ほら、顔近づけて」

「わ、わっ、ちょっと待って」


 彼女が身を寄せて、私の顔がひかりに近づく。

 その時、ふとふんわりしたシャンプーの香りが届いた。

 甘くて、ゆったりした、女の子らしい香り。


「いい香り……」


 ぼんやりしている間に、写真は撮られたみたいで、微笑を浮かべているような姿で写真に収められてしまっていた。

 ひかりはそんな写真に映った私を見て、物珍しそうにしていた。


「優しい表情してるね、うすめちゃん」

「そ、そうかな」

「うん! 普段の数段ふわっとした感じだよ!」

「……ひかりが急にそういうことをしてきたから」

「なぁに?」

「ううん、なんでもない」


 私自身、こういう時にどきっとする体質だとは思わないかった。

 位置を変えて、次に写真の編集を行う空間まで移動する。

 そこには笑顔でピースしているひかりとぼんやりしている私の姿があった。


「よーし、落書きタイム!」

「ら、落書き?」

「ふふっ、かわいくデコっちゃうのだ!」

「ど、どうしよう」

「スタンプとか押すといいよ!」

「なるほど……」


 悩んだ私はそれっぽい感じに虹を隙間に書いてみた。

 青春は私にそこまで似合わなそうだけれども、ひかりには合うだろう。

 一方でひかりは私の頬や自身の頬に赤い線を入れていた。


「えへへ、お揃いの線」

「照れてる感じになってる……」

「可愛いでしょ」

「否定はしない、かな」


 こういう時間もなかなか悪くはない。

 そう思いながら、写真にデコを加えていて、完成した写真を受け取っていった。


「次、こういうのやりたいかも!」


 プリントシール機の隣のブースにあった少し大きめな筐体。

 そこにはシュガーテストマシーンと書かれたものがあった。


「知らないアーケードゲーム」

「これね、なんだか学校のみんなの間で噂になってたんだけど、相性がわかるみたいだよ!」

「相性ねぇ……」


 私と彼女の相性がどうなっているのかは興味ある。

 ここでもし相性最悪とか言われても、まぁ、そういうものだろうと感じるが。

 お金を入れて、それぞれ別の画面の位置まで移動する。

 向き合うような画面の構造となっていて相方の相手の画面が見えない設計だ。

 なるほど、よくできている。

 最初に性別や生年月日を入力し、起動する。

 ゲームが始まると、画面の中に四択の質問が出てきた。


「質問に答えるタイプか」


 内容を確認しながらチェックしていく。


『もし、生まれ変わるなら何になりたい?』


 よくある質問だ。

 内容を確認する。


『男性』

『女性』

『宇宙人』

『動物』


 ……謎の設問が多い。

 そう思いながら、私は素直に女性にボタンを合わせた。

 別に生まれ変わっても変わりたいとはさして思わない。

 次の質問だ。


『恋人に求めるものは?』


『純粋さ』

『やさしさ』

『話していて楽しい』

『真面目さ』


 これは素直だろう。

 優しいとか真面目とかそういうのには興味がない。

 話していて気楽になれる存在が一番いい。

 ということで、話していて楽しいに選択肢を置く。


『好きな部位は?』


『胸』

『おしり』

『ふともも』

『おなか』


 ……随分攻めたことを言う機械だな。

 そう思いながら、静かに私は胸を選択した。

 ひかりのような大きな胸は少し羨ましいのだ。


『恋人にされたいことは?』


『なでなで』

『抱きしめる』

『キス』

『いちゃいちゃ』


 ……いや、これ、大丈夫だろうか。

 そう思いながら真剣に悩む。

 私に恋人ができるかは別問題として、私が嬉しいこと……

 ……キスは、気恥ずかしいかも。

 イチャイチャ……そういう性分じゃないし。

 じゃあ、抱きしめるのになるか。

 なんだか誘導されてる気がするけど。


『同性での恋愛はいいと思う?』


 なんか設問が変わって1から100までの数字が書かれている。

 よくない方だと1、いいなら100というところか。

 ……謎すぎるな、この機械。

 だけれども、多様性というのは大切だろう。

 そう思いながら私は問題ないという判断で100に数字を合わせた。


『もし、恋人に触れられるならどう触られたい?』


『この中で囁かれたい言葉は?』


『好きって言われたらどうする?』


 なんかとんでもない質問も繰り返されながら、私はなんとか全部の質問を終わらせることができた。

 筐体越しの画面を見つめているひかりは、満足そうな表情をしていた。


「よし、どうなるかなぁっ」


 中央に戻ってくださいと言われたので、私はひかりと一緒に筐体の中央まで移動する。

 大型の筐体であるシュガーテストマシーンには真ん中にはプリントシール機のような個室のスペースがある。

 そこで結果を聞くことになるのだ。


「どんな結果でも、恨まないでね」

「平気平気っ」


 緊張の時間。

 シュガーテストマシーンが結果発表を行ってきた。


『結果は……』

『出来立てほやほや百合ップル!』


 それは、驚愕の言葉だった。


「……え?」

「百合ップルだって! やったね、うすめちゃん!」


 ぎゅっと抱きつくひかり。

 その瞬間、甘い香りが私を包み込む。

 落ち着かないような、そわそわするような感覚に陥る。


「わっ、きゅ、急に抱き着かないでっ……」

「ご、ごめん」

「……落ち着かない、から」


 しゅんとした様子で、私の全身から少し離れるひかり。

 もう少し、味わっていたかった。


『お互いに興味を示していて、それでもなかなか踏み出せない』

『一緒にいていいのかわからない片方に、一緒にいたいもう片方』

『大胆になっちゃったら、もうベタ甘カップル間違いなし!』

『回答したデータは全部記憶してあるから、確認してみるのもいいかも!』

『もちろん、これはゲームの内容! 全部が真実かは相手次第だぞ!』

『今日は遊んでくれてありがとう!』


 機械から様々な音が聞こえて、機械の装置から選択した答えが書かれたプリントが出る。

 ゆっくりとしたモーションでひかりが私の回答を確認し、悪戯っぽく微笑む。


「……わたしのお胸の感覚、実は好きだったり?」

「そ、そんなことない」


 言葉ではそういうものの、むにっとした感覚に落ち着かなくなるのは事実だ。


「じゃあ、抱き着かれた時にぼーっと幸せそうになってるのはなんで?」

「そ、それは……えっと、なにも考えられなくなってるだけ」


 ドキドキするというのは恥ずかしくて言えなかった。


「ふふっ、かわいいね、うすめちゃん」

「うぅ……」


 対抗して私もひかりの回答を確認する。


「……ふともも、好きなんだ」

「すらってしてて、タイツしてるの見るのが好きなの」

「同性への恋愛、100って」

「ふふっ、一緒の答え」

「私と一緒に話してて楽しい、の?」

「楽しいよ、だって」


 そっと抱き着きながら彼女が言葉にする。


「みんなと違う、ありのままの私を見てくれるから」


 そう言ったのち、彼女は私の顔を見つめて微笑む。


「好きだよ、うすめちゃん」

「わ、私も……好き、だよ。ひかり」

「ふふっ」


 それだけ言葉にすると、彼女は私の身体から離れた。

 少しだけ、唇が期待していた。


「選択肢に書いてなかったから今回はお預け」

「……ずるい」

「ほら、行こ? 一緒にデートしよっか!」


 彼女が私に手を差し伸べて、私も外に出ていく。

 最初は私が案内するように言っていた気がするのに、なんだか逆にリードされてしまった感じだ。

 でも、この感覚も悪くない。


「最初から、デートのつもりだったの?」

「ふふっ、まぁね。だから、変な噂も気にしない! 本当にしちゃうんだから!」

「ひかりは大胆だね」

「でも、楽しいゲームはいっぱいあると思うし、楽しみながら行こ? ほら、色々教えて!」


 楽しそうに歩くひかり。

 一緒に私も彼女と歩幅を合わせて歩く。

 まだまだ楽しみはいっぱいある。


「これかもよろしくね、うすめちゃん!」

「私の方こそ、よろしく、ひかり」


 想いに気が付く放課後。

 こういう時間も素敵だと、心から思える私がいた。

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